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カーブアウトM&Aの近時の動向

グローバル化の進展やデジタル革命等により経営環境が急激に変化する中、企業の持続的な成長のためには、貴重な経営資源をコア事業の強化や将来の成長事業への投資に集中させることが求められている。そのような中、近時重要性を増しているカーブアウトM&Aに関し、弁護士法人御堂筋法律事務所の越本幸彦弁護士は以下のように指摘する。
「近時、カーブアウトM&Aは、不採算事業の切り離しといったネガティブなものではなく、自社が強みを持つ事業に対して、より経営資源を集中させ、事業ポートフォリオを最適化することで企業の中長期的な成長を目指すための積極的な手法として用いられています。また、最近の潮流として、対象事業の切り出しに際し、売主側であらかじめ法務および財務・税務のデューデリジェンスを行い、対象事業に内在する問題点の解消や、カーブアウト後に生じるスタンドアロン・イシュー等の問題点と対応方法の可視化を行う例も増えています。それによって、買主がカーブアウト直後からスムーズに対象事業を運営しやすくなり、事業承継にかかるコストも低減される結果、“ベストオーナー”を探索しやすくなることから、M&Aの対価の最大化にもつながることが期待されます。そのため、今後のカーブアウトM&Aにおいては積極的に検討すべき手法といえ、売主側におけるデューデリジェンスとそれに基づく対象事業の事前の整理の重要性が増してくるものと思われます」。

越本 幸彦 弁護士

スタンドアロン・イシュー

カーブアウトM&Aにおいては、クロージング後に親会社やグループから独立して事業運営を行うために生じる問題である“スタンドアロン・イシュー”の検討が必須となり、これについて、浪山敬行弁護士は以下のように指摘する。
「スタンドアロン・イシューの例として、コーポレート、人事・総務等の管理部門やITシステム、製品の製造・調達を親会社のリソースに頼っていたり、親会社の所有建物にオフィスがあったり、グループで保険に加入していたりといったことが挙げられ、そのうち、クロージングまでに買主側で切替えを完了できない事項については、TSA(Transition Service Agreement)などの付随契約を締結し、クロージング後の売主側によるサポートについて合意することが必要になります。また、売主側の企業名が入った商標やブランドの知名度が高く、それにより製品やサービスの需要が高まるようなケース等、代替性のない便益やリソースに関するスタンドアロン・イシューがM&Aの成否に直結する場合もあるため、できる限りM&Aの初期的な検討の段階で目星をつけておくのが望ましいといえます」。

浪山 敬行 弁護士

読者からの質問(TSAの締結に際しての留意点)

Q TSAの締結に際して留意すべき点は何ですか?

A TSAやライセンス契約等の付随契約については、サービスやライセンスの内容、範囲、対価および契約期間等について当事者間の綿密な協議を要します。しかし、最終契約締結時点では当該協議が煮詰まっておらず、最終契約後クロージングまでの間に内容の協議を行うということも少なくありません。もっとも、特に買主側においては、最終契約の締結後は付随契約にかかる売主側の譲歩を引き出しにくくなり、条件交渉がうまくいかないおそれもあることから、最終契約の時点で付随契約の主要な契約条件を合意しておけるように交渉を進めることも重要です(奥村尚史弁護士)。

奥村 尚史 弁護士

許認可の承継

買主側にとって、カーブアウトされる事業において必要な許認可を維持できることは必須といえるが、許認可の承継について、河村光弁護士は以下のように指摘する。
「子会社の株式譲渡であれば、比較的許認可を維持できることが多いと思われますが、新設分割や事業譲渡においては、新設会社や譲受会社において許認可等を取得または承継する必要があります。そのため、対象事業に必要な許認可について、そもそも承継できるのか、承継や新規取得の手続や要件は何かといった点について、M&Aの初期段階で検討しなければなりません。また、複数の許認可のうち、一部の許認可の取得に時間を要する場合、クロージングまでに一部の許認可のみを取得し、クロージング後、残りの許認可の取得を完了するまでの間は、暫定的にTSAなどの付随契約に基づき売主側からサポートを受けることもあり得ます」。

河村 光 弁護士

クロスボーダーM&A

「カーブアウトの対象に海外の法人が含まれる場合には、日本と海外との法制度の違いを意識した対応が必要です。たとえば、ある法人の事業の一部を切り出す場合のスキームとして、日本では“会社分割”という組織再編行為が選択肢の一つになりますが、海外法人の場合には、そもそも所在国に日本の会社分割に相当する制度が存在するとは限らないため、“現地の法律上どのようなスキームをとることが可能か”という点からの検討が求められます。株式譲渡のスキームによる場合についても、国によっては株式の移転が政府への届出事項とされていたり、外国企業による国内企業の株式取得につき政府による承認が必要とされていたりする国もあり、こういった手続がカーブアウト取引のスケジュールに影響する可能性があることも意識しておかなければなりません。加えて、たとえば中国では、事業譲渡を行う場合には譲渡側で従業員との労働契約がいったん解除されることになり、それに伴う経済補償金を従業員に支払う義務が生じるなど、国ごとの法制度の差異によって、カーブアウトのスキーム選択が譲渡代金に大きな影響を与える場合があることも意識しておくべきです」(松田祐人弁護士)。

松田 祐人 弁護士

「クロスボーダー案件においては、各国競争法に関する検討・対応にも注意を要します。国ごとに企業結合の届出が必要となる基準が異なるのはもちろんのこと、売主・買主が競合同士である場合、カーブアウト実行前の協議や情報交換が競争法に抵触する場合があるため、対象となるいずれの国の競争法でも適法性を担保できる程度の水準で情報を取り扱う必要があります。さらに、海外法人の運営が現地に委ねられているために、売主となる日本企業がカーブアウトの対象となる海外法人の実情を十分に把握できておらず、いざデューデリジェンスを行おうとしてもなかなか資料や情報が開示されないといったケースも珍しくありません。この点、冒頭で述べた売主側におけるデューデリジェンスとそれに基づく対象事業の事前の整理の重要性は、海外法人が関係する場合にはなお高いものといえます」(山﨑陽平弁護士)。

山﨑 陽平 弁護士

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2025』を 「まとめて読む」
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