石川県能登地方を震源とする大地震から始まった2024年、賃金・物価の高騰に伴う競争法の運用の強化、アクティビストのさらなる活発化、自動車メーカーによる認証不正や製薬企業のサプリメントによる健康被害とその後の対応への批判など、各社の法務担当者にとって気が抜けない日々が続いたのではないだろうか。
そこで、X(旧Twitter)で企業法務の現場に身を置きながら意見を発信し、長年支持を得てきた「企業法務戦士」さん@k_houmu_sensi、「takano utena」さん@msut1076、「ちくわ」さん@gigakame、「經文緯武」さん@keibunibuの4名に、2024年を振り返ると同時に、2025年の法務について語り合っていただいた。
2024年の“法務”にまつわるトピック
企業法務戦士さん 2024年も終わりに差しかかっている時期でもありますので、まずは皆さんにとって最も印象に残っているトピックについてうかがいます。
經文緯武さん 価格転嫁に関する競争法の運用の強化です。正直なところ、発注者側から積極的な価格転嫁を求めるなど冗談だと思っていたら大真面目な話でしたし、法令に違反していなくても公表して“晒し者”にするというので、誰もが戦々恐々としていました。他社の法務の方に会うと「御社はどこまでやっていますか?」「弊社ではここまで……」といったことを、こそこそと話す場面が増えました。
ちくわさん 当社は製造業ですので、サプライヤーさんもかなり多く、この問題についてはかなりセンシティブに捉えています。その一方、“超大企業”と言われるようなところが報道で晒し者になったとしても、実際に自社が狙われるリスクはどれぐらいあるのかがわからず、見えないお化けと戦い続ける羽目になるのではないかと懸念しています。
対策に充てられるリソースは限られています。自社のビジネスモデルや業界構造を理解したうえで狙われるリスクを正しく把握し、適切なリソースを配分しておかないと、他の重要なところにリソースを割けなくなってしまいかねませんから。ただ、当社では調達サイドにも知見が蓄積されています。下請法をめぐる動きを見ていて、法務機能を全社的にどう配分していくかを検討することが難しい時期にきていると感じます。
企業法務戦士さん 下請法については、本社の法務部門ではなく現場サイドで見ている会社が多かったのではないでしょうか。チェックする項目もパターン化されているので、“型”がわかれば現場で判断できたところはあったと思うのですが、最近では実質的なところまで突っ込んで判断しないといけないところもあり、判断が難しくなっているのでしょう。
utenaさん 価格転嫁が適正になされているかを改めて調べることはなく、調達部門の監査であれば契約書や価格協議の記録、またそれが課税文書になっているかどうかといった従来どおりのことを見るのみではありますが、とはいえ、それは当社だけでなく企業グループ全体で気をつけるようにしています。また、フリーランス法の面では“フリーランス”という名目で契約を結んでいるものはなく、ほとんどが業務委託契約や委任契約に隠れているので、たとえば建設業での協力施工業者さん、特に“一人親方”との契約は気をつけなければなりませんし、さらに施工図を書いたり、Webサイトやカタログのデザインをしたりといった業務を、個人と契約を締結していることもあるので、この機会にきちんと洗い出そうと法務が動いていたと思います。
企業法務戦士さん 各社の話を聞いていると、現場はとにかく混乱していると感じます。フリーランス法に関して言うと、まず“取引相手がフリーランスか”ということが要件になってきますが、それをどのように確認するのかについては、会社間での温度差もあると思っています。「私はフリーランスではありません」と本人が言えばフリーランス法の対象外とすることもあり得ます。一方、客観的にフリーランスの要件を満たしているか、エビデンスをもって判断しようとしているところもあります。この動きがどうなるのかはまだわからず、混乱はしばらく続くでしょう。
アクティビスト対応、“同意なき買収”の浸透
企業法務戦士さん アクティビスト対応や“同意なき買収”の話題も多く上がりました。株主総会が盛り上がった会社もいくつかありましたし、“同意なき買収”の提案はかなりポピュラー化してきたと思います。
