TMI総合法律事務所 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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TMIのグローバル展開―欧米プラクティスの拡充

TMI総合法律事務所(以下、「TMI」)は、設立時からの基本コンセプトである“国際化そしてさらにボーダーレスな世界に進もうとしている時代への対応”を念頭に、世界でビジネスを行う国内外の企業を支援すべく、欧米での展開も積極的に進めている。

10年を経たシリコンバレーでの支援

TMIは他の法律事務所に先駆けて2014年にシリコンバレーにオフィスを開設し、10年間で同エリアでの支援体制を確立している。同オフィスでベンチャー企業への投資やM&A実務を支援する竹内信紀弁護士は次のように語る。
「TMIがシリコンバレーにオフィスを開設してから10年が経ちました。私が赴任したのは2017年夏ですが、その前に2年半ほど、Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiでインターンの機会をいただきましたので、かれこれ10年ほど、シリコンバレーで実務を行っていることになります。私が赴任した当時、シリコンバレーオフィスは弁護士1名(竹内弁護士)、弁理士1名(佐藤睦弁理士)という小規模な状態でした。これまで地道にプラクティスを継続してきた結果、現在ではローカルの弁護士を含め弁護士7名(研修生を含む)、弁理士1名、パラリーガル/アシスタントが4名という体制に陣容を拡大し、オフィスも拡張しています。最近は、地元のロースクールからJDの学生を継続的にインターンとして採用しており、将来的にシリコンバレーオフィスのメンバーとなる人員の発掘にも努めています。今後も、日本の弁護士、ローカルの弁護士共に定期的に人を増やしていく計画です」(竹内弁護士)。
竹内弁護士によれば、シリコンバレーオフィスのキーワードは“Startup”だという。
「言うまでもなく、シリコンバレーはスタートアップの聖地です。世界中から野心あふれる起業家が集まり、日々新しいアイディアを事業化し、投資家はそこにベットします。その中には日系ベンチャーキャピタルだけでなくオープンイノベーションに熱心な日系事業会社も含まれており、また、少数派ながら日本人起業家も入っています。シリコンバレーオフィスでは、そのような日系投資家や日本人起業家に対して現地の実務感覚に根ざしたスタートアップ関連のリーガルサービスを提供しています」(竹内弁護士)。
サービスの範囲は、日系投資家・事業会社による米国スタートアップへの投資や協業のサポート、米国スタートアップに対するM&Aのサポートのみならず、日本人起業家による米国式のスタートアップの立ち上げ、米国式の資金調達の実行や、日米間で法人格を入れ替えるフリップアップまで、多岐に及ぶ。また、日本法人をベースに起業しているスタートアップからも、米国の実務を踏まえた日本のストックオプションや資金調達のアドバイスなど、日本法の分野でもさまざまな依頼を受けているという。「米国マターについては我々だけでは対応できない案件もありますので、さまざまなタイプ・規模の米国法律事務所と協働しながら対応していますが、スタートアップ関連のコアな部分は、現地の実務感覚を踏まえつつも我々自身で主体的にリーガルサービスを提供しているという点が、他の日本の法律事務所の追随を許さない当オフィスの最大の特徴だと思います」(竹内弁護士)。

