はじめに
オーストラリアは、外国人投資家からの投資はオーストラリアに重要な利益をもたらすものとして原則として受け入れていますが、一定の種類の取引については、関連当局からの承認を受ける必要があります。
急速な技術革新や国際的な安全保障を取り巻く環境の変化により、外国企業のM&Aによる技術流出や機微性の高い事業への参入等、新たな国家安全保障に関するリスクが高まっています。このような新たなリスクの発生や国際情勢の発展を踏まえ、2021年1月1日、1975年外資による取得および買収に関する法律(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth) (FATA))(以下、「外資買収法」といいます)の改正法が施行され、「国家安全保障行為(National Security Actions)」および「国家安全保障基準(National Security Test)」の概念が導入・拡大され、国家安全保障上重要とされる土地や事業に対する外国人投資家による投資について、事前審査の対象とされるとともに、従来は国益(National Interest)に反するか否かのみが審査基準とされていたのに対し、本改正により、国家安全保障(National Security)の観点からも独立して審査が行われることになりました。
下記Ⅱで紹介するとおり、オーストラリアへの外国人投資家による投資については、連邦の財務大臣が外国投資審査委員会(Foreign Investment Review Board)(以下、「FIRB」といいます)の助言および支援を受けながら、投資案件の内容や性質に応じて、オーストラリアの国益または国家安全保障に照らして審査をします。当該投資がオーストラリアの国益または国家安全保障に反すると判断された場合には、財務大臣は当該投資に関する申請を却下し、または国益や国家安全保障に反しない方法で投資が実行されるようにするために一定の条件を付す権限を有します。また、一定の種類の取引についてはFIRBへの事前届出が必要となりますが、事前届出義務の有無は、当該外国人投資家の種類、投資の種類・性質、投資金額等によって決定されます。このように、外国人投資家がオーストラリアへの投資を検討するにあたっては、審査対象となる取引や審査基準等について十分理解したうえで慎重に対応する必要があります。
次に、オーストラリアの近隣国であるニュージーランド(以下、「NZ」といいます)は、オセアニア地域でオーストラリアに次ぐ経済規模を誇り、イギリス連邦加盟国で、社会・経済両面で日本との結びつきが強い国の一つです。NZにはオーストラリアと似て非なる外資規制があるところ、地理的・経済的関係から、オーストラリア企業がNZの子会社・関連会社を有し、同企業グループの買収・出資にあたってNZの外資規制も併せて問題となることが多いです。
そこで、諸外国における外資による投資・買収規制について解説する本連載の第7回として、本稿では、主にオーストラリアにおける外資規制(以下、「豪州FDI規制」といいます)について解説し、下記ⅤでNZにおける外資規制についても概説します。
関係法令および規制執行機関
関係法令等
オーストラリアにおける外国人投資家からの投資については、主に、外資買収法および2015年外資による取得および買収に関する規則(Foreign Acquisitions and Takeovers Regulation 2015 (Cth) (FATR))(以下、「外資買収規則」といいます)によって規律されています。
そのほか、オーストラリアにおける外国人からの投資については、以下の方針および手引きも適用されます。
・ オーストラリアの対内投資方針(Foreign Investment Policy)
国益への配慮を含めた、対内投資制度を管理する政府の方針が定められています。対内投資制度の概要を定めるものとして、法令と併せて解釈する必要があります。
・ ガイダンス・ノート(Guidance Notes)
個別の買収および投資家に対してどのように対内投資制度が適用されるかについて、より具体的な情報が記載されています。オーストラリアの対内投資方針と同様、法令と併せて解釈する必要があります。
・ 手数料法および手数料規則
具体的には、
① 2015年外資による取得および買収に係る手数料の賦課に関する法律(Foreign Acquisitions and Takeovers Fees Imposition Act 2015 (Cth) (FATFIA))(以下、「手数料法」といいます)