經文緯武さん アクティビストはもともと、彼らの好きな匂いがするところに集まってきていましたが、2024年は「こんなところに来たか!」という場面が多くありました。株式会社セブン&アイ・ホールディングスの買収提案などよい例で、上場していればどこが狙われてもおかしくないと感じています。
utenaさん 対象会社の経験から言うと、実際に自社が売買されたとき、売買の対象となったことはしかたがないとして、「我々をどうしたいのか」「何をしたいのか」という情報は、最後まで現場に下りてきませんでした。「親会社が変わる?」といった段階になってようやく現場も知らされるのが実情です。売買の当事者が出てくることもなく、終始弁護士や会計士のチームへの対応でした。
ちくわさん 当社は、“買う側”となることがほとんどです。担当レベルという立場からの観点で言うと、買収事案などは事業会社の中にいるとそれほどないので、法務でもノウハウを持っている人はかなり限られてくると思います。実際、私にはノウハウがあっても、下の世代にはノウハウがないといった状況です。そのうえで今後の事業戦略を考えていくと、買収事案は増えてくるのだろうと思っているのですが、ノウハウの基礎がないままにスキームが複雑化していくと、「法務部門としてどこまできちんと検討し、対応していけるのか」という懸念があります。法務で対応できないとなると、法律事務所に丸投げする方向になって、法務部門が空洞化してしまうのではないかと感じています。
企業法務戦士さん 限られた時間の中での対応になるので、「取引スキームの検討や契約書のドラフティングは外に任せたほうがよい」ということになることは多いと思います。社内の法務部門で担うとしたらDD(デューデリジェンス)で、それも時間がないからM&Aの教科書に書いてあるようなフルパッケージでは到底できない状況であることを踏まえ、必要最低限の資料を見て判断せざるを得ないことも多いでしょう。
utenaさん 私が対応したケースでは、DDは2回、だいたい3週間でした。DDはそのぐらいで回さなければなりません。ダメならダメで結論を早く出す、買うなら買うでやはり結論を早く出す必要があるので、DDで3週間を使って、残りの1週間で追加の質疑応答があるかないかです。DDが終了してから1か月もしないうちにファンドから「書き方がわからないから埋めてほしい」と公正取引委員会に届け出る企業結合関係の書類を渡されて「あぁ、決まったのか」と粛々と対応するというのが現実でした。
企業法務戦士さん アクティビストについては一過性の話のように思えるところもあります。今、暴れている人たちが来年(2025年)、再来年(2026年)まで潤沢な資金を持っていられるかはまったくわかりませんし、法規制の面でも、これまでの反動が来る可能性はあると思いますので。ただし、社会情勢を考慮すると、M&Aや事業再編自体が減ることは当面ないでしょうね。
生成AIをめぐる動きと現場の様子
企業法務戦士さん 生成AIに関する話題も2023年くらいから話が出始め、一部で持ち上げられることが多かったこともあり、法務の分野でも、法的な観点からの検討と業務への活用の両面からも、引き続き話題になることが多かったなという印象です。
經文緯武さん 私の感覚でいうと、2023年は生成AIに関して法務先行の理屈っぽい流れがあって、「著作権がどうだ」「情報セキュリティ上どうだ」という話がメインでした。それは今でも続いていますが、2024年になると法務だけではなく、さまざまな部署で「AIを導入しました!」という話になり、あちこちでなし崩し的にAIの利用が始まりました。そのため、著作権や情報セキュリティのことを理解しているかどうかはさておき、「始まってしまったからには対応しなければ」という流れになっていると感じます。法務は守りに対応しなければなりませんが、逆に積極的に「使ってしまおう」という動きもあります。先日、他社の法務の方の離任の挨拶で「生成AIに資料を作らせたのでそれで喋ります」と始まったことには驚きました。AIが特別なものではなく日常になってしまったので、目についたことに対応しています。
utenaさん 「AIはインプットする側がきちんとしていないと、ろくなものにならない」という感覚だけはトップも持っています。知財部門と話したときに、「技術者の育成が難しくなっていて、クレームを書いたり、クレームを書く指導などに心配があるのでAIを導入したい」といった意見が出ました。「知財部門にまず使い道があるかもしれない」と感じるぐらいです。あの独特のクレームの作法を教えるのは大変なので。
