ネット上でパクリ疑惑が寄せられたら、戦え! - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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―現役知財法務部員が、日々気になっているあれこれ。本音すぎる辛口連載です。

※ 本稿は個人の見解であり、特定の組織における出来事を再現したものではなく、その意見も代表しません。

自社商品にネットでパクリ疑惑が!?

『エセ著作権事件簿—著作権ヤクザ・パクられ妄想・著作権厨・トレパク冤罪』(パブリブ、2022年)という本を出すことになった。このサブタイトルの圧といったらどうだろう。有斐閣からは、多分絶対に出ることのないタイプの法律書である。正当な表現や著作物の利用行為にもかかわらず、不当に非難された事件や、“著作権者”側が敗訴した裁判例を集めて徹底批評するという内容である。
集めてみると結構この手の事件は多く、できるだけ面白おかしく読んでもらえるように書いたけれども、書く方としては、他人のこととはいえ、荒唐無稽な言いがかりの記録を編さんするのはなかなかしんどい作業である。

ところで、みなさんの会社では、自社商品や広告等に対して、SNSやネットニュースなどでいわれのない“パクリ疑惑”が寄せられた経験はないだろうか。いわれがあれば、謝るなり事後承諾を取るなりしなければならないのだが、誰も商品開発にあたって不正、不法な行為はしていないのに、「完全に一致www」などと囃し立てられた日にはたまったものではない。濡れ衣の盗作疑惑が公に喧伝されてしまったとき、どのように対処すればよいのだろうか。

疑惑を寄せられたデザイナーや担当者はエゴサーチもするだろうし、小さな書き込みやマイナーメディアの記事、お客様相談室などに寄せられたたった一人の意見でも、気にしてしまうものである。
小さくても声高な非難の声に追い込まれて、

「早くコメントを出した方がいいのではないか」
「似ていることは似ているんだから、謝罪した方がいいのではないか」

などと、釈明を焦る人は少なくない。だが大抵の場合、最も効果的な対応は無視・無反応である。

大規模な炎上騒動をネットニュースやワイドショーなどで見聞きした記憶から、過剰反応をしてしまうむきがあるが、実はその何倍、何十倍も、大して盛り上がらずに、すぐに忘れ去られる“疑惑”の方が多い。いざ当事者になると穏やかではいられない気持ちはわかるが、まずは“スルー”がおすすめだ。むしろ、謝罪でも反論でも公に反応すれば、そのことが騒動のニュースバリューを高めてしまう可能性があり、かえって報道などでも取り上げられやすくなってしまう。自分から問題を大きくするような行為は、避けるのが賢明である。

また、法務パーソンとしては、こんな時こそ鷹揚に構えなければならない。現場の担当者と一緒になってオロオロするのはもちろん、現場の落ち度を疑ったり、「脇が甘い」などと叱責するようではダメである。事案が濡れ衣の場合は、それが濡れ衣であることをしっかりと見抜き、何の落ち度もない社員や会社をしっかりと守らなければならない。

ちなみに、普段「法的には問題はないけど、炎上するかもしれないからやめておきましょう」としか言えない法務パーソンは、いざ本当に炎上したときにはこれっぽっちも役に立たない

 謝罪か、法的見解か、経緯説明か。それとも……

スルーを基本姿勢として堅持する一方で、万が一、騒動がエスカレートしたときに備えて、釈明や想定問答を用意しておく周到さも必要だ。このとき、謙虚な姿勢を見せておくのがいいだろうと考え、やましいことは何もないのに、謝罪の姿勢を示すのが一番よくない。理不尽な非難に付け入られる隙を与えることになるからである。

