2024年1月29日、丸ビルホール&コンファレンススクエアにおいて、Business & Law合同会社主催・リーガルテック企業5社共催の「Business&Law CIRCLE 2024~企業法務×弁護士の立食形式のネットワーキングカンファレンス~」が開催された。
豪華スピーカー陣によるディスカッション形式の特別講演も実施された同カンファレンスには、さまざまな業界・業種の企業法務・コンプライアンス・知財部等の担当者約150名、弁護士約50名、リーガルテック企業が参加。ビュッフェスタイルのリラックスした雰囲気の中、活発な交流・情報交換が行われた。
同カンファレンスは、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業の龍野滋幹弁護士による挨拶で開会。「COVID-19が収束し、このように対面で多くの法務関係者が集い、情報交換できることを大変嬉しく思っています。また、私が講師を務める法務セミナーも同様に対面のものが増えてきました」と語る龍野氏は、Business & Law 名物講座の人気講師。
龍野氏は“よいイベントの条件”として、秀逸な企画力、スタッフのホスピタリティ、意欲的な受講者を挙げ、同カンファレンスのプログラムもそれらの条件が当てはまるとの期待を語り開会を宣言。
参加者数人に参加理由を聞いたところ、
「法務部をいかに強くするか、そのために他社がどのような工夫をしているのか情報収集に来ました」(企業法務部員)
「2024年は企業にとってさらにグローバルな視点が必要となる。その際、法務はどのようにして経営を支えていくべきか、そのヒントを知りたくて参加しました」(インハウス弁護士)
「法務部はどこも人員が足りていない。それをカバーするためにはリーガルテックの導入が不可欠だと感じています。そのための最新情報を得たいと思っています」(企業法務部員)
など、期待の声が多く挙がった。
法務チームビルディング~現場がうまく回る!コミュ術と教育
同カンファレンスでは、2部構成での座談会を実施。そのうちの一つが、“法務部側”と“法務業務の経験を持つ事業部側”の二つの視点から、法務機能としてのコミュ術と教育を考える、「法務チームビルディング~現場がうまく回る!コミュ術と教育」である。
同座談会には、シャープ株式会社の水島太一・法務部コーポレート法務兼契約コンプライアンスA部長、大手情報・通信業に携わる小宮山円・投資推進部門部長代行、イオン株式会社の津田峻輔・事業推進・ブランディング担当付の3氏が登壇し
- チームメンバーにどんな力をつけさせたい?
- 研修/教育体制~学びのKPI
- 社内での情報収集の仕方、別部署とのコミュニケーション
の3点について、それぞれ意見が交わされた。
まず“チームメンバーにどんな力をつけさせたい?”では、水島氏が「特定の分野にフォーカスして専門性を高めていきたいのか、あるいは幅広い分野を網羅しながらジェネラルに法務としてのキャリアを築いていきたいのか。各人の希望も考慮しながら、力を伸ばせる環境を会社が整えることが大切ですね」と指摘。小宮山氏は「さまざまな事業領域を担当してみて、自分の興味があるものが見つかれば、それを伸ばしていけるように支援することも大事だと思っています」と続け、津田氏は「“様々な関係者と一緒に、組織の中で仕事をするとはどういうことか”を一緒に考えることが重要」と指摘したうえで、「(当時)私たち法務は相談が来るまで待っているのではなく、できるだけ早い段階から関わる“ビジネスパートナー”としての姿勢を持って欲しいと話していました」と、それぞれの思いを語った。
続いて“研修/教育体制~学びのKPI”では、小宮山氏が「若手だけではなく、管理職に対しても経営視点を醸成できるよう研修を企画しています」と自社の取り組みを紹介。同様に「私自身の失敗経験をもとにケーススタディを実施していました。“課題は何か”“当時の自分はどのように考えたか”“その結果と関係者からのフィードバックはどうであったか”をチームメンバーに共有し、”あなたが当時の私の立場なら、どのように考えますか”と、私の失敗を題材にして法務の若手に考えてもらう勉強会を年に数回実施していました」(津田氏)、「一例ですが、毎週水曜日の午後に30分の全員参加の勉強会を実施しています。部員が順番に講師を務め、知識・経験の共有により、個々人のさらなる学びと組織としての能力の底上げを目的としています」(水島氏)と、各社のノウハウが提供された。
