令和2年改正資金決済法の対応ポイント - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

2021年5月1日より、2020(令和2)年6月に改正法が公布された「資金決済に関する法律」(平成21年6月24日法律第59号。以下「法」という)が施行された。
今回の改正により、資金移動業者は、取り扱うことができる送金額ごとに三分類されることとなった(法36条の2)。

  • 第一種資金移動業者:送金額の上限なし(以下「第一種業者」という)
  • 第二種資金移動業者:100万円以下の送金が可能(以下「第二種業者」という)
  • 第三種資金移動業者:5万円以下の送金が可能(以下「第三種業者」という)

第一種業者と第三種業者は、今回の改正で新たに誕生した業態で、今後、新しいビジネスを生み出す可能性がある。そこで本稿前半では、特に第一種業者を目指す場合に考えられる認可のハードルを概説する。
また今回の改正では、近年のキャッシュレスサービスの多様化や技術の向上への対応に加え、資金移動サービスが関係した不正送金事案を踏まえた整備がなされた。既存の事業者に対応が要求される事項が含まれ、実務に影響を与えている。そこで、本稿後半では、改正法の施行から半年の間に実際に寄せられた相談をふまえて、「既存事業者の悩みポイント」として「いわゆる“滞留規制”への対応」「補償方針の策定」を取り上げる。

第一種資金移動業認可にあたり考えられるハードル

第一種業者は、海外送金やペイロール注1解禁等も見すえた、高額の資金移動サービスのニーズをふまえて、100万円超の送金を取扱可能とする業態として創設された。法令上、送金額の上限は定められておらず、既存の第二種業者に比して高額な為替取引を取り扱うことになるため、その履行が確保されない場合には受取人の資金繰りへの影響が大きい。また、テロ資金供与およびマネー・ローンダリング対策の重要性も増大するため、より充実した態勢整備が求められている。

第一種業者として参入するためには、資金移動業の登録に加えて、業務実施計画を定め、金融庁長官の認可を受ける必要がある(法40条の2第1項)。
業務実施計画においては、為替取引による送金額の上限を記載することとなっている(法40条の2第1項)。送金額が高額になるほど、受取人への経済的な影響やマネー・ローンダリング等のリスクが高まることから、一段と充実したリスク管理態勢の整備が求められ注2、認可においても送金額の多寡に応じた審査がなされるものと考えられる。
リスク管理のポイントとしては、次のようなものが考えられる。

① 送金資金の保全:第一種業者は、破綻時等の利用者に与える影響を最小限にするため、各営業日の要履行保証額(法43条2項)を即時に把握のうえ、当該営業日から2営業日以内に要履行保証額以上の資金を保全することとされている(同条1項1号、「資金移動業者に関する内閣府令」(平成22年3月1日内閣府令第4号。以下「移動業府令」という)11条1項)。そのため、各営業日の要履行保証額の変動見込みを検討したうえで、十分な自己資金を確保することが求められる。

② 送金資金受け入れ時の必要措置:第一種業者は、具体的な送金指図を伴わない送金資金の受入れはできず(法51条の2第1項、移動業府令32条の2第1項)、また、資金の移動に関する事務を処理するために必要な期間を超えて債務を負担することが禁止されている(法51条の2第2項、移動業府令32条の2第2項)。為替取引とは無関係な資金を受け入れた場合に、出資法(「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(昭和29年6月23日法律第195号))上の預り金規制に抵触するおそれがある等の観点に加えて、規模の大きな送金を取り扱うことが予定され、信用リスクおよびオペレーショナルリスクが大きくなることに鑑みての制限である。そのため、送金資金を受け入れる際には、送金先の銀行口座情報等を入力させ、送金先への迅速な入金が可能な仕組みを整える必要がある。

