リブランディングでAMTの特色を装いを新たに内外に発信
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、このたびブランドを大きく刷新した。人員は1,000名を超え、拠点は国内外に広がりを見せる。弁護士をはじめさまざまな専門職を擁する巨大な組織となり、成長を続ける同事務所は国籍や使用言語、経歴など非常に多彩なメンバーを擁する。これらの変遷に呼応し「“アンダーソン・毛利・友常法律事務所とは何か”というメッセージを内外に強く発する新ブランドを創設すべき」との機運が高まった。そのコアとなるパーパス&バリューズが策定され、2024年に新たな事務所ロゴマークが発表された。
「何より伝えたかったのは、依頼者の皆様に対しての新しいメッセージです。近年、大手事務所は人員を増員し、拠点を増やしてフルカバレッジを打ち出しています。この結果、クライアントからはどの事務所も似通って見えてしまい、特徴が見えにくくなっているのではないかという問題意識がありました」と語るのは、リブランディングの責任者を務めた金子圭子弁護士。背景には、「今一度“自分たちは一体何者なのか、他の事務所と比較した特色、強みは何か”を考え、明確にしたい」という所員の潜在的な思いがあったという。
“自分達は一体何者で、どういう価値感、目的意識をもって運営していくのか”といったパーパスやバリューについての検討をする際には、コンサルティングやブランディングの会社に協力を依頼することが一般的だが、同事務所はまずはメンバー自らで議論し、意見を集約していくことを選択した。「パーパスやバリューに関する講師を招聘して基礎を学んだうえで、弁護士、専門職、スタッフ、海外拠点のメンバーなどさまざまな人員に声をかけ、ワークショップ形式で自分たちが所属する事務所の価値や強みについて考えました。生の声を集約すると、どの職種であっても事務所の“核”となるイメージや価値感が共通していたことがわかりました」(金子弁護士)。
同事務所内における議論では、「困難な法的課題を解決する多様な専門性が事務所内に存在することに加え、ビジネスの成功を見据えた、実践的なソリューションを提供できることが自分たちの強みだ」という意見が多かったという。多様な個の結びつきは同事務所が長い歴史の中で大切にしてきた強みであり、柔軟かつ機動的に、複数の専門性を結集したチームアップができることは同事務所の魅力である。同事務所は、日本発のグローバル・ローファームとして、さらなる高みを目指し続けている。
時代の変化と共に歩むための新たなロゴマーク
長年使用されてきた事務所ロゴマークの改定も進められた。大きく“AMT”の頭文字が強調され、書体も以前の柔らかく洒脱なフォントから、力強く可読性の高いゴシック調のものが選定された。時代に合わせたデザイン性を有し、同事務所を象徴するブルーも明るい色に改められている。
「パーパスやバリューに関する議論で集約した我々の姿は、伝統を重んじつつも、常に変化する姿勢でいる組織です。新たな時代を象徴するロゴこそふさわしいと考えました」(金子弁護士)。
略称は“AMT”をベースに、サービス内容に応じ“AMT/Energy”“AMT/Sustainability”など、視覚的に各専門分野を表現することができる。急速に変化する社会環境と、複雑化・多様化するクライアントニーズに応えるため、法分野を超えた革新性・新規性・複雑性・難易度の高い法的課題にも今後ますます力を入れて取り組んでいくという。
今回のリブランディングを通して、同事務所がクライアントへ打ち出したメッセージは、“Your Partner for Innovative Challenges”、すなわち変わりゆく時代において“共に未来を創造していく”という揺るぎないパートナーシップだ。「私たちは単なる法的アドバイザーではなく、ビジネスを深く理解し、共に課題解決に取り組む、クライアントのビジネスパートナーでありたい。そのために、常に柔軟かつ機動的に、複数の専門性を結集したチームアップを行い、クライアントのビジネスの成功を見据えた最適なソリューションを提供していく。リブランディングは、そのような私たちの強い思いを改めて表明するものです」(金子弁護士)。
経済安全保障分野に実績 国内で先駆けて実務チームを組成
世界情勢の変動と技術革新の加速により、企業をとり巻く経済安全保障リスクはかつてないほど複雑化・深刻化している。同事務所はいち早くこれらのリスクに着目し、2018年から経済安全保障関連業務に本格的に取り組み始めた。そして2022年、国内法律事務所でいち早く専門家チームによる「経済安全保障・通商プラクティスグループ」を正式に発足させ、企業の経済安全保障対策を支援する体制を構築した。同グループは、複数の専門分野に精通した弁護士がチームを構成している。
