カスタムメイドのアドバイスでコンプライアンスの視点を伝える
「リーマン・ショックや東日本大震災、新型コロナ禍など、2003年の事務所設立以降、法律事務所のあり方に影響を与える出来事が多くありましたが、これらの波にも対応しながら着実に成長を続け、創立20周年を迎えました。この節目となる2023年初めには中国法務で日本の先駆的な存在である曾我法律事務所と業務統合し、次の20年に向けて幸先のよいスタートを切ることができました。同事務所との業務統合によって、中国をはじめ東南アジアにおける国際法務に厚みを増すことができ、狙いどおりのシナジーを生んでいます。設立以来の方針である、“クライアントが直面する多様な法律問題に対応できる専門家の養成”“国際法務の重視”“クライアントのニーズに合ったカスタムメイドのアドバイスの提供”という初心に立ち返りながら、クライアントとともに発展していきたいと考えています」。栗林康幸弁護士は、シティユーワ法律事務所のこれまでを振り返りつつも、常に先を見据える。
「AIをめぐる動きなど、これまでにはなかった新たな課題が次々と生まれるだけでなく、M&Aのような一見従来からある種類の案件においても、会社と株主との関係は複雑化しています。時代の変化に対応し、新しいことにも挑戦していかなければなりません。これまで幸いにも多彩な人材が多く集まり、若手弁護士もM&Aや事業再生、コーポレート・ガバナンス、訴訟・紛争、金融などの各分野で、それぞれ専門性に磨きをかけ、クライアントのニーズに柔軟に応えていくことができるよう努力しています」(栗林弁護士)。世の中の流れである働き方に対する意識の変化に合わせて、よりよい勤務環境を整備するための改善も続けている。女性弁護士のキャリアパスの選択肢を増やすなど、事務所として弁護士の多様な働き方を支援し、育児休暇を取得する男性弁護士も見られるようになったという。
「企業法務に携わる弁護士としての重要な役割の一つに、“クライアントに対して日頃からコンプライアンスの視点を伝える”という働きがあり、クライアントと弁護士がそのような関係性を構築することは互いにとって有益だと思います。弁護士には大怪我をしたときに手術を担当する“外科医”の役割だけではなく、平時から体調に気を配る“かかりつけ医”のような役割があることも見過ごすことはできません。最近、当事務所の弁護士が大規模な企業不祥事をめぐる調査委員会のメンバーとして当該会社のあるべき姿を積極的に提言することにより、コンプライアンス事案へのより踏み込んだ対応のあり方を示すことができたという案件がありました。ただ、企業不祥事の原因は往々にして企業風土にも関わるなど根深く、不祥事が発生した際に再発防止策を策定するといった短期的な対応だけでは“真の解決”とは言いがたい場合もあるでしょう。不祥事の原因として社風や企業風土が影響しているのだとして、それを変える必要があるとしても長い時間と地道な努力が求められるはずです。弁護士としてクライアントとともにそのような過程に関与していくことは社会にとっての意義もあり、やりがいもあると思います」(栗林弁護士)。そのためにも、専門性を磨き、コロナ禍で希薄になりつつあった世界各国の提携法律事務所との交流にも再度力を入れることで国際法務への対応をより厚くする。試行錯誤しながらも、事務所の方針はぶれることなく、常に先に向かって走り続ける。
“単なる情報提供”に価値はなくクライアントのビジネスに有用な知恵を提供する
「クライアントが求めているのは、“特定の法的問題に対する答え”ではなく、直面する具体的な“課題の解決”です。業務はさまざまで、案件ごとに必要となる知識・知見やアプローチは異なりますが、リスクを指摘するだけでなく、“どのようにすればリスクを軽減してビジネスにつなげることができるか”というより踏み込んだアドバイスが重要です。これを常に念頭に置き、クライアントに寄り添ったサービスを提供できるよう心がけています」。藤田直佑弁護士は、2021年4月から同事務所に参画した。一般企業法務から契約法務、国内企業のM&A、組織再編、資金調達、ガバナンス、コンプライアンスなど幅広く携わり、中でもM&Aでは上場企業・非上場企業を問わず年間で数十件の案件に関与するという。
「上場企業であれば法務に精通している人員が多く、問われることも情報開示や市場への影響をも意識したものになります。一方、スタートアップや上場準備会社などでは社内における法務のリソースが相対的に少なく、また、ビジネスを軌道に乗せることに重きを置いたアドバイスが求められる傾向にあります。気を利かせるべき部分が異なり、それぞれに難しさがあります。共通するのは、単に情報を提供するだけでなく、プラスアルファとなる有用な知恵まで提供できなければならないことです。情報を得やすくなっている中で、あえて外部の専門家に相談するからには、通り一遍のアドバイスを提供しているだけでは満足してもらえません。