および、
② 2020年外資による取得および買収に係る手数料の賦課に関する規則(Foreign Acquisitions and Takeovers Fees Imposition Regulations 2020 (Cth) (FATFIR))(以下、「手数料規則」といいます)
を指します。
手数料法および手数料規則は、対内直接投資に係る申請および通知の手数料について定めています。
規制執行機関
(1) 財務大臣
オーストラリア連邦政府の財務大臣は対内投資に関する判断および対内投資方針(Foreign Investment Policy)の運用について責任を負い、外資買収法に基づき、外国人投資家による投資が国益または国家安全保障に反しないかを判断する権限を有します。
(2) 外国投資審査委員会(Foreign Investment Review Board (FIRB))
財務大臣は、FIRBの助言および支援を受けることができ、対内投資に関する財務大臣の決定は、FIRBの分析および勧告に裏付けられています。
外資規制制度の概要
「外国人(foreign person)」
豪州FDI規制は、外資買収法上の「外国人(foreign person)」による投資に適用されます。「外国人(foreign person)」は、一般的に以下のとおり区分されています注1。
(ⅰ) オーストラリアに通常居住していない個人
(ⅱ) 外国政府または外国政府投資家
(ⅲ) オーストラリアに通常居住していない個人、外国法人または外国政府が単独で実質的な持分(20%以上)を有する法人、トラストの受託者、リミテッド・パートナーシップのゼネラル・パートナー(GP)
(ⅳ) 複数のオーストラリアに通常居住していない個人、外国法人または外国政府が合計で実質的な持分(40%以上)を有する法人、トラストの受託者、リミテッド・パートナーシップのゼネラル・パートナー(GP)
審査対象取引
外資買収法に基づきFIRBによる審査対象となり得る行為には以下の四つの類型があります。
(ⅰ) 通知対象行為(notifiable action)
(ⅱ) 重大行為(significant action)
(ⅲ) 国家安全保障通知対象行為(notifiable national security action)
(ⅳ) 国家安全保障審査可能行為(reviewable national security action)
(ⅰ)通知対象行為と(ⅲ)国家安全保障通知対象行為は、外国人が事前にFIRBへの通知を行い、投資実行前に許可を得る必要がある行為です。(ⅲ)国家安全保障通知対象行為は、2021年の外資買収法の改正により、国家安全保障の観点から事前審査が必要となる行為として導入された類型であり、投資金額にかかわらずFIRBへの事前通知が必要となるという点で、(ⅰ)通知対象行為とは異なります。他方で、(ⅱ)重大行為と(ⅳ)国家安全保障審査可能行為は、投資の実行前にFIRBへの義務的な通知が求められない行為ですが、財務大臣はその行為から10年間、随時「呼び出し権限(Call-in Power)」を行使することができます。
また、上記四つの類型のうち、「通知対象行為」「重大行為」および「国家安全保障通知対象行為」は相互に排他的ではなく、外国人による投資行為はこれらの類型に重複して該当することもあります。他方で、「国家安全保障審査可能行為」は、他の三つの類型と相互に排他的であり、他の三つの類型に該当する場合には国家安全保障審査可能行為には該当しません。
以下では、各行為類型の定義を解説します。
(1) 通知対象行為(notifiable action)
通知対象行為に該当する場合、FIRBへの事前通知が義務付けられています。外資買収法上、以下のいずれかに該当し、かつ下記(ⅰ)~(ⅲ)の事業体、事業または土地が外資買収法に基づく金額的閾値(下記(5)で解説します)に該当する場合、通知対象行為となります。
(ⅰ) 外国人が、農業を行うオーストラリアの事業体(Australian entity)やオーストラリア事業(Australian business)に対する直接の持分を取得する行為
(ⅱ) 外国人がオーストラリア事業体の実質的な持分(20%以上)を取得する行為
(ⅲ) 外国人がオーストラリアの土地の権益を取得する行為
また、外資買収規則によれば、以下の場合には、「重大行為」と「通知対象行為」の双方に該当します。
(ⅰ) 外国人がオーストラリアのメディア事業の直接の持分(10%以上)を取得しようとする場合
