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2001年に設立された日本組織内弁護士協会(Japan In-House Lawyers Association;JILA)は2021年に設立20周年を迎えた。
企業においては、グローバル化や法務の専門性の高まり、コーポレートガバナンス・コードの導入などを経て、インハウスロイヤーへの役割とその期待は日々高まっている。いまインハウスロイヤーが果たすべき役割とは何か。JILAの理事長を務める榊原美紀弁護士、副理事長を務める平泉真理弁護士に、レクシスネクシス・ジャパン株式会社代表取締役社長斉藤太がお話を伺った。

インハウスの存在を組織改革のきっかけに

斉藤 インハウスロイヤーの存在がこの10年で大変身近になりましたね。

JILA理事長 榊原 美紀 弁護士

榊原弁護士 JILAが発足した2001年は66名程度だった企業内弁護士数が、2021年6月には2,820名に増加しました。司法制度改革で合格者が増え、弁護士が身近になった側面もあるでしょうし、コーポレートガバナンス・コードなどをきっかけに、経営者が自社のリスク管理体制に危機意識をもったことも大きな要因でしょう。特にゼネラルカウンセルとしてインハウスロイヤーを迎える場合は、経営者の改革への強い意志がある場合が多いと思います。

平泉弁護士 日本では、インハウスロイヤーは、まず外資企業で普及しました。JILAでは、ちょうど20年前の2001年から、「企業内弁護士を多く抱える企業上位20社」注1というデータをまとめてきましたが、2001年9月のデータによると、そのトップ5はすべて外資系企業でした。当時の企業内弁護士数は、1位のメリルリンチ証券が8名、2位はゴールドマンサックス証券、日本IBM、モルガン・スタンレー証券であり、いずれも6名でした。それが2021年6月のデータでは、ヤフーの42名を筆頭に、三井住友信託銀行、野村證券と続き、日系企業が上位に来ていますし、上位20社すべての企業内弁護士数は二桁です。それに、2020年現在、東京の三つの弁護士会においては、企業内弁護士が既に会員の1割以上を占めています。隔世の感がありますね。

斉藤 インハウスロイヤーが在籍することは企業の大きな変革につながるのでしょうか。

榊原弁護士 私がインハウスロイヤーになった当時は、まだまだインハウスロイヤーは珍しい存在でした。雇い主から「どう処遇すべきか」と質問されたりもしました。今でも初めて弁護士を雇用する企業では、同様の状況ではないでしょうか。社内にロールモデルがおらず、悩ましい点かもしれません。ですが、インハウスロイヤーは新しい変革を起こしやすい立場にいると思います。私の場合は女性なのでダイバーシティの後押しもありましたが、有資格者であれば、新しい取り組みとして社内でいろいろな提案をしやすい面もあるでしょう。よい前例が作れれば後が続きます。変革への突破口になりやすい人材だともいえますね。

平泉弁護士 インハウスロイヤーが担当する役割も広がっています。特に注目すべきは、インハウスロイヤーが、ロビイング活動に携わる例が増えてきたことです。時代の変化に伴い、新たなビジネスアイデアが生まれるにしたがって、既存のルールや枠組みが新規ビジネスの障壁となることがあります。それを取り除くために、インハウスロイヤーを中心としたチームが、監督官庁などに積極的にアプローチして、規制緩和を実現する例も出てきています。弁護士は法律の解釈について研鑽を積んでいますから、監督官庁との交渉に向いているのではないでしょうか。

専門化・多様化するインハウスのキャリア

斉藤 企業において法務がカバーすべき職域が多くなっています。まだまだインハウスロイヤーの活躍の場は広がるのでしょうか。

榊原弁護士 以前は“インハウスロイヤー”といえば、純粋に法律についての回答をするだけのイメージがあったと思います。いま企業内で弁護士が対応すべき業務内容と比較すると隔世の感がありますね。チャレンジする意欲のある方には選択肢が多い状況だと思います。企業内でカバーすべき分野の拡大に合わせ、インハウスロイヤーの数は右肩上がりで増加しています。また、官公庁に出向する弁護士もJILAに入会しており、こちらも増加傾向にあります。ほかにも先端領域やSDGs、リスクマネジメントなど新たにキャッチアップすべき知見はどんどん広がっています。弁護士は基本的に勉強好きの方が多いので業務分野の広がりは歓迎すべき点ではないでしょうか。ロースクールの学生に講義する際にはこんなにおもしろい仕事はないと説明しています。

JILA副理事長 平泉 真理 弁護士

平泉弁護士 まったく同感です。インハウスロイヤーが所属する部署は、法務だけではなく、コンプライアンス、知的財産、リスクマネジメント、内部監査など、多岐にわたります。また、先程申し上げたロビイング活動などのほかにも、経営戦略、事業開発に関わるなど、インハウスロイヤーが活躍できる分野がどんどん広がっています。