自身のキャリアの特徴として、複数の上場準備会社へのサポート経験に加えて、証券会社の上場アドバイザリー部門への出向を経験し、実務担当者が苦労するところ、監査法人や証券会社といった関係者とのやり取りなどを間近で見てきたことから、IPOを目指すスタートアップ等に対しても、寄り添ったアドバイスができます」(藤田弁護士)。
藤田弁護士は中国での実務経験も有し、インバウンド・アウトバウンド投資やクロスボーダー取引も手がける。
「日本企業による対中投資が活発であった頃から、現在の状況に変化していく過程を現地に駐在しながら肌で感じてきました。サプライチェーンの見直し、現地法人の再編・統合などに加え、撤退する企業も少なくありませんでした。設立から数年後の撤退まで携わったこともあります。自身の実務経験、当事務所が構築してきた現地法律事務所との連携体制に加え、曾我法律事務所との統合によって、中国をはじめとするアジア法務のサービス提供体制が整っています。
いまや情報提供だけで価値になる時代は終わり、これを超えた“付加価値をどれだけ与えられるか”が重要になっている中で、法的問題だけでなくクライアントが直面しているビジネス上のその他の課題にまで目配りしつつ、“いかにビジネスにおける選択に資する知恵を提供できるか”という点を常に意識しています」(藤田弁護士)。
クライアントの代理人としてすべての関係者が納得できる解決策を
「事業再生・倒産の場面において、さまざまなプレイヤーが複雑に絡み合いますが、最も企業の力になれるのは弁護士です。経営コンサルタントはいくつかの案を提示することはできますが、弁護士であれば企業の代理人として、利害関係者との協議・調整や契約交渉など、より実行力を持ってクライアントを支えることができます。どれだけ困難な局面であっても、決して諦めることのない粘り強い対応で、クライアントだけでなくすべての関係者にとってよりよい解決の実現を目指しています」。渋谷洋平弁護士は、経営コンサルタントとしての経歴を有する。クライアントを取り巻く業界環境・経済環境なども踏まえたうえで、的確なサポートを行う。
「事業再生・倒産分野では、債務者サイド、債権者サイド、スポンサーサイドなど、さまざまなクライアントの立場から、大規模なものから小規模な事案まで多数の案件に携わってきました。また、民事再生や破産、特別清算手続など法的整理手続のほか、純粋私的整理、中小企業再生支援協議会を活用した私的整理手続などさまざまな経験を積み重ねてきています。前職で経営コンサルタントを経験したことで、法務だけでなく、ビジネス・会計・税務なども含む多角的な視点を身につけました。経営コンサルタントとしての経験は、現在の弁護士業務にも大いに役に立っています。以前、破産することになった企業の管財人代理に就いた際、破産なので当初は資産の売却や従業員の解雇を進める方針だったのですが、途中から事業再生の可能性が見えてきたため、民事再生に手続を切り替えたことがありました。その企業は、見事に再生し、今でも事業を継続しています。破産から民事再生への転換は東京地裁でも大変珍しい事例だったと聞いています。大きな達成感を得られましたし、事業再生のやりがいにもなっています」(渋谷弁護士)。
訴訟・紛争解決も手がけ、不動産関連紛争、会社紛争、行政関連紛争、インターネット・SNS関連紛争など、多様な事件の経験を有する渋谷弁護士。一つひとつの紛争に真摯に向き合い、多角的な視点に基づき、紛争の核心部分がどこにあるのかを常に意識しながら、クライアントのビジネスにとって最適な紛争解決を図る。
「訴訟や紛争にまで発展した際、どうすれば裁判所で主張が認められるか、自分自身でその判断ができなければ、事業再生・倒産の場面においても適切な判断ができないと考えています。また、訴訟や紛争の場面を数多く目の当たりにした経験から、“そうなってしまう契機がどこにあるのか”に気づくことができ、紛争の芽を早めに摘み取ることができています。クライアントには何の問題もなかったとしても、取引先が倒産してしまうといったこともあるでしょう。そのようなときに備え、事前に予防的なアドバイスをしています。その一方で、設立間もないスタートアップ企業や合弁による新たな企業の立ち上げもサポートしています。初めは小さかったビジネスがだんだんと大きくなっていく様子を併走しながら見ていくことは、事業再生とはまた異なるやりがいを感じます。ビジネスが発展していくことはクライアントにとってよいことですし、日本経済にとっても歓迎すべきことです。我々も一緒に成長させていただいています。クライアントにアドバイスを行う際には、クライアントの事業内容やビジネスリスクを十分に理解したうえで、クライアントのビジネスにとって最適な対応策を提案するよう心がけています」(渋谷弁護士)。
