海外子会社管理の実務と動向 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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グローバル企業における海外子会社の管理は、本社と現地の地理的・文化的・法的な距離を克服しながら継続して取り組むべき法務・コンプライアンス上の最重要課題の一つである。その背景として、海外当局による取締りや大規模制裁の多くが外国資本を標的とすること、会社の風評・ブランドを広範囲で棄損するリスクがあること、均質で予測可能性が比較的高い国内法務と異なりリスク・コントロールが困難であることなどが挙げられる。山下総合法律事務所の山下聖志弁護士と厳逸文中国律師を講師に招き、海外子会社管理の法的意義や中国を中心とする各国の規制動向、そして海外子会社との連携・信頼強化に向けた道筋について、初学者からベテラン層まで気づきを得られる実務セミナーが開催された。

海外子会社管理の基本となる考え方(山下弁護士)

親会社の役員が、海外子会社を含む企業集団の内部統制システムを整備・構築する会社法(362条4項6号)上の義務を負うことはご承知のとおりです。より具体的には、内部統制システムにかかる親会社取締役の善管注意義務とは、親会社資産の一部としての子会社の企業価値(株式)を維持するために子会社を管理・監督する義務であると一般に解されており、同義務を果たすと同時に企業集団を保護するとの観点で海外子会社管理が求められます。そして、会社法施行規則では、整備すべき当該システムの仕組みとして、子会社から親会社へのレポート(報告)体制、グローバルなコンプライアンスおよびリスク管理体制、ならびにグループ全体の経営/ガバナンス体制等が示されています。

山下 聖志 弁護士

海外子会社管理で問題となる法務リスク(山下弁護士、厳中国律師)

過去の制裁事例をいくつか紹介し、法令遵守のポイントを整理します。一つ目は、日本の自動車用防振ゴムメーカーおよびその英国子会社による欧米圏での競争法違反(カルテル)です。本件は、図表1のとおり、最初に発覚した1号カルテルについて米国司法省と和解した際、既に認識されていた2号カルテル(1号カルテルの再発防止策実施と同時に終了)の存在を申告しなかったことが後に発覚し、巨額の罰金(制裁金)制裁につながりました。

図表1 再発防止策のみならず、他の類似事案の調査・発見・申告が重要な意味とインパクトを有することを示唆する事案

二つ目は、英国大手製薬メーカーが中国において旅行代理店を通じて行った贈収賄(政府高官や医師等の饗応)について、法人に対し500億円超の罰金および役職員複数名に対し懲役刑が科された事例です。本件では、被告メーカーの直後の中国売上高は前年比で6割以上減少し、親会社のブランドにも甚大なダメージが生じました。贈収賄は「上流階層への利益提供」としてレピュテーション上も大きなリスクを伴います。

両社の事例から、海外子会社の不正・不祥事にかかる再発防止策の要点をまとめます。まず、経営トップによるコミットメントが最も重要です。“法令遵守にまさる売上/利益追求は無いこと”の明確なメッセージを発出し、不正が起こる現場(先端)までどのように浸透できるかがカギを握ります。また、二つ目の中国事例からは、代理店を介することによる高い贈賄リスクを重点的にチェックしつつ、代理店に限らない捜査当局の取締りも念頭においた実効性あるコンプライアンス体制を整備すべきとの教訓が得られます。なお、2017年「企業コンプライアンス・プログラムの評価」(米国司法省)公表(以後順次改定)のとおり、企業集団が所定のコンプライアンス・プログラムを適切に設計・運用・継続していることを根拠とする追訴免除、猶予合意、処罰軽減を可能とする運用も徐々に進んでいます。評価システムでは、トップが、①自ら法令遵守の言動(言葉と行動の両方)を実践し、②法務・コンプライアンス部門に対するコミットメントの状況を共有し、③法令遵守の文化の醸成・強化をどのように進めているかといった要素が重視されます。近年では、①の例として、インセンティブ(利益誘導)型の人事制度などが注目されています。

