企業のリーガルオペレーションを評価し、三本柱から成るコンサルティングで改革案を支援
—— 本日は、多くの日本企業で法務部門のマネジメント経験を有するOne Thought合同会社 代表社員 佐々木毅尚氏をお迎えし、国際競争力のある法務部の構築方法についてお伺いします。現在、佐々木代表は具体的にはどのような支援を行っているのでしょうか?
主なコンサルティング支援としては3つです。
➀ リーガルオペレーションの評価と改革案の提示
➁ グローバルレベルの法務・コンプライアンス・ガバナンス体制の構築支援
➂ リーガルテックの導入および効果的な運用支援
—— リーガルオペレーションの評価と改革案の提示は、具体的にどのように実施されているのですか?
リーガルオペレーションの評価指標については、ACCのMaturity Model 2.0とCLOCのCORE 12というモデルがありますが、これは欧米企業の法務オペレーションをベースとしているため、日系企業には適していません。そのため、私も参画している「日本版リーガルオペレーションズ研究会」において、2021年に“Legal Operations CORE 8”を公表しました。これは、日系企業の法務オペレーションを8つの項目に分けて、3段階で評価するという考え方です。弊社ではCORE 8をベースとして、エビデンスに基づく評価、改善点の抽出、優先順位の設定から改革支援を行っています。
—— なるほど、リーガルオペレーションを指標により客観化するということですね。
はい。従来は、事務処理の熟練度を高めることでオペレーションを改善することが主流でしたが、そうではなく、オペレーション全体の仕組みを改革するという新しい時代の手法といえます。
—— 法務部門そのものの改革を推進することによって、どのような効果が得られるのでしょうか?
指標は「戦略」「予算」「マネジメント」「人材」「業務フロー」「ナレッジマネジメント」「外部リソースの活用」「テクノロジーの活用」の8項目です。たとえば、法務戦略は経営戦略にリンクしているのか、人的リソースや予算の管理は適切か、レポーティングラインは構築されているか、どの業務にテクノロジーを導入すべきかなど、各指標は相互に有機的に結びついています。これらを最適化することで、経営戦略と一体となった法務部門への変革を実現できます。
グローバル体制構築には情報収集やインテリジェンスの活用が不可欠
—— それでは次に、グローバルレベルでの法務・コンプライアンス・ガバナンスに関する体制の構築支援について具体的に教えてください。
まず、グローバル法務体制を構築するための視点も複数あります。まずは、法務機能を設置すべき国の選定、現地担当者の配置(現地採用か、日本本社からの派遣か)、そして最も重要なことがレポーティングラインの構築です。なぜならば、現地の法務リスクが適切に日本本社に報告される仕組みが、リーガルリスクマネジメントの観点から不可欠だからです。現在は、こうした体制づくりのサポートを中心に活動しています。
—— グローバル法務体制の構築には、相当の知見が必要になると思います。このコンサルティングのための源泉はどこにあるのでしょうか?
私のキャリアを通して蓄積した3つの財産があります。1つ目はグローバルなネットワークで、各国の法律事務所や弁護士に関する詳細な情報を持っています。たとえば、国ごとにどのような法律事務所があり、どのような弁護士がいるのか。それも保守的な意見が多いのか、あるいは革新的な意見が多いのか。得意分野は何か。費用はどのくらいか。こうした外部ネットワークの情報を提供することができます。2つ目は40か国以上に及ぶ契約、訴訟・紛争、行政調査、不正調査、M&A案件などに携わった経験値です。成功も失敗も含めて多くの貴重な経験をしてきました。3つ目は企業グループ内に法務・コンプライアンス体制を構築した経験で、さまざまな国に法務機能を新たに設置してレポーティングラインを運用し、法務・コンプライアンス・ガバナンス体制を設計・運用してきました。これらの経験をベースに、各企業の実情に応じたアドバイスを提供しています。
AI、リーガルテックの活用が法務部門のあり方を劇的に変える時代
—— 現地の法律事務所や法務環境を熟知していることは大きなノウハウですね。次に、リーガルテックの導入および効果的な運用支援について具体的に教えてください。
近年、リーガルテックサービスは目覚ましい進歩を遂げ、カバーする範囲も広範になりました。しかし、それを有効に活用している企業はあまり多くなく、導入した製品の機能と自社オペレーションとのミスマッチなども多々見受けられます。テクノロジーの活用は、リーガルオペレーションの改善において重要な位置を占めます。まずは、クライアント企業のオペレーションを分析したうえで、必要となる機能を持つ製品候補を抽出し、どのような製品を導入することが最も効果的なのかを判定し、導入および導入後の活用方法まで、コンサルティングを実施しています。また、既に導入されている製品が機能していない場合は、製品のリプレースも支援しています。
—— テクノロジーの活用がもたらすのはリーガルオペレーションの進化ということでしょうか?
そのとおりです。特に、生成AIの登場により、リーガルオペレーションの進化は飛躍的に進むと思います。リーガルオペレーションでは、品質と生産性のバランスが極めて重要で、生産性の向上にばかり目を向けると品質が落ちてしまいます。つまり、品質と生産性はトレードオフの関係にあるといえます。ここ数年のテクノロジーの飛躍的な進化によって、生産性の向上と品質の向上の両方をバランスよく達成することが可能となりました。
目指すは高品質法務のためのコンサルティング
—— そのためのリーガルテックの導入および効果的な運用支援をコンサルティングメニューとして提供されているのですね。佐々木代表が考える“品質”について具体的に教えてください。
企業活動の中にはたくさんのリスクがあります。その中には取れるリスクと取れないリスクとが混在しています。まずは、その識別を適切に行うことが法務部門の最も重要なミッションであるといえます。法務部門の業務品質レベルが低いと取れるリスクを避け、取るべきでないリスクを見逃してしまうこともあります。高品質な法務業務とは、リスクを判定して、適正にコントロールする力だと思います。法務はビジネスを推進するための存在です。ブレーキをかけるだけでは役に立ちません。そのためにも、法務リスク分析におけるテクノロジーの活用は非常に有効です。
—— 最後に、コンサルティングを通して佐々木代表が目指されていることについて教えてください。
現在、クライアントの中心である中堅日系企業では、グローバルレベルでレポーティングラインが構築されていない企業が多数を占めます。これでは、企業グループ内におけるリスク情報を適切に収集できず、リスクをコントロールする手前の段階で止まっている状態です。また、自部門のオペレーションレベルを正確に把握していないため、オペレーションの進化が止まっている法務部門もあります。さらに、コストをかけてテクノロジーを導入しても、有効活用されていない事例が散見されます。弊社が提供する3つのコンサルティングは、こうしたクライアントに対して、プロジェクトベースで関わりながら、リーガルオペレーションの評価・改善点の提示をもとに、テクノロジーの活用による生産性の向上を図りつつ、グローバルにおける高品質で国際競争力を備えた法務組織に変革することを目指しています。
—— 本日はありがとうございました。

佐々木 毅尚
One Thought合同会社 代表社員
One Thought合同会社(25年3月設立)代表社員。91年明治安田生命入社。YKK、太陽誘電、SGホールディングス、NISSHA株式会社等で法務部門のマネジメンを歴任。法務やコンプライアンスに関連する業務を幅広く経験し、リーガルテックの活用をはじめとした法務部門のオペレーション改革に積極的に取り組む。
One Thought合同会社の連絡先
住所:〒170-0013 東京都豊島区東池袋1-34-5 いちご東池袋ビル6F
e-mail:t-sasaki@onethoughtleads.com