ちくわさん AIを活用して業務を効率化した後に「“それでは何をするのか”という絵を誰が描けるのか」「仮に描けたとしても描いたように対応できるレベルのスタッフがどれだけいるのか」という問題が現実的にあって、私はAIの法務部門の業務での活用は相当厳しいと思います。
企業法務戦士さん 私は2020年頃から言い続けていますが、そもそもAIだけでは法務の本来の仕事は効率化できないし、仮に効率化できるところがあったとしても、その先がないのです。抽象的な言葉として“戦略法務”などと言われますが、「それでは具体的に何をするの?」という話になると、空虚なものしか出てこなくて、結局何も変わらないか、ただのリストラになるという……。
經文緯武さん AIは、“法務組織の中の法務の人”のためのものではないと思います。法務でない人が法務っぽい仕事をするときにはよいのです。たとえば、「契約審査の際に法務にどう相談しようか」というときに、とりあえず法務に見せる原案を作りたくて「それっぽいものを作りたい」というときには使えるでしょう。逆に、法務の人間がきちんと見なければいけないようなときには、まだあまり役に立たないと思います。
ちくわさん 今、社内でも、“業務効率化”となると、みんなAIに飛びつくのです。でも、本質はおそらくAIとは異なるところにあって、たとえば“現場に権限を移譲する”という効率化もありますし、“書式をひな形やマニュアル化する”という効率化もあります。そのうえで、PDCAをどう回していくかを考えるべきでしょう。そういった本質を考えずに、いきなりAIに飛びつく傾向が非常に強い。社内を見ていて、AIに対して思考停止して一斉に飛びついているように思います。法務もみんな思考停止して「リーガルテックのカンファレンスで出たから使っておこう」と飛びついてしまうのではないかと不安に思ってしまいます。
繰り返される残念な不祥事対応
企業法務戦士さん 不祥事系のインシデントは2024年も多かった印象です。皆さんの印象に残っているものがあれば教えてください。
utenaさん 最も印象に残っているのは自動車メーカーの認証不正と、サプリメントによる健康被害に対する製造販売会社の初動です。これまでいろいろな例があるのに何だったのだろう、あの初動は……と思います。
經文緯武さん 健康被害の件に関しては、法務が関わったから逆によくなかったのではないかと見ています。民法の世界では立証責任があって、「明確に責任がないものについて対応するのはよくないのではないか」という発想だと、あのような対応になってしまいます。消費財の場合、厳格な民法っぽい考えよりは、もう少し柔軟に対応した方がよいのではないかと思います。製造業のリコールもそうでしょう。厳格に法的責任がある欠陥が立証された段階まで動かなかったら、もう遅すぎるのです。情報があったときに幅広に対応することができておらず、担当したのが法務なのか、弁護士なのかはわかりませんが、あのような対応ではこうなるはずだと思いました。
企業法務戦士さん もともと会社のオーナー独自の発想があって、それに法務が合わせようとしてあのようになったということではないでしょうか。ただ、あの会社の法務部門にはかなりの存在感がありましたし、ガバナンスに関しても取締役会に大物の社外役員が入っていましたので、「なぜあのような事態になったのだろう」という感情を抱いた方も多かったのではないかと思います。
ちくわさん 不祥事系の報告書を見ていると、よく言われるのは、法務に対する事業部からの信頼の欠如だったり、現場との連携不足だったりですが、その背景を深掘りして見ていくと、会社内の人事争いや政治的に作られたポストの奪い合いなど、ドロドロした現実的な世界があって、そういうところからガバナンスは機能していかなくなっていくのだろうな……と感じています。
utenaさん ひと昔前の暖房機器の製品リコールの事例で言うと、当事者企業の広報から聞いた話なのですが、「リコール対象製品を短期間で回収するには買い取りしかない」となって、現場から「原価や経年から考えて○万円で買い取ります」という案を出したら、グループの会長が「その金額ではユーザーは動かない」と言って買取価格を上乗せさせたことがあったそうです。理屈ではなく、コンシューマー相手の企業であれば、一般の人の心情のようなものを汲める人がいないとうまくいかないのではないかと思います。
ちくわさん 一般の人の心情を考えるとなると、法務はマーケットからとても遠いですよね。そう考えると、こういった不祥事事案が出たときに、「法務がリーダーシップをとるべきなのか?」と言われると、「よくわからない」というのが正直な気持ちです。
