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欧州戦略を専門チームで支援 2025年ロンドンに拠点を拡大

近年、日本企業による欧州への投資がかつてないほどの盛り上がりを見せている。地政学的リスクの高まりやサプライチェーンの再編といったグローバルな潮流の中で、安定的かつ予見可能性の高い巨大市場として、欧州の戦略的重要性は増すばかりだ。
この大きな変化の波を捉え、クライアントのグローバル戦略を法務面から支えるべく、長島・大野・常松法律事務所は従来から活動していた欧州プラクティスグループを組織的に強化し、その活動を本格化させている。同グループは、欧州関連業務に従事する弁護士で結成された業務グループだ。2025年には5月の『詳解 ビジネスEU法』(中央経済社)の刊行や、8月のロンドン・オフィスの開設など、積極的な展開が進む。
「欧州プラクティスグループは、16名のパートナーとその約2倍のアソシエイトで構成されています。多様な専門分野を背景に持つ弁護士により構成され、案件の性質に応じて柔軟にチームを組成できるのが特徴です。たとえば、M&A案件一つとっても、外資規制、競争法、環境法、労働法、知的財産法などさまざまな分野の専門知識が求められます。これらの専門性を持つメンバーがシームレスに連携し、クライアントの複雑な課題にワンストップで対応します」と語るのは、同グループに所属し、ロンドン・オフィスの代表を務める本田圭弁護士。
同グループには、欧州各国の法制度やビジネス環境に精通した弁護士が多数在籍している。ドイツ、オランダ、ロシアの法律事務所での執務経験を持つ大沼真弁護士は「私のほかにも英国、スペイン、フランス、ベルギーなどの欧州諸国で経験を積んだ弁護士が所属しています。フランスでのM&Aであればフランス経験者が、ドイツでの交渉であればドイツ経験者がチームに加わることで、言語や文化の壁を越えた、より質の高いサポートが可能になります」と説明する。
同グループは日本企業による欧州進出と、欧州企業による日本での事業活動のサポートを主たる業務領域とするが、取扱分野は、コーポレートM&A、外資規制対応、独禁法・競争法、データプロテクション、AI・テック関連、エネルギー・インフラ、環境規制・サステナビリティ、人権関連、製造物責任(PL)、そして税務や紛争解決まで、企業活動のあらゆる側面に及ぶ。
「欧州プラクティスグループを強化した目的の一つは、各弁護士が持つ知識や経験を組織的に共有し、事務所全体の対応力を高めることにあります。欧州の法規制は常に変化しており、その動向を個々の弁護士が追うだけでは限界があります。グループとして情報を集約・分析し、クライアントに最新かつ最適なソリューションを提供できる体制を整えることが、我々の重要な使命だと考えています」(本田弁護士)。

現地での即応力を強化 欧州全域の現地事務所と連携

欧州プラクティスグループの活動をさらに加速させる戦略拠点、それが2025年8月11日に開設されたロンドン・オフィスだ。本田弁護士は、その狙いを多角的に説明する。
「まず重視しているのが、クライアントへのリアルタイムサポートです。東京からでも対応は可能ですが、やはり現地の時間帯でクライアントと伴走し、日々刻々と変化する状況に即応できる体制は極めて重要です。単に時差を解消するだけでなく、現地の“肌感覚”をクライアントと共有できることが大きな価値だと考えています」(本田弁護士)。
さらに、同事務所が焦点を当てるのが欧州での現地法律事務所とのネットワークの強化だ。
「当事務所は特定の法律事務所ネットワークに加盟せず、案件ごとに最適なローカル・ファームを中立的な立場で選定する方針をとっています。ロンドンに拠点があることで、この選定プロセスをより緊密に行い、現地のローカル・ファームと日常的に顔の見える関係を築くことができます。M&Aのようなタイトなスケジュールで進む案件において無理がいえるほどの信頼関係が、最終的なサービスの質を大きく左右します」(本田弁護士)。
このネットワーク戦略を強力に推進するのが、ロンドン・オフィス顧問として参画した松田岳志顧問の存在だ。英国で30年以上の長期にわたる執務経験を持ち、現地の大手法律事務所でパートナーも務めた数少ない日本人英国法弁護士である松田氏は、その豊富な知見と欧州全体に広がる広範な人脈でチームをサポートする。
「松田顧問の参画により、ネットワークは何十倍にも広がりました。法律事務所だけでなく、現地の企業との深い関係も持っています。法務知識はもとより、現地のビジネス文化を隅々まで理解している松田顧問の存在は、日本企業が欧州の多様な文化圏で円滑にビジネスを進めるうえでの強力な羅針盤となります」(本田弁護士)。

