法人口座の不正利用等防止 事業実態と実質的支配者の確認に留意
2024年6月、詐欺グループが約500のペーパーカンパニーと約4,000の法人口座を作成・悪用し、それらの口座間を資金移動させること等により特殊詐欺等で獲得された資金のマネーロンダリング(以下「マネロン」)を行うという大規模な事件が報道された(リバトン事件)。この事件を受け、金融庁は警察庁と連名で、金融機関あてに、①口座開設時における不正利用防止および実態把握の強化、②利用者側のアクセス環境や取引の金額・頻度等の妥当性に着目した多層的な検知、③検知後の措置の迅速化などを主眼とした要請(金融庁・警察庁「法人口座を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化について」(2024年8月))を発出した。これらのリスク対策について、金融法務および企業法務に強みを有する弁護士法人片岡総合法律事務所パートナーの近藤克樹弁護士は、次のように解説する。
「不正利用された口座の利用実態は、事後的に見れば明らかに不審なものもあります。検知の方針を策定し、精緻化していくことが重要です。法人口座の場合には、事業実態を把握し、それに見合った利用かを分析することも欠かせません。また、実質的支配者の確認の重要性は言わずもがなです。特に外国法人の場合には、法人設立の容易さ、解散時の財産配当のしくみなど、国ごとに差異があるため、実質的支配者が不明瞭となることが多く、“リスク高”と評価すべきケースはより多いといえます」。
在留外国人顧客口座のリスク管理
一方、個人顧客については、継続的顧客管理、特に在留外国人の在留期間の管理が重要なトピックスだと近藤弁護士は指摘する。「在留期間の定めのある在留外国人との取引は、将来口座が売却され金融犯罪に悪用されるリスクを特定・評価し、適切なリスク低減措置を講ずる必要があり、具体的には在留期間満了前に更新の有無等の届出を要請すること等が重要です」。
さらに、2024年12月24日に警察庁から、「在留期間の定めのある外国人顧客については、在留期間の満了後、基本的には我が国を出国しているものと推定されることから、在留期間満了日の翌日以降に当該顧客の預貯金口座から現金出金や他口座への振込が行われる場合は、特段の事情がない限り、「なりすましている疑いがある場合」に該当し得る」との厳しい解釈が示された(「在留期間が満了した外国人の預貯金口座からの現金出金及び他口座への振込への対応等について」)。しかし、インターネットバンキングの場合には、在留期間満了のみでは“なりすましている疑い”があるとはいえないとされているなど、具体的な商品特性に沿ったリスク低減措置の検討の重要性を近藤弁護士は指摘する。
「金融庁が公表するFAQ(「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」(2024年4月))は、在留期間の定めのある外国人顧客について“在留期間を更新しない場合は在留期間満了前に口座を解約すること”を求めています。しかし、海外居住者へのサービス提供も想定している商品性である場合は、“将来口座の取引の終了が見込まれる場合”には該当しないので、FAQの記載がそのまま妥当するものではないと考えられます。もちろん、商品性に即して、海外に所在する者との取引というリスク要素を踏まえた低減措置を講じる必要があります」。
また、国籍による取引拒絶の要否も課題に感じる金融機関もあるものの、一律での拒絶までは求めることができないため、国の態勢不備と顧客のリスク評価にどこまで関連性があるかの実質的な検討を行うべきだという。

近藤 克樹 弁護士
モニタリングシステムの共同利用拡大 個人情報保護法の壁も
マネロン対策の柱の一つが、利用者側のアクセス環境や取引の金額・頻度等の妥当性に着目した多層的な検知である。この対策については、為替取引分析業の開始など、モニタリングシステムの共同利用の取り組みが広まってきている。顧客の取引内容や資金の流れを金融業界全体で把握・共有しようとするしくみである。しかしながら、情報の共用に対しては、個人情報保護法制との関係を踏まえた法的整理が必要だという。
「共同モニタリングは、怪しい取引の検知に非常に有効な対策です。しかし、他社との個人情報の共有には、個人情報保護法上の制約があり、共有可能な情報に制限があります。本人の同意なく第三者提供できる“財産保護のために必要”かつ“本人の同意を得ることが困難”な場合(個人情報保護法27条1項2号)の範囲の解釈が“キモ”になります」。
トラベルルールの導入による暗号資産交換業の課題
暗号資産交換業においては、トラベルルール(暗号資産・電子決済手段の移転に係る通知義務)や外国為替及び外国貿易法(外為法)への対応が課題となっている。
「現在、トラベルルール対応ソリューション(通知を送受信するソフトウェア)が統一されておらず、互換性もないため、同一のソリューションを導入している業者以外への通知と移転ができず、暗号資産交換業者にとってはかなり厳しい法規制であるといえるでしょう。暗号資産の移転は、実際に詐欺集団等によって利用されており、リスクが高いと言わざるを得ませんが、ブロックチェーン技術によって取引の流れが記録され、全世界に公表されている透明性の高さは、マネロンリスクの低減を可能にするため、ブロックチェーン解析ツールの利用が実効性の高い重要な対策とされています」。
読者からの質問(金融庁「マネロン等対策の有効性検証に関する対話のための論点・プラクティスの整理」と「マネロン等対策の有効性検証に関する事例集」に対して、金融機関としての取り組み)

近藤 克樹
弁護士
Katsuki Kondo
13年早稲田大学法科大学院修了。14年弁護士登録(東京弁護士会)。23年~弁護士法人片岡総合法律事務所パートナー弁護士。24年公認AML(アンチ・マネー・ローンダリング)スペシャリスト(CAMS)資格認定。金融法務およびAML/CFT(マネーローンダリング対策)案件を多く取り扱いつつ、個人情報保護法関連、不動産関連や争訟(訴訟、調停等)等も手がける。