經文緯武さん 法務部門やコンプライアンス部門は、不祥事のときに火消しのリーダーシップをとることが期待されている部署だと思いますが、現実的には“とれない”と思います。騎馬戦の“脚”にはなれるのですが、自分で走る向きや速さを決める人ではないような気がするのです。トップが「やれ、対応しろ」と動けば法務もよい方向に動けますが、そうでなければまったく動けません。
utenaさん “懐刀”みたいになれればよいのです。トップに立たなくても。たとえば、社長が「もうやっぱり耐えられん。俺はこう説明するんだ」というようなときに必死に止める役目もあるわけです。
企業法務戦士さん 自動車メーカーの“不正”に関して言うと、私はメディアの取り上げ方も問題だったのではないかと思っています。「あれだけいろいろな会社で起きるということは、明らかに認証試験制度の側にも問題があったのだろう」と。豊田章男会長が会見で思い切って制度に言及した発言をしたことは、日頃からコンプライアンスに関わっている人たちの間ではすごく評判がよいのです。「うちでは無理だけど、あそこまで言えるのはあの人しかいない。よくぞ言ってくれた」という感じです。
“法務部門のあり方”とは
企業法務戦士さん このような状況の中、2024年は“法務部門のあり方”について議論される機会も多かったと感じています。夏には、NBLが3号連続で“覆面座談会”の企画を実施しました。2008年の座談会に出たメンバーが“16年後”に再会して今の状況を語り合うというインパクトのある企画だったのですが、そこには今、各企業の法務部門が置かれている切実な状況が克明に描かれていたように思います。また、ジュリストも1600号で“いま、法務に求められるもの”という座談会企画を行っています。非常に先進的な“法務”像を志向する内容ではありましたが、それに対するSNS上での賛否両論が、今、企業の法務部門が置かれている状況を如実に示しているのではないかと感じました。皆さんのご意見はいかがでしょうか。
ちくわさん 私より少し上の世代だと、不祥事対応をやりながらそれが評価されてきた人が出世している場合もあるので、その人たちの法務感はどうしても“そういう法務感”なのですが、今、求められている法務感は少し違っていて、“普通のビジネスパーソン”みたいなものなのです。そうすると、そこのギャップ感があるので、若手の育成を見ても、法務職人的な育て方はわかっても、“普通の部署”の新入社員として、つまり、「ビジネスパーソンとしてどう育てていったらよいのか?」といったノウハウはないように思います。
utenaさん 20年以上前になりますが、元の企業グループ内でマネージャー研修の社内講師を一時期やっていました。カリキュラム作成から関わりましたが、研修の一つのお題目は「フラットな組織でプロジェクトマネジメントも増えるので上意下達マネジメントが限界を迎える。その環境でバックボーンの違うメンバーのモチベーションをいかにアップしてパフォーマンスを上げていくか」というものと、もう一つ裏にあったのは「研究職の人をどうするか」でした。当時は“研究職35歳限界説”があって、「35歳前後で研究職としてその先が見込めない人をどう処遇するか」という問題がありました。営業はさすがに無理でも、事業企画や設計部門には異動させられるだろうと。でも、研究職は修士や博士の人なので、平社員ではなく課長や部長にせざるを得ない。とはいえ、研究職の人はずっと研究しかしておらず、人の面倒を見たことはないだろうから、いきなりその人の下にメンバーをつけることが心配で、対人マネジメントの研修を作ったのです。多分、法務でも30歳~35歳くらいのロースクール卒業生の方やインハウスの方で、「法務の能力としては申し分ないけれども、では3名でも5名でもメンバーを預かってすぐにマネージャーをやれるか」と言うと、そうではないという話があるでしょう。
ちくわさん その話、法務に置き換えたとき、すごくしっくりきます。おそらくキャリア志向の話だと思うのですが、「法務の人は、法務職人でなくビジネスパーソンであるべき」とみんな口では言うのです。ただ、実際は、他部門の人は「うちの製品をこうしたい」「製品を作るプロセスをこうしたい」と事業ベースの話をする人が多いのですが、法務の人だと「M&Aがやりたい」などテクニカルな話をしがちで、やりたいことと、会社のフィロソフィーや事業とリンクしていない人がすごく多い気がします。