「経済安全保障問題には複数の国の法律、国際法、経済学の知識を統合した多角的な視点と戦略が必要です。また、経済安全保障に関連する案件の多くは、関税、独占禁止、知的財産など、複数の法分野を横断します。当事務所では、WTO規制、経済安全保障法制、経済制裁、投資規制、知的財産、独占禁止法、米国法、欧州規制、中国法、ロシア法などに各法分野に精通した弁護士がチームを組み、ワンストップで法的サービスを提供しています。加えて、当事務所は20年以上にもわたりアンチダンピング案件の対応にも実績を築いてきました。近年中国政府による日本企業への調査が盛んになる中、調査対応へのアドバイスのための専門性と経験を有した弁護士を複数有しています」と語るのは、同グループの立ち上げメンバーである中川裕茂弁護士だ。
2024年、同事務所は経済安全保障・通商プラクティスグループの体制をさらに強化した。髙嵜直子弁護士が復帰し、鈴木潤弁護士が新たに加わった。また、大阪大学法学研究科の教授で経済産業省通商機構部国際法務室長を務めた経験を持つ清水茉莉弁護士も復帰し、顧問に就任。財務省に出向し、大臣官房企画官を兼務しつつ国際局投資企画審査室で実務経験を積んだ武士俣隆介弁護士が復帰した。豊富な政府機関経験とアカデミアの知見を持つ専門家の参画により、高度で専門的なサービス提供体制が強化された形となる。
「清水、髙嵜は以前当事務所に所属していた弁護士で、経産省に出向した国際通商のエキスパートであり、経済安全保障に関する国際的な動向や議論に精通しています。髙嵜は同省で安保輸出管理にも深く関わり、また、清水は同省で国際法務室長を務め、現在はアカデミアの立場からより複眼的な検討を行っています。鈴木は外務省で経済安全保障推進法や重要経済安保情報保護活用法など経済安保関連の法制定に関与しました。武士俣は出向前から経済安全保障分野を含む国際取引・通商法分野の業務に携わっており、財務省に出向中は国際局投資企画審査室で海外からの対内直接投資の審査業務を担当しました。外資系企業によるM&Aや合弁事業が安全保障に影響を与えるかどうかの審査を法律と経済の両面から行ってきたスペシャリストです。現状、外為法に関して国内で右に出る者はいないほどの知識と経験を有しています」(中川弁護士)。
さらに、増加と深化を遂げるクライアントの要望に対応するため、日々地政学や地経学を含む、国内外問わず通商・経済安全保障に精通する第一人者を招いた勉強会や、強力なパイプを活かした省庁への出向を通じて若手育成にも力を入れているという。
民間企業・外務省で得た知見を悩ましい政策対応の打開策に
2024年9月に入所した鈴木弁護士は、国内外の法律事務所で勤務したのち、ソニーグループ株式会社の法務部で経済安全保障部門の立ち上げメンバーとなり、外務省総合外交政策局経済安全保障政策室で課長補佐を務めた経験を持つ。
ソニーグループではトランプ政権発足以降の米中対立激化に伴い、経済安全保障の重要性が増す中、ソニーの米国法人であるソニー・コーポレーション・オブ・アメリカに短期赴任し、強化されつつある米国における対内直接投資規制等の、経済安全保障関連法制の調査・分析を担当。帰国後には、本社にて増加の一途を辿る各国の経済安全保障法制などに対応するための社内体制構築に尽力した。民間企業で経済安全保障分野に携わった経験は、その後外務省に入省してからも大いに活きたという。
「検討中の政策や法制度について、企業の視点からはどのように受け止められるか、どのように改善すべきか等も含め上長や関係課室の担当者に意見を伝え、積極的に議論をしてきました」(鈴木弁護士)。
外務省で経済安全保障に関する国内法制度の整備や運用にかかる体制構築、審査などを担当してきた経験は、現在は民間企業の経済安全保障に関連する体制構築や対応に還元されている。
「“安全保障”という事柄の性質上、政府の経済安全保障政策にはどうしてもオープンにできない事項があります。このため、企業が法制度に対応し、社内体制を構築するうえで不明点やあいまいな点が残らざるをえません。こうした機微な事項そのものを明かすことはできませんが、政府の考え方も踏まえ、ご相談いただいた案件に即した現実的な対応をご提案したいと考えています」(鈴木弁護士)。
セキュリティ・クリアランス制度について定め、2024年に成立した重要経済安保情報保護活用法への対応も企業の関心が高いが、制度運用は未確定な部分が多い。
「セキュリティ・クリアランスを取得することのメリット・デメリット、取得にあたって整備すべき環境など、多くの問い合わせをいただいています。外務省在籍時、私は国家安全保障局とも密に連携しながらこの法律を担当しており、成り立ちに通じていますので、今後の制度運用の予測も含めてお伝えしたいと思っています」(鈴木弁護士)。
あいまいな点を残す経済安保政策に相場観の提供と打開策の提案を
髙嵜弁護士は企業のアジア新興国市場への進出支援等の国際取引法務に携わったのちに、2016年から経産省に出向。通商政策局通商機構部で米国による関税措置を含む通商措置への対応、日本の輸出管理強化や投資規制強化の国際協定整合性の検討、その他経済安保に関する政策企画・執行に携わった。
「トランプ政権発足下での米国の関税引上げやその他の措置に関して分析し、通商交渉にも携わりました。その後、輸出管理や投資管理など、国内の経済安全保障分野の制度設計に関する業務が増え、サプライチェーンを強靭化するための支援策の検討などにも関与しています」(髙嵜弁護士)。
髙嵜弁護士が出向した8年間で企業における経済安全保障分野の関心は格段に増した。
