© Business & Law LLC.

ログイン

事業の行く末を見据えた契約設計を

企業の技術環境が高度化し、複数の技術分野が複雑に絡み合うようになった現在、知財が関わる契約実務においては、平時からの紛争を見越した手当ての重要性が増している。一色法律事務所・外国法共同事業代表の一色和郎弁護士は、外部の専門家としての企業との関わり方について、以下のように指摘する。「たとえば、ライセンス契約は5年・10年と長期にわたる関係が続く場合もあります。外部弁護士は法務部のみならず、適宜、事業部とも密に連携し、商品詳細やそのローンチのタイミング、派生する新商品開発予定等を丁寧に聞き取り、今後の事業活動においてライセンス契約がどの範囲までカバーするのか(どの範囲はカバーしないのか)検討します。依頼者と十分に事業認識をすり合わせ、契約書文言に反映させることが不可欠です」(一色弁護士)。
共同研究開発契約やライセンス契約では、権利帰属とライセンス対象の範囲が主要な争点となりやすい。裁判官時代を含め2,000件以上の知財紛争に関与してきた長沢幸男弁護士は、「特に法務部・知財部を持たない中小規模の企業では、この論点を意識しないまま契約を締結してしまうケースも多く、それが大きな紛争へと発展することがある」と語る。紛争が実際に生じた場合には、ビジネス上の実情を踏まえた柔軟な判断が求められる。「価値の高い権利が争われる場合には訴訟も辞さない姿勢で徹底的に交渉します。ただ、企業の目的は経営上の利益を向上させることにあります。徹底的に争うよりも良好なビジネス関係を築くことを優先し、相当程度の譲歩のうえで円満に解決する選択もあります。その判断の“妙”こそ、担当する弁護士の経験と知恵の見せどころですね」(長沢弁護士)。
共同研究開発契約においては、発明者認定の条項を裏づける記録が重要だと説明するのは、川瀬茂裕弁護士だ。「“知的財産権を創出した当事者に帰属させる”という条項を用いることがありますが、後に“誰が技術的貢献をしたのか”が争点になるケースが多くあります。判例上は“発明の創作的部分に貢献した者が発明者である”という判断枠組みが示されており、その認定を支えるのが研究開発過程のメール・実験ノート・ソースコードや設計資料といった記録です。紛争化する前に、契約書の定め方と併せて発明の経緯に関する事実関係を適切に記録として残すよう、法務部・知財部あるいは外部の弁護士から事業部に助言できればベストです」(川瀬弁護士)。

川瀬 茂裕 弁護士

適切な技術情報の管理で情報コンタミネーションを防ぐ

知財契約に関連する紛争類型として、深刻な問題となりうるトピックの一つが“情報コンタミネーション(技術情報の意図しない混入・流用)”だと、一色弁護士は説明する。NDAや共同開発契約等により他社から開示された技術情報の管理が適切に行われず、後に自社開発した新製品への差止めや損害賠償請求が起こるケースだ。「管理がずさんであれば、“使用していない”という反証は極めて難しい。先方から開示を受けた技術情報と自社製品の技術的な特徴が似ていれば、“使用したのでは”という推定は働きがちだからです。まずは競合他社からのセンシティブな情報受領そのものを“リスク”と捉えるべきです。また、この問題は法務部と知財部の谷間の論点であり、対応が手薄になりがちなことにも要注意です」(一色弁護士)。
同事務所では、法務部・知財部、技術開発部門を対象とした社内セミナー等を通じて、情報コンタミネーションのリスクの啓発に努めている。トラブルを防ぐ手段の一つとして、開示を受ける前に自社の情報を用いた特許を出願する方法もあるが、長沢弁護士は出願がすべてではないと語る。「自社技術の保護手段として出願が有効な場面は多い一方で、営業秘密として保持したほうがよいものも混在しています。出願戦略は、将来の侵害訴訟やライセンス交渉を念頭に置いた紛争リスクの視点と権利化実務の双方が噛み合って初めて機能します。弁護士と弁理士が一体となって検討できる当事務所が強みとしてご提案できる分野ですね」(長沢弁護士)。