竹内 信紀 弁護士

日米間のテクノロジーの連携を支える存在として

同オフィスで特許関連実務を支援する佐藤睦弁理士は次のように語る。
「私がシリコンバレーに赴任したのは2017年ですが、2003年のTMI入所以来、特許出願、特許訴訟・無効審判、ライセンス交渉、特許デューデリジェンス等の特許関連業務に幅広く関与してきました。入所前は半導体関連企業で半導体メモリや半導体製造装置の研究開発に従事していました。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、米国特許商標庁になされた特許出願の約25%がカリフォルニア企業を出願人とするものです。つまり、米国で生まれる発明の実に約25%がカリフォルニア州で生まれていることになります。中でもシリコンバレーは、Intel等の歴史ある半導体関連企業やGoogle等の成熟した元スタートアップ企業、世界中から多くの投資を呼び込む成長中のスタートアップ企業等のテクノロジー企業が、米国内で最も密集したエリアです。TMIでは、当オフィスを開設する以前からシリコンバレー企業の特許案件を多数扱っていましたが、これらの案件を通じて、“25%”という数字が示すシリコンバレーのポテンシャルを強く感じてきました。よくTMIがシリコンバレーにオフィスを開設した理由を問われるのですが、スタートアップやテクノロジーが関連する分野を得意とするTMIにとって、シリコンバレーにオフィスを開設するというのは極めて自然な流れであったと言えます」(佐藤弁理士)。
佐藤弁理士は、「シリコンバレーには、“横のつながり”を拡げようとする文化がある」と指摘する。「異なる法律事務所や企業に所属する弁護士たちが気軽に集まるセミナーやイベントが頻繁に開催され、シリコンバレーのエコシステムを構成するトップクラスの弁護士やインハウスカウンセルと日々交流できるのです。このような米国弁護士たちと普段から深く付き合い、いつでも対面で深い議論ができる環境を作り上げていることは、日本のクライアントから評価されている要素となっていると感じています」(佐藤弁理士)。
昨今、佐藤弁理士が特許に関してシリコンバレーで感じることとして、「特に半導体やAIの分野において、米国企業にとっての日本の重要性が高まっていることが挙げられる」と指摘する。「他方で、グローバル展開を進める日本の大企業やスタートアップ企業にとって、米国特許の重要性はますます上がっていると感じています。当オフィスでは、米国から日本へのインバウンド、日本から米国へのアウトバウンドの双方を支援していますが、米国と日本の両拠点においてさらに体制を拡充して、この拡大するニーズに対応していきたいと考えています」(佐藤弁理士)。

佐藤 睦 弁理士

クライアントのチャレンジに伴走する精神で

締め括りに、竹内弁護士はシリコンバレーオフィスの展望について次のように語る。
「法律家がひしめき、さまざまな法律事務所がしのぎを削る米国において、“日本の法律事務所のブランチで対応できることには限界があるのではないか”と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに海外展開はチャレンジングであると思いますが、私たちは、どの日本の法律事務所にも、そしてどの米国法律事務所にも提供できない価値を提供できていると自負しています。ここはシリコンバレーです。私たち自身が、あたかも起業家のごとくチャレンジを重ねていく。そのような道を、同じようにスタートアップ業界でチャレンジしている皆さんと歩んでいけるのであれば、これほど素晴らしいことはありません。これからも、クライアントの皆さんと一緒に、チャレンジしていける事務所でありたいと思っています」(竹内弁護士)。

シリコンバレーオフィスにて

欧州でのさらなる展開に向けて

2024年、TMIはブリュッセルにオフィスを開設した。欧州では、ロンドン、パリに続く拠点となる。ロンドンとブリュッセルのオフィスを兼務する工藤明弘弁護士は次のように語る。
「欧州でTMIは既にロンドンとパリに拠点を有しており、各拠点においてクライアントのニーズに応じたリーガルサービスを提供しています。具体的には、ロンドンオフィスでは主に英国法案件、パリオフィスでは主にフランス語案件やアフリカ案件に関する業務に従事しています。
私はTMIへの入所前に英国のグローバルファームに在籍していましたが、2014年~2016年は同ファームのブリュッセルオフィスで勤務していましたので、ブリュッセルについては土地勘もあります。私はEUと英国の競争法を専門としていますが、これまで取り組んできた競争法の案件に加えて、日系企業を含む多くのグローバル企業のビジネスに大きな影響を与えているEUのレギュレーションについてもサポートを提供していく予定です」(工藤弁護士)。
ブリュッセルオフィスでは、ロンドンやパリのオフィスと密に連携し、クライアントからのEUレベルでの問い合わせに応えるとともに、必要に応じて既存のネットワークを活かし、EU加盟国レベルでのリーガルニーズにも応えていく予定だという。その意味で、ブリュッセルオフィスは、今後、TMIが欧州でのクライアントの活動をリーガルの観点から支援する際に、それを統括する役割も担うことになると、工藤弁護士は語る。
「EUは世界最大級の経済圏として、その動向がグローバルなビジネスに大きな影響を与える存在です。その意味でも、日系企業にとっては、EU法の規制やその最新動向のフォローが不可欠となります。そしてここ、ブリュッセルはEUの立法の中心である欧州議会、行政の中心である欧州委員会の所在地であることから、当地には立法過程に関与するコンサルタント等の専門家が多く存在しています。ブリュッセルオフィスでは、現地の弁護士やコンサルタント等の専門家と積極的に交流し、そのネットワークを最大限に活かして、いち早くEU法の最新動向をキャッチし、クライアントへ情報発信を図りたいと思っています。近年、TMIでは大型のM&A案件に関与する機会が格段に増えており、EUやEU加盟国の企業結合規制への対応をサポートする機会も増えています。特に、企業結合規制との関係では、複雑な内容を伴うM&A取引に関してタイトなスケジュールで当局との対応を進めることが求められます。そうした中にあっては、日本のクライアントの皆様には日本語によるサポートを行いつつ、一方で当局や現地の専門家集団との間のコミュニケーションを英語で行うことができる日本の専門家の存在が不可欠です。ブリュッセルオフィスでは、その役割を十分に担うための体制を整えていく予定です」(工藤弁護士)。

