医療機器業界 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

医療機器業界は、製品の多様性に富み、次々と新しい技術革新が進む業界である。MRIのような大型の診断機器から注射器やコンタクトレンズのような製品まで、製品群は非常に幅広く、近年ではAIやIT技術の発展に伴い、疾患の治療・診断・予防のためのソフトウェア(SaMD: Software as a Medical Device)の開発・実用化も注目を集めている。その種類は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、「薬機法」という)」による一般的名称が4000種類以上、個別品目数では30万を超えるとされる。このような製品の種類・性質・用途等の多様性により、製品ごとの技術的要求や規制が異なっている点が医療機器業界の大きな特徴である。
国内医療機器市場は2022年時点で約4.4兆円規模とされ注1、安定した成長が期待される産業の一つである。高齢化や医療ニーズの高度化を背景に、国内外での需要が増加する中、技術革新と競争が一層激化している。医療機器は開発期間が医薬品より短いものの、ライフサイクルが短いため、新たな技術を迅速に市場に投入する必要がある。そのため、企業は常に製品の改良や新規開発を求められている。
一方で、このような要求に応えるには、多額の投資や高度な専門知識が必要となるため、各企業が独自に技術開発を進めるだけでは限界がある。この状況を打開し、競争力を維持・拡大する手段としてM&A(合併・買収)の重要性が増している。そのような理由から、特に近時は、企業が特定の分野を強化するために行うカーブアウト型のM&Aや、既存の医療機器メーカーが先進的な技術を持つスタートアップを買収する例などが増加している
医療機器業界では、製品販売業者がディーラー(代理店・販売店)を通じて医療機関等に製品を販売する流れを取ることが一般的である。これらのディーラーは単なる製品の流通だけでなく、修理・アフターサービス、機器の賃貸など多岐にわたる機能を担うという点において重要な役割を果たしている。このようなディーラーには、地域特化型の商社や卸業者が多いが、事業拡大や効率化を目指した統合も増加しており、流通面におけるM&Aの活発化も業界の特徴の一つといえるだろう。

医療機器製造販売業者を対象としたM&Aに関係する薬機法の規制

医療機器の分類

医療機器は、前述のように製品によりさまざまな性質があることから、多様な分類がなされている。薬機法では、医療機器の一般的名称(JMDN: Japanese Medical Device Nomenclature)にあわせて、不具合が発生した場合の人体へのリスクの大きさに応じて、法律上の分類(高度管理医療機器、管理医療機器、一般医療機器。同法2条5項~7項)と、医療機器規制国政整合化会議(GHTF:Global Harmonization Task Force)において合意された「医療機器のクラス分類の原則」に準拠したクラス分類(クラスI~IV。平成16年7月20日付け薬食発第0720022号)がなされている。また、保守点検、修理その他の管理に必要な専門的な知識・技能を要するかという観点からの分類(特定保守管理医療機器。同法2条8項)や、特定保守管理医療機器のうち組立てについて管理が必要なものによる分類(設置管理医療機器。同法施行規則114条の55第1項)があるほか、トラッキング制度(植込み型ペースメーカなどについて不具合が発生した場合に迅速かつ的確に対応するため利用者を追跡記録する制度)の対象となる特定医療機器(同法68条の5第1項)などの分類がある。

製造販売承認と製造販売業許可

医療機器は、医薬品と同様に薬機法に基づく製造販売、製造、販売等の規制を受けるが、医薬品とは異なった規制内容となっている。薬機法による分類のうち、高度管理医療機器および管理医療機器については、製造販売を行うために厚生労働大臣の承認を取得する必要があるものがあるが(同法23条の2の5第1項)、登録認証機関による認証を受けることで販売可能となるものも存在する(同条の2の23第1項)。一方で、人体へのリスクが最も低い一般医療機器については、製造販売に際して厚生労働大臣への届出のみが求められ(同法23条の2の12第1項)、承認や認証の取得は不要である。このように、医薬品とは異なり、医療機器における薬機法規制は人体へのリスクに応じて規制の厳格さが異なる点が特徴といえる(図表1)。

