議論・検討が進む規制 多業種で模索する活用法
深層学習や機械学習の手法を駆使してデジタルコンテンツを自動で生成するAIをビジネスに活用する機運は日々高まっている。日本ではガイドラインが策定され、各国もAIについての法規制の整備に向けた議論が進む。
「広く知られる画像生成のほかにも、空き駐車場を見つけるサービスや消費者の適正な服のサイズを提案するサービスなど、AIの活用はIT・エンタメなど知的財産に関心の高い企業のみならず、さまざまな業種で検討が広がっています。このため、それぞれの使用方法について個別の論点があり、ご相談も多岐にわたっています」と語るのは、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の大石裕太弁護士(パートナー)だ。大石弁護士は知財訴訟をはじめ、無形財産やデータ技術分野、法と最先端技術が交錯する案件に関する法的アドバイスなどをこれまで手がけてきた。
「AI技術自体は今後も発展が見込まれるため、それを活用したサービスに対してどのような課題があるかは、技術とビジネスが具体化してみなければわかりません。ビジネスを展開する分野の規制、AIが生み出すバイアスやハレーションなど問題を複合的に考慮しながら、法的論点の検討を重ねる必要があります。著作権はその“数あるトピックのうちの一つ”という位置づけですね」(大石弁護士)。
現在の日本や世界のAIに関する議論は、不確かな点が多いことを踏まえたうえで、一定の考え方が示されたものといえる。
「AI活用によるビジネスの模索は、当初は獣道を進むようなものです。既存の規制やガイドラインを踏まえるだけでは必ずしも十分ではありません。想定される事業設計を取りまとめたうえで、その都度弁護士をはじめとする外部専門家に質問・相談することが望ましいと思います。先端的に取り組んでいる企業では、AI規制に対応する専門的な組織体制を整え、リスクを低減しつつベネフィットを最大化できるよう検討を進めています」(大石弁護士)。
著作権が認められる条件と留意すべき生成AIの著作権侵害
生成AIによる成果物の著作物性については、文化審議会が2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」(以下「ガイドライン」)内で見解を示している。
「AIに対しアイデアを出した結果生成された成果物は、人間の思想や感情を表現したものではないため著作物性は認められないという考え方が一般的です。ただし、具体的な表現について人間が創作的寄与を行った場合、たとえば思想または感情を創作的に表現するための道具としてAIを使用したと認められる場合には、著作物に該当すると考えられています」(大石弁護士)。
また、生成AIの創作物が既存の著作物と類似した場合に著作権侵害が認められる懸念についても、多くの企業が議論の進展を注視している。
「一般に、類似性と依拠性が認められ、かつ権利制限規定の対象外となる場合には、著作権侵害となると整理されています。そして、AI利用者が既存の著作物を認識していなかったもののAIの学習データにその著作物が含まれる場合や、そもそも学習データに含まれていたかが不明な場合に依拠性が認められるかは、これまで議論があったところですが、ガイドラインで一定の考え方が示されています。仮に著作権侵害と判断された場合には、侵害と判断されたサービスの差止めが認められうるため、ビジネス上のリスクは甚大です。さらに、AIを利用するサービスには、システムの開発者、それを活用したサービスの提供者、利用者などステイクホルダーが多数存在し、どの主体がどのような責任を負うのかも争点になります。リスクを低減するには、それぞれにどのような問題が生じうるのか、具体的な事実関係に照らして詳しく検討を行うべきでしょう」(大石弁護士)。
さらに、生成・利用段階に加えて、開発・学習段階での著作権侵害の問題も存在する。
「ガイドラインでは、開発・学習段階の利用についても、情報解析といった“非享受目的の利用行為”であれば原則として著作権者の許諾なく行うことが可能と整理されています。ただ、学習した表現をそのままアウトプットとして出すようなものは“非享受目的のみ”といえず、学習なら何でもよいわけではありません」(大石弁護士)。
生成AIの規制をめぐる各国の動向
「各国で規制に対するアプローチが異なっている点には注意が必要です。EUや中国ではハードローが成立していますが、日本では、現時点で包括的なハードローは存在せず、ガイドラインで指針を示している状況です。もっとも、昨今のAI規制の議論の発展は目まぐるしく、ハードローの制定に向けて議論を行うなどの動きがありますので、今後も動向を注視する必要があります」(大石弁護士)。
また、AIを利用したビジネスを国際的に展開する場合には、GDPRと同様に、“特定の域内のAI規制が適用されないか”“適用されるとしてどのような義務を負うことになるのか”といったことを検討しなければならない。
「国際的なAI活用ビジネスを検討する際には、各国の規制は無視できません。国内企業が提供するビジネスであっても、海外からもアクセスが可能であり、特定の地域の言語や通貨を利用可能という状況では、当該地域においてサービスを提供していると判断される可能性もありますので、規制の適用の有無及び内容を検討した方がよいでしょう」(大石弁護士)。
読者からの質問(AIと特許)
※ 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用しております。
大石 裕太
弁護士
Yuta Oishi
08年東京大学薬学部卒業。11年東京大学法科大学院修了。12年弁護士登録(第二東京弁護士会)。15年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。19年カリフォルニア大学バークレー校卒業(LL.M.)。19~20年Barnes & Thornburg法律事務所勤務。20年ニューヨーク州弁護士登録。特許権、著作権、商標権に係る紛争・相談をはじめとして幅広い知的財産分野および技術関連の案件、さらにはデータ保護分野を取り扱う。