“社内での情報収集の仕方、別部署とのコミュニケーション”では、津田氏が「事業部側に在籍していた際は、若手メンバーに法務やコーポレート部門への依頼にあたって“明日までに”や金曜日の夕方に”来週頭まで“など、相手を尊重しない期日要望は最後の手段であり、できる限り初期段階から法務を巻き込んで相談するように指導していました」(津田氏)と事業部としての配慮の必要性を、水島氏は法務部の姿勢として「事業部門に寄り添う姿勢と、事業部門と法務部門の各レイヤーでの日頃のコミュニケーションが重要」と語り、また、「経営会議への参画はもちろんですが、事業部門の企画会議等の定例の会議の場で法務案件の端緒を掴み、早い段階からサポートするように心がけています」と会社経営に入り込むことの重要性をそれぞれ指摘。小宮山氏は双方の視点をまとめるかたちで「ビジネス部門と法務部門とでは見える景色が違うので、お互いに気がつかないことが多くあります。このことを念頭に置いてコミュニケーションをとることで、風通しはだいぶよくなるように感じます」と語り、第1部を締め括った。
ショートピッチ―最新リーガルテック情報
第1部と第2部の間には、共催リーガルテック企業によるショートピッチが行われた。
最初に登壇したのは株式会社マネーフォワードの髙木雅史・リーガルソリューション本部長。髙木氏は電子契約・契約書管理サービス「マネーフォワード クラウド契約」について、その特徴を
1.契約書の送信料・保管料は無料(契約書の送信件数・保管件数による課金や上限設定なし)
2.契約書の作成から申請・承認、締結、保存まで、契約業務全体をワンストップでサポート(審査・承認履歴とあわせて一元管理が可能)
3.電子契約のみならず紙の契約書もまとめて管理できるうえ、他社電子契約サービスから受領する電子契約データも締結完了時に自動で取り込むことが可能(特許取得済)
と述べ、契約業務における全体最適のしくみをPRした。
続いて、ContractS株式会社の武藤康司COOが登壇し、CLM/契約管理市場シェアNo.1の実績を誇る契約ライフサイクル管理サービス「ContractS CLM」を紹介。武藤氏は同サービスの特徴を「事業部と法務のやりとりをはじめ、契約に関わる依頼・承認プロセスのすべてを、オンラインで、かつ1システムで完結することができること」と指摘し、
・ 契約プロセス、ステータス、履歴や社内のコミュニケーションをすべて集約しており、それらの確認も容易なため、法務部はリスクの削減ができ、事業部は迷うことなく契約の社内フローを進めることが可能となる。
・ 申請時の入力項目や承認フローの制御により、不備による差し戻しなどの不要なラリーが減り、案件のスピードがアップする(=法務と事業部の契約業務を円滑にする)
といった法務部・事業部双方のメリットを、導入事例を交えながら提示した。
3番目に登壇したのは、株式会社BoostDraftの渡邊弘CRO/共同創業者。弁護士でもある渡邊氏は、法律専門家向け総合文書エディタ「BoostDraft」の開発理由を「顧客である企業法務担当者からの相談を通じて、法的文書の作成には“見えないムダ”ともいえる単純な作業が山積していることに気づき、その解決の必要性を強く感じたため」と説明。同エディタでは
といった単純作業がワンクリックで済むよう、徹底的な自動化を実現。これにより、法務担当者は本来業務である“内容面の検討”に専念することが可能となる。インターネット無しでWord上でサクサク動作することから、セキュリィティ面での安全性の高さと、その使い勝手のよさを紹介した。
最後は、株式会社アイネットテクノロジーズのゼネラルマネージャー丸田崇志氏が登壇。丸田氏は同社の「Modern SOC Service 」について、
と説明。「たとえば、退職予定者の過去の営業秘密へのアクセス履歴やダウンロード履歴、メール送信履歴などを可視化・分析することで、情報漏えいに関するリスクを把握でき、事案発生を未然に防ぐことが可能となる。万が一の事案が発生した際も、訴訟で必要となる証拠の収集や時系列での整理などが可能です」とその有効性とともに必要性を訴えた。
会場内には協賛企業のサービスを紹介・体験できるブースも設けられており、導入に興味を持つ企業参加者が訪れては、その機能を確認する姿も多く見られた。
経営を担う法務出身者の視点で23年の振り返りと24年の法務課題・展望について語る
プログラムの最後には、伊藤忠商事株式会社・茅野みつる常務執行役員/広報部長、野村ホールディングス株式会社・森貴子執行役員ジェネラル・カウンセル兼コンプライアンス担当、双日株式会社・守田達也CCO 兼 法務、内部統制統括担当本部長による「経営を担う法務出身者の視点で23年の振り返りと24年の法務課題・展望について語る」と題した座談会が実施され、
- ポストコロナを迎えた2023年は法務にとってどのような年であったか