また、法務パーソンは、法的なロジックで対外的に正当性をアピールすることを考えがちだが、これも早計だ。法的正当性のアピールは、実際に係争になればもちろん必要だが、人々の不信感を拭うのには役に立たないことがある。いくら「著作権法上の保護対象ではない」「依拠性がないため著作権侵害にはあたらない」などと丁寧に訴えようが、「でも、結局似てるよね?」という、世間の身も蓋もない素朴な疑問を解消することは、必ずしもできないからだ。これは、たとえば問題行動を指摘された政治家が「批判を招く行動をとってしまい申し訳ないが、法的には問題はない」などと釈明しても、なおも反感を買い続ける様子を思い出せば、理解できるだろう。

企画書やラフスケッチを開示し、創作プロセスを丁寧に説明することで、先行作品とは無関係に、正当に創作したことを証明しようとするアプローチはどうだろうか。誠実な印象を与えるし、悪くない手だが、「後からではどうとでも言える」という、うがった見方もされうる。先入観を覆すには、もうひとつ物足りない。

謝罪はダメ、法的正当性の表明もいまひとつ。誠実な経緯説明でも不十分。では、どうすればいいか。これらは、いずれも身の潔白を証明するための“防戦”のアプローチだ。どうしても釈明に追われているような印象になってしまう。発想の転換が必要だ。そう、“防戦”ではなく、“攻戦”に出るのだ

攻撃こそ最大の防御なり!

つまり、自己の正当性を主張するのではなく、疑惑や非難を投げかける側の不当性や思慮の浅さを主張するということである。「何の罪もないのに、無根拠に濡れ衣を着せるお前の方こそ、間違っている」と応酬するのだ。

例えば、ありふれた表現が共通していることを以って「パクリ」だと非難されることがある。そんなときには、「ありふれた表現を独占しようとする態度こそが図々しい」と言えばいい。適法な引用を盗作だとあげつらわれたら、「引用が合法であることも知らない浅はかさを露呈している」とあしらえばいい。そして何より、確たる根拠もないのに、他人の行為を不正呼ばわりすることは「作り手に対する信用毀損である」と非難を返せばいいのだ。

何の根拠もなく、突然「昨日この人がスーパーで万引きしましたのを見ました!」と公衆の面前で指を差されたら、「私、昨日はずっと家にいたんです…」などと、その場で証明できない釈明をするよりも、「突然、人を指さして窃盗犯呼ばわりするお前は異常だ!」と反撃した方が、周囲を説得できる(実際異常だ、そんなヤツ)。それと同じことである。

“攻撃こそ最大の防御”とは、よく言ったものである。その攻撃態様が説得的であれば、世間はあなたの方になびくはずだ。降りかかる火の粉は、払うだけではダメだ。相手に吹きかけて燃やすのだ。パクリ疑惑が実は“エセ著作権”だとわからせるためには、戦う姿勢を示すことが最も効果的であり、また必要でもある。

そして、法的な問題で言いがかりをつけられたときに、法務が日和ってしまえば、もう他の誰も自信を持って戦えないことを自覚しなければならない。こんなときこそ、率先して切り込み隊長の役を買って出るのだ。そして最後に、「プレスリリースに“お前の方こそ異常だ!図々しい!”なんて書けるわけないだろバカが!」と、優しく指導して適切なトーンに直してくれる広報部門に感謝しよう。これがいわゆるグッド・コップ/バッド・コップの関係性である(違う)。

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友利 昴

作家・企業知財法務実務家

慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業で法務・知財実務に長く携わる傍ら、著述・講演活動を行う。新刊『エセ著作権事件簿—著作権ヤクザ・パクられ妄想・著作権厨・トレパク冤罪』(パブリブ)が2022年7月11日に発売。他の著書に『知財部という仕事』(発明推進協会)『オリンピックVS便乗商法—まやかしの知的財産に忖度する社会への警鐘』(作品社)『へんな商標?』(発明推進協会)『それどんな商品だよ!』(イースト・プレス)、『日本人はなぜ「黒ブチ丸メガネ」なのか』(KADOKAWA)などがある。一級知的財産管理技能士。

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