【知財】知的財産に関する契約実務 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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知的財産に関する契約 三つのポイント

知的財産に関する契約等でよく問題になるのは、①知的財産権の帰属、②知的財産権のライセンス条件、③知的財産権の非侵害の保証条項ではないだろうか。これらの論点について、知的財産権分野で弁護士ランキングに掲載実績もあるiCraft法律事務所の内田誠弁護士にお話をうかがった。

「“①知的財産権の帰属”ですが、まず、開発委託契約や共同開発契約でよく問題になります。パターンとしては、(1)発注者帰属、(2)受注者帰属、(3)共有があります。知的財産権の帰属を議論するときに、特許権と著作権をひとまとめにして“知的財産権”の帰属を議論するのか、それとも、特許権の帰属と著作権の帰属について条項を分けて議論するのかをまず検討します。次に、発注者の立場からすると“すべての権利を自身に帰属させたい”という要望を持つことが多いのですが、受注者の立場からすれば、“開発成果を別の開発で利用したい(横展開したい)”と考えますので、開発成果に関する知的財産権のどの範囲を、誰に帰属させるかを検討します。プログラムを例にとると、従前から受注者が保有している著作権と汎用的なプログラムに関する著作権を受注者帰属とし、それ以外を発注者帰属にするといった方法があります。特許権(特許を受ける権利)の場合は、プログラムを例にとると、その発明を創出した者に帰属するという発明者主義の規定を設けることが比較的多いのですが、内部処理に関する権利は受注者に帰属し、そのプログラムを利用して行うビジネスモデルに関する権利は発注者に帰属すると規定する場合もあります」(内田弁護士)。

内田弁護士によれば、共同開発の場合は、安易な知的財産権の共有は避けるべきであるという。

「共同開発の場合、安易に開発成果に関する知的財産権を共有にすることに対して、警鐘を鳴らすことがあります。“共同開発”と言いながら、実際には当事者の一方だけが開発を行っており、他方は特に何もしていないにもかかわらず、知的財産権が共有になるのは不合理ですし、実態にあっていないからです。例えば、“各当事者の担当する役割部分から生じた知的財産権はその役割を担当した当事者に帰属する”という規定があります。共有にせずともライセンス条件で調整すれば双方当事者に特段のデメリットはありません」(内田弁護士)。

“②知的財産権のライセンス条件”については、ビジネスの内容をよく理解して、必要な権利について、必要なライセンスを受けることがポイントだ。

「例えば、著作権のライセンスの場合、支分権ごとに利用許諾を受けなければなりませんが、将来のビジネスを考えたときに、翻案権のライセンスを受けていないなど、必要な支分権のライセンスが受けられていないといった場合があります」(内田弁護士)。

“③知的財産権の非侵害の保証条項”について、発注者から強く非侵害の保証を要請されることは多い。

「知的財産権の非侵害の保証について、著作権であれば、第三者の著作物に依拠していなければよいので、著作権について非侵害の保証をすることはできると考えます。他方、特許権の場合は、特許権を調査し尽くすのは物理的に不可能です。そのため、特許権侵害によって生じる補償責任について上限を設けるなどして受注者は自らの利益を守ることが重要です」(内田弁護士)。

読者からの質問(発注者から知的財産権の非侵害の保証を要請された場合の交渉)

Q 発注者から知的財産権の非侵害の保証を強く要請された場合に、どのように交渉したらよいのでしょうか。
A 本文中でも述べたように、①対象を著作権に限定する、②補償責任の範囲に上限を設けるという対応があります。また、③受注者に故意(または重過失)があった場合に限り、補償責任が発生するとする対応もあります。交渉戦略としては、発注者が何を気にしているのかを把握して、①~③のどの提案を最初にして、その提案を拒否された場合に、次にどの提案をするのかを考えます。また、条項単体での交渉にならないようにすることも重要です。“この条項はそちらの要望を飲むので、この条項に関してどうしても譲歩できない”といった、“契約書全体”での交渉になるように注意しなければなりません(内田弁護士)。

法務担当者が身につけるべき知財に関する知識とは

知的財産権に関するセミナーを多く実施し、契約関係の相談や特許出願にも関わっている内田弁護士。法務担当者に必要な知的財産権に関する知識は、訴訟に関する知識よりも、契約に必要な知識や、出願実務であるという。

「知的財産権の場合、訴訟まで発展するケースはそう多くはありませんので、訴訟に関する知識の重要性は高くないと考えます。各知的財産権について、どのような権利が発生するのか、その権利が存在するときにどのような制限(法律上の制限)が生じるのか、その法律上の制限を契約で解除(実施許諾や利用許諾)するときにどのような契約条項が必要かという点をまず習得すべきだと考えます。この知識の習得方法は、“契約書を数多く読むこと”です。契約書について複数のバリエーションを読んで、なぜその条項が必要なのか、不要なのかを考えることが一番勉強になります。次に、特許出願などの出願実務に関する知識も重要です。ただ、これは机の上の勉強では身につかないことが多いので、特許出願等の出願業務を行う中で、分からないことを弁理士に確認したり、調べたりしながら知識を蓄えることが効率的です」(内田弁護士)。

内田 誠 弁護士

知的財産権は予防法務の徹底が重要

取引の実態に沿った契約条項を作り込み、自らも交渉の前線に立つ内田弁護士の手腕にクライアントからの評価は高い。最後に内田弁護士は「知的財産権に関する紛争は非常に大きな賠償額になる可能性があり、訴訟費用自体も高額になるため、紛争にならないように契約書などを作り込む予防法務が極めて重要です」と語り、締めくくった。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題』を 「まとめて読む」
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内田 誠

弁護士
Makoto Uchida

04年京都大学工学部物理工学科卒業。08年立命館大学法科大学院卒業。09年弁護士登録(大阪弁護士会)、岡田春夫綜合法律事務所入所。18年iCraft法律事務所開設、弁理士登録。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン検討会」作業部会委員、農林水産省「農業分野におけるデータ契約ガイドライン検討会」専門委員、特許庁スタートアップ支援施策IPAS知財メンター、特許庁「審判実務者研究会」委員、日弁連知的財産センター委員、日本弁理士会特許委員会副委員長等を歴任。経済産業省IP BASE AWARD知財専門家部門奨励賞受賞。