図表1 医療機器許認可対応表

医療機器種別 リスク・クラス 製造販売業
許可
製造販売
承認
具体例
高度管理医療機器 クラスⅣ 第一種 承認 ペースメーカー、人工心臓弁、ステントグラフト
クラスⅢ 承認
or
認証
透析器、人工骨、人工呼吸器、コンタクトレンズ
管理医療機器 クラスⅡ 第二種 MRI装置、電子内視鏡、消化器用カテーテル、電子式血圧計、歯科用合金
一般医療機器 クラスⅠ 第三種 届出 体外診断用機器、メス・ピンセット、X線フィルム、家庭用救急絆創膏

さらに、業として医療機器の製造販売を行うには、医療機器の種類に応じた厚生労働大臣による製造販売業許可を取得する必要がある(同法23条2の3第1項)。医薬品の場合、対象医薬品の種類に応じて第一種医薬品製造販売業許可と第二種医薬品製造販売業許可との双方が必要となるのに対して、医療機器の場合は、より高位の製造販売業許可(たとえば第一種医療機器製造販売業許可)を有している場合には、下位の製造販売業許可(第二種医療機器製造販売業許可)を別途取得する必要はないという違いがある。
「製造販売」とは、自らまたは他人に委託して製造し、輸入した医薬品等を販売し、貸与し、授与する行為等をいう(同法2条13項)。「他人に委託して製造」とされていることから、自らが製造することは必ずしも求められていない。市場に対して流通の起点となり、最終責任を負う者が製造販売業者となる。そのため、たとえば、医療機器の製造をOEM注2事業者に委託し、完成した製品を市場に向けて販売する場合、委託元が製造販売業者となり、委託を受けて製造するOEM事業者は必ずしも製造販売業許可を必要としない。

製造業

医療機器の製造業に関しては、製造所ごとに都道府県知事の登録を受けることが求められる(薬機法23条の2の3第1項、同法施行令80条3項3号)。登録に際しては、欠格事由がないことが唯一の要件とされているが(同法23条の2の3第4項)、この点は、医薬品製造業で原則として製造所の構造設備が基準を満たしていることを条件とした許可制を採用している点(同法13条5項)とは大きく異なる。しかしながら、医療機器の製造業においても、製造所に医療機器責任技術者を配置する義務など(同法23条の2の14第6項)、一定の規制が課されている点に注意が必要である。

販売業・貸与業

医療機器の販売業・貸与業(業として、医療機器を販売し、授与し、もしくは貸与し、もしくは販売、授与もしくは貸与の目的で陳列し、または医療機器プログラムを電気通信回線を通じて提供する場合)を行うためには、高度管理医療機器または特定保守管理医療機器については営業所ごとに都道府県知事による許可を受け(薬機法39条1項)、管理医療機器については都道府県知事に対する届出をする必要がある(同法39条の3第1項)。

修理業

医薬品とは異なる医療機器の特徴として、設備系機器などを中心に貸与が行われることに加え、修理やメンテナンスが必要な製品が存在する点がある。業として医療機器の修理を行うためには事業所ごとに修理業の許可を受ける必要がある(薬機法40条の2第1項)。

医療機器製造販売業者を対象としたM&Aにおけるストラクチャーの選択と許認可の承継

医療機器製造販売業者を対象としたM&Aのストラクチャー選択においては、M&Aによって、製品の製造販売承認・認証、製造販売業許可等の承継可否や影響をまず検討する必要がある。もっとも、この点は、医薬品の製造販売業者を対象とするM&Aと考え方が共通しているため、以下にて簡潔に記載するが、詳細は本連載第1回を参照されたい。
すなわち、株式譲渡によるM&Aでは、承継企業の法的主体が変わらないため、製造販売承認や認証、製造販売業許可等はそのまま維持される。このため、許認可承継の課題を回避できる株式譲渡は、望ましいストラクチャーといえる。もっとも、対象会社の一部事業のみを切り出して承継させるカーブアウトM&Aなどの場合には、この方法は採用が難しい。
事業譲渡や会社分割においては、薬機法に基づき、製造販売承認・認証の承継が認められている(同法23条の2の11、同法23条の3の2)。ただし、一般医療機器に係る製造販売届出については、承継制度がないため、譲受企業において新たな届出が必要となる。また、製造販売業許可および製造業許可は、薬機法上、承継制度が存在しない。そのため、譲受企業がこれらの許可をクロージング時点で適切に保有している必要がある。許認可の取得には一定の時間を要することが多いため、M&Aの実行スケジュールに組み込む必要がある

