© Business & Law LLC.

ログイン

日系企業の海外進出を上海から支え続けて30年

渉外事務所の草分けである弁護士法人大江橋法律事務所。創設当初から、国内だけでなく国際的な案件に積極的に関与し、数多のクライアントのグローバル展開を法務面からサポートしてきた。その国際戦略の礎を築いたのが、日本の法律事務所としては極めて早期の1995年に開設した上海事務所だ。当時、海外に恒常的な拠点を有する日本の法律事務所はほとんどなく、総合的なリーガルサービスを提供する日系法律事務所の第1号といえた。
この歴史的開設を牽引したのは、創設パートナーの一人である塚本宏明弁護士の強い信念だ。上海事務所の首席代表を務める松本亮弁護士は「中国でビジネスをする日系企業のサポートをしたいという強い情熱が、上海事務所設立の原点です」と語る。以来30年、同事務所は日系企業の中国進出を揺籃期から支え続けてきた。
「中国では、法律の規定と実際の運用が異なる事案が散見されます。たとえば、昨今ご相談が増加している企業の撤退手続において、税務当局から法律の範囲を超える要求を受けることがあります。また、登記に必要な書類は法定されているものの、実際の運用は各地方の窓口担当者に委ねられており、突然追加の書類を要求されるなど、予見可能性の低い事態が発生しやすい状況があります。こうした環境下では、法律知識のみならず、長年の経験による現場感覚や、当局と粘り強く交渉する実務能力が不可欠です」(松本弁護士)。

松本 亮 弁護士

多様な現地専門家と柔軟に連携し複雑な案件にもワンストップで対応

予測不能な事態に対応するために、同事務所は長きにわたり現地の専門家とのネットワークを築き上げてきた。
「現地案件の対応には中国の弁護士と緊密に連携する必要があります。地道に築いた関係性によって、案件の規模や専門性に応じて柔軟に最適な法律事務所を使い分けてチームを組成しています」(松本弁護士)。
そのネットワークは法律分野に留まらず、会計事務所や税理士など、さまざまな専門家と連携し、企業規模に応じた柔軟な組成を行う。法律・税務・会計が複雑に絡み合う案件にも、ワンストップで対応できる。
大阪事務所で主に日本企業の対中国案件を支援する高槻史弁護士も「当事務所はビジネスの中心地である上海を拠点に、債権回収から労務問題、知的財産権に関する案件まで、日常的に発生する多種多様な紛争解決を数多く手がけてきました。交渉の進め方や証拠の収集方法など、その豊富な経験は日系事務所の中でも群を抜いていると考えます」と説明する。
また、近年増加しているのが、中国子会社における不正調査案件だ。
「中国子会社の総経理による業務上横領や、その親族が株主である会社を通じて取引を行い、キックバックを得るといった手口が頻発しています」(松本弁護士)。
不正調査では、コミュニケーションアプリ“WeChat”の履歴が調査のカギを握ることもあるが、個人の携帯電話でのやり取りが中心となるため、証拠収集は容易ではない。デジタルフォレンジック調査を駆使するとともに、中国では戸籍謄本のような公的書類の入手が困難であるという特有の障壁がある中、過去の提出書類などから親族関係を洗い出すなど、地道な調査を積み重ねる必要がある。
「不正調査の目的は、単に事実を解明するだけでなく、グループ全体の内部統制をどう強化していくかという視点が不可欠です。日本本社や監査法人との橋渡し役として、日本の上場企業として求められる水準の対応をサポートすることが求められています」(高槻弁護士)。

活況のライフサイエンス分野を現地の知見と専門性でサポート

中国において同事務所が注力している分野の一つが、ライフサイエンスだ。「中国は今や米国に次ぐ世界最大級のライフサイエンス市場であり、日本の製薬会社、医療機器・化粧品メーカーの中国市場向けの取組みが活発化しています。高品質で安全な日本の医薬品や化粧品は人気がありますが、輸出入や中国国内販売については薬事規制を踏まえた対応が必要です。また、医薬品開発においても、中国は国際的な臨床試験の重要な拠点であり、現地の研究機関との高度な共同開発などの連携も増加傾向にあります。しかし、中国国内には薬事を専門とする法律家が非常に少ないのが現状です」(高槻弁護士)。
同事務所発祥の地である関西には、製薬企業の本社が多く立地することもあり、10年以上前から中国における同分野に対応してきた。日欧米の規制に関する知見を活かしながら、中国独自の薬事法規に関するノウハウを蓄積。現地の弁護士とチームを組み、日本企業が直面する複雑な課題の解決をサポートする。
「市場に近い中国国内で開発を行うメリットは大きい一方で、技術の管理や共同開発契約に伴う法務リスクに対応することも必要です」(高槻弁護士)。