③ セキュリティ事故やシステム障害等への備え:不測の事態に備え、送金額に応じたシステムリスク管理やセキュリティ対策、システムの安定稼働に向けた体制整備が必要となる注3。たとえば、1日・1回の送金額の上限を利用者側で設定可能とする機能の実装等、不正アクセスまたは不正利用による被害を最小限に抑えるための対策等が求められる。

④ テロ資金供与およびマネー・ローンダリング対策:送金額や海外送金を行う場合の送金先の国・地域等サービス内容に応じて、対策を十分に講じる必要がある注4。取引時確認において、犯罪収益移転防止法条の義務に加えて、関係各国による制裁リスト等の照合による顧客のスクリーニングの実施等、従来よりも厳格な管理・対策が求められる。

以上のように、第一種業者への参入にあたっては、他の種別の資金移動業者に求められる規制注5に加えて、高額送金のリスクを踏まえた態勢整備が求められる。特にのような厳格な滞留規制に対応しつつ高額送金を可能とするためには、利用者から事前に資金を預かって送金するという従前の第二種資金移動業においての一般的な形ではなく、送金指図や実施のタイミングをふまえて都度資金を受け入れて送金するようなビジネスモデルの検討が必要となろう。

既存事業者の悩みポイント

いわゆる「滞留規制」への対応

前述のとおり、新設された第一種業者は、具体的な送金指図を伴わない送金資金を受け入れることができないという“厳格な”滞留規制が課されている。また、第三種業者は、5万円を超える額の為替取引に関する債務を負担することが禁止されている(法51条の3、「資金決済に関する法律施行令」(平成22年3月1日政令第19号。以下「令」という)17条の2)。

この点、第二種業者については、「利用者から受け入れた資金のうち為替取引に用いられることがないと認められるものを保有しない措置」(いわゆる「滞留規制」注6)を講じることが求められており(法51条)、利用者一人からの資金の受入額が100万円を超えている場合には、当該資金の為替取引との関連性を確認するための体制を整備しなければならない。また、為替取引との関連性が低いと判断される資金については、100万円以下の部分についても、利用者への返還その他の当該資金を保有しないための措置を講ずる必要がある(移動業府令30条の2、資金移動ガイドラインⅥ-1-1)。
なお、ガイドラインでは、

 受入額
 受入期間
 送金実績
 利用目的

を総合考慮し、利用者資金の為替取引との関連性を判断すると示されているが、画一的な方法や基準が定められているものではないため、具体的に、事業者が、滞留規制としてどのような対応を行っていく必要があるのかが実務上の悩みとなる。

まず、事業者は、利用者のアカウント内の残高が100万円を超えていないかについて定期的なモニタリングが必要となる。そして、残高が100万円を超えた場合には、利用者に連絡をとり、為替取引との関連性の確認や任意の出金を促すことが考えられる。他方で、為替取引との関連性を判断する方法として、必ず利用者と連絡をとって意思を確認することを要するものではなく注7、上記の考慮要素をふまえ、資金移動サービスに応じた基準を策定することも考えられる。
そして、為替取引との関連性がないと判断した際には、為替取引との関連性がないと判断した部分の資金について、事業者に登録されている利用者名義の銀行口座に返金するなどと対応をすることになろう注8

なお、事業者が前払式支払手段を発行している場合には、これを購入させて資金の滞留を解消する方法もとりうるが、利用者側から見ると、事業者の資金保全義務が半額に減る形で不利益が生じるため、利用者の明確な意思確認が必要とされている注9
また、利用者資金の受入れのタイミングで、為替取引との関連性(送金予定日や送金先)を確認する方法もありうるが、かかる確認によっても受入れ後の滞留防止措置義務が免除されるものではないとされており注10、事業者は、利用者資金の受入額が100万円を超える場合に資金滞留が起きないよう、利用者の連絡先や銀行口座を把握しておく必要がある。
一方で、利用者からの受入額が100万円を超えない場合には、当該資金の為替取引との関連性を確認するための体制整備義務は課されていないため注11、利用者からの受入額が100万円以下に制限されている場合には、為替取引との関連性を積極的に確認し、滞留を防止する措置を講じる義務を負わない。実際に、既存の第二種業者においては、受入額を100万円以下に制限しているケースも見られる。ただし、受入額が100万円以下である場合であっても、為替取引と無関係な資金の受入れは、別途出資法に基づく預り金規制に抵触するおそれがある点には留意が必要である注12