法務デューデリジェンス(DD)のポイント

医療機器製造販売業者を対象としたM&Aにおける法務DDは、その特有のリスク構造や規制を深く理解したうえで進める必要がある。業界特有の商流や知的財産権の特徴、さらに許認可関連の確認など、幅広い観点からの精査が重要であるが、各項目の重要性は、対象企業の規模や事業の性質、選択するスキームなどによっても異なってくる。以下では、一般的な医療機器業界特有の事項を中心に、法務DDのポイントの一部を紹介する。

許認可および法令遵守体制

対象会社に薬機法違反があると、許認可の取消しや罰則の対象となる可能性があるため、薬機法関連法規の遵守状況は最も重要な確認事項となる。まずは、製造販売業等の事業に必要な許認可がすべて取得され、有効に存続しているかという点を確認する必要がある。また、医薬品とは異なる医療機器業の特徴として、貸与業と修理業が重要な役割を担っているという点が挙げられる。これらの業務を行うには、医療機器の分類ごとに、許可や届出等が必要となることから、必要な手続が適切に行われているか、またその登録範囲等が十分かを確認する必要がある。
医療機器製造販売業者にとって、法令遵守体制の整備も事業運営において極めて重要な要素となる。医療機器については、製品の製造販売承認・認証の要件として、「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(QMS省令。平成16年厚生労働省令第169号)への適合性が求められていることから、これらの遵守状況を確認する必要がある。また医薬品と異なる医療機器の特徴として改良が多く実施される点が挙げられる。改良によって医療機器について承認内容の一部が変更される場合には、厚生労働省令で定める軽微な変更に該当しない限り一部変更(一変)承認申請をし、承認を取得する必要がある(薬機法23条の2の5第15項。なお、軽微変更に該当する場合は、同条第16項に基づく届出が必要である)。製品の一部仕様を変更し、一変承認が必要であるにもかかわらず、これが行われていないといった手続の不備がないか、あるいはこのような手続が適時に実施される体制構築が行われているかといった点も法務DDで確認するポイントとなる。

製品ごとの許認可・権利関係の整理

対象となる製品について、適切な製造販売承認または認証が取得されているかを確認するとともに、製造工程やライセンス関係を整理する必要がある。医薬品が比較的少数の特許権で化合物等をカバーすることが多いのに対して、医療機器、特に機械装置などでは、多くの特許で一つの製品をカバーする傾向にあることから、製品ごとに特許を整理し、ライセンス契約についてはその条件等を確認することが重要になる。また、医療機器は、同種製品が市場に共存して競争関係にあるという点に特徴があることから、競合製品同士での特許侵害訴訟が提起されることも珍しくない。そのため、他社の特許権を侵害していないか等についても慎重に調査を行う必要がある。

商流の整理

前述のとおり、医療機器の商流においてはディーラーの存在が重要となる。製品の種類によっては、ディーラーが修理やアフターサービス、機器の貸与などを担うこともあるほか、医療施設によっては特定のディーラーを通さないと取引を行わないといったケースもある。そのため、取引を行っているディーラーの整理やビジネスに与える影響の大きさを確認するとともに、独占販売権や契約上のチェンジオブコントロール(COC)条項注3等の確認をすることが重要となってくる。

研究開発に関する規制の遵守

医学系研究については、その内容に応じて、薬機法に加え、臨床研究法や「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(令和3年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号、令和5年3月一部改正。以下、「倫理指針」という)などの指針が適用される。医療機器製造販売企業においては、新製品の開発のみならず、既存製品の改良などのために、単独または医療施設と共同で研究が行われることも多い。倫理指針は法律ではなく、これに違反した場合に罰則はない。しかし、スタートアップや大学病院など研究機関としての性質を兼ねた医療施設においては、公的な補助金等の交付を受けている場合もあるところ、法令に加えてこれら指針の遵守が補助金の交付要件となっていることも多い。このような場合には、指針であっても違反が発覚すると補助金の取消しや返還などのリスクが生じる可能性がある。そのため、対象会社や共同研究を行う医療機関が補助金を受けている場合などは、これらの指針の遵守状況を確認することが重要となる場合もある

