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国際取引の障壁となる言語・文化・法的感覚の齟齬

企業のグローバル化が加速する中、国際取引は今や日常的な業務となりつつある。一方で、契約や交渉の場面では各国法や習慣・言語・文化が障壁となりトラブルに発展することは多い。
「日本企業特有の意思決定プロセスは海外企業から理解されづらいことがあります」と語るのは、全国通訳案内士(英語)の資格も保有し、クロスボーダーの紛争解決案件にも通じるAI-EI法律事務所の松井博昭弁護士。
「日本企業は海外企業と比較して、リスク分析や決裁に慎重に時間をかける傾向があります。この点について、海外の相手方に“日本企業は単にステップを踏んでいるだけで、ネガティブな理由ではない”ことを丁寧に説明しなければ、勘違いをされる場合もあります。また、海外企業が速報版や即効性のある対応を求めているところ、日本企業が時間をかけてしまうなど、意思疎通で齟齬を生じることもしばしばです。こうした際は、語学力がある弁護士を介してコミュニケーションの溝を埋めることも一つの手です」(松井弁護士)。
また、そもそも互いの法的感覚の差異から、契約書に対する理解の齟齬が生じ、トラブルを招くこともある。法務省・外務省での勤務経験を有する竹腰幸綱弁護士は「準拠法は日本法だったのですが、相手方である現地の海外企業が日本法に通じておらず、契約書の内容を過小評価して必要以上に強気な対応に出ようとしたために、問題が深刻化しかけたケースもありました。事態がエスカレートすれば関係者全員に労力ばかりがかかってしまいます。益がどこにもないと考えられる場合は、海外企業の立場にも理解を示しつつ日本企業側の事情を丁寧に説明し、落としどころを提案することも肝要です」と指摘する。
「反面、迅速性を好む外資系企業が日本法の理解が十分でないままに対応を進めてしまい、その結果発生したトラブルをリカバリーしたという経験も多くあります。この場合も、メールだけではこちら側の意図が正しく伝わらず、その結果相手方の態度の硬化を招き、軌道修正が困難となるおそれがあります。それを防ぐためにも、口頭でのコミュニケーションも行う必要があります」(松井弁護士)。同事務所では、企業の状況に応じ、英文契約のコメント対応から会議での趣旨説明、相手方との契約交渉まで、シームレスな対応を心がけているという。

松井 博昭 弁護士

仲裁条項は費用倒れになる可能性も

国際取引契約における紛争解決条項にはしばしば仲裁が選択されるが、仲裁コストは概して高い。契約金額に鑑みて、仲裁を実施すると費用倒れになることもある。
「仲裁が適しているかを精査せずに、単に“国際的な取引”というだけで紛争解決方法を仲裁に限定しているケースが散見されます」と中村圭佑弁護士は語る。
中村弁護士が担当したケースは、依頼者は米国企業であったが、当該依頼者の請求に相手方の日本企業が応じていなかったところ、紛争解決条項では“米国での仲裁”と規定されていた。ところが、仲裁では費用倒れになってしまうため、他の解決方法について相談があったというものである。「紛争解決条項で裁判所での保全手続は排除されていなかったので、相手方(日本企業)に対し日本の裁判所での保全手続を行ったうえで、その他の手段を示唆することで、任意の解決を促す手法をとり、無事に解決に至ることができました。紛争解決方法を仲裁のみに厳格に定めすぎると、裁判所における保全手続やその他の手続も排除され、柔軟な対応が困難になります。紛争解決条項は、契約や可能性のある損害賠償の金額に応じて柔軟に定めるべきです。高額案件なら仲裁は有効ですが、すべての案件に適しているわけではありませんし、大型案件でも少額の請求の場合には使い勝手が悪くなってしまいます」(中村弁護士)。