本田 圭 弁護士

また、ロンドンに拠点を設けることで、同事務所は欧州全体にとどまらずアフリカをはじめとする周辺諸国でのリーガルサポートをより強力に推し進めることが可能となった。
「ロンドンにオフィスを構えると、業務は自然と欧州全域へと広がります。これは、日本企業の活動が欧州の単一国で完結することは稀で、多くが“欧州ワイド”、さらには中東やアフリカをも含めた広範な地域で事業を展開しているためです」(松田顧問)。
松田顧問によると、ロンドンに事務所を構える地理的な優位性は非常に大きいという。
「ロンドンは、時差の観点からアフリカや中東の案件を非常に扱いやすいという利点があります。そのため、我々が現地にいることで、欧州だけでなく、これらの地域に関するご相談にも迅速に対応することが可能になります。グローバルなビジネスの実態に対応するためには、法務、金融、情報が集積するロンドンが最適なハブであると考えています。私のこれまでの経験や、ロンドンの法律事務所全体の業務内容を見ても、複数国にまたがる案件の方が圧倒的に多いのが実情です」(松田顧問)。

松田 岳志 顧問

欧州M&Aのカギとなる文化と規制への細やかな対応

近年、日本企業による欧州向けM&Aは活況を呈しているが、同時に法務リスクも増大している。大沼弁護士は、実務家が特に注意すべき近時の規制として“外国投資規制(FDI:Foreign Direct Investment)”と“外国補助金規則(FSR:Foreign Subsidies Regulation)”を挙げる。
「FDI規制は欧州各国で強化されており、“日本企業だから問題ない”とは言い切れない状況です。一般論として、日本は欧州にとって友好国とみなされており、安全保障上の懸念が低い投資家として扱われるため、中国企業などと比較すれば審査がスムーズに進むことが多いのは事実です。しかし、2023年には、光センサなどを開発・製造する日本の浜松ホトニクス株式会社によるデンマーク企業の買収案件が、当局の外資規制審査において一度差し止められるという事例が発生しました。対象企業の技術が“安全保障上の機微に触れる”と判断されれば友好国の企業による投資であっても厳格な審査の対象となり、承認されないリスクがあるということです。買収対象企業の事業内容や技術によっては、日本企業であっても事前の周到な分析と当局への丁寧な説明が不可欠です」(大沼弁護士)。
さらに重たい負担となりうるのがFSRだ。
「EU域内で一定規模以上の企業を買収する際、買手が第三国から受けた補助金やそれに類する経済的利益の事前届出・審査を義務づける新しい規制であり、対象は非常に広範で、いわゆる補助金だけでなく、政府系金融機関からの借入れや免税措置なども含まれます。買手のグローバルグループ全体の情報収集が必要となり、実務上の負担が非常に大きいことが特徴で、情報収集だけで数か月を要することもあります。当事務所では、具体的なM&A案件が始まる前の段階から、この煩雑な情報収集プロセスの構築をサポートし、リスクを未然に防ぐサポートを行っています」(大沼弁護士)。

大沼 真 弁護士

アクセル・クールマン外国法事務弁護士は、法制度に加え欧州の多様なビジネス文化への深い理解がディールの成否を分けると指摘する。
「欧州は単一の市場ではありません。国ごとに交渉スタイルはまったく異なります。たとえば、ドイツでは極めて実務的に物事が進む一方、フランスでは多くの言葉を尽くすコミュニケーションが求められます。こうした文化的な要素の無理解・誤解がディールの破談につながることも少なくありません。当事務所には、大陸欧州の法資格を持つ私や、各国での実務経験が豊富な弁護士が多数在籍しており、こうした側面にも配慮したアドバイスを提供できる体制を整えています」(クールマン外国法事務弁護士)。