広告・プロモーション規制

医療機器の広告・プロモーションに関しては、薬機法等によるさまざまな規制がある。薬機法における主な広告規制の内容は、虚偽誇大広告(同法66条1項)、医師等保証広告(同条2項)、堕胎暗示・わいせつ広告(同条3項)、および承認前広告の禁止(同法68条)である。
医薬品等適正広告基準(平成29年9月29日付け薬生発0929第4号)および医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等(平成29年9月29日付け薬生監麻発0929第5号)は、医療機器にも適用される。同基準は、薬機法66条1項が定める虚偽誇大広告の禁止の解釈を示すものであると同時に、事業者が、医薬品・医療機器等について一般消費者の使用を誤らせ、または信用を損なうことがないよう遵守すべき事項が定められている。後者の例として、医家向け医療機器についての一般向けの広告の原則禁止(同基準第4の5)などが定められているが、いくつかの例外もあり、たとえば血圧計、コンタクトレンズ、体温計、自動体外式除細動器(AED)、パルオキシメータ、補聴器、設置管理医療機器などは、一般消費者に対する広告が許可されている。
その他、医療機器産業の事業者団体である一般社団法人日本医療機器産業連合会が、医療機器業プロモーションコードおよび同解説を策定しているほか、製品分野ごとの広告・表示に関する自主基準やプロモーションコードなどが定められている例もあり、必要に応じて確認をすることが望ましい。

まとめ

上記では、医療機器製造販売業者を対象としたM&Aの法務DDにおいて問題となりやすい点を中心にポイントを列挙したが、繰り返し述べたとおり医療機器はその性質がさまざまであり、製品の特性や商流などに応じて、問題が生じやすい点やそのリスクも大きく異なってくる。上記のほかにも事業者団体の自主規制が数多く存在するほか、医療関係者との関係に関する法規制、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)などの医療機器分野において特に注意が必要な規制も多い。対象会社の事業の性質に応じ、必要な規制を洗い出し、その遵守状況を確認することが必要となる。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. 令和4年薬事工業生産動態統計調査を元に、(生産金額)+(輸入金額)-(輸出金額)により算出。[]
  2. OEM(Original Equipment Manufacturing)とは、委託者(発注者)が自社のブランドで販売する製品の製造を他社(OEM事象者)に委託することをいう。[]
  3. チェンジオブコントロール(COC)条項とは、M&Aなどにより契約当事者の支配権に変動等が生じた場合に、当該支配権の変動等が契約の解除事由となる条項をいう。[]

田中 宏岳

弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士

07年京都大学法学部卒業。09年京都大学法科大学院修了。17年University of California Los Angeles School of Law卒業。17年~18年 Morgan, Lewis & Bockius LLP(New York)勤務。主な取扱分野は、ライフサイエンス、M&A、事業再生・倒産。国内外の製薬会社、医療機器メーカー、薬局、病院等のヘルスケア分野のM&Aについて多数の経験を有する。著書として、『テーマ別ヘルスケア事業の法律実務』(中央経済社、2023年)がある。

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橋本 小智

弁護士法人大江橋法律事務所 アソシエイト弁護士

09 年 同志社大学法学部法律学科卒業、12年 早稲田大学大学院法務研究科修了。
21 年 University of California, Los Angeles, School of Law 卒業 (LL.M.)。
2022年 Gleiss Lutz (Stuttgart Office) 勤務。主な取扱分野は、M&A、コーポレート、スタートアップ支援など。米系医療機器メーカーへの出向を含め、ヘルスケア分野について多数の経験を有する。著書として、『スタートアップ投資契約―モデル契約と解説』(共著)(商事法務、2020年)『ゼロからわかるESG・サステナビリティ法務Q&A』(共著)(金融財政事情研究会、2024年)などがある。

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