読者からの質問(スピーディな不正調査・不正対応のためのポイント)
A どのような事案でも、初動対応は重要です。不正の内容、関与者、手口、影響額などの概要を速やかに把握し、対応方針を早期に定めることが、事案の早期終息や後の信頼回復への“キモ”になります。とりわけ人の生命・身体へ危険を生じうるような場合には、決して放置したり、隠蔽を図るなどの対応をとってはいけません。不正をただちに中止することに加え、公表など被害を最小限に抑えるための措置を速やかにとる必要があります。
まずは事態の深刻度に応じて、社内対応チームを設置するか、外部の専門家による第三者委員会を設置するかなどを検討する必要がありますが、不正に経営陣が関与しているような場合には、社内調査のみではステークホルダーに対する説明は困難です。スピーディな対応のためには、初期の段階から事案の内容に応じて不正調査対応に精通した顧問弁護士等に相談して対応方針を策定することも有用です。
当事務所では、個別事案の概要や顧客企業の意向に応じて、所属弁護士のバックグラウンドや性別などを勘案した柔軟なチーム組成で企業を支援しています(本村健弁護士、坂本倫子弁護士、青木晋治弁護士)。

(左より)本村 健 弁護士、坂本 倫子 弁護士、青木 晋治 弁護士
不正調査の“キモ”は“初動”にあり
社内不正が発覚した際、最も重要なのは“初動対応”である―1902年、企業法務を専門に担う法律事務所の先駆けとして設立され、連綿と顧客企業の支援を続ける岩田合同法律事務所の“今”を担う弁護士たちは、そう口を揃える。
特に企業活動のあらゆる場面でデジタル機器が活用される昨今、デジタル機器に記録されたデータを保全・収集・解析するデジタルフォレンジック(以下「DF」)の重要度もますます高まっているという。
「データは客観的証拠としての価値が高く、事実の正確な把握に有用なため、一定規模以上の不正調査案件ではDFの実施が前提となることが多いですね」(伊藤菜々子弁護士)。

伊藤 菜々子 弁護士
「不正の疑いが生じた時点で速やかにデータの保全を行うことが一番のポイントです。大規模な不正調査の場合では、DFに高い専門性を有する業者を起用し、専門の機器やシステムを用いて実施することも必要です。機動的な対応のためには、複数のDF専門業者とのつながりを有し、データ保全に即応できる体制を整えておくことが肝要です」(永口学弁護士)。

永口 学 弁護士
リスクを最小化する専門家の早期起用
不正事案における初動の遅れは、企業により深刻なリスクをもたらす。特に会計不正事案では、有価証券報告書等の提出義務がある上場会社で会計不正が発覚した場合、時期によっては財務諸表の確定や監査証明の取得が間に合わなくなるおそれがある。「また、役員の関与・認識が疑われる不正において初動対応が不十分であった場合には、独立性に疑義を呈せられることによって社内メンバーを中心とした調査体制を維持できなくなることや、“類似事象の調査が不十分である”と指摘を受け、調査範囲を後から拡大する必要が生じるといったおそれがあります」(武藤雄木弁護士)。

武藤 雄木 弁護士
品質不正事案でも、迅速かつ的確な対応が信頼回復のカギとなる。「特に、製品の安全性が担保されず、人の生命・身体へ危険を生じうるようなケースでは、確認が不十分で当初の発表が後に覆るようなことがあると、それ自体が二次的不祥事となってしまいます。そこで、まず事実確認と影響範囲の特定を最優先し、対象製品や顧客への影響の評価と同時に、社内外への情報共有や顧客・取引先への説明の時期・内容を検討します。もちろん、当初から監督官庁への説明を尽くすことも重要ですので、企業としては、調査、顧客対応、報道対応、監督官庁対応等の同時並行的な実施が必要となります」(森駿介弁護士)。

森 駿介 弁護士
一方、サイバー攻撃による情報漏洩事案では、“取引先企業や顧客の重要な情報(個人情報を含む)の窃取可能性”と“取引先企業や顧客に二次被害が及ぶリスク”の両面を意識した対応が必要となる。「具体的には、サイバー攻撃の経路や窃取可能性のある情報の範囲を特定し、取引先や顧客に通知・説明ができるようにするとともに、二次被害(なりすましメールやクレジットカード情報の不正利用等)のリスクの有無を突き止め、早期に注意喚起できるようにしなければなりません。事案によっては個人情報保護委員会への報告も必要となりますので、こちらも同時並行的な対応が必要となります」(齋藤弘樹弁護士)。

