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―現役知財法務部員が、日々気になっているあれこれ。本音すぎる辛口連載です。

※ 本稿は個人の見解であり、特定の組織における出来事を再現したものではなく、その意見も代表しません。

ちなみにAIはこう言ってるんですけど~と言ってくる若手にビンタしたい!

「○○さん、この契約書に問題がないかチェックしてもらいたいんですが」「このパッケージに問題がないか調査してもらいたいんですが」。各部署から、そんな質問を日々受けているが、近ごろは、その後に“あるセリフ”がお決まりのようにくっついてくる。

「ちなみに、AIはこう言ってるんですけど~」

いや、直近ではそれすら言われなくなっているかもしれない。先日、ある現場担当者から、「今度支社で知財セミナーをやるんだけど、○○についての知財上のリスクとしては、こういうことが考えられますよね?」と、想定リスクがズラ~ッと並んだリストを渡された。

「あ、AIだな」と思ったものの、向こうもこちらも何も言わず、その状況を当たり前のように受け入れていた。5年前にはまったく考えてもいなかった未来である。

しかもそのリストの内容がなかなか的を射ていたので、思わず「完全に合ってます! ただ、こことここをこう直した方が研修資料としてはわかりやすいですよ」とだけ返してしまった。これじゃ、AIが最後に添えてくれるワンポイントアドバイスと同じである。

それでも私などは、「わーい。仕事が早く片付いた」などと、割と喜んでしまうタチなのだが……。AIが出した回答の検算だけを求めるような現場担当者の態度に、イライラしたり、困惑したりする法務担当者も少なくない。

気持ちはよくわかるのである。一般論的な法的リスクの指摘や助言はともかく、個別具体的な案件では、前提や個別事情を踏まえた分析をAIにさせるのは難易度が高い。にもかかわらずAIの回答を信頼している現場に対して、

「そんな不正確な情報を鵜呑みにしやがって……」
「この調子じゃ、法務部の仕事はAIに代替されてしまうのではないだろうか……?」

そう考えてしまうのもムリはない。

AIで下調べしてくる現場にイライラしてはいけない!

だが、法務・知財担当者だって、よくわからないマーケティング用語や会計用語をAIで調べて、ある程度知ったつもりになってから他部署との打合せに臨むことはあるだろう。だからといって、事業部門や財務部門の専門性を軽視しているわけではなく、業務を自分なりに理解したうえで、効率的に進めようという善意に基づく行動であるはずだ。社員が専門的な問題を自主的に理解し、解決しようとする姿勢を、否定することはない。

専門家としてのプライドや焦りから、AIで知った気になっているように見える担当者にイライラしたとしても、一番やってはいけないのは、そのイライラを相手にぶつけてしまうことだ。

「AIがどう言おうと関係ないんですよ! 法務の見解はこうです! いいですか!?」

そんな強い口調でまくしたてたら、相手からは、「AIならそんな口答えはしない! もう、これからは法務には聞かずにAIと会話をしよう……」と思われてしまうおそれもある。それが一番マズい!

冷静に考えてみれば、これはさほど目新しい悩みではない。生成AIが普及する前から、「ネットの解説記事にはこう書いてあったんですけど」「無料のデータベースで調べてみたら気になる特許はなかったんですけど」などと前置きして質問してくれる人は少なくなかった。

それに対して、「鵜呑みにしやがって」「検索式が甘すぎるんだよな」などと苦言を呈すだけでは、嫌われるばかりで、何もいいことはなかったのではないだろうか。

そうではなく、「それは古い情報で、今の法律はこうなっているんですよ」「そのやり方だと調査漏れが起きますから、こういうキーワードも使ってみてください」などと、プロの知識とスキルで、質問者の思い込みを優しく補正してあげることで、感謝と信頼を得られたはずである。

生成AIを使う社員と向き合う際も同じだ。専門家として、正すべきところを正す、補足すべきところを補う、という姿勢を意識することが基本だろう。いちいち、イライラしなさんなという話なのである。

とはいうものの、「ネットの記事にはこう書いてありますが」を正すのと、「AIはこう言っていますが」を正すのとでは、難易度が異なる。

ネット記事の情報は一般論であることが多いし、報道記事など、他人についての具体的な事例の解説であることもあるが、どちらにしても「それと今回のあなたのケースではここが違うから、採るべき対応も異なり、今回はこうすべきです」と、三段論法で説明することは難しくはない。

ところがAIは、“寄り添い力”を発揮して、個別具体的な“あなたのケース”に照準を合わせた回答をしてくれる。そして、それは専門家から見るとどこかがちょっとズレていて、違和感を覚えることも多いのだ。

存在しない条文や判例をでっち上げたような、わかりやすいハルシネーションを起こしていれば、かえって正しやすいのだが、日増しに精度が高まるなか、「間違ってはいないんだけどな……」といった回答のなかから、ズレや違和感を抽出して補正しなければならないのは、骨の折れる作業である。

AIの“論点のズレ”と“前提のズレ”を補正しよう!

