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複雑化するコンテンツビジネス 変わる業界慣行と法務の役割

エンターテインメント(以下「エンタメ」)業界は、大きな転換期を迎えている。長年続いてきた業界慣行やビジネスモデルが見直される中、フリーランス新法や取適法への対応、ガバナンスの強化など、法務が向き合うべき課題は複雑さを増している。そう指摘するのは、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業の須河内隆裕弁護士だ。国内外のコンテンツビジネスを数多く支援してきた須河内弁護士は、エンタメ業界の現状をこう語る。
「外資系動画配信サービスの参入などを背景に、従来の取引慣行が変わりつつあります。日本独自の製作委員会方式について、意思決定の遅さやクリエイターへの利益還元の課題が指摘され、新たな資金調達手法を検討する動きが見られます。また、コンテンツ作成へのAI利用が進む中、クリエイターの仕事を奪う可能性への抵抗感もあり、AIとの付き合い方を模索している状況です」(須河内弁護士)。
日本のコンテンツの海外展開が加速するにつれ、各国の規制対応も不可欠となっている。
「欧州には、GDPRやライセンスに関する競争法上の規制など、日本とは異なる論点が数多くあります。近年は年少者データの保護に関する規制強化も進んでおり、各国の規制は頻繁にアップデートされるため、当事務所では海外オフィスと連携しながら、最新の規制動向を踏まえたソリューションを提供しています」(須河内弁護士)。

須河内 隆裕 弁護士

エンタメ業界の危機管理の現在地 “業界の論理”から“社会的な常識”へ

テレビ局の報道記者出身の鈴木悠介弁護士は、ジャーナリスティックな視点で組織の構造的問題を読み解き、再発防止までを射程に入れた危機管理を専門としている。
「かつて“業界慣行”として許容されていた行為も、社会一般の価値観で評価される時代となりました。コンテンツの表現をめぐる炎上や、制作現場でのハラスメント問題はその象徴です。エンタメ業界はレピュテーションリスクが特に重視されるため、適法性だけでなく、社会からどう受け止められるかまでを視野に入れた対策が求められます」(鈴木弁護士)。
だからこそ、平時におけるコンプライアンス体制整備が重要になるという。
「コンテンツのグローバル配信が増える中、宗教的・文化的背景が異なれば、炎上するポイントも変わります。社内審査だけでなく外部専門家を交え、あえて批判的な目線で二重・三重にリスクを検証するフローが、今後ますます重要になるでしょう。また、ハラスメントへの対応は、今や人事労務の問題にとどまらず、組織のガバナンスや経営姿勢そのものに直結する課題となっています。研修では、できるだけ具体的な事例を取り上げながら、コンプライアンスを“現場の課題解決に役立つ手段”として伝えることが大切です。“べき論”を振りかざせば、“現場を縛る制約”とみなされ、抵抗感を生むだけです」(鈴木弁護士)。
有事の際、鈴木弁護士が提唱するのが“法務と広報の連携”である。「現実の事象以上に、事後対応、特に対外的な発信の不手際で傷が大きくなることが多々あります。社会からの見え方に敏感な広報と一体で動くことが不可欠です」(鈴木弁護士)。

鈴木 悠介 弁護士

法改正も視野に、ゲーム業界と共に歩む 国内のeスポーツ産業発展にも寄与

ゲームやeスポーツは、日本が世界に誇るコンテンツ産業の一つだが、一方で、技術の進化に法制度が追いつかず、事業者が対応に苦慮する場面も少なくない。こうした課題に向き合うのが、第1回日本eスポーツアワードで弁護士として唯一eスポーツ功労賞を受賞した松本祐輝弁護士だ。個々の法的助言にとどまらず、業界団体の活動や制度改正に関する取り組みにも深く関与している。
「海外ゲーム会社の台頭が著しい中、法的環境の整備が遅れています。著作権や特許権も重要ですが、この分野は特に規制が多く、景品表示法や特定商取引法などの消費者保護規制、風俗営業適正化法に基づくゲームセンター規制など、日本特有の規制が複雑に絡み合っています。こうした状況に対しては、個別案件の適法性を判断するだけでなく、規制そのものを変える必要がないかまで踏み込んで考えることが、当事務所の役割だと思っています」(松本弁護士)。
eスポーツでも日本特有の論点が山積する。風俗営業適正化法の解釈上、参加料を徴収する大会形式が長年認められず、海外で標準的な大会フォーマットを国内に持ち込めない状況が続いていた。松本弁護士は業界団体の法律顧問として、警察庁との協議を含むロビイングを重ね、大会参加料の徴収解禁など具体的な規制緩和を実現してきた。
「業界側が規制変化の必要性を発信し続けなければ、規制はなかなか動きません。業界団体と連携しながら、規制改革をタイムリーに推進するしくみを構築することが、今後の課題です」(松本弁護士)。

松本 祐輝 弁護士

個別案件の解決にとどまらず、規制の壁そのものを動かし、クライアントが前に進める環境を整える――そうした三人の弁護士の姿勢は、同事務所が強みの一つとして掲げる、“クライアントにとっての真の価値とよりよい社会の実現へのコミットメント”に通じるものだ。スタッフを含め、2,000人規模を擁する同事務所は、国内外のネットワークを活かしながら、立法・政策レベルへの関与も含めた重層的な支援を実現している。

読者からの質問(報酬額を事前に確定できない場合の対応)

Q 映像作品を制作していますが、最終的な予算が固まらないと出演料や制作費が決まりません。報酬額を事前に確定できない場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
A 金額が未確定だからといって、何も決めないまま進めるのは危険です。映像や番組制作の現場では、制作終了後に予算が確定し、その段階で報酬額を決める慣行が見られますが、フリーランス新法は、取引条件の透明化を求めています。そのため、最低保証額や算定方法を事前に示しておくことが重要です。「制作規模に応じて協議する」といった抽象的な取り決めだけでは、後に紛争の原因となりかねません。現場の実態と法規制の間にギャップがあるのは事実ですが、だからこそ契約実務を見直し、説明可能なルールを整備する必要があります。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2026』を 「まとめて読む」
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所在地・連絡先
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ウェブサイトhttps://www.nishimura.com/ja

須河内 隆裕

弁護士
Takahiro Sugauchi

07年早稲田大学法学部卒業。10年早稲田大学法科大学院修了。12年弁護士登録(第二東京弁護士会)。15~16年ユニバーサルミュージック合同会社リーガル・アンド・ビジネス・アフェアーズ本部出向。23~24年Toho International, Inc.(ロサンゼルス)勤務。

鈴木 悠介

弁護士
Yusuke Suzuki

07年東京大学法学部卒業。07~09年株式会社TBSテレビ報道局勤務。13年弁護士登録(第二東京弁護士会)。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会正会員、日本広報学会正会員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師(企業における危機管理)。

松本 祐輝

弁護士
Yuki Matsumoto

14年東京大学法学部卒業。15年弁護士登録(第二東京弁護士会)。23年University of California, Los Angeles, School of Law修了(LL.M.)。