【危機・国際紛争対応】専門性を磨きあげてきた紛争解決部門巨大リスクの事前・事後両面で盤石な対応体制を - Business & Law(ビジネスアンドロー)

© Business & Law LLC.

“サバイバル”の先を見据えた中長期的な危機対応

コロナ・ショック、米中対立、ロシアのウクライナ侵攻、気候変動ルールの新たな枠組みの導入、経済安保政策——国際社会を巻き込む危機や政治リスクが、各国の政治・経済態勢に構造的な変化をもたらしている。グローバルに投資・事業展開する企業によっては経営の屋台骨をゆるがす事象に発展し、現地企業や政府との争訟の火種となる。紛争の内容や処理方法が多様化・複雑化の一途を辿る中、長島・大野・常松法律事務所の紛争解決部門は、組織面でいち早く先手を打ち、顧客企業の依頼に応えてきた実績を誇る。
「何でもこなす“マルチプレーヤー”型の弁護士が評価されていた時代から、当事務所では、長年、紛争解決に特化した人材・部門を設置し、最近ではシンガポール等内外のオフィスにおける紛争対応チームの陣容を拡大させ、とりわけさまざまな国際紛争案件への対応で、即戦力の体制を一層強化しています」(小原淳見弁護士、青木大弁護士)。
「ポリティカルリスクが現実化した後の危機対応や、訴訟や仲裁等の紛争代理のみならず、平時から非常時に備え、投資、M&Aをリスクから護る契約のドラフティング、投資協定を活用した投資プランニング等、日々の事業展開における相談を、アジア、欧米、中南米、そして最近ではロシア案件を中心に数多くいただいています」(小原弁護士)。

小原 淳見 弁護士

非常事態の直後は、文字どおり“サバイバル”が最優先事項となるため、法的問題はフォーカスされにくい。だが、徐々に落ち着くにつれ、堰を切って噴出するおそれがある。
「日本の民法を習得した法務担当者は、“ポリティカルリスクは自分たちに責任がないため、免責される”、あるいは“契約書の雛形にForce Majeure(いわゆる不可抗力)条項を入れているので対応済み”と安易に考えがちですが、英米法の世界では不可抗力に関する考えが日本法と大きく異なり、日本企業がポリティカルリスクに端を発した紛争に巻き込まれる事例は少なからず発生しています。不可抗力に対する法体系による考えの違いや、事業の現場における危機対応を踏まえた契約書の作り込みなど、現場を踏まえたリスク低減のためのアドバイスを心がけています」(小原弁護士)。
「コロナ禍の全盛期においては、まずは(ヒトも企業も)“生き残る”ことが最優先であったかと思います。海外駐在員が数千人単位で帰国したとも聞きます。ただ、危機が収束に向かうにつれ、現地で後回しにされてきたコンプライアンスの問題が今後顕在化してくる可能性を強く感じています。検知した不正・不祥事については、単に“穏便に着地させる”ことだけではなく、本社も密接な関与のもと、再発防止やレピュテーションの観点、ひいては今後の海外事業の中長期的な展望も踏まえ、真に顧客企業のステークホルダーに資する対応策は何かを意識しながらアドバイスすることを心がけています」(青木弁護士)。

危機下のクロスボーダーJV運営やM&Aはどうあるべきか

海外でのJV運営やM&A案件に内在する法的問題は、利害関係が構造上複雑であることが多く、全世界が事業継続を脅かされるほどの緊急事態に直面してからは、リスクに敏感な傾向に拍車がかかっている。両弁護士が過去の経験事例を整理して詳細を語る。
「JV事業がうまくいかなくなり、株主間の対立が先鋭化した場合には、親会社(株主)から出向する現地JVの取締役の善管注意義務の問題が非常に難しくなってきます。本人は、親会社の役職員という立場でありながら、JV取締役としてJV自体の利益に忠実であるべき現地法上の義務を負うこととなりますが、当該JVと第三者(株主親会社)間の取引上の利害が相反性を有する場合や、当該JVの内部情報の取扱いといった場面で“板挟み”に陥る可能性があります。また、対立が先鋭化した結果、パートナー企業が日本側の取締役個人を提訴し、優位な譲歩を引き出そうとする戦術も、新興国では散見されます。そのような“ゲリラ戦術”に対しては、毅然とした対応を行うことがまず第一ですが、無用な紛争を回避するためにも、現地の関連法規の正しい理解と、現地取締役の十分なケアが重要です」(青木弁護士)。

青木 大 弁護士

「クロスボーダーのM&Aでは、平時でも表明保証違反や、価格調整規定による価格決定で紛争が起こりがちですが、コロナに伴う緊急事態宣言がM&A取引を終了させるMAC(Material Adverse Change)に該当するか、制度変更リスクを売主買主どちらが負担するか等も問題になりました。ポリティカルリスクに伴う当事者の責任分担の明確化が重要です」(小原弁護士)。
「“コンプライアンス”を悪用した特殊なケースですが、日本企業(売主)が、海外当事者(買主)との間でSPAを締結しクロージングを控えた場面で、売買代金に不満な買主が現地当局に送金許可を出さぬよう働きかけ、意図的に前提条件の不充足を生じさせた可能性が疑われ、結局破談した事案を経験しました。先進国では考えがたいですが、新興国においてはそのような可能性も念頭に置いておく必要があります」(青木弁護士)。
出口のないトンネルはない。しかし、ゴールの選択は、道具(制度)の使い方を理解し、活用する企業側の努力・姿勢に大きくかかっている。
「コロナ禍を乗り越えつつある今、中長期的視点を保ち、海外拠点の再実査やリスク抽出のためのシステム構築の速やかな検討・実施が要求されているように思われます」(青木弁護士)。
「ロシアが制裁に対する対抗措置を打ち出す中、日本企業がロシアでの投資を保護するため、ロシア政府に対し直接救済を求めることができるISDS条項(投資家と国家との紛争解決条項)が、今までになく注目を集めています。投資協定による保護の内容、外国政府との交渉・仲裁代理・外国政府の財産執行等についてのお問い合わせも非常に多く頂戴しています。これらのお問い合わせは、投資規模が大きい大手企業からが中心ですが、国側も迅速仲裁や調停による紛争解決を模索しており、中小企業による国との紛争解決の利便性を高める動きが広まっています。企業のニーズに合った紛争対応のサポートを心がけております」(小原弁護士)。

→『LAWYERS GUIDE Compliance × New World』を「まとめて読む」
他の事務所を読む

 DATA 

所在地・連絡先
〒100-7036 東京都千代田区丸の内2-7-2 JPタワー
【TEL】03-6889-7000(代表)

ウェブサイトhttps://www.noandt.com/

小原 淳見

弁護士

90年東京大学法学部卒業。92年弁護士登録(第一東京弁護士会)。96年Harvard Law School卒業(LL.M.)。Covington & Burling LLP(ワシントンDC)、大手メーカー(社内弁護士)およびFoley & Lardner LLP(ワシントンDC)にて勤務。ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)やICC国際仲裁裁判所の副所長を歴任。International Council for Commercial Arbitration(ICCA)理事。日本政府よりICSID仲裁人パネルに指名。主な仲裁規則に基づく仲裁の代理人および仲裁人を経験。

青木 大

弁護士

00年東京大学法学部卒業。04年University of Michigan Law School卒業(LL.M.)。00~06年国土交通省勤務。07年弁護士登録(第一東京弁護士会)、長島・大野・常松法律事務所入所。14年~長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。シンガポール法弁護士4名を含むシンガポール・オフィスの紛争解決プラクティスチームを率いる。