世界130以上の国と地域での事業を支えるグローバル法務体制
日本たばこ産業株式会社は、国内で唯一のたばこの製造を業とする法令に基づく特殊会社である。同社では、日本市場における喫煙者の減少や規制の進展等、大きく変化する事業環境に対応するため、米国RJRナビスコ社からの米国外たばこ事業の取得や英国ギャラハー社の買収等の大型M&Aを通じた海外展開を進展。現在では130以上の国と地域でたばこ製品を販売するとともに、喫煙による健康リスクを低減させる可能性のある製品の開発をはじめとするイノベーションにも注力している。また、たばこ事業のほかにも、医薬事業、加工食品事業も展開している。
「たばこ事業を法務面で支えているのは、ジュネーブにヘッドクオーターを置く事業部の法務機能で、世界各国に在籍する約200名の法務部員を統括してグローバル対応にあたっています。これに対し、コーポレート部門である我々法務・コンプライアンス統括部は、たばこ事業における大型投資やたばこ事業の根幹にかかわる訴訟などをサポートするとともに、当社における全社的な経営上の課題や判断に対する提言、支援といった、いわゆる経営法務機能に加え、たばこ事業以外のコーポレート、医薬、加工食品の各部門に対する法務サポートを行っております」(平尚 法務・コンプライアンス統括部長)。
また、医薬事業については、臨床研究を中心に展開。開発した化合物の潜在的価値を高め、それをほかの製薬会社にライセンスアウトして新薬を開発し、そのロイヤリティを得るというビジネスモデルだ。そのため事業部の法務機能はライセンス契約を中心に扱っている。同部ではたばこ事業と同様に、大型の取引に対し、経営判断に資する評価を行っている。一方、加工食品事業においてはグループ企業であるテーブルマーク株式会社や富士食品工業株式会社にある法務機能と協業、またはサポートするかたちで連携を実施している。
“心の豊かさを、もっと。”の実現に向け四つのチームで経営とグループ全体をサポート
平部長によれば、たとえば海外たばこM&A案件の契約交渉などの法務実務は事業部の法務部門が担当し、そこで得られた情報や交渉過程を検証しつつ、経営の意思決定に必要となる評価を法務・コンプライアンス統括部が担う。一方でたばこ案件以外の事案については、法務・コンプライアンス統括部が契約交渉含めて直接的/主体的に対応を行っているという。その基準となるのが、JTグループの経営理念である4Sモデルだ。これは、お客様を中心として、株主、従業員、社会に対する責任を高い次元でバランスよく果たし、4者の満足度を高めていくことで、中長期の持続的な利益成長を実現し、お客様に新たな価値・満足を継続的に提供するという理念で、中長期的視点から、将来の利益成長に向けた事業投資を目指すものだ。
また同部は、①全社のガバナンス強化や取締役会への上程議案のレビュー、株主総会対応、グループ全体の訴訟管理など重要施策を担う経営法務チーム、②たばこ事業における大型投資案件を事業部の法務機能と連携してサポートするとともに、医薬事業・加工食品事業の各種施策やコーポレート部門における資金調達、新規事業開発、人事労務対応等の法務支援を担う事業法務チーム、③コーポレート部門内における新規事業開発を知財面から支援するとともに、他部門の知財機能と連携してグループ全体の知財戦略や管理体制を構築・運営する特許法務・商標著作権チーム、④各事業・グループ各社における自立・自律的なコンプライアンスの実践とそのモニタリングを通じて、グループ全体のコンプライアンスを推進するコンプライアンスチーム、の4チームの構成(25名)により、経営を支えるとともにグループ全体の法務・コンプライアンスを統括している。
さらに、同社ではJT Group Purpose“心の豊かさを、もっと。”の具現化に向けた取り組みとして、2020年にコーポレートR&D組織「D-LAB」を創設した。その成果として、カフェインやGABAが配合されたさまざまなフレーバーの味わいを楽しみながら、深くゆっくりとした呼吸をすることで、新しい休憩体験を提供するston(ストン)シリーズを開発・販売するなどしている。同部では、こうした取り組みに際しての“スタートアップ支援法務”も提供している。
最大のキャリアパス それは自発的に動き仕事を楽しむこと
「キャリアパスのための特別の研修などは特段用意していません。外部の研修や他社との交流などを受けることはもちろん歓迎しています。つまり、やらされるのではなく、自発的に動いてもらうことが重要だと考え、尊重しています。事業を知るためにも、自分なりの知的好奇心をもって社内のたくさんの人と交流することが重要だと考えています」(平部長)。
同社では、事業部の法務機能だけではなくあらゆる部門への転身も可能だという。同社においては、異動に際してはキャリア面談を通じて本人の適正や意向を確認しつつ、最適な方向性を見出していく機会を設けている。
「法務というバックグラウンドを持っているからといって法務という狭い世界だけで満足する必要はありません。法曹資格を持っていても、それはその人の特性の一部でしかない。世の中はもっと面白いこと楽しいことがありますから、見たことのない景色を見ることで自分自身の人生の彩が豊かになります。まさに、JT Group Purposeで謳っている“心の豊かさを、もっと。”を実現してほしい。可能性は無限大ですからね。法務部門に在籍していたとしてもビジネスパーソンとして事業そのものを創ることも可能だと考えています。そのあとにまた法務に戻ってきてもよいですし。何よりも楽しんで仕事をしてほしいですね」(平部長)。
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平 尚 氏
未知の領域への憧憬と感謝の気持ちが組織を動かしより良い風土を醸成する
同社が求める人物像はいかなるものか?
「特定のスキルは考えていません。それを求めだすとあれも必要これも必要となりスーパーマンになってしまいますから。一方、人物面では大切なことは二つあって、一つはキャリアの考え方です。法務という殻に縛られることなく、未知の領域に足を踏み入れて見たことのない景色を見ることに面白みを感じられる人。もう一つは、謙虚であることです。仕事は一人では回らないものです。成長すればするほど、支えてくれたまわりの人や環境に感謝する気持ちを忘れない人。こうした人が増えてくると尊敬しあう風土が醸成されて組織も円滑に回り、メンバーも生き生きと働くことができます。このマインドを持った人がフィットすると思います。我々は、良心を持ったビジネスパーソンとしてステークホルダーの立場を理解して、寄り添って、一緒に考えて、話して、動いています。ここには“法”という文字はありません。実際には法の解釈を入れて解決に導くという場面もありますが、それだけではビジネスは広がらない。より良いビジネスを創ろうというマインドが何よりも大切だと考えています」(平部長)。
採用情報
日本たばこ産業株式会社の採用情報はこちら(キャリア採用情報 JTウェブサイト)
※ 2025年は7月頃の採用募集開始予定
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平 尚
日本たばこ産業株式会社 法務・コンプライアンス統括部長
Takashi Taira
98年JT入社。02年米国サザンメソジスト大学ロースクール修了。08年米国Akros Pharma社(医薬事業子会社)出向(2年間)。13年国際法務担当次長。16年経営法務担当次長。22年より現職。