高槻 史 弁護士

蓄積されたノウハウと人脈を駆使しアジア全域を細やかにサポート

中国での実績を礎に、大江橋法律事務所はアジア全域へとそのサポートを広げている。その中核を担うのが“アジアデスク”だ。代表の竹平征吾弁護士は、「アジア諸国は国によって経済の発展段階が大きく異なるため、法務ニーズも一様ではありません。我々は、各国の経済状況やクライアントの事業フェーズに応じた、きめ細やかなサービスを提供してきました」と語る。
アジア戦略を特徴づけるのが、同事務所の人材育成と派遣体制だ。「我々は、必ずしも海外に自前のオフィスを設けることに固執していません。米国などで留学経験を積んだ優秀な弁護士を、アジアの各地域に直接派遣する方針をとっています。これまで、インド、ベトナム、インドネシア、シンガポールなどへ弁護士を赴任させた実績を有しており、日本国内のサポートメンバーを含め、常に約20~25名の弁護士がアジア関連業務に従事しています」(竹平弁護士)。
このような柔軟な体制を支えるのが、現地法律事務所との強固なネットワークと、その選定ノウハウだ。案件の性質、専門性、コスト感などを総合的に判断し、大規模な総合事務所から専門分野に特化したブティック事務所まで、クライアントのニーズに最もフィットするチームを組成する。そのノウハウは、長年国際会議などを通じて得た知己や、過去の協業実績が蓄積された事務所全体のデータベースによって支えられている。

竹平 征吾 弁護士

各国の成熟度合いに応じた適切なリーガルサービスを提供

経済・社会の成熟度合いによって、アジア各国で日本企業が抱える課題は異なる。
ベトナム駐在経験のある川島裕理弁護士は「ベトナムでも、中国と同様に法律の運用面で担当者ごとに対応が異なる、手続が遅延するなど、予見可能性が低いという問題があり、柔軟な対応が求められます。それに伴い、契約やスキームの変更の検討が必要になることもあり、クライアントの要請や事情に加えて、法的な視点もインプットしながら、現地弁護士と協議して対応策を検討するなど、我々日本の弁護士がフォローすべき場面は少なくありません」と話す。
現地進出や買収、撤退等の際には、日本本社の登記簿謄本や財務諸表といった書類に対し、日本の公証役場での公証、法務局・外務省での公印確認、在日ベトナム大使館での領事認証といった日本側で準備すべき煩雑な手続が必要となる。このため、現地の手続であっても日本における弁護士のフォローも重要だ。
近年の特徴的な動向として、日本企業同士による現地法人の買収・統合案件が増加しているという。
「契約交渉や契約書の作成は日本語で日本側が主導するケースが多くなりますが、ベトナムの競争法上の企業結合届出手続や、投資法・企業法上の証書取得手続など、現地法特有の規制も看過できません。日本側の主導的なサポートと、手続面での現地弁護士との適切な連携を組み合わせることで、日本法とベトナム法の双方の観点から、案件全体を最適化します」(川島弁護士)。

川島 裕理 弁護士

アジアのハブであるシンガポールを担当する小野洋一郎弁護士は「シンガポール固有の案件に加え、同国を地域統括会社(RHQ)の拠点として他のASEAN諸国でビジネスを展開する企業からのご相談が非常に多く寄せられています」と語る。
RHQの設立・運営においては、各種税制優遇措置を享受するための実体要件の具備や、グループ全体のコンプライアンス体制を統括するグループガバナンスの構築が重要な法的課題となる。また、クロスボーダーM&Aや国際的な紛争解決においては、法の安定性・予測可能性が高いシンガポール法を準拠法とし、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)を紛争解決機関と定めるケースが主流だ。
「こうした高度な法務ニーズに応えるため、案件の性質に応じて最適な現地法律事務所を選定するアプローチを重視しています。また、クライアントのコスト意識にも配慮が必要です。数名の販売員しかいない小規模拠点に対し、画一的なフルスコープのデューデリジェンスで多大なコストをかけるのは現実的ではありません。リスクに応じた調査範囲の提案など、柔軟な対応を心がけています」(小野弁護士)。

