【知財】システム開発契約における留意点 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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ユーザーとベンダーの“ギャップ”がトラブルの種

企業活動のインフラを支える各種基盤システム。その開発委託業務に携わったことのある人なら、「外部のシステムベンダーに要望がきちんと伝わらない」「導入スケジュールが思い通りにいかない」「想定していたシステムじゃない」といった戸惑いやイライラを感じた経験が、一度ならずあるのではないだろうか。もちろん、一方のベンダー側にもクライアントへの不満は乗じるものだ。
こうした両者のすれ違いが高じて法的トラブルに至るケースも少なくない。ユーザー、ベンダーのどちら側の代理経験も豊富で、著名企業からスタートアップまでさまざまなクライアントを抱える潮見坂綜合法律事務所の高橋元弘弁護士によれば、最近はパッケージソフトのカスタム開発におけるフィット&ギャップ分析(パッケージの仕様とクライアントの要望とのギャップを埋め、ユーザーニーズに適合させるための分析)がうまくいかなかったことに起因するトラブルが増えているという。
うまくいかない原因は双方にあることが多い。「ベンダーの分析や検証が不十分だったせいで、いざ設計してみたら全然ダメだったということもあれば、業務フローをパッケージに合わせるつもりだったユーザーが翻意した結果、適合しなくなることもあります」(高橋弁護士)。両者の「ギャップ」が埋まらなければ、トラブルは不可避である。
システムの利用権の許諾範囲が問題になることもある。システムを子会社(分社や買収による将来の子会社も含む)にも利用させる予定にもかかわらず本社のみの利用許諾の契約を交わしてしまえば、子会社の利用はライセンス違反である。あるいは、ライセンス期間が終了した途端、基盤システムが使用できなくなってしまえば大混乱が生じる。

「その時点で想定している利用範囲、将来の展望、システムの寿命、別のシステムへの切り替えにかかる期間などをよくシミュレーションして、費用とのバランスも考慮しながら、ライセンスの範囲、期間、更新拒絶期間を契約書で規定する必要があります。こうしたことについては、契約条項を睨むだけでは正しく判断できません。対象システムがどういうもので、将来どう使うつもりなのか、どのくらいの耐用年数を想定するか――これらをヒアリングした上で、適切な規定を選択するのです」(高橋弁護士)。

読者からの質問(システム開発契約におけるトラブル回避のための留意点(ユーザー側))

Q 委託者(ユーザー)視点でシステム開発契約におけるトラブルを回避するための留意点を教えてください。
A “契約書で互いの義務や責任上限を明確にしておけばよい”と考えがちですが、それだけだと不十分です。ユーザーはベンダーの問題点について指摘をするものの、それをドキュメントに残さない傾向があります。もし“ベンダー側に問題がある”と考えたなら、指摘を書面に残して相手に渡すことが大切です。“こんな問題があったんです”とご相談を受けても、証拠がなければ対応が難しい場合もあります。ベンダーにとっても同じことですが、どちらかといえばベンダー側の方が自社の責任を免れるための資料や議事録を作成していることが多いですね。契約書上だけでなく、プロジェクトが進行する中で何があったのかを“そのとき”に残しておくということがポイントです。

 

ベンダーのPM義務とユーザーの協力義務それぞれの範囲をうまく定める方法

トラブルを回避し、責任の所在を明確にするためには、ベンダーのPM(プロジェクト・マネジメント)義務とユーザーの協力義務の範囲を定めることが大事とされる。しかし、高橋弁護士によれば、むしろ“どのような場合に相手に責任を追及できるか”あるいは“免責されるか”を規定することが重要だという。
例えば、ユーザーがあらかじめ決まっていた仕様にはない無茶な要求をベンダーに対して行った場合を想定する。その要求に起因する損害が発生した場合、ユーザーはベンダーに責任を追及することができるか。裁判例の中には、「専門性を持たないユーザーの要求がプロジェクトに悪影響を及ぼしうる場合、ベンダーがそのことをきちんと説明し、翻意を促さなければベンダーは免責されない(PM義務を果たしていない)」というものもあるが、これに反する契約書案がベンダー側から提示されることもあるという。「私がユーザー側で契約書を作成するときは必ず意識する点です」と高橋弁護士は言う。
それ以上に大切なのが、実際の作業工程において“お互いがどのような役割と責任を担っているか”を相互に確認することだという。「“契約書で書く”というよりも、どちらかといえば両者で共有する課題管理表やWBS(作業工程表)で明記すべきことです。責任の所在が分かりやすくなるということもありますが、それ以上に、“次に誰が何をすべきか”を互いに明確にすることは、プロジェクトを成功に導く上でも重要です」(高橋弁護士)。

高橋 元弘 弁護士

大規模紛争を理想の落としどころで解決する交渉手腕

高橋弁護士は、システム開発トラブルの場合はいたずらに裁判に持ち込むのではなく、訴訟前解決を特に意識しているという。「システム開発訴訟は5年、7年と長期戦になることが少なくありません。それだけの期間、法務だけでなく現場の担当者も対応を余儀なくされ、新しい仕事に関われなくなるのは望ましくありません。訴訟になった時点でマイナスが大きすぎるのです。ただし、我々は紛争を避けたいがために譲歩するのではなく、理想の落としどころで解決するための交渉戦術を持っています」(高橋弁護士)。
任意交渉の結果、十数億円の損害賠償を得たこともあるというから頼もしい。多くの有名事件を含め、特許やエンターテインメント業界の知財紛争を解決してきた高橋弁護士。専門性の高い分野での交渉手腕は折り紙つきだ。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題』を 「まとめて読む」
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高橋 元弘

弁護士
Motohiro Takahashi

01年弁護士登録(東京弁護士会)、森綜合法律事務所(現:森・濱田松本法律事務所)入所。07年末吉綜合法律事務所(現:潮見坂綜合法律事務所)開設。東京理科大学専門職大学院(MIP)講師、金沢工業大学虎ノ門大学院知的創造システム専攻客員教授などを歴任。20年~特許庁工業所有権審議会弁理士審査分科会試験委員。IAM Patent 1000(2022年版)のランキング(日本/訴訟部門(個人))Bronze 受賞。