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管理部門に求められるビジネスモデルへの高い解像度

「近年は会計不正が増加傾向にあります。日本公認会計士協会の公表する「上場会社等における会計不正の動向(2025年版)」によると、2021年3月期の26社から2025年3月期には56社に倍増しており、このような傾向は当事務所への相談件数からも実感しています」。そう語る弁護士法人第一法律事務所の大沼剛弁護士と平井優祐弁護士は、公表されているのはあくまでも適時開示がなされた事案のみであり、氷山の一角だと見ている。
「特に近年は、AIや暗号資産を扱った取引など、企業のビジネス自体が複雑化しています。加えて、グローバル拠点を複数持つグループ経営が一般的となり、本社の管理が末端まで十分に行き届かないことも多くあります。会計不正の防止・早期発見の観点からは、これまで以上に、管理部門においてビジネスモデルを深く理解するとともに、不正の発生を防止・検知する“グループ内部統制の構築”が不可欠です。また、先端的なビジネス分野であっても、会計不正のスキーム自体は循環取引などの古典的な手法が用いられるケースが大半ですが、不正の隠蔽や改ざんの手法は多様化しています。このため、管理部門としては、通例的な商流と異なる経路による受注やエンドユーザーの実態が不明な取引が判明した場合、現場の説明や証憑を鵜呑みにせず、取引の経済的合理性の有無やエンドユーザーの実態を確認するなど、より深い検証が欠かせません」(大沼弁護士)。

大沼 剛 弁護士

さらに、平時からの内部統制の運用状況を点検することも重要だと平井弁護士は指摘する。
「販売プロセスをはじめ、J-SOX(内部統制報告制度)上の重要な業務プロセスについては、平時から特定の担当者に権限が集中していないか、部門内の他者や他部門からの牽制機能が働くしくみになっているかという観点から、内部統制の有効性をモニタリングすべきです。内部監査のみでは限界があるため、管理部門でも内部統制上のリスクポイントがないかをチェックし、問題があれば内部監査室や監査役などに通報できるような体制構築が必要となります」(平井弁護士)。

読者からの質問(会計不正時の調査委員会の選択基準)

Q 会計不正が発覚した際は、第三者委員会を立ち上げるべきでしょうか。また、調査委員会の選択における判断基準について教えてください。
A 調査委員会の形式としては、日本弁護士連合会(日弁連)が公表する「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠した第三者委員会方式、特別調査委員会・外部調査委員会方式、内部調査委員会方式などがあります。経営者不正の場合や不正の疑義が広範囲に及ぶ場合は、原則として会社から独立した第三者による委員会を設置すべきです。会計不正事案では、事実関係を会社に確認するとともに、監査法人の意見を聴き取りつつ調査を進める場面が想定されますが、日弁連ガイドラインに基づく第三者委員会方式を採用すると、調査報告書を調査対象会社等に事前開示することが厳密にはできなくなるため、実務上は特別調査委員会・外部調査委員会方式を採用するケースが多い印象です。
他方、子会社における従業員不正事案のように不正の生じた拠点や実行者が限定的であり、金額的にも重要性のない場合であれば、内部調査委員会方式による調査で対応するケースもあり得ます。なお、後述するとおり、会計不正の場合は調査報告書が監査法人の監査証拠となるため、監査法人がどのような委員会形式を希望するかについても考慮する必要があります。

監査法人の問題意識を踏まえた調査対応

会計不正事案が発生した場合、監査法人は監査基準等に基づき、調査委員会の調査内容や調査報告書を監査証拠として利用することになる。仮に、監査法人が調査委員会の調査結果を監査証拠として不十分であると判断した場合、企業としては不適正意見や意見不表明などの監査意見が表明されるリスクがありうるため、調査委員の選定段階から監査法人と協議しながら調査を進める必要がある。
平井弁護士は監査法人での実務経験を踏まえ、公認会計士の視点からのアドバイスも提供する。
「監査法人は、あくまで会計基準・監査基準等に即して調査内容を検討するため、弁護士側もこれらの知見を有していないと、監査法人と十分な議論が行えない場合があります。私自身、公認会計士として監査法人での実務経験があるため、調査に際しては、監査法人側の問題意識を理解したうえで調査委員(補助者)や会社との認識を丁寧にすり合わせることを重視しています。また、監査法人への説明に際しても、法的見解を会計基準・監査基準の枠組みから整理し直すことができるので、共通言語に基づいた議論となり、監査法人の理解が得られやすいと実感しています。たとえば、不正事案によって会社が第三者に対して何らかの損害賠償債務を負う可能性がある場合、監査法人は、会計上、引当金の計上漏れがないかを検討することになります。この場合、弁護士の視点からは客観的資料やヒアリング内容等を踏まえ、損害賠償債務の成否・金額を検討することになりますが、その検討結果について、公認会計士の視点からは企業会計原則に定められた引当金計上の4要件に即した説明が可能です。また、会計不正事案には、減損の計上回避のように専門性の高い会計論点を含むケースもありますが、決算財務プロセスに関する資料を迅速に把握し、スムーズな調査対応ができることも強みの一つです」(平井弁護士)。

平井 優祐 弁護士

責任追及訴訟や株主代表訴訟への豊富な対応

調査委員会による調査の終了後も、企業には重要な検討事項が残されていると、両弁護士は語る。
「企業としては、調査終了後、役員に対する責任追及訴訟の要否や対象範囲、株主から提訴請求を受けた場合の対応など、不正事案の最終的な処理方針をしっかりと検討する必要があります。当事務所には、プライム上場企業を含め、責任追及訴訟について多数の対応実績があり、その後の責任追及訴訟や株主代表訴訟を見据えた調査対応が可能です。また、提訴判断は、監査役会・監査等委員会が担う場合が多いところ、当事務所では公益社団法人日本監査役協会において多数のご相談を受けているほか、監査役・監査等委員を務める弁護士も多数在籍しているため、他社事例を踏まえた監査役会・監査等委員会へのアドバイスを行うことができます」(大沼弁護士)。
「責任追及訴訟では、企業側において任務懈怠行為と因果関係のある損害額を具体的に主張立証する必要があります。会計上の“損失”と法律上の“損害”は異なる概念であるため、調査結果に基づき、当該不正関連の特別損失が計上されていても、任務懈怠行為と関係なく発生した費用は切り分けねばなりません。損害額の算定に際しては、法律上の損害論の考え方に基づき、会計資料を読み解き会計処理を精査する必要があるため、公認会計士としての実務経験が特に活きる場面です。とりわけ株主代表訴訟では、株主が参照できる資料の制約上、会計上の損失をそのまま損害額であると主張し、巨額の賠償を請求するケースもありますが、公認会計士の視点から資料を読み解くことで、損害額を大幅に減額できる場合があります」(平井弁護士)。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2026』を 「まとめて読む」
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ウェブサイトhttps://daiichi-law.jp/

主事務所の所属弁護士会:大阪弁護士会

大沼 剛

弁護士
Go Onuma

15年立命館大学法学部卒業。16年弁護士登録(大阪弁護士会)。17年弁護士法人第一法律事務所入所。

平井 優祐

弁護士
Yusuke Hirai

15年東京大学文学部卒業。23年弁護士(大阪弁護士会)・公認会計士登録、弁護士法人第一法律事務所入所。