小野 洋一郎 弁護士

成長著しいインドを担当する谷内元弁護士は「大手企業によるインド企業の買収、合弁会社設立から、事業が計画どおりに進まなかった場合の救済措置や調停、さらには現地スタッフによる不正行為の調査まで、多様な案件を経験しました」と振り返る。
インド法務の難しさは、頻繁に改正される外資規制(FDI Policy)を含む法制度のほか、インド人によるタフなネゴシエーションにあるという。特に合弁事業においては、現地パートナーとの意見対立からデッドロック状態に陥るリスクも高く、契約段階で紛争解決条項を精緻に設計することが極めて重要だ。
「単に契約書を作成して終わりではなく、その後の事業運営フェーズで発生しうるさまざまな問題にしっかりと対応することが肝要です。私が赴任する以前からインド案件に関する知見をデータベースに蓄積しており、また、インドからの研修生を受け入れるなど、組織的に構築してきたネットワークも活かしています」(谷内弁護士)。
インドのビジネス環境について「市場の熱気ゆえに日本企業と現地パートナーの双方が“良い事業を成功させよう”という前向きな気運に満ちている」と語る谷内弁護士。「日本企業のインド進出に伴うリスク管理と、万一の紛争発生時における実効的な解決策の提示まで、事業のライフサイクル全体を網羅したサポートを心がけています」(谷内弁護士)。

谷内 元 弁護士

ジャカルタデスク開設でアジア地域における存在感を

2025年、同事務所はアジア戦略をさらに進めるため、インドネシアのジャカルタにデスクを開設した。同国は、豊富な天然資源とアジア有数の人口を背景に、有力なマーケットとして多くの日系企業が進出している。今回のデスク開設は、現地法律事務所「MAPS Law Firm」との業務提携によるものだ。2022年設立と新しい事務所ながら、創設パートナーはジャカルタの名門法律事務所出身者で構成され、既に「Asian Legal Business(ALB) Indonesia Law Awards 2024」において「Dispute Resolution Boutique Law Firm of the Year」を受賞するなど、高い評価を獲得している。新たに現地赴任するのは逢見昂平弁護士だ。
「インドネシアで事業を行ううえでは、頻繁な法令改正に対するキャッチアップが必要不可欠です。現地駐在により、最新の法改正動向を迅速にクライアントに発信し、不明瞭な法令や予測可能性の乏しい現地当局の運用実務といった課題解決に、より直接的に寄与できると考えています。現地の弁護士と物理的な距離がなくなることで、よりシームレスに連携し、サービスの質を一層高めていきたいですね」(逢見弁護士)。

逢見 昂平 弁護士

竹平弁護士はジャカルタデスク開設の目的について、アジア地域での実績とサービスを改めて周知する意味合いもあると語る。
「当事務所にはアジアを専門とする弁護士が多数在籍し、実績や提供できるサービスが豊富にあります。今回のジャカルタデスク開設を皮切りに、今後は情報発信をより一層強化し、我々の強みを的確にお伝えすることで、多くのクライアントのお役に立ちたいと願っています」(竹平弁護士)。

→『LAWYERS GUIDE 2026』を「まとめて読む」
→ 他の事務所を読む

 DATA 

ウェブサイトhttps://ohebashi.com/jp/

所在地・連絡先
■大阪事務所
〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島2-3-18 中之島フェスティバルタワー27階
【TEL】06-6208-1500(代表) 【FAX】06-6226-3055
■東京事務所
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビル2階
【TEL】03-5224-5566(代表) 【FAX】03-5224-5565
■名古屋事務所
〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅4-4-10 名古屋クロスコートタワー16階
【TEL】052-563-7800(代表) 【FAX】052-561-2100
■上海事務所
〒200120 中国上海市浦東新区陸家嘴環路1000号 恒生銀行大厦(Hang Seng Bank Tower)13階
【TEL】8621-6841-1699(代表)
■ジャカルタデスク - MAPS Law Firm(提携先)
Sequis Center 7th Floor Unit 706, Jl. Jenderal Sudirman Kav. 71, Jakarta 12190, Indonesia
【TEL】62-21-5223252(代表)


