再エネ_FIT/FIP事業のセカンダリー案件 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

近年、脱炭素政策の下で、稼働中の太陽光発電所や風力発電所のM&Aが盛んに行われている(いわゆるセカンダリー案件)。スキームとしては、大きく、会社分割や事業譲渡により再エネ事業を譲渡する場合(アセット譲渡)や、再エネ事業を保有するSPC(特別目的会社)の持分(株式、社員持分、匿名組合出資持分)を譲渡する場合(持分譲渡)に分類される。
2024年4月1日より、FIT/FIP案件注1について、アセット譲渡や持分譲渡を行う場合には、再生可能エネルギー発電事業計画の変更認定(以下、「変更認定」という)が必要であり、その前提として地域住民への説明会の開催または事前周知措置(以下、まとめて「説明会等」という)の実施が義務づけられるようになった(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(以下、「再エネ特措法」という)10条1項、再エネ特措法施行規則8条の2第1号、2号参照)。
本稿では、セカンダリー案件を実行するにあたり、重要なポイントとなった説明会等の実施について、2025年4月に改定された「説明会及び事前周知措置実施ガイドライン 」(以下、「本ガイドライン」という)の内容を踏まえつつ、概説する。
なお、本稿は、2025年5月1日時点での情報に基づいて執筆している点に留意されたい。

説明会等の実施の要否

説明会等の対象となる事業か否か

まず、FIT/FIP案件のセカンダリー案件を検討するにあたっては、取得対象となる事業が、地域住民への説明会の対象となる事業か、事前周知措置の対象となる事業か、あるいは、説明会等の実施が不要であるのかを確認する必要がある。以下の図表1は、説明会等を実施すべき事業の範囲を簡潔に整理したものであり、電源の出力や設置場所によって区分される。

図表1 説明会等を実施すべき事業の範囲

特高・高圧
(50kW以上)
低圧
(50kW未満)
屋根設置太陽光 住宅用太陽光
(10kW未満)
周辺地域や周辺環境に影響を及ぼす可能性が高いエリア 説明会の開催義務あり

説明会の開催義務あり

事前周知の努力義務

事前周知義務なし

上記以外のエリア 事前周知義務あり

取得対象となる事業が、50kW以上の特別高圧電源・高圧電源である場合、説明会の開催が必要となる注2ため、たとえば、メガソーラーの取得案件はこれに該当することになる。確認が必要なのは50kW未満の低圧案件注3であり、設置されている場所が以下に記載する「周辺地域や周辺環境に影響を及ぼす可能性が高いエリア」(再エネ特措法施行規則4条の2の3第1項1号イ)に該当するか否かを確認する必要がある。

周辺地域や周辺環境に影響を及ぼす可能性が高いエリア

① 認定申請要件許認可の対象エリア注4

② 土砂災害警戒区域(土砂災害特別警戒区域を含む)または土石流危険渓流

③ 条例において、自然環境・景観の保護を目的として、保護エリアを定めている場合 にあっては、当該エリア

当該エリアの範囲については、各地方自治体におけるウェブサイト等で確認することができるが、当該サイトでの確認には限界があり注5、また、上記③の条例についても各地方自治体ごとに当該条例の有無を含めて確認をする必要があることを踏まえると、最終的には、当該取得対象となる案件のエリアを管轄する各地方自治体に個別に確認するのが望ましい

認定事業者の変更と密接関係者の変更

次に、FIT/FIP案件のセカンダリー案件の実施が、説明会等の実施が必要となる変更認定事由に該当するか否かを確認する必要がある。これは専らスキームに関連する事項であり、「認定事業者の変更」が生じる場合、または、「認定事業者の密接関係者の変更」が生じる場合には、再エネ特措法10条1項の経済産業省令で定める「重要な事項」の変更として、説明会等の実施が必要となる(再エネ特措法施行規則8条の2第1号、2号)。

(1) 「認定事業者の変更」

FIT/FIP認定に係る認定事業者としての地位を承継する場合であり、会社分割や事業譲渡などのアセット譲渡の場合がこれに該当する。また、包括承継である合併により認定事業者が変更する場合もこれに該当する注6