- 2024年に向けて期待される法務の役割
- 経営の立場から法務スタッフに望むこと
3点について、経営者視点でのディスカッションが行われた。
まず“ポストコロナを迎えた2023年は法務にとってどのような年であったか”について、守田氏が同年を“大手芸能プロダクションにおける人権問題をはじめとする組織の不祥事が多発した年”“インフレ・円安の進行による株式市場の活況を背景としたM&Aなど、企業活動が活性化した年”という二つのベクトルで総括したことを受け、茅野氏・森氏は「企業にとって、2023年は“従業員の命の大切さ”がクローズアップされた年でした。ガバナンス上も、財務情報だけではなく人権などを含む非財務情報を今後どう開示していくかが重要だと考えています」(茅野氏)、「日本企業が関係するM&Aが金額ベースで前年(2022年)比5割増と活況を示した背景には、経営戦略実現の手段としてM&Aを選択する企業の増加があると考えています。株価の上昇については、コーポレートガバナンスの考え方が浸透し、企業価値の向上に取り組んできた日本企業の姿勢が投資家の注目や期待を集めているのではと感じています 」(森氏)とそれぞれの所感を述べた。
続けて、守田氏の「M&Aについては大型のものが増えていますが、これは成功すれば大きな成長を遂げることができる一方で、失敗した場合は企業の屋台骨を揺るがしかねないものとなってしまいます。その点において、M&Aの主戦場を担う法務部の役割は非常に重く、そのあり方が問われると考えています」との指摘に、茅野氏は「M&Aは経済雑誌などを読まれる方にも関心が高まっていますから、広報としても、法的にきちんと精査した情報を出さねばなりません」と広報の役割にも言及。森氏は「海外におけるM&Aについては、地政学、経済安全保障の観点などの、リスクを意識することも肝要です」と注意喚起した。
“2024年に向けて期待される法務の役割”については、まず森氏が「2024年は、変化が多く不確実な時代となる」と予測し、「それらに確実に対応していくためには、経営の意思決定に資するリーガルマインドの醸成と、事業スピードに十分に伴走できる“法務力“”が不可欠だと考えています」と指摘。これに対し、守田氏、茅野氏はともに海外での体験をもとに、グローバルリスクに備えるためにも、海外を含めた法務としてのネットワークを構築・整備し、現地の法制度に通じた弁護士等の専門家を発掘することが重要であるとした。
また、“経営や事業部門からの信頼を得ること”を重視する守田氏が法務部・現地法人社長・監査役・広報部門の経歴を持つ茅野氏にアドバイスを求めたところ、茅野氏は「案件を担当するにあたっては、できる限り早い段階から関わることに尽きる」として、顧客訪問時の資料を事業部門と共同で作成するなど、日頃からパートナーシップを深めておくことも一案だと回答した。
最後に“経営の立場から法務スタッフに望むこと”を問うたところ、守田氏からは法務部員が秀でている点として“客観的に本質を観る/論理性/プレゼン・ライティング能力/ビジネスに対する知見”があることだと思っていると発言。茅野氏は「柔軟性と信念を曲げない意志を兼ね備えた人材を育成することが、“信頼される法務”の礎となる」とし、「そのためにはさまざまな部署を経験することも法務としてのスキルアップにつながるのではないでしょうか」とコメント。森氏も「法的専門性は法務の“要”ですから、当然磨いていく必要がありますが、 “事業部に寄り添える法務パーソンの育成”という視点では、事業部など他の部署での経験も大きな力になりますので、機会があればぜひチャレンジしてほしいですね。そうしたさまざまな強みを持つ人材が法務に集うことで、ひいては企業価値の向上にもつながると考えています」と語り、ディスカッションを締め括った。
質疑応答では“法務部長とジェネラル・カウンセルとのミッションの違い”や“ロースクールを卒業して入社した社員への教育方法”について質問が寄せられたが、前者には双方のポジションを経験した森氏から「ジェネラル・カウンセルという立場は経営の一員なので、“何が会社にとって一番よいことなのか”を意識する必要があり、法務だけでなく経営全般を勉強する必要があります」と回答。後者には茅野氏・森氏がともに「ロースクール卒業生に限らず、みな同じ教育を行っている」との回答がなされた。
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すべてのプログラムは盛況のうちに終了したが、会場内では時間の許す限りさらなるネットワーク作りが盛んに行われた。
多くの参加者にとって有意義なイベントとなったに違いない。