所属弁護士等:弁護士164名、弁理士5名、外国法事務弁護士6名、外国弁護士1名(2025年12月現在)

沿革:1981年1月「石川・塚本・宮﨑法律事務所」を設立。1983年1月名称を「大江橋法律事務所」に変更。1995年5月上海事務所開設。2002年8月「弁護士法人大江橋法律事務所」設立。2002年9月東京事務所開設。2015年9月名古屋事務所開設。2025年7月ジャカルタデスク開設

松本 亮

弁護士
Ryo Matsumoto

02年京都大学法学部卒業。03~04年大阪市役所勤務。05年弁護士登録(大阪弁護士会)、大江橋法律事務所入所。10~11年北京大学法学院留学。11~12年君合律師事務所(北京)勤務。12~16年大江橋法律事務所上海事務所一般代表。16年より上海事務所首席代表。

高槻 史

弁護士
Fumi Takatsuki

98年慶應義塾大学法学部卒業。98~99年中央戯劇学院で中国語研修。00年弁護士登録(大阪弁護士会)、御池総合法律事務所入所。03年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。04~05年アンダーソン・毛利・友常法律事務所北京代表処勤務。06年大江橋法律事務所入所。

竹平 征吾

弁護士
Seigo Takehira

97年大阪大学法学部卒業。00年弁護士登録(大阪弁護士会)、大江橋法律事務所入所。01~03年大和証券SMBC株式会社プリンシパル・ファイナンス部勤務。05年University of Michigan Law School卒業(LL.M.)。05~06年Morgan, Lewis & Bockius LLP(New York)勤務。06年ニューヨーク州弁護士登録。15~18年司法試験考査委員。23年弁護士法人大江橋法律事務所代表社員。

川島 裕理

弁護士
Yuri Kawashima

03年神戸大学法学部卒業。04年弁護士登録(大阪弁護士会)、大江橋法律事務所入所。10年University of Southern California Law School卒業(LL.M.)。10~11年Zuber & Taillieu LLP(Los Angeles)勤務。11年ニューヨーク州弁護士登録、LCT Lawyers(Ho Chi Minh City)勤務。

谷内 元

弁護士
Hajime Taniuchi

02年同志社大学法学部卒業。04年弁護士登録(大阪弁護士会)、大江橋法律事務所入所。10年University of Chicago Law School卒業(LL.M.)。10~11年Dewey & LeBoeuf LLP(New York)勤務。11年ニューヨーク州弁護士登録。11~12年Fox Mandal, Solicitors & Advocates(Bangalore)勤務。12年J. Sagar Associates(Gurgaon)勤務。

小野 洋一郎

弁護士
Yoichiro Ono

04年京都大学法学部卒業。05年弁護士登録(第二東京弁護士会)、大江橋法律事務所入所。09~10年株式会社三井住友銀行企業調査部勤務。12年Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)。12~13年Drew & Napier LLC(シンガポール)勤務。13年ニューヨーク州弁護士登録。16年より東京外国語大学国際社会学部非常勤講師。

逢見 昂平

弁護士
Kohei Omi

13年北海道大学法学部卒業。15年神戸大学法科大学院修了。17年弁護士登録(大阪弁護士会)、大江橋法律事務所入所。22年Cornell Law School卒業。22~23年AKD(Amsterdam)勤務。23年ニューヨーク州弁護士登録。23~24年DentonsHPRP(Jakarta)勤務。

『事業譲渡の実務〔第2版〕』

著 者:関口智弘・竹平征吾・細野真史・谷内元・山口拓郎・浦田悠一・髙田真司・山本龍太朗[著]
出版社:商事法務
価 格:5,720円(税込)

『火災保険の解説』

著 者:古笛恵子・嶋寺基・潘阿憲[編著]
出版社:保険毎日新聞社
価 格:4,400円(税込)