(ⅱ) 外国政府投資家が、オーストラリア事業体もしくはオーストラリア事業の直接の持分(10%以上)を取得しようとする場合、オーストラリア事業を開始する場合、または、法的もしくは衡平法上の権益もしくは採掘、生産もしくは開発事業体の10%以上の持分を取得しようとする場合注2。
(2) 重大行為(significant action)
重大行為のうち通知対象行為に該当しない行為については、FIRBへの義務的な通知は求められず、任意の通知制度が設けられています。
オーストラリアの事業体またはオーストラリア事業注3に関する投資の場合には、外国人によるその持分や権益の取得により支配権の変更が生じ、かつ外資買収法に基づく金額的閾値を満たす場合に重大行為に該当します。
オーストラリアの土地に関する投資の場合には、外国人がオーストラリアの土地を取得し、かつ外資買収法に基づく金額的閾値を満たす場合に重大行為に該当します。
重大行為については、外国人投資家が任意の通知を行わない場合であっても、財務大臣が国家安全保障上の懸念があると判断した場合、財務大臣は事後的に審査を行う権限(Call-in Power)を行使し、審査の対象とすることができます。
(3) 国家安全保障通知対象行為(notifiable national security action)
国家安全保障通知対象行為に該当する場合、FIRBへの事前通知が義務付けられています。外資買収法上、国家安全保障通知対象行為は以下のとおり定義されています注4。「通知対象行為」とは異なり金額的な閾値は存在しないため、以下に該当する場合には投資金額に関係なく、事前通知が必要となります。
(ⅰ) 国家安全保障事業(national security business)を新規に開始する場合
(ⅱ) 国家安全保障事業に対する直接の持分(10%以上)を取得する場合
(ⅲ) 国家安全保障事業を行う事業体の直接の持分を取得する場合
(ⅳ) 取得する時点において国家安全保障区域(national security land)に該当するオーストラリアの土地の権益を取得する場合
(ⅴ) 取得する時点において国家安全保障区域に該当するオーストラリアの土地に関する開発許可(exploration tenement)に対する権益を取得する場合
国家安全保障事業(national security business)とは、事業の全部または一部がオーストラリアで行われ、かつ、主に以下に該当する事業を指します注5。
・ 2018年重要インフラ安全保障法(Security of Critical Infrastructure Act 2018)に定義される資産に責任を負う、または直接の持分を保有する者による事業
・ 1997年電気通信法(Telecommunications Act 1997)が適用される通信会社または指定輸送サービス会社による事業
・ 国防または諜報活動に使用されている、または使用されることが想定される重要な品目または技術の開発、製造または供給を行う事業
・ 国防または諜報機関に重要なサービスを提供する、または提供することが想定される事業
・ 安全保障上の機密情報を保存し、もしくはそれにアクセスできる事業、または軍事産業で収集された個人情報を保存もしくは管理している事業
・ 上記の個人情報であって、開示されればオーストラリアの国家安全保障を害するおそれがあるものを保存し、管理し、またはそれにアクセスできる事業
また、国家安全保障区域(national security land)とは、防衛に関連する土地または国家諜報機関が権益を有する土地をいいます注6。
(4) 国家安全保障審査可能行為(reviewable national security action)
国家安全保障審査可能行為については、FIRBへの義務的な通知は求められず、任意の通知制度が設けられています。外国人が主に以下の行為を行う場合であり、かつ、当該行為が(ⅰ)通知対象行為、(ⅱ)重大行為、または(ⅲ)国家安全保障通知対象行為に該当しない場合、国家安全保障審査可能行為に該当します。
(ⅰ) オーストラリア事業体またはオーストラリア事業の直接の持分の取得
(ⅱ) 事業体(entity)の有価証券(securities)もしくは事業(business)の持分、権益を取得しもしくはそれらの発行に際して募集を引き受け、または事業体もしくは事業と契約を締結し、または事業体の設立書類(constituent document)を変更することによる、当該事業体もしくは事業の経営の中核および支配に影響を及ぼしもしくは参画する地位、またはかかる事業体もしくは事業の方針に影響を及ぼし、参画し、もしくは決定する地位の取得