「当初は中国企業との公正な競争の確保が主要論点でしたが、米国の輸出管理強化や投資管理強化、中国の対抗措置などにより、米中対立での日本企業の板挟みが問題になりました。その後ロシアの侵攻やコロナ禍によるサプライチェーンの途絶への対応、先端技術の開発支援や、技術流出防止と議論の幅が広がりました。2022年には国家安全保障戦略に経済安全保障の項目が盛り込まれたことはインパクトが大きい出来事でした。経済安全保障に関する政策は国際連携が多く、法務面からも国境横断的な議論を追うことが必要です」(髙嵜弁護士)。
制度の整備は進むものの、法律や制度のガイドラインのみでは企業が対応に苦慮するものが多い。
「政府の経済安全保障政策への対応は何をどの程度求められるのか、たとえば“何を実施すれば要件を満たすのか”という相場観があいまいな点も多いです。政策の背後にある政府の問題意識や制度の枠組みの背景を我々が補うことで企業の適切な対応や体制構築のお手伝いができればと考えています」(髙嵜弁護士)。
※ 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用しています。
弁護士
Keiko Kaneko
99年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。23年アンダーソン・毛利・友常法律事務所マネジメント・コミッティ議長就任。株式会社ファーストリテイリング社外監査役。株式会社ユニクロ監査役。株式会社朝日新聞社社外監査役。株式会社ダイフク社外取締役。
弁護士
Hiroshige Nakagawa
98年弁護士登録(第二東京弁護士会)、02年米国the University of Illinois at Urbana-Champaign修了(LL.M.)。02年から03年までシンガポール及び中国において勤務。04年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。07~16年北京オフィス首席代表。中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)仲裁人。
弁護士
Naoko Takasaki
07年弁護士登録(第一東京弁護士会)。08年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。11年インドネシアSoewito Suhardiman Eddymurthy Kardono(SSEK)法律事務所勤務。12年米国Stanford Law School修了(LL.M.)。12~13年シンガポールWongPartnership法律事務所勤務。16~24年経済産業省通商政策局通商機構部国際経済紛争対策室・国際法務室勤務。
弁護士
Jun Suzuki
09年弁護士登録(第一東京弁護士会)、岡田春夫綜合法律事務所入所。15年The George Washington University Law School修了(LL.M.)。15~16年米国Pillsbury Winthrop Shaw Pittman法律事務所勤務。17年ニューヨーク州弁護士登録。16~22年ソニーグループ株式会社法務部勤務。22~24年外務省総合外交政策局経済安全保障政策室勤務。24年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。
弁護士
Mari Shimizu
07年弁護士登録(第一東京弁護士会)、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。12年米国New York University School of Law(LL.M.)修了。12~13年大手総合商社法務部出向。14~24年経済産業省通商機構部国際経済紛争対策室・国際法務室。22~24年國學院大學法学部非常勤講師。24年大阪大学法学研究科教授、東京大学公共政策大学院客員准教授。
弁護士
Ryusuke Bushimata
14年弁護士登録(東京弁護士会)、ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)入所。15年統合によりアンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。20年英国London School of Economics and Political Science(LL.M.)修了。22~ 24年財務省大臣官房企画官兼国際局投資企画審査室。
著 者:アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業[著]
出 版:アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
価 格:3,400円(税込)
著 者:アンダーソン・毛利・友常法律事務所経済安全保障・通商プラクティスグループ[編]、新城友哉・松本拓・武士俣隆介[編著]
出版社:中央経済社
価 格:4,400円(税込)
著 者:中崎尚[著]
出版社:商事法務
価 格:5,280円(税込)