斉藤 経営トップの意識も変わってきたということでしょうか。

榊原弁護士 変わってきたと思います。その背景としては、コーポレートガバナンス・コードや非財務情報開示が求められるなどのグローバルな流れと、それを受けた日本社会一般に対する影響は大きいでしょう。経営者が投資家に説明を行う際に、ガバナンスを無視することができない時代です。
せっかく、経営トップがガバナンスなどに興味を持ち始めたのですから、その期待を裏切らないように、インハウスロイヤーが難解な内容を分かりやすく経営陣に伝える工夫をすることが必要ですね。人はなじみのない話題について、どうしても避ける傾向があります。関心を持ってもらえるように、嚙み砕いて説明しなければなりません。その点はガバメントアフェアーズ業務などのロビイングのスキルを活かせるのではないでしょうか。

斉藤 どの企業にも共通するコンプライアンスチェック、不祥事対応の業務についてはいかがでしょうか。

平泉弁護士 不祥事によっては、法務にその情報が入ってさえいれば、大惨事には至らなかったという例もあると思います。不適切な行為が巧妙に隠蔽されるというケースもあるでしょうが、そもそも、社員に、ある行為が不適切であるという認識自体がなかった、という場合もあるかもしれません。普段から法務とビジネスが密に連絡をとっていれば、早い段階で隠れたリスクに気付くことができますし、現場にも、気になることがあれば、気軽に法務に相談してみようという発想が生まれます。そして、そういった情報に基づいて、早期に是正措置や防止措置を講じることができ、リスクを最小化できます。

榊原弁護士 不祥事を起こさない仕組みを作るため、内部監査と内部統制部門にインハウスロイヤーが配置される事例も増えてきましたね。社内事情に精通することが必要な業務ですが、不正ができない仕組み作りは法務の業務に非常に近しいのでインハウスは適任かと思います。例えば、“今の仕組みでは循環取引ができてしまう場合に、社内の仕組みを改善する”というような場合ですね。

平泉弁護士 法務と社内クライアントの連携を密にする工夫も必要ですね。社内クライアントとの1 on 1 を設定したり、ビジネス部門の定例会議に参加したりして、コミュニケーションの場を多く持つのがカギだと思います。頻繁にコミュニケーションがとれていれば、彼らが何を考えているのか、その部署にどのようなリスクが隠れていそうかを早期に把握できます。インハウスロイヤーには、法律に関する質問に答えるだけでよいという受動的なマインドではなく、社内の情報を積極的に取りにいき、アンテナを張って、隠れたリスクを一早く察知したり、気付いた機会や改善点について提案を行ったりという能動的な姿勢が求められています。

インハウスの魅力の一つは法曹人脈の広さ

斉藤 近年案件ごとに法律事務所を使い分ける企業も増えてきました。

榊原弁護士 法務部の方の知見や経験の高まりはもちろんですが、インハウスロイヤーの普及もその一因となっているでしょう。弁護士には修習時代の付き合いがありますし、事務所・インハウス問わず弁護士会などで定期的に交流しています。このため、どの分野についてどの弁護士が詳しいかをよく知っているのです。また、専門性だけでなく、企業のことを理解してくれる弁護士を求めています。天才でなければできない仕事は多くありません。それよりも、求める品質や具体的ニーズを理解してくれることが大事です。意見書を1枚求めているのに5枚も書いてこられると困ってしまいます。役員向けの資料に使う目的での相談であれば理解しやすい一般用語を使うなど配慮ができる方だととても助かります。今の企業の法務部門では、ニーズに合わせて、複数の弁護士や法律事務所を使い分けることができること自体を目指しているということです。

平泉弁護士 外部弁護士の選択は、インハウスロイヤーの重要な業務の一つです。一人の顧問弁護士にあらゆる案件を依頼するというスタイルはもはや過去のもので、複数の外部弁護士と普段から良好なパートナーシップを築いておき、いざというときに、それらの外部弁護士の中から最適な方に依頼して、迅速にサポートを得られるのが理想です。JILAでは、さまざまな法律分野の専門家をお招きして研修などを実施していますので、JILA会員であれば、そういった機会を利用して、外部弁護士との人脈を広げることも可能です。

榊原弁護士 法務部員の人脈作りについては、会場受講セミナーであれば必ず講師の方々と名刺交換をした方がよいですね。セミナーの後にご相談や質問のメールをするのもお勧めです。また、中には無料で業務紹介のプレゼンテーションをしてくれる事務所もありますので、後日依頼するのもよいでしょう。