アクセル・クールマン 外国法事務弁護士

複雑化する欧州競争法対応 最新情報の入手と的確な分析を

服部薫弁護士は、多くの経験を有する競争法の視点から規制環境の複雑化と、監視対象の拡大という二つの側面から、近年の動向を解説する。
「英国のEU離脱により、日本企業が関わるM&Aでは、欧州委員会と英国競争・市場庁(CMA:Competition and Markets Authority)の双方への対応が必要となるケースが増え、手続は格段に複雑化しています。当局が異なるということもあり、それぞれに異なるアプローチが求められるため、戦略的な対応が不可欠です」(服部弁護士)。
さらに、従来の企業結合審査やカルテル調査に加え、欧州委員会が打ち出す新たなレギュレーションが企業の事業活動にも影響を及ぼしている。
「FSRは、実質的には競争政策の一環と捉えることもできます。他方、炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)やデータプロテクション、そしてAI規制といった新しい規則は、事業活動の内容・方法等に影響を与える可能性があり、常に動向を注視しています」(服部弁護士)。
こうした複雑な状況に対応するためには、現地の最新情報を迅速に入手し、分析する体制が不可欠だ。
「ロンドンに拠点があることで、情報源に近い場所で活動でき、本社の法務部と現地の双方をシームレスにサポートすることが可能になります。また、欧州や英国の当局は立入検査の実施は比較的少ないものの、質問状への対応は頻繁に発生します。その際、現地のローカル・カウンセル、ロンドン・オフィス、そして東京の担当者が三位一体となって、迅速かつ的確に対応する体制が実現しました」(服部弁護士)。

服部 薫 弁護士

規制とビジネスチャンスが混在 活況の欧州エネルギー・環境分野

エネルギー・環境法を専門とする本田弁護士は、日本企業にとって喫緊の課題としてPFAS(Per- and polyfluoroalkyl substances:ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)のリスクを強調する。
“フォーエバーケミカル”とも呼ばれるPFASに対するEUの規制強化が本格化しています。1万種類以上あるとされる物質の使用等が厳しく制限される見込みで、これはテフロン加工製品や撥水加工製品などを扱う製造業に甚大な影響を与えます。米国では既に巨額の賠償金を伴う集団訴訟が多発しており、この波が欧州、そして日本に及ぶのは時間の問題といえます。サプライチェーン全体でのPFAS使用状況の把握と、代替物質への移行計画が急務となっています」(本田弁護士)。
一方で、脱炭素に向けた動きは、新たなビジネスチャンスも生み出している。
「排出権取引やカーボンクレジット、エネルギートランジションといった分野は、欧州が世界をリードしており、日本企業にとっても大きな事業機会となり得ます。また、再生可能エネルギー市場は、資材高騰の影響等で停滞気味ではありますが、長期的には成長が見込まれます。洋上風力や太陽光発電といったプロジェクトにおいて、開発段階からファイナンス、運営に至るまで、複雑な法務課題を乗り越えるためのサポートを提供しています」(本田弁護士)

欧州プラクティスグループ

日本の先を行くAIビジネスを深く理解した法的サポート

欧州では厳しい規制と並行して、AIを活用したイノベーションも急速に進む。本田弁護士は現地の状況について「日本ではまだ見られないレベルで、銀行などの社会インフラにAIが深く浸透していると感じます。規制が厳しい一方で、AIの活用は社会に根づいており、新しいビジネスも次々と生まれています」と語る。
松田顧問はこの動向について「AIを活用した新しい企業行動は、M&Aの対象となることもあれば、まったく新しい法務課題を生み出す可能性もあります。弁護士としても、技術やビジネスモデルを深く理解し、新たな法務課題にプロアクティブに対応していく必要があります」と締めくくった。

→『LAWYERS GUIDE 2026』を「まとめて読む」
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 DATA 

ウェブサイトhttps://www.nagashima.com/

所在地・連絡先
〒100-7036 東京都千代田区丸の内2-7-2 JPタワー
【TEL】03-6889-7000(代表) 【FAX】03-6889-8000(代表)