「重大行為」と同様に、国家安全保障審査可能行為については、外国人投資家が任意の通知を行わない場合であっても、財務大臣が国家安全保障上の懸念があると判断した場合、財務大臣は事後的に審査を行う権限(Call-in Power)を行使し、審査の対象とすることができます。
(5) 「通知対象行為」および「重大行為」の金額的閾値
通知対象行為および重大行為については、一定の金額的閾値を超える取引のみがこれらの行為に該当することになりますが、下記の図表1および図表2のとおり、閾値は提案される取引の性質および投資家の出身国により異なります注7。
図表1 土地以外に対する投資
投資家 |
取引内容 |
閾値(この金額を超える場合に通知を要する) |
すべての投資家 |
国家安全保障事業の取得 |
0豪ドル |
メディア事業の買収 |
0豪ドル |
|
より高い閾値を定めるFTA締約国または地域の投資家 |
機微事業以外の買収 |
13億3,900万豪ドル |
機微事業の買収 |
3億1,000万豪ドル |
|
農業の買収 |
チリ、NZおよび米国の投資家に関しては13億3,900万豪ドル |
|
それ以外の国の投資家に関しては6,700万豪ドル(累積投資額) |
||
FTA締約国以外の国または地域の投資家、およびより高い閾値を適用しないFTA締約国または地域の投資家 |
事業の買収(機微事業および機微事業以外の事業) |
3億1,000万豪ドル |
農業の買収 |
6,700万豪ドル(累積投資額) |
|
サービス事業(機微事業以外)の買収 |
インドの投資家に関しては5億豪ドル |
|
外国政府投資家 |
事業体または事業に対するすべての直接投資 |
0豪ドル |
図表2 土地に関する投資
投資家 |
取引内容 |
閾値(超えたとき) |
すべての投資家 |
国家安全保障区域の取得 |
0豪ドル |
宅地の取得 |
0豪ドル |
|
非使用商用地の取得 |
0豪ドル |
|
より高い閾値を定めるFTA締約国または地域の投資家 |
農地の取得 |
チリ、NZおよび米国の投資家については13億3,900万豪ドル |
その他の投資家については1,500万豪ドル(累積投資額) |
||
開発された商用地の取得 |
13億3,900万豪ドル※1 |
|
採掘・生産のための鉱業権の取得 |
チリ、NZおよび米国の投資家については13億3,900万豪ドル |
|
その他の投資家については0豪ドル |
||
FTA締約国以外の国または地域の投資家、およびより高い閾値を適用しないFTA締約国または地域の投資家 |
農地の取得 |
タイの投資家については5,000万豪ドル |
その他の投資家については1,500万豪ドル(累積投資額) | ||
開発された商用地の取得 |
3億1,000万豪ドル |
|
開発された機微商用地(sensitive developed commercial land)については6,700万豪ドル |
||
サービスの提供を用途とする、機微でない土地の場合、インドの投資家については5億豪ドル |
||
採掘・生産のための鉱業権の取得 |
0豪ドル |
|
外国政府投資家 |
すべての投資 |
0豪ドル |
なお、「機微事業(sensitive business)」には以下の分野における事業活動が含まれます注8。
・ メディア
・ 通信
・ 運輸
・ 防衛・軍事関連産業および活動
・ 暗号化・セキュリティ技術および通信システム
・ ウランまたはプルトニウムの採掘原子力施設の取得
審査基準
外国人投資家からの投資に関する審査は、2021年の外資買収法の改正前は、当該投資が国益に反するかどうかが基準とされていました(国益基準(National Interest Test))。国益基準による審査の際には、以下の事項を含む広範な事情が考慮されます注9。
・ 国家安全保障への影響
・ 競争への影響
・ その他のオーストラリア法および政策(税法および歳入法を含む)に対する影響
・ 経済および社会への影響
・ 投資家の性質
上記Ⅰで述べたとおり、2021年1月1日から外資買収法および外資買収規則の改正法が施行され、この改正により、国家安全保障基準(National Security Test)が新規に導入されました。他方で国益基準による審査においても国家安全保障への影響は考慮されている関係で、国益基準および国家安全保障基準の両方の適用が可能である場合は、より広範に審査される国益基準による審査が行われています。
