【M&A】イノベーションを実現するスタートアップ投資の成功戦略 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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豊富な知見と実績をもとに大企業とスタートアップ双方に実践的な支援を提供

2024年に開設5周年を迎えたベンチャーラボ法律事務所。4月に開催された記念パーティには100名を超える顧問先等のベンチャー企業経営者も来場し、その実績と信頼の高さを物語った。大手法律事務所で30年近い勤務経験をもつ代表の淵邊善彦弁護士は、大企業とスタートアップ双方の視点を踏まえた法務サポートに定評がある。今回は大手総合化学メーカーの法務担当者であるA氏をゲストに迎え、スタートアップ投資における大企業側の留意点についてお話をうかがった。

事業シナジーの創出を目的としたスタートアップ投資におけるDDのポイントとは

A氏 当社では、投資額が比較的小規模な数千万円規模のスタートアップ投資も行っていますが、予算的・時間的制約がある中で、どの程度のデューデリジェンス(DD)を実施すればよいかがわかりません。最低限押さえておくべきポイントはどこでしょうか。

淵邊弁護士 対象となるスタートアップが既に他社やベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けているケースかどうかで、調査の範囲や深さは違ってきます。既存投資家がいる場合は、基本的なガバナンスや将来的な事業計画はある程度チェック済みと考えて、調査項目を絞ることができるでしょう。ただし、VCの目的はあくまで“投資利益の獲得”なので、“事業シナジーの創出”を主な目的とする事業会社とは立場が異なる点に注意が必要です。“ビジネスモデルが自社事業と適合しているか”“知的財産が適切に保護されているか”といった“自社との接点”に関しては、しっかりと調査しなくてはなりません。
最低限押さえるべきポイントは、問題が生じた場合の損害賠償請求額の大きさやレピュテーションへの影響など、“リスクの大きさ”を基準に判断するとよいでしょう。そのため、定款や議事録の不備など、後々修正のきく問題にはそれほど手間をかける必要はありません。一方で、仮に材料系スタートアップに投資する場合は、コアとなる知的財産の権利関係のチェックが不可欠となります。また、創業株主が複数人いる場合、不和が生じて誰かが退任することで事業経営に支障をきたすケースが多々ありますので、株主構成やその関係性も確認しておくべきポイントです。

A氏 DDを弁護士に依頼する場合は、やはりスタートアップに詳しい法律事務所を選択すべきでしょうか。その場合の費用感も気になります。

淵邊弁護士 スタートアップ投資は大企業同士のM&Aと異なる視点が必要なため、スタートアップに豊富な知見をもつ事務所に依頼することをお勧めします。できれば大企業側とスタートアップ側の双方の案件を手がけた経験をもち、ビジネスに精通した弁護士に依頼した方が、ポイントを絞った効率的なDDを期待できると思います。また、スタートアップ投資の性質上、大手事務所に依頼するメリットはそれほどないため、少数精鋭でスピーディに対応してくれる事務所を選択することで、コストも抑えられます。費用は、DDの対象をリスクの高い領域、つまり“事業周り”と“株主周り”に限定すれば、100~150万円程度に収まることが多いのではないでしょうか。レポートも包括的な記載を求めず、重要なリスクだけ箇条書きにしてもらうなど内容を簡素化することで、価格を抑えることが可能です。

A氏 的確にリスクを押さえたレポートを作成してもらうために、依頼する際に注意すべき点はありますか。

淵邊弁護士 交渉のなるべく早い段階で相談に来ていただきたいですね。スタートアップ投資はスピードが求められる一方、ビジネスの理解が不可欠なため、対象事業について情報共有をしっかり行う必要があります。その際、事業部の担当者と直接やり取りできると、ポイントを絞るのに役立ちます。

淵邊 善彦 弁護士

win-winの関係構築を目指した契約交渉

A氏 公正取引委員会と経済産業省が公表した指針(「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」)では、「買取請求権や研究開発の制限を定めるのは優越的地位の濫用として問題となるおそれがある」と述べられており、その影響からか、投資契約の条件交渉で、相手方からそれらの規定を拒否されるケースがあります。どのように対応したらよいでしょうか。

淵邊弁護士 上記指針は、スタートアップ側が極端に不利な契約を強要されることを抑制するためのもので、個別案件に必ずしも適用されるわけではありません。スタートアップ側が切迫して資金を必要としている場合や他の契約条件とのバーターで、スタートアップ側が妥協して買取請求権や研究開発の制限などの規定を呑むこともあるでしょう。条件交渉は、結果的に拒否されたとしても何らかの牽制効果がありますので、交渉時に自社の主張を伝え代替案を探ることは大切です。ただし、長期的に良好なビジネス関係を構築するために、強硬に自社の立場を主張するのは禁物です。信頼関係を壊さぬよう、win-winの関係性を実現するような契約交渉が望ましいと考えます。

A氏 当社も“協業”を目的に投資しているので、信頼醸成は大事にしたいと思っています。一方で、過去に共同開発契約の締結が間に合わず、投資が先行してしまい、その後の交渉で不利になった苦い経験があります。スタートアップ投資の経験が浅い企業が陥りがちな失敗はどのようなものでしょうか。

淵邊弁護士 投資判断に時間がかかりすぎたり、VCのように単に“儲かりそう”という観点から特定の1社に多額の投資をして失敗する例は少なくありません。重要なのは、自社がなぜそのスタートアップに投資するのか、明確な目的意識をもつことです。また、スタートアップは成功率が低いため、事業内容をしっかりと調査して適正価格で投資する必要がありますが、同時にスピーディな判断も必要になるため、ある程度のリスクを取ることが前提となります。そのため、事業会社には“将来のビジネスを育成するために、リスクを取って投資する”ということへの理解が不可欠でしょう。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2024』を 「まとめて読む」
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淵邊 善彦

弁護士
Yoshihiko Fuchibe

87年東京大学法学部卒業。89年弁護士登録(第一東京弁護士会)。95年ロンドン大学UCL卒業(LL.M.)。00~18年TMI総合法律事務所にパートナーとして参画。08~22年中央大学ビジネススクール客員講師(13~22年同客員教授)。16~18年東京大学大学院法学政治学研究科教授(常勤)。19年ベンチャーラボ法律事務所開設。主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

A氏

大手総合化学メーカーの法務部で勤務。法務部員23名。