企業に求められる知的財産・無形資産の活用
近年、知的財産をはじめとする無形資産の管理およびその活用についての関心や重要性は飛躍的に高まっている。
2021年6月にはコーポレートガバナンス・コードが改訂され、取締役会が知的財産等への投資等を含めて実効的に監督することの必要性が説かれるとともに、ステークホルダーに対しても、経営戦略を踏まえて知的財産をどのように利活用するのかを開示することが求められることとなった。また、2022年1月には、「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」が公表され、さらには、2022年5月に「秘密情報の保護ハンドブック」も改訂されている。
このような潮流を受け、弁護士法人御堂筋法律事務所の天野里史弁護士は、「近年、知的財産をはじめとする無形資産が有する価値が見直され、これに着目した投資の可能性が格段に広がっています。知的財産や無形資産がキーポイントになるM&Aやファイナンスもこれまで以上に増えていくことが予想され、企業の成長のためには知財デューディリジェンスを含む無形資産の管理・取得を効果的に行うことが不可欠です」と語る。
オープンイノベーションの活性化とデータの利活用
さらに、昨今ではオープンイノベーションも活発化しており、従来型の自社内部での研究開発の場合に比して、権利の発生や帰属に関わるプレイヤーが増えてきている。
「オープンイノベーションの場面では、研究開発のスピードアップに重きが置かれているためか、その成果物の利用の場面に比べると、十分な条件交渉を行うことなく、見切り発車的に研究開発の対象情報が関係者に開示されたり、協業企業からかなり不平等な条件を提示されているのに、すんなりとそれに応じてしまっていたりするケースも多く見られます」と語る髙畑豪太郎弁護士は、研究開発を早急に進めたい事業部門と、契約書の内容を精査したい法務部門との間のジレンマを聞くことも多いという。
「研究開発を行う場合、成果物として得られる知的財産や無形資産のみならず、その過程で生じるデータにも価値があるのですが、これまであまり意識されてこなかったように思います。限定提供データを保護する2018年の不正競争防止法の改正は、付加価値の源泉となるデータの利活用を活発化させることを目的の一つとして行われましたが、今後も企業が保有するデータをどのように保護しながら活用するか、その重要性は高まってくるでしょう。データの保護、活用という側面では、これまで個人情報保護の領域で培われてきたノウハウが重視されるなど、知的財産の技術的側面だけではない、従来の垣根を超えた総合的な思考が必要になってきます」(矢部耕三弁護士)。
知的財産という領域に捉われない知的財産法務の重要性
これまで、各種の知的財産や無形資産は、技術的・専門的な領域に属する事柄に関わることも多いためか、それに特化した知財部門が把握・管理していればよいという風潮があったのも事実である。しかしながら、上述のとおり、改訂コーポレートガバナンス・コードでは、知的財産への投資等についての重要性が指摘され、取締役会による実効的な監督が求められる旨が明示された。
この点に関連して、矢部弁護士は、「例えば、知的財産の創出の場面を考えると、これに携わる従業員にはその貢献に応じたインセンティブが付与されるのが通常です。そのため、各社では職務発明規程等を整備していますが、本来、職務発明等に対してどの程度のインセンティブを与えるかについては、研究開発に携わらない従業員との平等性にも配慮した全社的な人事や処遇に関するその会社自身の経営方針が問われ得ます。個人情報保護に関するノウハウの活用などもそうですが、これからの知的財産法務は、これまで以上に俯瞰的な観点から、知的財産法という狭い領域に捉われない総合的な思考を駆使することが重要であり、そのことが、結果として、各企業の知的財産や無形資産の潜在的な価値と営業上の利益を引き出し、事業の継続的・総合的な発展に資することになると考えています」と語る。
長年にわたり培われた総合力を知的財産法務に
弁護士法人御堂筋法律事務所は、大阪・東京・広島の3拠点で合計91名が所属する総合法律事務所であり、企業法務を中心に、さまざまな分野・規模のクライアントと継続的な関係を構築することにより、各クライアントの実情に応じた総合的なリーガルサービスを提供している。
「当事務所では、“クライアントの最良のパートナーである”ことを理念に、それぞれの弁護士が専門分野を持ちながら、案件の内容に応じて最適なチームを組成して対応しています。これまで長年にわたり培ってきた経験やノウハウ、事務所やチームとしての結束力は、総合力が求められるこれからの知的財産法務において極めて有用だと思います」(髙畑弁護士・天野弁護士)。
知的財産をめぐるこれからのコンプライアンスを考える場面では、企業法務に特化した総合法律事務所であるからこそ有するさまざまな分野での経験やノウハウこそが、まさに不可欠であるといえよう。
矢部 耕三
弁護士
85年中央大学法学部法律学科卒業。91年弁護士登録。94年イリノイ大学ロースクール卒業(LL.M.)。99年弁理士登録。知財関連争訟案件、知財利活用の各種取引・社内管理案件、企業が保有するデータに関する相談案件、先端技術やブランド関連でのM&A・コーポレート案件を中心に、国内外の依頼者のために企業法務全般を広く取り扱う。日本国際知財保護協会業務執行理事、イリノイ大学ロースクール非常勤教授。第一東京弁護士会所属。
髙畑 豪太郎
弁護士
04年京都大学法学部卒業、06年大阪市立大学法科大学院修了。07年弁護士登録。12~13年特許庁審判部。18年~神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科客員教授。知財全般に関する紛争案件を多く取り扱うほか、ベンチャー支援、不正調査、技術系企業のM&A等の企業法務全般を取り扱う。直近の著作に大阪弁護士会知的財産法実務研究会編『知的財産契約の実務 理論と書式意匠・商標・著作編』((商事法務、2022年)音楽関連契約部分を執筆)。大阪弁護士会所属。
天野 里史
弁護士
09年大阪大学法学部卒業、11年京都大学法科大学院修了。13年弁護士登録。知財紛争、ライセンス契約や共同研究契約等の契約関連業務、ベンチャー支援業務等の場面で幅広く知財関連業務を取り扱う。そのほか、株主代表訴訟や企業不祥事が発生した際の対応、IPO関連業務において、企業のコンプライアンス体制の構築やガバナンスの強化に尽力するとともに、規模・業界を問わず多くのM&Aやファイナンス案件等に従事している。日本ライセンス協会会員。広島弁護士会所属。