株式報酬制度やデータ事業で風穴 “Going Extra Mile”を実践
2016年8月に山下聖志弁護士がたった一人で立ち上げた山下総合法律事務所は、わずか6年という短い年月の間に、弁護士16名・外国弁護士1名、秘書スタッフ8名という陣容にまで成長した。
この成長の源泉となったのが、クライアントに寄り添う“Going Extra Mile(もう一マイル一緒に行く)”というポリシーの実践と創造的な価値の構築であった。
「私たちは新しい事務所なので、既存の大手法律事務所や名門法律事務所に伍していくためには、伝統的な企業法務のみならず、鋭い風穴をあける新分野を切り開かなければなりません。実際、株式報酬制度やデータ事業で新たな価値を生む案件を手がけています」(山下弁護士)。
スタートアップ支援における画期的な試みを無料公開
この“Going Extra Mile”の実践を証明する事例が、株式会社メルカリにおける日米全社員への譲渡制限株式ユニット(RSU)導入から、Nstock株式会社主導のスタートアップ公開支援への一連の法的支援である。
株式会社メルカリの事例では、日米双方の法規制を同時に満たす一元的な手続を整備するのみならず、米国子会社への説得も含め、クライアントと試行錯誤しながら一緒に導入を進めていった。この時に“伴走”した担当者から「ぜひご一緒してほしい」と申し出を受けたのが、スタートアップのための「税制適格ストックオプション契約書ひな型キットKIQS(キックス)」。“株式報酬と金融でスタートアップのエコシステムを強くする”というビジョンを掲げるNstock株式会社が無償公開するこの画期的な試みについて、山下弁護士は「“株式報酬といえば山下総合”とお声がけをいただきました。メルカリ様での私たちのサポート姿勢とスピード感が評価され、さらなるスタートアップ支援へと広がり、光栄でした」と語る。
このKIQS制作のサポートを山下弁護士とともに担当したのが、桑原広太郎弁護士だ。桑原弁護士は、「ストックオプションの新しいスタンダードを創ることに貢献したい」という思いでこのプロジェクトに参画した。
桑原弁護士は、従来のスタンダードを改めて“疑う”ことから作業を始めた。なぜ、そうなっているのか、理論的に納得がいくまで所内での検討を重ねたという。「何を調べてもはっきりしない論点もあり、それは法学的にも実務的にも明確なコンセンサスがない部分です。そこを法的な安定性を担保しつつ改善策を提示するのが難題、かつ、やりがいがありました。ある意味で社会を変えていく仕事だと思います」(桑原弁護士)。
この貴重なひな形を無償で提供する理由には、“苦労して働いた人が報われる仕組みを提供する”という理念があるという。“人を大切にする会社というカルチャーを広めていきたい”という思いは、桑原弁護士の“社会を変えていく仕事”に通じるであろう。
オルタナティブデータ活用で創造的な価値構築を
創造的な分野での旗振り役として活躍するのが、RSの新たなスキームを考案したことでも知られる小澤拓弁護士だ。小澤弁護士は、現在、オルタナティブデータのベストプラクティスの構築に尽力している。「POSデータ、衛星写真、位置情報などは、実は投資の判断材料に活用できます。例えば、政府や公的機関の統計を待つよりもPOSデータを活用すれば早く消費動向を把握できるようになってきていると言われていますし、ある小売店舗への入店者の位置情報を集計すれば、その小売会社の決算公表よりも先に売上が予測できる可能性もあります。こうしたデータが機関投資家を中心に注目を浴びています」(小澤弁護士)。
ところが、欧米に比べ、日本ではオルタナティブデータの普及は進んでいないと言われている。「既存の金融規制はオルタナティブデータを想定しておらず、その利用を妨げている可能性もあるのではないか」というのが、小澤弁護士の懸念だ。小澤弁護士は、業規制の内容と運用の不明確性が国内機関投資家と海外機関投資家との間で不公平な格差を生み出しているのではないかと疑い、この不公平をいかに解消するかに思考を紡ぐ。
「国内機関投資家の背後にいる多くは国内の個人投資家だと思います。国内資本市場で国内機関投資家が海外機関投資家よりも不利な状況に置かれているとなると、国民一般の資産形成にも負の影響があるのではないかと懸念しています。日本でも公平なオルタナティブデータの利用が広がるよう、弁護士として“あるべき解釈”を提示しつつ、金融当局にも働きかけていきたいと思います」(小澤弁護士)。
大手上場会社グループ金融機関への出向経験を持つ小林永治弁護士は、金融機関を主な対象としてオルタナティブデータ提供取引における価値創造を進めている。「近年、銀行も、顧客の同意のもとで顧客情報の第三者提供等ができるよう、法改正が行われました。どうしても判断が保守的になりがちな業界ゆえ、その活用は積極的には進んでいないように思いますが、保有する情報の取得や活用について、法的に問題がないことを解きほぐせば、不必要な躊躇をなくして利活用が促進されると思います。その結果、新たなビジネスの創造の一助となることが今後の目標です」(小林弁護士)。
また、小林弁護士は、同事務所が特別会員として参画し、協会内の委員会のアドバイザーも務める一般社団法人金融データ活用推進協会を活動の場として、銀行の情報活用促進を進めていくことを考えているという。
頼もしい若手弁護士らの活躍もめざましい、設立7年目を迎える山下総合法律事務所は、さらなる成長を通じて日本企業の変革をサポートしていく。
山下 聖志
弁護士
Seiji Yamashita
98年東京大学法学部卒業。02年弁護士登録(東京弁護士会)、柳田国際法律事務所入所。05〜07年国内大手証券会社法務部門出向。10年米国ミシガン大学ロースクール卒業(LL.M.)。11年ニューヨーク州弁護士登録。12年柳田国際法律事務所パートナー就任。16年山下総合法律事務所設立。現在、同代表パートナー弁護士。
小林 永治
弁護士
Eiji Kobayashi
06年中央大学法学部卒業。08年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。09年弁護士登録(第一東京弁護士会)、新八重洲法律事務所入所。14~16年大手上場会社グループ金融機関(銀行)出向。19年山下総合法律事務所入所。
小澤 拓
弁護士
Hiraku Kozawa
09年京都大学法学部卒業。11年京都大学法科大学院修了。12年弁護士登録(東京弁護士会)。13年柳田国際法律事務所入所。14~17年国内大手証券会社自己投資部門等出向。17年山下総合法律事務所入所。22年ミシガン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
桑原 広太郎
弁護士
Kotaro Kuwabara
17年東京大学法学部卒業。18年東京大学法科大学院中退。19年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。22年山下総合法律事務所入所。