【SDGs/人権】GX・ESG独禁法規制とグループガバナンス - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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グリーン社会に貢献する共同研究開発で競争の抑制懸念がある場合の対応―囲い込みや情報共有は手法を工夫すれば可能

田中氏 積水化学工業は創業以来、“ステークホルダーの期待に応え、事業を通じて社会へ貢献すること”を社是の中で掲げており、近年はESG経営に積極的に取り組んでいます。ESG経営推進部を中心に横断的に取り組む中で、法務部は主に法的観点からのサポートを担っています。
ESGやGXに関する取り組みでは、競合企業や大学の研究機関とコンソーシアムを形成して共同研究などを行いますが、その際に競争法・独禁法規制上の懸念があります。先端分野であるだけに、知見を持つ学術関係者や試験を実施できる機関が限定されているという状況ですし、諸外国との競争で勝ち残るために、秘密保持の観点からパートナーを国内大手企業の一部に限定して実施する共同研究開発が“競争を阻害する”とみなされないか。公正取引委員会の「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(2023年3月公表。以下「グリーンGL」)の観点とも併せて、見極めが非常に難しいと感じているところです。

田中 亮輔 氏

若井弁護士 共同研究開発における競争制限効果については、研究対象の技術市場やその技術を用いた製品市場の競争に与える影響や共同研究開発における参加者の事業活動の制限の内容を考慮する必要がありますが、その点はどうですか。

田中氏 新製品は従来の製品よりも技術や価値が付加され、活用範囲が広くなる場合が多いですね。例えば、フィルム型太陽電池の開発で、ビルの壁面や曲がった場所など、設置可能な場所が広がるというようなケースです。市場やシェアを考える際、このような新たな製品については、付加価値を考慮すべきか、従来製品の市場シェアは低い場合であっても先行技術であるがゆえにそれなりのシェアがある点をどのように考えるべきかも気になります。また、共同研究開発ではNDAを結ぶのは当然として、諸外国の企業が参入する場合のリスクを考慮すると物理的なファイアウォールを設けたいという要望もありますね。

若井弁護士 まず、共同研究開発の参加者の制限については、経済安全保障の観点や技術情報等の秘密性を保持するために必要な範囲で参加者を限定することは通常問題とならないと考えます。また、市場にない新たな商品を上市する場合、市場で高いシェアを獲得することがありますが、そのこと自体がネガティブな評価を受けることは通常ありません。ただ、共同研究開発に参加している特有の知見を持つキーパーソンから技術情報等が流出しないように囲い込みたいというニーズもあると思いますが、このような参加者に対して共同研究開発終了後も他社との共同研究開発を制限することは、“他社を排除する目的や効果がある”と評価され、問題となる可能性はありますので注意が必要ですね。

若井 大輔 弁護士

田中氏 情報交換について、価格など致命的なもの以外の調査や研究データはどうでしょうか。グリーン社会への貢献効果を測るとなると大規模になるため、個社としての取り組みは難しいケースも多いのではないでしょうか。

河浪弁護士 近年、環境負荷が低い原材料の使用や製品の環境性能の高さの競争上の重要性は高まりつつあると感じます。グリーンGL第1の1の想定例6では、重要な競争手段である事項(価格等)を含まない「温室効果ガス削減に関するベストプラクティス」の情報交換は通常問題とならないとされていますが、価格や数量以外の要素であっても「重要な競争手段である事項」に当たりうるため、そのような情報の交換については慎重に考える必要があるのではないかと思います。

河浪 潤 弁護士

若井弁護士 グリーンGL第1の3(2)イ(ク)において、データ共有についての考え方が示されており、生の情報をそのまま交換するのではなく、需要者等の匿名化やデータの抽象化により個別の競争を制限する形で利用されない形に加工することが一つの手法といえます。また、事業者間の協調的行動が促進されないよう、データ共有の人的範囲をデータ分析を行う特別な部署・担当者に限定し、設計・生産・営業部門の担当者には共有しないという方法も示されています。

中嶋弁護士 原材料の調達については、“人権の観点からサプライヤーを遡って調査すべき”という論点があり、この点も個社対応がほぼ不可能な領域です。ある程度の規格化やデータ共有が重要だと思いますし、業界のイニシアティブの役割が大きいところです。例えば、グリーンGL第1の3(1)の想定例14では、特定の環境負荷の低い商品への切り替えを推奨する自主基準の設定・遂行は問題とならないとされており、自主基準の内容の正確性、コスト増の影響が僅少、一定の方針を推奨・共有するものであり各社に強制するものでないといった事情がある事例は共同ボイコットには当たらないとされている点は参考になりますね。

中嶋 隆則 弁護士

独禁法コンプライアンスはESGに関しても緩和できない

田中氏 独禁法関連規制を遵守するためのガバナンスを厳しくしすぎると事業のスピードが落ちるおそれがあります。ESGの観点から緩和する余地はありますか。

若井弁護士 独禁法リスクは顕在化した場合のダメージが極めて大きいため、ESGを理由に独禁法コンプライアンスの体制を緩和することはおすすめできません。競争者との情報交換について、ESGの観点から許容されうるケースの考え方が役職員に浸透しているかといった点を考慮することも必要ですが、やはり、競合他社との会合については都度事前申請をさせて議題を把握し、交換不可の情報についてガイダンスを行うといった体制が望ましいと考えます。日欧を中心にESGの観点での取り組みであることが競争法上の正当化理由として考慮されうることが示される一方で、グリーンウォッシュに対しては厳正に対処し、グリーン社会の実現に寄与するという姿勢だと思います。また、米国では競争法と関わりのない要素を評価に組み込むことに消極的に見えるなど、国によってばらつきもあります。

河浪弁護士 欧州水平的協力協定ガイドライン等の改正の動向にも注視したいと思います。競合他社との会合の都度の事前申請は煩雑と感じる点かと思いますが、現場の担当者が面倒だと感じずに法務に報告できる雰囲気やしくみを作ることが非常に重要ですね。また、会合の議事録を作成し、独禁法に抵触すると考えた時点で退席した事実などを記録し、事後報告をさせることも有効です。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題』を 「まとめて読む」
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若井 大輔

弁護士
Daisuke Wakai

04年神戸大学法学部卒業、07年同大学法科大学院修了。08年弁護士登録(大阪弁護士会)。09年北浜法律事務所入所。14~17年公正取引委員会事務総局経済取引局企業結合課勤務。18年パートナー就任。

中嶋 隆則

弁護士
Takanori Nakajima

05年京都大学法学部卒業。08年同大学法科大学院修了。09年弁護士登録(大阪弁護士会)、北浜法律事務所入所。19年ミシガン大学ロースクール修了(LL.M.)19年イリノイ州弁護士登録。22年パートナー就任。

河浪 潤

弁護士
Jun Kawanami

12年大阪大学法学部卒業。13年弁護士登録(大阪弁護士会)。14年北浜法律事務所入所。20年ハーバード大学ロースクール修了(LL.M.)。21年ニューヨーク州弁護士登録。

田中 亮輔

積水化学工業株式会社 法務部法務・コンプライアンスグループ法務担当課長
Ryosuke Tanaka

12年弁護士会登録(大阪弁護士会)。19年積水化学工業株式会社入社。22年より現職。