国家安全保障基準の審査の際には、以下の事項を含む広範な事情が考慮されます。
・ 国家安全保障事業への影響
・ 国家安全保障区域への影響
・ 防衛・軍事関連施設への影響
・ 国防または諜報機関などへの影響
審査プロセス
外国人投資家による投資の届出は、オンラインフォームを使用してポータルサイトから提出されます注10。届出を行う場合、所定の手数料を納付する必要があります注11。
審査期間は原則として30日間注12であり、申請者が手数料を支払った後から開始されます。財務大臣は審査期間満了から10日以内に、申請者に対して決定内容を通知します。
手続違反に対する罰則
FIRBへの義務的通知が必要となる取引に関して承認申請を行わなかった場合や、投資の実行に際して財務大臣から課された条件を遵守しなかった場合等、豪州FDI規制が要請する手続に違反した場合、外資買収法上の刑事および民事の罰則の対象となります。また、FIRBへの任意の通知の対象となる行為についてFIRBへの任意の通知を行った場合には、当該通知後、審査期間の終了または承認のいずれか早い方より前に当該取引を実行することも外資買収法違反となり、罰則の対象となります。
なお、FIRBへの義務的通知が必要となる取引についてFIRBの承認を得ずに実行された場合、外資買収法違反ではありますが、当該取引が自動的に無効になることはありません。
審査の実績
近時の届出・審査状況は下記図表3のとおりです。
図表3 近侍の届出・審査状況
商用(Commercial) |
宅地(Residential Real Estate) |
|||||
2020 - 21 |
2021 - 22 |
2022 - 23 |
2020 - 21 |
2021 - 22 |
2022 - 23 |
|
条件付き承認 |
821 |
804 |
550 |
2,560 |
3,667 |
4,768 |
無条件の承認 |
1,504 |
759 |
760 |
1,767 |
1,766 |
1,808 |
承認件数の合計 |
2,325 |
1,563 |
1,310 |
4,327 |
5,433 |
6,576 |
申請取下げ |
436 |
205 |
149 |
455 |
144 |
74 |
2020年7月1日から2021年6月30日において1件注13、2021年7月1日から2022年6月30日において1件注14、財務大臣は外国人投資家からの投資の承認を拒否しています。
もっとも、財務大臣は承認を拒否しようとする場合、申請者に事前にその意向を伝え、申請を取り下げることを促すのが通例であるため、上記の承認拒否の件数は財務大臣から否定的な審査結果を受けたすべての申請者の数を意味するものではありません。
個別業法による外資規制の状況
外資買収法および外資買収規則に基づく規制に加え、特定のセクターにおいては個別業法に基づく外資規制が行われています注15。
銀行
1959年銀行法(Banking Act 1959 (Cth))、1998年金融業(持株)法(Financial Sector (Shareholdings) Act 1998 (Cth))および銀行業指針(banking policy)が銀行部門における外国人による所有を規制しています。
運輸
1920年航空法(Air Navigation Act 1920 (Cth))および1992年カンタス売却法(Qantas Sale Act 1992 (Cth))に基づき、オーストラリアの国際航空会社(カンタスを含む)における外国人の合計持分比率は49%までに制限されています。
また、1996年空港法(Airports Act 1996 (Cth))は、外国人による一部の空港の持分比率を49%まで、航空会社による持分比率を5%までに制限しており、一部の空港運営会社間の株式持合に制限を課しています。
さらに、1981年船舶輸送登録法(Shipping Registration Act 1981 (Cth))は、外国居住者が運航する裸用船(demise charter)で、用船期間中の登録要件が適用除外とされているものでない限り、船舶がオーストラリアで登録される場合にはその過半数の持分をオーストラリア人が保有することを要求しています。
通信および重要インフラ
1991年テルストラ・コーポレーション法(Telstra Corporation Act 1991 (Cth))は、オーストラリア最大の通信会社であるテルストラ社の外国人投資家による持分比率を累計で35%まで、個々の外国人投資家による持分比率を5%までに制限しています。
