© Business & Law LLC.

ログイン

広がるアクティビストの脅威 平時の備えが明暗を分ける

近年、上場企業を取り巻くアクティビストの活動が、業種・企業規模を問わず拡大している。大和総研の集計によると、2026年6月開催の株主総会では、52社がアクティビストから提案を受けており(6月12日時点)、いまやアクティビスト対応は、上場企業にとって避けては通れない課題となっている。
弁護士法人大江橋法律事務所の澤井俊之弁護士は、その要因の一つとして、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの導入・改訂、東京証券取引所による資本コストを意識した経営への要請、経済産業省による「企業買収における行動指針」の公表等により、アクティビストがPBR(株価純資産倍率)改善や非公開化を企業に要請しやすい環境が整ってきたことが挙げられると解説する。
「一般的には、実質株主判明調査でアクティビストが株主となっていることが確認できれば、本格的なアクティビスト対策を始めます。そうでなくても、近年は“いつ狙われてもおかしくない”という意識のもと、事前準備を始めている企業が多いように感じます」(澤井弁護士)。

澤井 俊之 弁護士

株主提案から総会当日まで 弁護士が担う有事の実務

平時の備えとしては、前述の経済産業省による行動指針に基づいた対応マニュアルの整備や、株主提案を想定したシミュレーションが有効だが、土屋佑貴弁護士は「安定株主作りが最も根本的な課題であり、怠ると大事に至りやすくなる」と語る。政策保有株式の削減が国の基本方針である中、安定株主作りは容易ではないが、自社株の長期保有が期待できる投資家を意識したIR活動の継続が重要だという。
「中期経営計画等の経営戦略を明確に策定し、発信することが、株主提案対応の判断軸となります」(土屋弁護士)。
アクティビストは通常、非公開ベースでの対話を試み、双方の認識のギャップが埋まらない場合に公開キャンペーンや株主提案へと移行する。
「非公開の対話の段階から、中期経営計画や資本コストの改善方針を準備しておき、各アクティビストのニーズを捉えた対話を行うことが、その後の局面を深刻化させないためにも重要です」(土屋弁護士)。
対話の初期段階から助言することも増えてきたが、弁護士としての関与が本格化するのは、株主提案や株主総会招集請求に至った段階だという。招集通知の原稿校了時期を期限とする極めてタイトなスケジュールの中、取締役会の反対意見の構成、委任状勧誘に係る規制対応、場合によっては裁判所における仮処分対応まで、弁護士がスケジュール管理を含め、経験に基づいてリードすることになる。公開キャンペーンへと発展した局面では、アクティビストが矢継ぎ早に発信するプレスリリースへの即時の反論も求められる。
「放置すれば、他の株主がその内容に納得してしまうおそれもあります。記載内容が裁判でどう解釈されるか、株主・マスコミ・社会一般にどう見られるかに目配りしつつ、スピーディな対応が求められます。また、議決権行使助言会社が株主提案への賛成推奨を出した場合には、反論プレスリリースの作成が必要になることもあります」(澤井弁護士)。
有事には多様な対応事項が同時並行で発生するため、可能であれば、担当者や担当範囲、承認プロセスなどを平時から整理し、シミュレーションを重ねておくことが望ましい。
「有事の段階で関与した場合、会社とアクティビストとのこれまでの経緯を把握することから始めます。反論を組み立てる際には、会社の根幹となる考え方をベースに据える必要があるため、有事に備え、平時から会社との関係性を構築しておくことが重要です」(土屋弁護士)。

土屋 佑貴 弁護士

狙われやすい企業の共通点 ガバナンス整備が最初の一手

両弁護士にアクティビストに狙われやすい企業の特徴を問うと、澤井弁護士は潤沢なキャッシュの保有、低ROE(自己資本利益率)、創業家支配によるガバナンスの脆弱性を挙げる。一方で、土屋弁護士は市場区分の観点から、上場間もないスタンダード・グロース区分の会社は資本コストやガバナンスの面で課題が残りやすく、平時の準備にも余裕がないため後手に回りがちだと指摘する。こうした会社がまず取り組むべき一手はガバナンスの整備だという。
「社外取締役の員数や株式報酬の導入状況は、アクティビストにとって攻めやすい材料となります。同業他社をベンチマークとしながら、不足している部分を整えていくことは、形式的な取り組みであっても実は非常に重要です」(澤井弁護士)。
「ソフトローにおけるベストプラクティスと自社の整備状況との差異をピックアップし、その理由と改善の方向性を少しずつでも検討していくことが出発点になります」(土屋弁護士)。
さらに、アクティビストや投資家が水面下で協調し、株式を買い集めて一斉に経営陣に圧力をかける“ウルフパック”への対応として、買収防衛策にも注目が集まっている。
「アクティビストらが、10%程度の株式を水面下で取得して一気に姿を現したような場合や、急激な買い上がりに対して、買収防衛策は理解が得やすくなっており、強力に効果を発揮します。ただし、1週間程度で導入を完了させることが求められるケースもあるため、大量保有報告書で保有比率の急変が判明した段階で即座に動けるよう、防衛策プランのドラフトや特別委員会の人選をあらかじめ準備しておくこともあります」(澤井弁護士)。
これらの対応を可能にするため、両弁護士が平時からの準備として強調するのが、有事に備えたホットラインの整備だ。
「上場している以上、アクティビスト対応はいつ起きてもおかしくありません。たとえば、セミナーへの参加や専門家を講師に招いた社内研修の実施を通じて、いざというときに相談できる専門家を確保しておくことが重要です」(土屋弁護士)。

読者からの質問(アクティビスト対応に失敗した場合の影響)

Q アクティビスト対応に失敗した場合、どのような事態が想定されますか。
A たとえば、役員選任議案について株主提案議案が可決され、会社提案議案が否決されてしまった場合、再任されなかった役員は文字どおり会社から切り離され、社用車・社用端末・会社へのアクセス権を即座に失い、部外者として扱われます。
不当な対応の兆候があった場合、残置された端末のデータがフォレンジック調査の対象となり、在任中のメールや会話の記録が精査されることがあります。株主提案への対応過程が問題視されて調査委員会が設置され、その調査結果も調査報告書と併せて開示され、大々的に報道されてしまうケースもあります。
有事の局面は、会社の命運を左右する判断を迫られることも少なくありませんが、刻々と状況が変化する中で、冷静な判断が難しいこともあります。経験豊富な専門家が早期の段階から関与すれば、こうした事態も見据えた助言を受けることが可能です。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2026』を 「まとめて読む」
他の事務所を読む

 DATA 

所在地・連絡先
■東京事務所
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビル2階
【TEL】03-5224-5566(代表) 【FAX】03-5224-5565

ウェブサイトhttps://ohebashi.com/jp/

掲載弁護士所属事務所の弁護士会:第二東京弁護士会

澤井 俊之

弁護士
Toshiyuki Sawai

06年京都大学法学部卒業。08年京都大学法科大学院修了。09年弁護士登録(第一東京弁護士会)。15~16年京都大学法科大学院非常勤講師。15~16年川崎化成工業株式会社社外取締役。17年University of Michigan Law School修了(LL.M.)。17~18年Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP勤務。18年ニューヨーク州弁護士登録。18~20年金融庁企画市場局市場課勤務。

土屋 佑貴

弁護士
Yuki Tsuchiya

10年慶應義塾大学法学部卒業。12年慶應義塾大学法科大学院修了。13年弁護士登録(第二東京弁護士会)。14~19年牛島総合法律事務所勤務。19年弁護士法人大江橋法律事務所入所。

この記事に関連するセミナー