法改正以前の資金移動業者においては、個人向けの生活費等の決済や送金を目的としたサービスが多く、アカウント内の残高の上限を100万円以下としているビジネスモデルも多いようである。
しかしながら、昨今ではペイロールの解禁に向けた動きに加え、個人だけでなく事業者向けの決済や送金サービスとして、残高の上限を100万円超で設定するニーズも大きくなると予想される。この場合には、「滞留規制」への対応が欠かせない。

補償方針の策定

昨今、悪意のある第三者が不正に入手した預金者の口座情報等をもとに当該預金者の名義で資金移動業者のアカウントを開設し、銀行口座と連携したうえで、銀行口座から資金移動業のサービスを介して不正な出金を行う事象が複数発生した。これをふまえて、今回の改正では、前払式支払手段発行者および資金移動業者それぞれについて、利用者および連携先銀行等の利用者に発生した損失についての補償方針を定めて周知し(「前払式支払手段に関する内閣府令」(平成22年3月1日内閣府令第3号。以下、「前払式府令」という)23条の2第1項3号、23条の3第2号、移動業府令29条の2第5号、31条4号等)、補償方針に従い補償を実施するための態勢整備等をすることが義務づけ注13 注14られている。
なお、補償方針には下記を盛り込むことが求められている注15

 前払式支払手段の発行の業務・資金移動サービスの内容に応じて、損失が発生するおそれのある具体的な場面ごとの被害者に対する補償の有無、内容および補償に要件がある場合にはその内容

 補償手続の内容

 連携サービスを提供する場合にあっては、前払式支払手段発行者と連携先の補償の分担に関する事項(被害者に対する補償の実施者を含む)

 補償に関する相談窓口およびその連絡先

⑤ 不正取引の公表基準

個別の内容については事業者判断に委ねられているが、実務上の悩みポイントはである。前払式支払手段発行者や資金移動業者はビジネスの個別性が強いため、一律のルールを設けることは難しいという議論もあり、金融庁の前払・資金移動ガイドラインや認定協会である日本資金決済業協会によって策定されたガイドライン注16等においても、具体的な補償場面や金額、連携先との分担については示されていない。そのため、事業者は、提供するサービス内容を踏まえて補償の有無や連携先との補償割合をそれぞれ検討のうえ、周知しなければならない。

参考事例としては、銀行業界の対応があげられる。
について、銀行が提供するキャッシュカードの不正利用に関しては、預貯金者保護法(「偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律」(平成17年8月10日法律第94号))において補償要件が法定されており、補償すべき場面や金額が明確である。また、インターネット・バンキングの不正利用に関しては、全国銀行協会(以下、「全銀協」という)による申し合わせ注17が公表されており、事実上、当該申し合わせに沿った補償等がなされている。ただし、具体的な補償割合については、個別の判断もあるため、各銀行に委ねられているところである。
についても、全銀協が資金移動業者と銀行との口座連携に係る条文例注18をとりまとめており、補償の分担等の論点が整理されている。もっとも、当該条文例においても具体的な数字までは示されておらず、各前払・資金移動業者と連携先銀行との関係性や提供するサービスの性質等により個別の交渉が予定されている。実際、各前払・資金移動業者が公表している補償方針の内容は事業者ごとに異なっており、サービスの特性に応じて、幅があることも許容されている。

