CGコード改訂の三つの柱
成長投資の促進
近時、企業の“稼ぐ力”の向上が一層求められる中、それに対するアクティビストからの要請や株主提案など投資家の動きは活発化の一途を辿っている。こうした動きは、企業に対して、成長投資の拡充(経営資源の配分の見直し)やガバナンスの機能強化をはじめとする企業価値向上のための舵取りを促すものであり、それらの要請は、2026年4月10日に示されたコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)の改訂案にも反映されている。
具体的には、CGコード改訂の柱の一つ目として“成長投資の促進”が挙げられており、これについて弁護士法人御堂筋法律事務所の浪山敬行弁護士は次のように指摘する。
「改訂案では、取締役会の役割・責務として、“成長投資等に向けた取組みの重要性”が明記されました。上場会社は、会社の目指すところ(経営理念等)に向けた成長の道筋を定め、それに沿った事業活動を行うべきであり、取締役会は、かかる成長の道筋を構築し、具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うべきであるとされています。また、取締役会は、成長の実現に向けて、成長投資や事業ポートフォリオの見直しといった経営資源の配分等に関し、具体的に何を実行するのかを株主にわかりやすく説明すべきとされ、経営資源の配分が成長の実現を目指して策定した経営戦略や経営計画等に照らし適切なものかを、不断に検証すべきともされています。特に検証すべき事項として、現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源の成長投資等への有効活用が例示されていることは注目すべきポイントです」(浪山弁護士)。

浪山 敬行 弁護士
取締役会の機能強化
改訂の柱の二つ目は“取締役会の機能強化”である。手塚沙英子弁護士は次のように指摘する。
「改訂案では、取締役会による経営陣への実効的な監督のため、会社の業績等の適切な評価を、客観性・適時性・透明性のある手続により経営陣の選解任を含めた人事に反映することが、“補充原則”から“原則”へと格上げされました。特に経営トップたるCEOの選解任は、最重要な戦略的意思決定として適時適切に行うべきであり、また改訂案では、CEOの後継者計画(サクセッションプラン)の策定・運用への取締役会の主体的な関与も原則へと格上げされましたので、策定が未了または不十分であれば、改めて取り組むことが求められます。
さらに、独立社外取締役の実効性向上に向けた整理も行われ、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合に独立社外取締役を主要な構成員とする指名・報酬委員会(指名委員会等設置会社以外の会社における任意の委員会)を設置して適切な関与・助言を得るべきことや、独立社外取締役のうち1名は他社での経営経験のある者にすること等が原則へと格上げされました。あわせて取締役会として備えるべきスキル等の特定や、会社の事業・財務・組織等に関する研鑽に努めるべきことも格上げされており、その対応も求められます。
加えて、解釈指針では、取締役会事務局(コーポレートセクレタリー)の機能強化も求められており、実効性ある議論のための適切な審議事項の設定や、社外役員への適確な情報提供等の連絡・調整等も期待されていることから、これらの点を意識した体制整備が求められます」(手塚弁護士)。
有価証券報告書の総会前開示
改訂の柱の三つ目として挙げられる“有価証券報告書の定時株主総会前の開示”について、続けて手塚弁護士が以下のとおり語る。
「改訂案では、総会での権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として、有価証券報告書の総会前提出が挙げられ、原則に格上げされました。また、解釈指針では、株主総会の3週間以上前の提出が最も望ましく、そのために総会の開催時期の後ろ倒しも選択肢になりうることが補足されています。ただし、金融庁は、現在の一般的な実務運用からすると3週間以上前の提出は容易ではないとの認識のもと、法務省とも連携して制度的な検討を進めるとのことであり、引き続き注視を要します」(手塚弁護士)。

手塚 沙英子 弁護士
アクティビスト対応における指針としてのCGコード改訂
藤岡天斗弁護士は、「こうしたCGコード改訂の動きはアクティビスト対応においても指針になる」と指摘したうえで、以下のとおり説明する。
「アクティビスト対応は、①アクティビストの動きが表面化していない“平時”段階、②株付け、面談の要請や株主提案などが行われる“準有事”段階、③実際に“同意なき買収”などが行われる“有事”段階に分けて議論されることが一般的です。有事に検討すべき事項が多いのはもちろんですが、平時に準備できる事項も多く、中長期的な企業価値向上のための施策の検討のほか、定期的な株主構成の確認を含む与野党分析や機関投資家の議決権行使基準の確認、株主総会で相当数の反対票が投じられた議案の分析などが、一般的に対応すべき事項として挙げられます。
準有事段階では、投資家のアクションや自社の状況に応じた個別具体的な検討が必要になります。面談要請がなされた場合には、合理的な範囲で応じるべきですが、面談において開示できる情報の範囲、進行要領や出席者についても事前に十分に検討したうえで臨む必要があります」(藤岡弁護士)。

藤岡 天斗 弁護士
読者からの質問(アクティビスト面談時の情報管理)
アクティビスト対応の勘所
森悠樹弁護士は、標的となる企業も増加し、企業に対する要求内容も多様化が進んでいる昨今のアクティビスト対応の勘所を以下のように述べる。
「アクティビストから株主提案を通じて経営陣の選解任を求められる、あるいは同意なき買収提案を受けるといった有事の際には、外部専門家とも連携しながら対応することになりますが、そもそもアクティビストの標的にならないに越したことはありません。そのためには、平時からエンゲージメントを通じて、アクティビストを含む自社の株主に対し、経営戦略や経営計画について、具体性かつ一貫性のある情報発信を行うことにより、資本コストを低下させ、自社の企業価値を株価に適切に反映させることが肝要です。そのような取り組みは、万が一アクティビストの標的となった場合に自社の考えを支持する与党株主を形成することにも資するものです。
また、アクティビストは企業にとって脅威と捉えられがちですが、“アクティビストも株主の一人である”という視点で建設的な対話を行うことは、今回のCGコードの改訂の本旨にも沿うものであり、盤石な企業経営に向けた重要な第一歩になると思います」(森弁護士)。

森 悠樹 弁護士
浪山 敬行
弁護士
Takayuki Namiyama
06年京都大学法学部卒業。08年神戸大学法科大学院修了。10年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。18年同パートナー就任。専門分野はコーポレート、M&A、コンプライアンス等。
森 悠樹
弁護士
Yuki Mori
12年京都大学法学部卒業。14年京都大学法科大学院修了。16年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。24年同パートナー就任。専門分野はコーポレート、M&A、独占禁止法・競争法等。
手塚 沙英子
弁護士
Saeko Tezuka
16年京都大学法学部卒業。18年京都大学法科大学院修了。20年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。専門分野はコーポレート、訴訟・紛争、個人情報保護法等。
藤岡 天斗
弁護士
Takato Fujioka
18年神戸大学法科大学院修了。20年弁護士法人御堂筋法律事務所入所。専門分野はコーポレート、M&A・ファイナンス等。