(2) 「認定事業者の密接関係者の変更」

認定事業者の変更の場合だけではなく、認定事業者の「密接関係者」の変更の場合にも変更認定が必要となる。ここで「密接関係者」とは以下の者をいう。

① 認定事業者に対する議決権の過半数を保有する株主(認定事業者が株式会社の場合)

② 認定事業者の社員(認定事業者が持分会社の場合)

③ 認定事業者に対する匿名組合出資のうち、その過半数の出資持分を保有する出資者

④ 上記①~③の者の親会社(財務諸表等の用語、様式および作成方法に関する規則8条3項に規定する親会社をいう)

密接関係者の範囲を図示すると次の図表2のとおりである。

図表2 密接関係者の範囲

出典:2024年1月25日開催の「第12回 再生可能エネルギー長期電源化・地域共生WG」の資料1「改正再エネ特措法の施行に向けて 」の22頁。

このように、FIT/FIP認定に係る事業を保有するSPCの持分(株式、社員持分、匿名組合出資持分)を譲渡する場合(持分譲渡)であっても、変更認定およびその前提としての説明会等の実施が必要となる点には留意が必要である。実務上は、非常に複雑なスキームが採用されている場合(たとえば、二階層で匿名組合出資がなされている場合)があり、個別の案件(スキーム)ごとに「認定事業者の密接関係者の変更」の該当性について、精査する必要がある。なお、密接関係者の定義には、①~③の者の「親会社」まで含まれている点には特に注意する必要がある注7

説明会等の要件

説明会等のタイミング

説明会等の実施が必要である場合、認定事業者または密接関係者の変更に係る契約の契約書の締結後(対外的に公表される場合は、当該公表後)、変更認定申請の3か月前までのタイミングにおいて説明会等を実施することが求められている注8(本ガイドライン第5章第2節①)。

図表3 説明会とクロージングのタイミング

ここで、実務上論点となるのは、クロージングをいつ実施するのかという点である。理屈の上では、上記の①、②、③のいずれのタイミングで実施してもよいが、一般的に、売主としては早期のクロージング(①)を望み、買主としては説明会の実施後3か月が経過したタイミングでのクロージング(③)を望むものと思われる。個々の案件ごとに、諸般の事情を考慮しつつ、当事者間で協議の上決定することになる。
また、全体のスケジュールを検討する際には、変更認定申請に関し、年度ごとに当該申請に係る期限日が設定されている注9ため、当該申請期限日を確認しておくことも重要である。

説明会等の内容

計画変更を伴う説明会等の内容について、その詳細は本稿では割愛するが、当該FIT/FIP案件につき、再エネ特措法に基づく説明会等が過去に行われているか否かによって、説明の範囲が異なることになる。すなわち、過去に当該説明会等が実施されていない場合、FIT/FIP認定申請の際と同じ説明項目および説明事項のすべてを説明しなければならないが、既に再エネ特措法の要件を満たす説明会が実施されている場合には、説明項目および説明事項のうち、既に実施された説明会等において説明または周知された事項から変更があった事項に係る項目を説明すれば足りることになる(再エネ特措法施行規則4条の2の3第2項3号柱書)。
本稿の執筆時点において、経済産業局より、説明会の内容が要件を充足していない(説明項目の不備等)として、説明会のやり直しを指示される事案が散見される状況である。仮に、説明会のやり直しが必要となった場合、変更認定申請までに、更に少なくとも3か月の期間を要することになる。セカンダリー案件に係る契約書では、こうした事態が生じることも想定しつつ、説明会の準備等を行う実施主体を明確にしたうえで、責任の所在とリスク分担についても規定しておくのが望ましい

説明会等の実施主体

認定事業者の変更に伴う説明会には、原則として、旧認定事業者(売主)と新認定事業者(買主)の双方が出席することとされており、事前周知措置の場合には、旧認定事業者と新認定事業者の双方の名義で実施する必要がある。そのため、契約書では、説明会の実施につき、売主と買主の双方の義務として規定しておく必要がある。
他方で、密接関係者の変更の場合は、認定事業者自体の変更はないため、認定事業者(対象会社)が説明会等を実施することになる。クロージング前に説明会等を実施する場合、売主は、認定事業者(対象会社)をして当該説明会等を実施させることになるため、譲渡契約書ではこうした義務を売主に課すことになる。