今後、前払式支払手段発行者や資金移動業者の補償方針も、サービスの特性に応じた個別事例が増えると考えられるが、利用者(消費者)保護の観点からは、補償方針を策定とともに、万一の被害が生じた場合の手続フロー等を精査のうえ社内に徹底し、連携先とも協力態勢を整えておくことが重要になるだろう。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. ペイロール(資金移動業者の口座への賃金支払)については、労働政策審議会労働条件分科会において、その制度設計に向けて議論が進められている。[]
  2. 金融庁「事務ガイドライン」第三分冊:金融会社関係 14.資金移動業者関係(以下「資金移動ガイドライン」という)Ⅲ-1-5。 []
  3. 前掲注2・資金移動ガイドラインⅢ-1-3。[]
  4. 前掲注2・資金移動ガイドラインⅢ-1-4。[]
  5. ただし、滞留規制については、Ⅲ1.のとおり、第二種資金移動業者と第一種資金移動業者の規制内容は異なる。[]
  6. 前掲注2・資金移動ガイドラインⅣ-1。[]
  7. 金融庁「「令和2年資金決済法改正に係る政令・内閣府令案等」に関するパブリックコメントの結果等」(2021年3月19日公表。以下、「パブリックコメントの結果等」という)(法令関係)No.25。[]
  8. 利用者と連絡がつかない場合や最新の利用者名義の銀行口座が登録されていない場合については、マネー・ローンダリング対策の観点からリスク評価の見直しや解約等のリスク低減策の検討が重要とされている(前掲注7・パブリックコメントの結果等(事務ガイドライン関係)No.70。[]
  9. 前掲注7・パブリックコメントの結果等(事務ガイドライン関係)No.69。[]
  10. 前掲注7・パブリックコメントの結果等(事務ガイドライン関係)No.59およびNo.60。[]
  11. 前掲注7・パブリックコメントの結果等(事務ガイドライン関係)No.64。[]
  12. 同上。[]
  13. 資金移動ガイドラインⅡ-2-6-1③、金融庁「事務ガイドライン」第三分冊:金融会社関係 5.前払式支払手段発行者関係(以下「前払ガイドライン」という)Ⅱ-2-9-1③。[]
  14. 前払式府令に関するパブリックコメントであるが、前払式府令23条の3第2号は、損失補償その他の対応に関する方針を周知するための適切な措置を講じることを求めるものであり、発行者に損失の補償を義務づけるものではないとされている(前掲注7・パブリックコメントの結果等(法令関係)No.133)。[]
  15. 前掲注2・資金移動ガイドラインⅡ-2-6-1②、前掲注13・前払ガイドラインⅡ-2-9-1②。[]
  16. 日本資金決済業協会「銀行口座との連携における不正防止に関するガイドライン」(令和2年12月3日制定)同「前払式支払手段の不正利用防止に関するガイドライン」(令和3年6月25日制定)[]
  17. 全銀協「インターネット・バンキングにおける預金等の不正な払戻しについて」(平成28年6月14日公表)[]
  18. 全銀協「資金移動業者と銀行の間の口座連携に係る覚書の条文例(初版)」(令和3年5月28日公表)[]

伊藤 亜紀

片岡総合法律事務所 パートナー弁護士

1996年慶応義塾大学法学部卒業、NHK入局。報道記者として事件事故・行政等の取材を担当。退職後、司法試験を志し、2000年司法試験合格。2002年弁護士登録。2014年度から中央大学法科大学院兼任講師として「IT社会と法」を担当。電子マネー、クレジットなどの決済ビジネスの法務を中心にデータビジネスなど、新たなビジネスモデルの立ち上げに向けた相談を多く手がける。

宜保 茉利子

片岡総合法律事務所 アソシエイト弁護士

2016年大阪大学法学部卒業。2018年一橋大学法科大学院修了、司法試験合格。2019年弁護士登録。電子マネー、クレジットなどの決済ビジネスの法務、貸金等の与信関連業務、情報関連業務等を手がける。