さらに、トップの法令遵守に対する強固な意思を、不正・不祥事対応の過程において表すことも有用です。例えば、日本の大手鉄鋼メーカーから韓国の競合他社への営業秘密(高度技術情報)の漏洩事件は記憶に新しいですが、原告が、企業間の和解後も元社員個人との訴訟を継続したことは、“違反(逃げ得)を決して許さない”とのメッセージを内外に打ち立てる上で実に効果的と評価できます。

海外子会社管理で問題となる法務リスク(中国法務)(厳中国律師)

中国子会社における主要な法務リスクとして、営業秘密の漏洩と反スパイ法改正が挙げられます。前者は、営業秘密として「非公知性」「商業的価値」「秘密保持措置の実施」の3要件が指定されている点は、日本や他国の競争法と近似しています。主な判例としては、退職した元従業員による顧客情報の転職先での利用について、転職元での同人に対する教育・研修の未実施やNDA未締結等の事実をもって「秘密保持措置の実施」が認定されなかった事例や、逆に、かかる秘密保持措置を講じていた(「営業秘密」として保護対象であった)ことを理由として、元従業員の顧客情報の利用行為について転職元による転職先企業への損害賠償請求が認められた事例が注目されます。

中国反スパイ法については、大手製薬メーカー駐在員や大学教員など日本人も少なからず拘束されているところ、当該拘束の根拠や両国間の政治関係が不透明であることが対応施策の有効性に影を落としています。他方、23年7月の法改正により中国政府の権限が拡大(被疑者に対する出頭命令や出国拒否の追加)されるなど予断を許さない状況にありますので、教育・研修の継続や個人データの越境移転規制対応、重要インフラを担う企業との取引等に一層ご留意願います。

厳 逸文 中国律師

日本の親会社がとるべき対策(山下弁護士)

海外子会社管理の要諦は「人間をよく知ること」に尽きます。トップメッセージを浸透させる手法は、規程・指針の制定、教育・研修、人事評価、内部監査など多くの選択肢がありますが、その成否が子会社との信頼関係の深さにかかっていることは万国共通です。“OKY(おまえ、きて、やってみろ)”と子会社側から敵視される状況を回避するには、特に内部監査を通じた現地責任者との対話・理解の深化、経営目標の共有とフィードバックを推進し、一方向的な“監査”から両社相互の“assurance”へと脱皮することが望ましいあり方です。

次に、の冒頭で、子会社から親会社へのレポート体制の充実に言及しましたが、通常のレポート・ラインでは決定的なリスクの把握が困難であることもまた事実です。対策として、相当数の企業がグローバルな内部通報制度の整備を進めています。コンプライアンス・プログラムの中核を担う制度としてFCPA(海外腐敗行為防止法)遵守や競争法リニエンシーのための武器とすること、制度の存在・活用をグループに周知・徹底して、不正の発生自体を牽制することが肝心です。

法令違反をはじめ“想定外”の事態への対処は、初動の素早さおよびトップ(責任者)の保護下で適切な実態調査と原因究明を行うことが何よりも優先され、従業員による証拠隠滅を絶対に防ぐこと、情報の機密性を確保すること、当局への自主申告(リニエンシー)を迅速・適切に検討することなども主要なポイントとなります。加えて、海外現地の法制度・規制動向に精通した専門家との連携も、平時より進めていただくことを推奨します。

山下 聖志 

(やました・せいじ) 山下総合法律事務所 代表パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士

98年東京大学法学部卒業。02年弁護士登録(東京弁護士会)、柳田国際法律事務所入所。05~07年国内大手証券会社法務部門出向。10年米国ミシガン大学ロースクール修了(LL.M.)。11年ニューヨーク州弁護士登録。12年柳田国際法律事務所パートナー就任。16年山下総合法律事務所設立。現在、同代表パートナー弁護士。

厳 逸文 

(げん・いつぶん) 山下総合法律事務所 中国律師

10年中国南京大学法学部卒業。13年北海道大学法学研究科修了。中国江蘇蘇明法律事務所、弁護士法人ブリッジルール(福岡オフィス)入所。18年山下総合法律事務所入所。

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