豪州FDI規制は、2018年重要インフラ安全保障法(Security of Critical Infrastructure Act 2018)および1997年電気通信法(Telecommunications Act 1997)に対する「2017年電気通信セクター安全保障改革(Telecommunication Sector Security Reforms)」注16とともに、オーストラリアにおいて最もリスクが大きい重要インフラセクターへの外国人投資家による投資から生じる国家安全保障リスクを管理する枠組みを提供しています。
「2018年重要インフラ安全保障法」および「2017年電気通信セクター安全保障改革」は、外資買収法の下で何が国家安全保障事業を構成するかを決定する際にも引用されます(上記Ⅲ2. (3)参照)。
サイバー・インフラセキュリティーセンター(The Cyber and Infrastructure Security Centre)は2018年重要インフラ安全保障法(Security of Critical Infrastructure Act 2018)の管理および施行を担当しており、同センターは財務大臣による外国人投資家からの投資に対する決定に対して情報を提供するために、国家安全保障上の懸念に関する助言を提供することで、審査プロセスを補完しています。
所有登録注17
外国人は、外資買収法上、オーストラリアの土地、水、事業体、事業、その他の資産に関連する一定の行為について、オーストラリア税務署への通知が義務付けられています。本年6月30日までは宅地や水利権等それぞれに対して別々の登記が存在し、管理されていましたが、同7月1日から「オーストラリア資産外国所有権登記(Register of Foreign Ownership of Australian Assets)」が各登記を統合する形で運用が始まり、同日以降の一定の行為に関しては同登記の登記官(オーストラリア税務署管轄)への通知が義務付けられています。
主に以下の場合に上記の通知が必要とされます。
・ 外国人が上記の資産について権益の取得その他の行為を行う場合
・ 権益を保有している間に外国人となった場合
・ 登記された状況に変更があった場合(例:外国人が権益を保有しなくなった場合、外国人でなくなった場合)
・ 土地に対する権益の種類または開発許可が変更された場合
・ 登記可能な水利権(water interest)の性質が変更された場合
・ 事業体または事業に対する持分の規模が変更された場合
NZの外資規制
関係法令および規制執行機関
NZにおいて主たる外資規制は海外投資法(Overseas Investment Act 2005、以下「NZ海外投資法」といいます)およびその下位規則に規定されており、国土情報省海外投資局(OIO:Overseas Investment Office)が投資規則・審査を管轄しています注18。
審査対象取引
NZ海外投資法では、「外国人」(overseas person)による「機微性の高い土地」(sensitive land)または「重要な事業資産」(significant business assets)への投資を主に規制しています(なお、住宅用地、林業に対する投資については別途規制がありますが、本稿では詳細は割愛します)。一定の要件を満たす「機微性の高い土地」または「重要な事業資産」への投資については、OIOに対して投資前に申請し、承認を得なければ当該投資を進めることはできません。また、一定の限定された状況下においては、関連する政府機関が投資に「介入」(Call -in)し、「機微性の高い土地」および「重要な事業資産」に該当しない投資を禁止することがあります。
(1) 外国人(overseas person)
投資規制の対象となる外国人(overseas person)の定義は広範ですが、少なくとも以下が含まれます注19。
・ NZの市民または居住者でない個人
・ 海外法人(body corporate)、または海外法人が25%以上所有する法人(NZ法人を含む。以下同じ)
・ 外国人が25%以上の株式、意思決定機関の支配、または会議体における議決権の行使・支配権を持つ法人
・ 外国人が25%以上の出資または議決権を持つパートナーシップまたは合弁事業
(2) 「機微性の高い土地」(sensitive land)