契約書上の手当て

FIT/FIP案件のセカンダリー案件を実施するにあたっては、上記のような説明会等の実施に係る留意事項を踏まえつつ、契約書の中に反映する必要がある。
具体的な記載内容は、スキーム(認定事業者の変更か、密接関係者の変更か)、スケジュール(特にクロージングのタイミング)、当事者間のパワーバランス等によって大きく異なることになるが、誓約事項(説明会の実施主体の明確化と本ガイドラインに沿った説明会等の実施義務など)、前提条件(説明会等の実施+3か月の経過、説明会等を開催したことを示す資料の提出など)、表明保証(説明会等の実施対象など)、補償(説明会等に不備があった場合など)の各項目において、適切な条項を規定する必要がある。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. FITとはFeed-in Tariffの略語であり、再生可能エネルギーで発電した電気を、一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する固定価格買取制度をいう。また、FIPとはFeed-in Premiumの略語であり、再生可能エネルギー発電事業者が卸市場などで売電したときその売電価格に対して一定のプレミアム(補助金)が上乗せされる制度をいう。[]
  2. 2025年4月1日より導入された「長期安定適格太陽光発電事業者の認定」(再エネ特措法施行規則第4条の2の4)を取得することにより、「周辺地域や周辺環境に影響を及ぼす可能性が高いエリア」以外のエリアについては、説明会の開催ではなく、事前周知措置の実施で足りることとなった(本ガイドライン第2章第1節2の④)。[]
  3. なお、低圧案件であっても、事業者の認定申請に係る再エネ発電事業の実施場所の敷地境界線から水平距離が100m以内に、当該事業者と同一の事業者等が実施する再エネ発電事業の実施場所がある場合において、それら事業に係る電源の出力の合計値が50kW以上となるときは、説明会の実施が必要となる(本ガイドライン第2章第1節2の③)。[]
  4. FIT/FIP認定申請要件として、森林法、盛土規制法、砂防三法等に基づく許認可等(認定申請要件許認可)が必要となるエリアをいう(本ガイドライン第2章第1節2の【解説】参照)。[]
  5. 当該ウェブサイトでは、規制エリアが色付けされている地図が開示されている場合が多く、当該設置場所が色付けされているエリアに含まれているか否かが判然としない場合がある。[]
  6. M&Aの場面ではないが、競売による取得や担保権の実行による取得等により認定事業者を変更する場合もこれに該当する。なお、相続等の場合は含まれないとされている(本ガイドライン30頁)。[]
  7. 直接の親会社だけではなく、最上位の親会社まで含まれるため、たとえば、再エネ事業とは無縁の企業の買収において、その孫会社が従たる事業として再エネ事業(FIT/FIP案件を含む)を実施しているような場合、当該買収の実施にあたり、当該孫会社において、説明会等の実施が必要となる。[]
  8. なお、説明会に出席する「周辺地域の住民」がいなかった場合は、説明会の実施から3か月間を待たずに変更認定申請を行うことが可能となる(本ガイドライン第5章第2節【解説】①)。[]
  9. 資源エネルギー庁新エネルギー課「2025年度中の再エネ特措法に基づく認定の申請に係る期限日について 」(2025年4月1日)[]

澤 祥雅

弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士

09年大阪大学法学部卒業。11年京都大学法科大学院修了。19年Duke University Law School修了。19~20年Ashurst Australia勤務。コーポレート・M&Aを専門分野とし、再生可能エネルギー分野のM&A案件について豊富な経験を有する。直近では、メガソーラー建設工事差止訴訟の事業者側代理人を務めるほか、国内外の事業者を依頼者として、太陽光や陸上風力事業の開発案件、セカンダリー案件を多数担当している。また、一般社団法人再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)の洋上風力委員会のメンバーとして、「洋上風力案件形成における漁業者調整に関わる提言」の取纏めを担当。

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