中村 圭佑 弁護士

適切な海外法律事務所を選ぶには

大半の法律業務を社内人員で対応できる大手企業から相談が多いのは、海外の法律事務所の選定・紹介だ。
「契約書作成時には、海外の法律事務所と連携して現地法への適合性確認をすることが必要ですが、連携先はどこでもよいわけではありません。レスポンスの早さや提案の具体性など、求める品質のサービスを受けられる事務所探しは多くの企業が課題としているところです。当事務所は、同規模の事務所では珍しく、英米だけでなく中国、香港、シンガポールの弁護士とも密に連携しています」(松井弁護士)。
中村弁護士自身も、商社でのインハウスローヤー時代に苦労した経験があるという。「エジプト案件で、現地の大手事務所に回収方法について相談したところ、合理的な提案を得られませんでした。別の事務所を探して相談した結果、よい提案を得られ、解決につながりましたが、日本法とは考え方が異なる解決方法であり、自力では思いつかないものでした。“この事務所を見つけられなければ、解決できなかったのではないか”とすら思っており、よい現地事務所を知っていることの重要性を痛感しました」(中村弁護士)。
適切な現地事務所を探すためには、国外にネットワークを有する渉外弁護士と日頃から気軽に相談できる関係性を持つことが重要となる。「過去に依頼があることが一番ではありますが、セミナーでの質問や単独案件の依頼でもよいので、何かしらのつながりがあればご紹介がしやすくなります。また、どの弁護士がどの地域とつながりがあるかを把握したうえでご依頼いただくと双方にとって効率的です。たとえば、私ならシンガポールでの仲裁案件実績もあり、シンガポールのほか、ロンドン・ブラジル・エジプトの法律事務所との連携も可能です」(中村弁護士)。
「松井弁護士は駐在経験のある香港とシンガポール・ロンドンでの経験が豊富で、奥様が中国律師(中国の弁護士)であることから、中国事情にも通じています。私もシンガポールや米国の弁護士との交流もありますし、それ以外の国でも国外のネットワークを通じてご紹介できる可能性がありますので、日本との関わりが少ない国外案件であっても、ぜひ気軽にご相談いただきたいと思います」(竹腰弁護士)。

竹腰 幸綱 弁護士

読者からの質問(海外企業との支払トラブル時の対応)

Q 海外企業との支払トラブルに発展した場合には、どう支払を促すべきでしょうか。
A 最終的には判決や仲裁判断による執行が必要となるところ、財産がどこにあるかが重要です。国内に財産がない場合は海外での手続が必要となり、“何が有効な手段か”は、その国の法制度によってさまざまです。そのため、初期段階から海外の法律事務所と連携して、回収に向けた計画を立案することが重要です。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2025』を 「まとめて読む」
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 DATA 

所在地・連絡先
〒100-0011 東京都千代田区内幸町1-3-2 内幸町東急ビル9階
【TEL】03-6205-8444(代表)
【E-mail】info@aieilaw.co.jp

ウェブサイトhttps://www.aieilaw.co.jp/

松井 博昭

弁護士
Hiroaki Matsui

08年早稲田大学大学院法務研究科修了。09年弁護士登録(第二東京弁護士会)。18年ペンシルベニア大学ロースクール修了(LL.M.)。西村あさひ法律事務所、香港法律事務所(出向)を経て、19年AI-EI法律事務所入所、ニューヨーク州弁護士登録。20年全国通訳案内士(英語)登録。22年~信州大学特任教授。

中村 圭佑

弁護士
Keisuke Nakamura

11年一橋大学法科大学院修了。12年弁護士登録(東京弁護士会)。国内法律事務所や商社勤務を経て、19年AI-EI法律事務所入所。国内外の紛争解決対応、シンガポール・ロンドンにおける国際仲裁対応経験、日本・ブラジルのM&A案件経験を有する。

竹腰 幸綱

弁護士
Yukitsuna Takekoshi

09年首都大学東京法科大学院修了。10年弁護士登録(東京弁護士会)。20年ジョージタウン大学ロースクール修了(LL.M.)。国内法律事務所を経て、20~22年法務省訟務局国際裁判支援対策室(21~22年外務省国際法局経済紛争処理課(併任))にて投資仲裁やWTO紛争解決に携わる。21年ニューヨーク州弁護士登録。22年AI-EI法律事務所入所。