工藤 明弘 弁護士

オフィス開設に伴い、同地に赴任する越元瑞樹弁護士はエネルギーやプロジェクトの分野を専門とし、特に再生可能エネルギー関連の取引に注力。また、ルクセンブルク等の外国籍ファンド投資を中心とした国際取引の支援の実績も有する。
「まずは私と工藤の2名でブリュッセルオフィスでの業務を開始し、欧州-日本の間のアウトバウンド取引やインバウンド取引に注力していく予定です。私が取り組んできた再生可能エネルギーの分野では、EUがリーダーシップを発揮しており、全世界的にますます欧州の影響力が強まっていくと考えられている分野です。この分野でTMIは欧州-日本間のビジネスに着目し、日本企業のビジネス支援を拡大しています。私自身、特に太陽光、洋上風力発電を含めた風力発電、蓄電池事業等のエネルギー事業に深く関わってきましたので、これらの取引を中心として、欧州-日本間の取引をサポートしていく予定です。また、当オフィスでは、欧州企業に対して日本におけるビジネス参入や拡大のためのリーガルサポートを提供することも目指しています」(越元弁護士)。
欧州企業が日本市場に参入する際には、日本独自の規制や商慣習に精通した法務サポートが必要不可欠となる。その点、以前からEU圏内のクライアントを多数支援しているTMIは心強い存在だ。
「TMIは欧州のクライアントが日本に対してエネルギー事業、特に再生可能エネルギーの分野に関して投資する取引の経験が豊富であり、欧州企業が日本のインバウンド取引を行っていくにあたって留意しなければならない勘所を押さえています。一方で、日系企業に対しても欧州での新規事業の立ち上げを支援してきました。当オフィスの開設に伴い、当地からの法的支援を強化し、日系企業をサポートしていきたいと考えています」(越元弁護士)。

越元 瑞樹 弁護士

最後に、工藤弁護士と越元弁護士は次のようにブリュッセルオフィスの展望を語る。
「ブリュッセルオフィスでは、ベルギーに限らず、オランダ、ルクセンブルクをはじめとして、将来は東欧諸国も積極的にカバーしていこうと考えています。TMIは、これまでもクライアントの海外展開に寄り添いながら、そして、時にはクライアントの海外展開の先を見据え、海外に拠点を開いてきました。ブリュッセルオフィスでは、これまで培ったグローバルな視点と経験を活かし、欧州と日本のビジネスをつなぐ架け橋となるべく、使命感を持ってクライアントサポートに尽力していきたいと考えています」(工藤弁護士、越元弁護士)。

時代の要請に応える体制に向けた飽くなきチャレンジ

メンバーが中長期的な視点で現地に滞在し、現地の法律事務所や専門家との深いリレーションを構築する中で、TMI自身の経験値とノウハウを蓄積する。このTMIのグローバル展開におけるビジネスモデルとチャレンジは、欧米でも着実に深化している。

→『LAWYERS GUIDE 2025』を「まとめて読む」
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 DATA 

ウェブサイトhttps://www.tmi.gr.jp

所在地・連絡先
〒106-6123 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー23階
【TEL】03-6438-5511(代表) 【FAX】03-6438-5522(代表)


所属弁護士等:弁護士約570名、弁理士約100名、外国弁護士約60名(2024年12月現在)