ただ、法務・知財分野でAIが出してくる回答の“ズレ”の傾向をつかむことができれば、対応もしやすくなる。大きなポイントは二つ。それが“論点のズレ”と“前提のズレ”である。たとえば、現場担当者がAIにこんな相談をしたとする。

「共同研究をしている相手方の担当者が、こちらに相談もせずに単独で特許出願をしていることが発覚しました。相手方と締結した共同研究契約書を読んで、契約を解除できるかどうか確認してください」

AIの回答はこうだ。

「第○条に「本共同研究に伴い得られた発明に関する知的財産権は、甲乙の共有とする」と定められており、第△条に「甲又は乙が本契約の条項に一つでも違反し、当該違反の是正の催告後30日を経過しても当該違反状態が是正されなかった場合は、相手方は本契約を解除することができる」とあるため、単独出願は契約に違反することを伝え、是正のために相手方に特許を受ける権利の譲渡を要求すべきです。そのうえで相手方が30日以内に応じない場合、契約解除事由に該当します」

これは契約書の解釈としては正しいが、そもそも、共同発明だと認識していた発明について相手方が単独出願をしていたというトラブルが発生したとき、それを解決するために「契約書上、契約解除事由に該当するかどうか」という論点で検討し、行動を決めることが、適切なアプローチとは限らない。これが“論点のズレ”である。もっともらしい解決策に導かれて、不適切な意思決定をすることは避けなければならない。

ここで、「いや、確かに解除しようと思えばできるでしょうが、そもそも、解除していいんですか!?」と、大局的な視点からツッコミを入れるのが論点の補正である。解除しちゃったら、この研究、これ以上前に進まないかもしれないのである。その発明の内容や、単独出願されたことがもたらす影響の大きさを精査して、契約を解除し共同研究のプロジェクトを解消しなければならないほどの問題なのかどうかを考えるべきだろう。

そのような視点を持たない担当者が、自ら設定した論点で質問(プロンプト)設計してしまうと、AIはその論点のズレを補正せぬまま、話を先に進めてしまいがちだ。AIは、法律条文や行政のガイドラインの解説、契約書の解釈はできる一方、ユーザーが直面する問題の本質がどこにあるのかを考えて最適な論点を選択することは得意ではないからだ。相手方との関係性、相手方からの想定リアクション、違反の経緯、違反の程度、立証の困難性、研究開発や事業に与える影響などが考慮できていないのだ。

もっとも、質問(プロンプト)設計にこのような背景情報を盛り込むなどの工夫を施すことによって、この問題は解決のしようがある。ただ、現場のほとんどの担当者は、法律問題で悩んだときには、ストレートに法律上正しいか、あるいは契約書に照らして適切かという論点を軸にAIに尋ねてしまいがちなのだ。この点は、人間の法務・知財担当者がフォローすべき大きなポイントである。

また、AIは、質問者が適切に前提条件を設定しないと、いつの間にかAIが前提を固定していることがある。上の例でいえば、AIの回答は、“相手方が出願した特許は共同研究に伴って得られた発明であること”を前提としている。

この“前提のズレ”をキャッチして、「そもそもの前提は合ってるか?」と疑義を挟む必要があるだろう。

実際のシチュエーションとしては、自社の担当者は共同研究から生まれた発明だと思っているが、相手方はそもそも単独発明という認識である可能性も大いにあるのだ。その場合、いきなり相手方へ契約解除も辞さない勢いで権利譲渡を求めれば、関係性はこじれるばかりだ。発明の経緯や内容を確認し、互いの認識をすり合わせるプロセスが必要だろう。

AIは、聞かれたことに対しては人間さながら、いや、専門家さながらに上手に答えてくれる。そのため、AIがアウトプットした回答だけを読んでいると、そのズレを正すのは意外と難しい。回答が正しいかどうかを検算するのではなく、その回答が設定する「論点」と「前提」が正しいのかという視点で検算すると、ズレの指摘はだいぶウマくなると思いますよ。

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友利 昴

作家・企業知財法務実務家

慶應義塾大学環境情報学部卒業。企業で法務・知財実務に長く携わってきた経験を活かし、著述・講演活動を行う。著書に『明治・大正のロゴ図鑑』(作品社)、『企業と商標のウマい付き合い方談義』(発明推進協会)、『江戸・明治のロゴ図鑑』(作品社)、『エセ商標権事件簿』(パブリブ)、『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)、『エセ著作権事件簿』(パブリブ)、『知財部という仕事』(発明推進協会)などがある。また、多くの企業知財人材の取材・インタビュー記事や社内講師を担当しており、企業の知財活動に明るい。一級知的財産管理技能士として、2020年に知的財産官管理技能士会表彰奨励賞を受賞。

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