所属弁護士等:639名(日本弁護士576名、外国弁護士63名)(2025年12月現在)

沿革:2000年1月に長島・大野法律事務所と常松簗瀬関根法律事務所が統合して設立

本田 圭

弁護士
Kiyoshi Honda

99年慶應義塾大学法学部卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、01~04年牛島総合法律事務所勤務。04年長島・大野・常松法律事務所入所。07年Lewis & Clark Law School卒業(LL.M. in Environmental and Natural Resources Law)。08年University College London Faculty of Laws卒業(LL.M. in International Business Law)。11~17年カーボン・オフセット認証制度認証委員。25年~ロンドン・オフィス代表。

松田 岳志

顧問
Takeshi Matsuda

87年Leicester Medical School卒業(MB ChB)。87~92年ロンドン、シェフィールド、レスターの大学病院・クリニック勤務。94~99年Slaughter and May(London)勤務。96年英国法弁護士登録。99~05年Allen & Overy(London、東京)勤務。05~16年Norton Rose Fulbright(London)パートナー。17年~Crest Legal(London)。20~23年BPP University Law School(London)客員教授。25年~長島・大野・常松法律事務所ロンドン・オフィス顧問。

服部 薫

弁護士
Kaoru Hattori

95年東京大学法学部卒業。97~99年、02年弁護士登録(第二東京弁護士会)。02年University of San Diego School of Law卒業(LL.M.)。07年長島・大野・常松法律事務所入所。17年~経済産業省産業構造審議会臨時委員(通商・貿易分科会特殊貿易措置小委員会)。18年~笹川平和財団理事。24年~経済産業省産業構造審議会臨時委員(通商・貿易分科会不公正貿易政策・措置調査小委員会委員)、東洋製罐グループホールディングス株式会社社外監査役。

大沼 真

弁護士
Makoto Ohnuma

09年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。10年弁護士登録(第一東京弁護士会)、長島・大野・常松法律事務所入所。16年Columbia Law School卒業(LL.M.)、Gleiss Lutz(Stuttgart)勤務(~17年)。17~18年Stibbe(Amsterdam)勤務。18~19年ALRUD Law Firm(Moscow)勤務。

アクセル・クールマン

外国法事務弁護士
Axel Kuhlmann

09年University of Passau卒業(Dr. iur.)。09~11年ハンブルク州上級裁判所法務訓練。11年ドイツ法弁護士登録。11~17年Gleiss Lutz Hootz Hirsch(Hamburg)勤務。17年長島・大野・常松法律事務所入所、外国法事務弁護士登録(第一東京弁護士会)。

『詳解 ビジネスEU法』

著 者:長島・大野・常松法律事務所 欧州プラクティスグループ[編]、池田順一・本田圭・福原あゆみ・吉村浩一郎・殿村桂司・小川聖史・大沼真・宮下優一・水越政輝・アクセル・クールマン・山田弘・中所昌司・松宮優貴・関口朋宏・髙橋優・松岡亮伍・嘉悦レオナルド裕悟[著]、[執筆協力]小泉京香・甲斐凜太郎・藤田蒔人・山本安珠
出版社:中央経済社
価 格:5,940円(税込)

『合併ハンドブック〔第5版〕』

著 者:長島・大野・常松法律事務所[編]、真野光平・堀内健司・大沼真・大石貴大[編集担当]、岩崎友彦・宰田高志・細川智史・一色毅・清水美彩惠・水越恭平[著]
出版社:商事法務
価 格:6,600円(税込)

『インドビジネス法詳説』

著 者:長島・大野・常松法律事務所[編]、池田順一・松永隆之・鐘ヶ江洋祐・井本吉俊・山本匡・洞口信一郎・田中亮平・安西統裕・水越政輝・中所昌司・鍋島智彦・早川健・梶原啓・熊野完・一色健太・小西勇佑・高橋和磨・ 錦織麻衣・シェジャル・ヴェルマ[著]、[執筆協力]ラシミ・グローバー
出版社:商事法務
価 格:8,580円(税込)