經文緯武さん 私が法務に行くきっかけになったのが、ロースクール留学時のサマースクールでの話なのですが、ある自動車メーカーの人と3週間くらい同じ部屋になって、その人は法務人なのに、法律の話などしないで“自社の商品がいかによいか”という話をずっとするのです。バックオフィスにいる人が自社の商品について熱く語るなんて、とてもよい会社だなと思いました。
企業法務戦士さん 「どこをベースに社会人生活を始めた人が多いか」というところで、変わってきているのではないでしょうか。昔、特に“法務部門”というものが確立されていなかったときは“ビジネスパーソン”と言うか“会社員”と言うかはわかりませんが、いずれにせよ、誰もが“会社の一員”として仕事をしていた中で、「あえて“法務パーソン”というカテゴリーを作りにいこう」という話だったと思います。そして、それを作ろうとしたことには一つの時代的な意義があったと思うのですが、いざカテゴリーができて、最初からみんなそこに入ってくるようになると、今度は逆の現象が起きるのだろうと思っています。それがまさに今、起きているのではないかと感じます。
ちくわさん キャリアのスタートで、「こういうビジネスをやりたい」という意識で会社に入って、たまたま法務部に配属されたという人は、そういった勉強をしようといった発想になると思うのですが、今増えている有資格者がそこに興味を持つかというと、厳しい感じがしています。感覚的にですが、有資格者の人たちは、たとえば大企業だったら自分の大企業の同期と比較して「今、ビジネスパーソンとしてどうか」ではなく、ローファームの弁護士と比較して「自分はどんなスキルを持っているか」となりがちです。ただ、そこで意識を一段階変えるのは相当の労力が必要です。
“2025年の法務”の展望
企業法務戦士さん 最後に“2025年の法務”について、予測していること、期待することをお願いします。
utenaさん 特に若い人に向けてですが、視野狭窄にならないでもらいたいです。すぐは無理だろうけれど、社内のいろいろなセクションの目線を持てるようになってほしい、そういう試みを続けてほしいと思います。一方で、専門性を深めることも大切です。誰かから教わって身につくものではなく、自分で機会を求めていかないと難しいと思っています。
ちくわさん “仕事で解決する課題”というのはもう多分、法務の専門性軸だけでは解決できなくなってきているので、“俯瞰した目線”を持つべきということで、“普通の部署”に近づいてきています。とはいえ、ビジネス的な視点を持ったうえですべてを自分だけで実行する必要はなく、「他部署がどのような部署で、何をやっているのか」をきちんと理解して、そことしっかりコラボできるような能力が必要になってくる、要するに、自分たちの専門性だけでは解決できない課題が増えてくるだろうと思います。
企業法務戦士さん 私は2025年も“会社の中で法務を支える人たちが報われる年”になってほしいと願っていますが、「報われない」と感じている方が依然として多いのだとすると、「なぜ報われないと思うのか」というところをきちんと検証するところからやった方がよいのかもしれません。実際、現場を見てみると、契約書の基本的な審査等、「何でこんなことをやっているのだろうか……」という仕事も多いので、それを法務がそのままやり続けるのかどうか、ということから考えないといけないと思います。また、企業内法務に“会社の視点”ではない視点で動く人が増えてしまった結果、法律が変わるときの産業界からのアクションが弱くなっている、みんな“お利口さん”になってしまっている、という現象も起きている気がします。以前は「その法律を作ろうとする理屈はわかるが、業界として、会社としては絶対に受け入れられない」とガツンとやる人が必ずいました。それも企業内法務の大事なミッションの一つですが、最近はそれが薄れてきている気がします。
ちくわさん 私が所属する伝統的な日本企業の観点からですが、法務が組織化されてきた結果、ルーティンが確立されてしまい、必然的にお利口さんになってしまい、はみ出しにくくなってしまいます。でも、だからこそ、他の業界と関わる、たとえばITのスタートアップ業界で組織化されていないところでやっている人たちと話をすることで、言うなれば“お利口さんではない”法務の世界を知ることで、当局との関わり方など、これまでとは違った仕事のやり方にも触れていく必要があると思います。