「機微性の高い土地」(Sensitive Land)には、住宅用地における3年以上の自由保有権もしくは賃借権、または以下の種類の土地における10年以上の自由保有権、利益配当権もしくは賃借権が含まれます注20。
・ 5ヘクタール以上の非都市部の土地(農場など)
・ 海洋・沿岸地域や湖、国立公園や地域公園、自然保護地域、歴史的に重要な地域、マオリ族にとって重要な土地を含み、または隣接しているため、「機微性の高い」土地
(3) 「重要な事業資産」(significant business assets)
「重要な事業資産」(Significant Business Assets)の買収には、以下が含まれます。なお、以下の1億NZドルの基準は、日本を含む自由貿易協定国の投資家の場合、優遇措置として2億NZドルとされます注21。
・ 25%超の事業上の持分を取得し(または既存の25%超の持分を増加させ、その増加分が「支配持分の上限」を超え)、NZへの投資に対して支払われた対価が1億NZドルを超える場合
・ 25%超の事業上の持分を取得し(または既存の25%超の持分を増加させ、その増加分が「支配持分の上限」を超え)、当該事業のNZ資産の価値が1億NZドルを超える場合
・ NZ国内の不動産(営業権およびその他の無形資産を含む)を1億NZドルを超えて取得する場合
・ NZに事業を設立し、その経費が1億NZドルを超える場合
審査手続・基準
外国人は「機微性の高い土地」または「重要な事業資産」への投資に当たり、オンラインでOIOに承認申請を行い、申請内容に応じた申請手数料の支払いをすることになります。
審査内容は「機微性の高い土地」と「重要な事業資産」で異なり、「重要な事業資産」については投資家テスト(Investor Test)、(投資対象と投資家の属性に応じて)国益テスト(National Interest Test)を、「機微性の高い土地」については左記に加えてNZへのベネフィットテスト(Benefit to New Zealand Test)を受けることとなり、原則的な審査期間も審査の内容によって35営業日~100営業日まで幅があります。
投資家テスト(Investor Test)では、外国人がNZにリスクをもたらす可能性があるか判断するために、性質(Character)(犯罪歴、入国制限等)および能力(Capability)(会社の役職員となる資格の有無、税金未納等)の二つの要素で審査されます。
国益テスト(National Interest Test)では、(i)国家安全保障、公序良俗、国際関係、(ii)競争、市場の影響力、経済、(iii)経済的・社会的影響、(iv)NZの価値観や利益との整合性、(v)投資家の性格などの要素から、対象となる投資が国益に反しないか審査されます。
NZへのベネフィットテスト(Benefit to New Zealand Test)では、経済効果、自然環境へのプラス、NZ人のアクセス権、史跡の保護・アクセス権、政府政策への貢献、NZ人による監督・投資参加、投資の直接的な結果としての利益という要素から、土地への投資がNZに利益をもたらすかが審査されます。
審査の結果、投資の承認に一定の条件(投資家テストの基準を満たし続けること、雇用の増加など)が課されることがあります。
罰則
NZ海外投資法の違反については、個人に対して最高50万NZドル、法人に対して最高1,000万NZドルの罰金が科される可能性があります。
おわりに
オーストラリアは鉱業、農業、観光といった従来より注目されている分野に加え、近年は、資源・エネルギー、インフラ、ヘルスケアといった分野においても世界中から注目を集めており、日本を含む外国人投資家からの魅力的な投資先であり続けています。
もっとも、上記Ⅲ2.のとおり、2021年の外資買収法の改正により、国家安全保障の観点から投資金額にかかわらず財務大臣への事前通知を要する行為類型が導入されるなど、豪州FDI規制はより複雑なものとなっています。検討している取引がオーストラリアで審査対象取引に該当するのか、またそれらについて義務的な通知が求められるのかの判断は、複雑かつ専門的であり、個別業法に基づく外資規制についても慎重な検討を要します。これらの規制の適用の有無を判断するためにも、取引実行前に、投資を検討しているオーストラリアの事業または土地について精査する必要があります。審査対象取引への該当性、関連当局による審査手続・期間を含めた取引全体のスケジュール等を含め、専門性を有する弁護士の助言を受けつつ、慎重に検討・対応することが必要であると考えられます。
→この連載を「まとめて読む」