沿革:1990年10月設立

直近の主要案件:▽リテール、製造業、IT等の分野における統合・再編案件▽プライベートエクイティーファンドによる各種買収案件▽上場親子会社間での株式交換や公開買付を通じた非公開化案件▽カルテルにおける、日・米・加・EU・中その他の競争当局による調査対応案件▽海外当局によるアンチダンピング課税調査対応案件▽労務管理体制構築に関するサポート業務及び労務紛争への対応の支援▽日本での国際的イベント開催時の大会組織委員会に関連する業務▽日本企業が保有する著作権の権利確保のための米国での訴訟案件▽Fintech分野での新規ビジネス展開のための金融規制等に関連するアドバイス業務▽再生可能エネルギープロジェクト案件▽中国、東南アジア、インド、ラテンアメリカ、アフリカ、中東でのオフィス展開や買収、撤退の支援▽会計不正、業法違反等のコンプライアンス分野における当局対応・調査など多数

竹内 信紀

弁護士
Nobuki Takeuchi

06年筑波大学第一学群卒業。07年弁護士登録(東京弁護士会)、TMI総合法律事務所入所。14年ニューヨーク大学ロースクール修士課程修了(LL.M.)、ニューヨーク州弁護士登録。Wilson Sonsini Goodrich & Rosati勤務を経て17年カリフォルニア州弁護士登録、シリコンバレーオフィスでの執務を開始。現在、スタートアップ・ベンチャーキャピタルファンド関連業務、クロスボーダーM&A、日米間を中心とするグローバル・トランザクション等に携わる。

佐藤 睦

弁理士
Atsushi Sato

94年横浜国立大学工学部卒業。96年同大学院工学研究科物質工学専攻博士前期課程修了。日本テキサスインスツルメンツ株式会社および東京エレクトロン株式会社にて日米双方で半導体メモリ、半導体製造装置の研究開発に従事。03年弁理士登録、TMI総合法律事務所入所。08年コーネル大学ジョンソン経営大学院卒業。特許出願、特許訴訟・無効審判、ライセンス交渉、特許デューデリジェンス等に幅広く携わる。17年~シリコンバレーオフィスでの執務を開始。

工藤 明弘

弁護士
Akihiro Kudo

97年慶應義塾大学法学部卒業。06年弁護士登録(第一東京弁護士会)、英系法律事務所入所。同事務所ロンドンオフィス、ブリュッセルオフィスでの執務を経て、14年英国弁護士(ソリシタ)登録。17年King’s College London Post Graduate Diploma修了。20年TMI総合法律事務所入所、ロンドンオフィスでの執務を開始。競争法分野を専門とするとともに、英国法、EU法等のアドバイスに幅広く従事。

越元 瑞樹

弁護士
Mizuki Koshimoto

97年慶應義塾大学法学部卒業。05年弁護士登録(第二東京弁護士会)、米系法律事務所入所。10年ニューヨーク大学ロースクール修士課程修了(LL.M.)。13~15年株式会社三菱UFJ銀行勤務。15年TMI総合法律事務所入所。国際金融取引、プロジェクトファイナンス、インフラ、再生可能エネルギー(太陽光、洋上風力等)への投資の実務を専門として、ファイナンス分野に幅広く従事。

『データ利活用のビジネスと法務』

著 者:大井哲也・岡辺公志[編著]、白石和泰・波田野晴朗・鈴木優・波多江崇・花本浩一郎・髙橋俊介・村上諭志・吉岡博之・上野一英・岩田幸剛・中野祐嗣・大村健・寺門峻佑・植野公介・鈴木翔平・包城偉豊・栗林知広・塚本渉・野呂悠登・森田祐行・川上貴寛・杉浦翔太・取出遼・三輪幸寛・林知宏・礒井里衣・芥川詩門・林里奈・榊原颯子・李英愛・邢沂晨 ほか[著]
出版社:中央経済社
価 格:5,280円(税込)

『米国FDA医薬品・医療機器規制入門』

著 者:藤巻伍[著]
出版社:商事法務
価 格:4,400円(税込)

『業種別 法務デュー・ディリジェンス実務ハンドブック〔第2版〕』

著 者:宮下央・田中健太郎・岡部洸志・木宮瑞雄[編著]、近藤圭介・金子剛大・白澤光音・金澤久太[著]
(共著者として、荒川聡・福岡大河・林竜希・郭宗浩・鴨下領平・宮本優生・中沢大佑・八尾理菜が執筆に参加)
出版社:中央経済社
価 格:5,500円(税込)