長沢 幸男 弁護士

技術・法律の知見を統合した戦略的な支援

同事務所が強みとして掲げるのが“技術への理解”“訴訟実務”“クロスボーダー対応”の3点だ。一色弁護士が所長を務める創業50年の弁理士法人一色国際特許事務所には30名を超える弁理士・技術者が在籍し、機械、電気、化学、ソフトウェアなど、ほぼすべての技術分野をカバーする。同特許事務所は法律事務所と一体的に連携し、案件によっては同特許事務所の実務家もチームに加わることで詳細な技術的論点への目配りを可能にしている。また、法律事務所には裁判官出身の長沢弁護士、元システムエンジニアの川瀬弁護士をはじめ、訴訟・仲裁を中心に経験を積んだ多様なバックグラウンドを持つ弁護士が揃う。また、一色弁護士は長年の米国在住経験を有し、外資系法律事務所で数多くの国際紛争案件を手がけてきた。「知財の問題は技術・法律の知見どちらかのみでは解決できません。国境をまたぐライセンス契約や複雑な紛争には、法務・知財、および訴訟の見通し等の知見を総動員したグローバルな戦略が必要なのです」(一色弁護士)。

一色 和郎 弁護士

読者からの質問(クロスボーダー知財紛争での訴訟戦略)

Q クロスボーダーの知財紛争で、裁判所の所在国(地域)によって事実認定や証拠評価は異なりますか。
A 日米間の知財訴訟は、手続構造の面で根本的に異なります。たとえば、米国の特許侵害訴訟は陪審裁判であり、訴訟前に膨大なディスカバリーが行われます。時に“日本の訴訟手続は米国と比較して被告側に有利な制度設計となっている”という指摘もありますが、どの国・地域で訴訟を行うのかを選択できる場合には、制度上の差異を踏まえ、戦略的に判断すべきです。同一の紛争であっても、原告ならば米国でアクションを起こしディスカバリーを活用する選択肢があり、一方で日本の管轄に引き込みたい場合には日本で先行提起するという手法も検討されます。訴訟リスクを正確に見立てたうえでの管轄戦略を含めた総合的な対応が不可欠です。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2026』を 「まとめて読む」
他の事務所を読む

 DATA 

所在地・連絡先
〒108-0073 東京都港区三田3-11-36 三田日東ダイビル7階
【TEL】03-6776-7814

ウェブサイトwww.isshiki-law.com

一色 和郎

弁護士・弁理士
Kazuo Isshiki

98年慶應義塾大学法学部入学。00年デューク大学編入。03年デューク大学卒業(B.A.)。07年早稲田大学大学院法務研究科修了(J.D.)。08年弁護士登録(第一東京弁護士会)。09年ポールヘイスティングス法律事務所・外国法共同事業入所。11年オリック東京法律事務所・外国法共同事業入所。21年一色法律事務所・外国法共同事業設立、共同代表就任。国際取引、知的財産、独占禁止法等の分野を中心に、外国法や海外手続が関わるクロスボーダー訴訟・仲裁案件を多数取り扱う。海外法律事務所との協働や複数法域をまたぐ紛争対応を強みとする。

長沢 幸男

弁護士・弁理士
Yukio Nagasawa

82年東京大学法学部卒業。84年判事補任官。東京地方裁判所知的財産部、米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)、最高裁判所調査官、東京高等裁判所知的財産部判事を経て、04年弁護士(第一東京弁護士会)、弁理士登録。23年一色法律事務所・外国法共同事業入所。知的財産研究推進機構アジア知財戦略研究部門長。裁判官として2,000件を超える知財訴訟を担当。知的財産紛争をはじめ幅広い商事・紛争案件に従事。裁判所の判断枠組みや証拠評価を踏まえた実務対応を強みとする。

川瀬 茂裕

弁護士
Shigehiro Kawase

15年一橋大学法学部卒業、株式会社東芝、東芝インフォメーションシステムズ株式会社入社。20年弁護士登録(第二東京弁護士会)、インテックス法律特許事務所入所。24年AZX総合法律事務所入所。25年一色法律事務所・外国法共同事業入所。システムエンジニアとしての実務経験を経て、プログラム・システム関連紛争をはじめ、技術・ITを伴う知財案件や商事案件に従事。技術的知見を踏まえた証拠分析・実務対応を強みとする。