斉藤 インハウスロイヤーがいる企業は外部の法律事務所に案件を出す割合が少なくなるのでしょうか。

榊原弁護士 他社の事情は存じ上げないですが、私が所属した後の方が外部の法律事務所に依頼する分量は増える傾向にあります。内製化する業務もあれば、あえて外注化するものもあります。予算が許せば、二つの事務所に依頼して比較することもあります。また、インハウスロイヤーを雇用した企業の方が法律事務所への依頼額が増加しているという調査結果も出ています。これは企業法務の関わる領域が広がり、業務そのものが増えているのも一因でしょう。

平泉弁護士 一般的に、多くの企業では、日々のルーチン業務はできるだけ内製化しつつも、多くのリソースを必要とする場合、高度に専門的な分野の知見を必要とする場合、独立した第三者からの法律意見が求められる場面などには、外部弁護士に依頼することが多いと思います。インハウスロイヤーが入社すると、ルーチン業務についての内製化が進むとともに、それまで認識されてこなかったリスクや、改善点に気付くことも多く、その結果、外部弁護士へ相談することも増えるのではないでしょうか。

企業と法律事務所でwin-winの人材交流を

斉藤 太 氏

斉藤 弁護士1年目から企業に入社するなど、インハウスロイヤーのキャリアは多様になったと感じます。

平泉弁護士 はい。先程のお話にありましたように、インハウスロイヤーの活躍の場が広がっており、担当業務や所属部署も非常に多様化しています。また、一人ひとりのインハウスロイヤーのキャリア形成も多様になりました。10年くらい前には、法律事務所からインハウスロイヤーに転身するのは、いわゆる“片道切符”だと言われていましたが、現在では、インハウスロイヤー経験者が、その経験を武器に法律事務所に転職する事例も多く見られます。さらに、法律事務所と企業の間で、出向などのアレンジを通じた人材交流も、ますます活発になっています。そうすることで、お互いのことをよく知ることができ、win-winの関係を築くことができます。そのほか、兼業、副業などを行うインハウスロイヤーも増えています。榊原さんも企業にフルタイムで勤務しながら他社の社外取締役を務めていらっしゃいますよね。

榊原弁護士 最近はヘッドハンターの方から、「インハウスロイヤーを社外取締役や常勤監査役候補として紹介してほしい」と依頼されることが多くなりました。事業会社の事情に通じているので、ビジネスと法務が理解できる人材として重宝されるのです。もちろん、企業に所属しながら他社の取締役を務めることは並大抵ではありませんが、頑張りどころでしょう。

斉藤 企業はインハウスロイヤーに何を期待しているのでしょうか。また、その役割として意識されている点はありますか。

平泉弁護士 経済産業省の「国際競争力に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」でも論じられているのですが、法務機能には、大きく分けて、企業価値を最大化するための“パートナー機能”と、企業価値を守るための“ガーディアン機能”があると言われています。インハウスロイヤーにも、その両方の役割を果たすことが期待されていると思います。そのためには、取れるリスクと取れないリスクをきちんと見分け、ビジネスに寄り添った、バランスのよい助言を提供できることが重要だと考えています。

榊原弁護士 企業はあえてリスクのある事業に飛び込む場合も結構あり、炎上や賠償リスクについてしっかり検討しておく必要があります。その際にインハウスは当事者として腰を据えて対応するため、安心感を得ていただけるのではないでしょうか。許容できないものは必ず止める必要がありますが、いたずらにビジネスを止める存在であってはならないと思います。

斉藤 リスク評価として経営者が指標とすべき仕組みはありますか。

平泉弁護士 2020年に法的リスクマネジメントに関する国際規格ISO31022が発行されました。このガイドラインでは法的リスクがマトリクス化されており、リスクの分析や評価にあたって参考にすることができると思います。

榊原弁護士 評価額など判断が難しい項目もありますね。何らかの根拠を使って計算するしかありません。規格を活用することで、株主や社外のステークホルダーへの説明の根拠になります。株主代表訴訟への備えにもなるでしょう。

→『LAWYERS GUIDE 2022』を「まとめて読む」
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 DATA 

主な著書・論文(共著含む)『組織内弁護士の実務と研究』(日本評論社、2021)

[注]
  1. JILA「企業内弁護士を多く抱える企業上位20社(2001年〜2021年)」[]

榊原 美紀 氏

Miki Sakakibara
日本組織内弁護士協会(JILA) 理事長
弁護士・カリフォルニア州弁護士

平泉 真理 氏

Mari Hiraizumi
日本組織内弁護士協会(JILA) 副理事長
弁護士・ニューヨーク州弁護士

斉藤 太 氏

Futoshi Saito
レクシスネクシス・ジャパン株式会社 代表取締役社長