齋藤 弘樹 弁護士
不正会計、品質不正、情報漏洩に限らず、企業不祥事においては全社的・同時並行的な対応が不可欠となるが、これらすべてに適時適切に、かつ損失を最小限に抑える対応を実施するには、やはり各事案・各分野に精通し、なおかつ全体を俯瞰して信頼回復までの道筋を描き、伴走できる専門家の早期起用が欠かせない。有事の際に迅速かつ適切な一歩を踏み出すためにも、平時から“万が一”を見据えた専門家との関係構築や社内体制の整備が重要だ。
企業の今後を左右する調査“後”の対応
不正調査により、犯罪行為や社内規則違反行為等の従業員の不正行為が判明した場合には、その悪質性や頻度、会社の損失等に応じて、当該従業員への懲戒処分等を検討することとなる。「中でも社員(または役職)としての適性に欠けると判断される場合には、解雇や降職・降格といった重い処分が下されることとなりますが、これらの処分は、当該従業員から違法、無効と主張されないよう、規則等の当該従業員との契約上の根拠に基づき、また、権利濫用に該当しないように注意する必要があります」(藤原宇基弁護士)。

藤原 宇基 弁護士
また、独占禁止法で規制される不当な取引制限に該当する行為(入札談合・カルテル)が認められた場合には、公正取引委員会へ課徴金減免申請(リニエンシー)を行う必要がある。「減免申請は、申請時期や申請順位に応じて減額率が異なりますので、迅速な申請が必要です。また、“この程度であれば違法ではない”などと安易に判断することは減免申請の機会を逸することにもなりかねません」(石川哲平弁護士)。

石川 哲平 弁護士
どう早期に事案を終息させ、再発防止を図るのか。自社の信頼をどう回復するのか。これらの試金石となるのも、社内調査による事案解明“後”の“早期”対応である。すべての場面において迅速性・多面性が求められる不正対応では、外部専門家をいかに活用するかがカギとなる。
顧客企業との深い信頼関係の構築を重視する同事務所では、こうした不測の事態にも個別事案の概要や顧客企業の意向に応じた柔軟なチーム組成で企業を支援する体制を整えている。“依頼者の長期的かつ健全な発展に、事務所一丸となって貢献する”という理念のもとに集う弁護士たちは、今後も顧客企業を力強く支援していく。

本村 健
弁護士
Takeshi Motomura
97年弁護士登録。経営法務・危機管理・IPO。社外役員・公益法人役員就任。慶應義塾大学法科大学院非常勤講師・司法研修所教官・東京大学客員教授等を歴任。『第三者委員会 設置と運用〔改訂版〕』(編集代表、金融財政事情研究会、2020)、「不祥事対応マニュアル」(Business Law Journal 2021年1月号)ほか。

坂本 倫子
弁護士
Tomoko Sakamoto
00年弁護士登録。社外役員就任。企業法務全般、特に取締役の責任、ガバナンス関係、コンプライアンスに関する助言や、訴訟・紛争解決の代理業務に携わる。第三者調査委員等の経験も有する。

永口 学
弁護士
Manabu Eiguchi
07年弁護士登録。危機管理対応経験を豊富に有し、第三者調査委員や委員長、社内調査委員等を歴任。内部通報への対応経験や競争法事案への対応実績も多数有する。23年より札幌オフィスに常駐。

伊藤 菜々子
弁護士
Nanako Ito
07年弁護士登録。上場企業、非上場企業の各種調査委員会の経験を有する。金融庁証券取引等監視委員会への出向経験を活かした金融機関の当局対応・不祥事案件や、ハラスメント案件を幅広く取り扱う。

藤原 宇基
弁護士
Hiroki Fujiwara
08年弁護士登録。多様な業種のクライアントに関して、日常的な人事労務相談から紛争、組織再編まで人事労務案件を広く取り扱う。

青木 晋治
弁護士
Shinji Aoki
08年弁護士登録。企業法務全般に関する法的助言、各種M&A取引、コーポレートガバナンス、内部通報窓口対応、第三者委員会の委員を含む不祥事対応、その他コンプライアンス態勢に関する法的助言を行う。

武藤 雄木
弁護士
Yuuki Mutou
09年弁護士登録。会社法、金融商品取引法等の企業法務全般に関する法的助言、コーポレートガバナンス、コンプライアンス体制に関する法的助言、危機管理、IPO支援、税務調査対応等を取り扱う。

森 駿介
弁護士
Shunsuke Mori
11年弁護士登録。会社法案件等のコーポレート業務や紛争解決(訴訟・保全等)の経験も豊富に有し、紛争やガバナンスの観点も踏まえて危機管理対応につき助言する。調査委員会委員も歴任。

齋藤 弘樹
弁護士
Hiroki Saito
13年弁護士登録。危機管理業務とIT関連業務を中心に手掛け、両者が交差する分野であるサイバー攻撃、情報漏洩、システム障害等に関する平時の体制整備、有事対応を多く取り扱う。

石川 哲平
弁護士
Teppei Ishikawa
13年弁護士登録。17~20年公正取引委員会審査局審査専門官(主査)。公正取引委員会で多数の審査事件に関与した経験を活かし、競争法をはじめとする危機管理案件を広く取り扱う。『Q&A フリーランス法の解説』(共著、三省堂、2025)ほか。