- 「外国人(foreign person)」の具体的な定義については外資買収法4条を参照。[↩]
- 外国政府投資家による買収に関しては、限定的な場合において一定の限定的な免除がある。[↩]
- オーストラリア事業体(Australian entity)とオーストラリア事業(Australian business)の違いについて、たとえば、オーストラリア事業(Australian business)に対する権益の取得は、外国人による当該事業(business)の資産(asset)自体の取得を含みますが、事業体(entity)の持分の取得には、資産(asset)自体の取得は含まれないことが挙げられます。[↩]
- 外資買収法55B(1)条。[↩]
- 外資買収規則8AA条。[↩]
- 外資買収規則5条。[↩]
- 金額的閾値(Monetary thresholds)。[↩]
- 事業への投資(Business investment)。[↩]
- オーストラリアにおける対内投資の判断枠組み(Australia’s foreign investment framework)。[↩]
- FIRB Application Portal[↩]
- 手数料についてはGuidance Note 10を参照 。[↩]
- 財務大臣は、仮命令(interim order)を発令することで、審査期間を最大90日間延長することができます。[↩]
- Foreign Investment Review Board, ‘Annual Report 2020-2021’, page vii.[↩]
- The Treasury Annual Report 2021-22, Part 5 Appendices Page 223[↩]
- Guidance Note 2[↩]
- 1997年電気通信法のPart 14を指し、オーストラリアの電気通信ネットワークおよび施設に対するスパイ行為、妨害行為、外国からの干渉という国家安全保障上のリスクを管理する規制の枠組みを規定しています。[↩]
- Guidance Note 15[↩]
- Legislation, ministers and delegated powers[↩]
- NZ海外投資法7条。[↩]
- NZ海外投資法12条および別紙1。[↩]
- NZ海外投資法13。[↩]
松本 拓
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士
2005年東京大学教育学部卒業。2008年早稲田大学法科大学院修了。2009年弁護士登録、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2012年インドネシア ジャカルタのSSEK Law Firm勤務。2016年米国コロンビア大学ロースクール (LL.M.)修了。2016-2017年米国ニューヨークおよびワシントンD.C.のSeward & Kissel法律事務所勤務。
主な取扱分野はM&A、コーポレート、経済安全保障(投資規制)で、ニュージーランド・インドネシア・米国での留学・勤務経験を活かし、アジア・パシフィック地域のクロスボーダー案件を多く取り扱う。
犀川 勝暁
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 アソシエイト弁護士・オーストラリア ニューサウスウェールズ州弁護士・ニューヨーク州弁護士
2011年シドニー工科大学法学部および教養学部卒業。2011年オーストラリア ニューサウスウェールズ州弁護士登録。2018年シドニー大学ロースクール卒業(LL.M)。2021年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2023年ニューヨーク州弁護士登録。
嶋原 友樹
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 アソシエイト弁護士・ニューヨーク州弁護士
2013年中央大学法学部卒業。2015年弁護士登録、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2022年米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ロースクール卒業(LL.M.)、2022~2023年オーストラリア・シドニーのMinterEllison法律事務所にて勤務。2023年ニューヨーク州弁護士登録。