法令だけでなくソフト・ローの動きまで把握し時代の潮流を捉える
「上場企業だけでなく非上場企業のM&Aを数多く手がける中で、後継者不足に起因する事業承継の事例は今後も増加していくと考えています。複雑なM&A契約への深い知見をベースに、売主・買主双方が妥結できる着地点をいかに適切かつ迅速に提示できるかを重視し、クライアントにアドバイスを提供しています」。谷岡孝昭弁護士は、M&A案件に加え、株主総会対応や適時開示対応といった会社法・金商法を中心とするコーポレート・ガバナンスを専門とする。
「これまで、上場企業の株式を取引対象とするM&A事例を数多く取り扱ってきました。特に、非公開化を前提とするTOBを中心に、2019年6月に経済産業省が「公正なM&Aの在り方に関する指針」を公表して以降、それ以前と比較して実務が大きく進展し、対象会社側での特別委員会の運営などをはじめ、公正性担保措置のあり方について深い知識と経験が必要になってきたと認識しています。さらに、2023年8月に経済産業省が「企業買収における行動指針」を新たに公表し、独立当事者間で検討されるM&Aを中心に重要なソフト・ローとして機能することが想定されています。このように、引き続き上場会社の案件では、関係法令だけでなく、関係指針への深い理解が重要となってきます」(谷岡弁護士)。
コーポレート・ガバナンスの分野においても、会社法の2019年改正を経て、株主総会資料の電子提供措置、取締役報酬の方針決定など、実務的にも大きな進展が見られたという。「近年では、海外投資家を含め、積極的に意見や要求を述べる株主が増加傾向にあります。買収防衛策の廃止を求める声も耳にします。ある日突然、見たことも聞いたこともない海外投資ファンドが株を保有しているなど、驚くこともあるでしょう。株主総会も、いわゆる“しゃんしゃん総会”では済まされない事態に直面するクライアントも増えてきています。これまで、通常の株主総会から、有事ともいえるような積極的な株主が参加する株主総会まで経験してきました。そのようなとき、株主による活発な発言を回避することは難しく、寄せられるであろうありとあらゆる発言を想定し、そのときのための準備をしておくことが重要です。また、上場企業であれば、株主に対する適切なIR活動、“株主との対話”が求められます。各業種のリーディングカンパニーと呼ばれるような企業は取組みも進んでいますが、上場企業であっても効果的な情報発信が十分実現できていない企業も多いと思います。今後も、法令などの改正だけでなく、近年の株式市場の動向を適切に把握・理解したうえで、時代の潮流を捉えたアドバイスができることが重要と考え、知識と経験のアップデートに邁進しています」(谷岡弁護士)。
栗林 康幸
弁護士
Yasuyuki Kuribayashi
パートナー。大阪大学法学部卒業。92年弁護士登録。96年ペンシルバニア大学ロースクール卒業(LL.M.)。97年ニューヨーク州弁護士登録。クデール・ブラザーズ法律事務所ニューヨーク事務所および東京事務所等を経て現職。東京弁護士会所属。
藤田 直佑
弁護士
Naosuke Fujita
パートナー。東京大学法学部卒業。首都大学東京法科大学院修了。上海交通大学国際教育学院修了。09年弁護士登録。国内の有力事務所等を経て現職。東京弁護士会所属。
渋谷 洋平
弁護士
Yohei Shibuya
パートナー。中央大学法学部卒業。一橋大学法科大学院修了。12年弁護士登録。13年~シティユーワ法律事務所。東京弁護士会所属。
谷岡 孝昭
弁護士
Takaaki Tanioka
パートナー。東京大学法学部卒業。東京大学法科大学院修了。12年弁護士登録。13年~シティユーワ法律事務所。東京弁護士会所属。
著 者:田中和明[監著]、伊庭潔・後藤出[編著]、笹川豪介・杉山苑子・田村直史・辻内喬之・豊田将之[著]
出版社:日本加除出版株式会社
価 格:1,980円(税込)
著 者:南敏文[編著]、木村三男・青木惺[著]
出版社:日本加除出版株式会社
価 格:4,840円(税込)
著 者:永岡秀一・奥原靖裕[著]
出版社:税務経理協会
価 格:2,640円(税込)