法務で、はたらく。三井化学株式会社 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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提供素材、ソリューションに応じた多彩な契約

三井鉱山の石炭化学事業に端を発し、日本の化学業界において110年の歴史を紡ぐ三井化学株式会社は、化学が持つポテンシャルを最大限に活かすことで社会的な課題の解決に寄与すべく、長期経営計画「VISION 2030」を策定。“ライフ&ヘルスケア・ソリューション”“モビリティソリューション”“ICTソリューション”“ベーシック&グリーン・マテリアルズ”を新たな事業ポートフォリオの4本柱と定め、さらなるグローバル化とともに変革を押し進めている。
「化学製品には使い方によっていろいろな用途があります。この点を踏まえて、当社は従来の素材提供型ビジネスからソリューション型ビジネスへ転換することを決定しました。つまり、化学製品がいろいろな用途に使えるという“便利さ”を我々がお客様にお伝えし、お客様やその先の消費者のみなさまが抱える課題解決のお手伝いをするというビジネスモデルです。ビジネスの多様化に伴い、法務に求められる能力も多岐にわたります。たとえば、“契約”の部分をとっても、成長事業と位置づけるライフ&ヘルスケア・ソリューションでは、“眼鏡レンズ材料”“不織布”“メディカルデバイス”等、製品ごとに顧客が異なり、多彩な交渉・契約条項を求められます。また、モビリティソリューションでは自動車メーカーへの素材提供が主体となるため、安定供給と品質の両立を考慮した契約締結を要しますし、基礎化学品を製造するベーシック&グリーン・マテリアルズでは、何十万トンもの製品の安定的な提供が前提となるため、不測の事態における供給責任リスクの最小化や、想定外の使用方法によって生じるPL責任を回避するための契約を締結することが肝要です」。同社総務・法務部長・前田光俊氏は、変革の中で求められる“法務力”の一端をこう指摘する。

グローバル化学メーカーとしての法務機能

同社では1997年には17%であった海外売上高比率を2022年には49%に、海外在籍者比率も40%に上昇させたが、この流れは法務機能の面でも大きな変革をもたらしたという。「1997年当時は、海外売上と言っても商社を経由しての販売が多く、国際契約はほとんどない状況でした。その後、海外拠点を作り、それが増えていくに従い法務機能もクロスボーダー取引に対する知識と理解が必須となりました。現在は、グローバル取引に精通したリーガルパーソンの育成が最重要課題です」(前田氏)。
同社では現在、米国、中国、シンガポール、ドイツにそれぞれ地域統括会社を設置。これらの拠点には法務機能としてマネージャークラスの人員が配置されている。このうち、シンガポールは法務部員のキャリアパス形成の目的で、日本本社から人材が派遣されているという。
「一方、国内では4チーム制を敷いています。株主総会運営、取締役会運営、法定開示などを担当する商事法務チーム、事業本部ごとの契約作成・審査、M&A、提携等のプロジェクト案件への参画、法的トラブルへの対応などを担う三つの取引法務チームという構成です。男性14名、女性8名の総勢22名(うち日本法弁護士資格者1名、米国法弁護士資格者6名)の体制となっています」(前田氏)。

前田 光俊 氏

海外で経営の右腕となるリーガルパーソンを育成

同社法務部門におけるキャリアパスは、新卒の場合は工場の総務部門への配属が始点となることが多い。これは、化学メーカーとして、生産現場を知るためだという。その後、本社の総務・法務部に異動し、四つのチームのいずれかに配属され、本格的な法務業務に従事する。「本社では、1年目はチューターとともに基本的な企業法務知識や当社事業についての勉強、2年目は独り立ちの準備、そして3年目に契約の提案ができるよう育成していきます。法務部員は“パートナー”と“ガーディアン”としての役割を果たすための能力を備える必要があるため、まず会社を“よく知る”必要があります。会社の目指すべき方向性、業態、製品はもちろん、社内における自らのクライアントをよく知ることが重要です」(前田氏)。また、新卒・キャリア採用を問わず、定期的に担当する事業部門を変更し、グループ事業全般を理解できるようにしているという。
グローバルという観点からは、米国のロースクールへの留学制度が定期化されている。「法務部門全体の実力向上と切磋琢磨による組織のグローバル力の向上を図るべく、基本的には、全員が留学することが望ましいと考えています」(前田氏)。
留学の期間は2年。1年目は基本的な契約法や不法行為法を勉強しつつ、2年目は独禁法や金融商品取引法等、自身の興味がある分野を学ぶ場合が多いという。「将来的には、法務部門で経験を積んだ後、海外拠点でも働いていただきたいと考えています。法務で培った論理力、コミュニケーション力を活用して、法務業務にとどまらず、海外拠点トップの“右腕”として経営課題に取り組んでいただける人材になってほしいと思っています」(前田氏)。
海外拠点での活躍を含めたキャリアパスは同社ならではの特徴といえよう。

専門性を入れる“器”が大切 人柄とコミュニケーション力を重視

同社が求める人物像について、前田氏は「大切なのは人柄とコミュニケーション力」と指摘する。
「専門性は後からついてくるので、それを入れる“器”が何より大切です。“自分は法務の専門家だから”と独りよがりにならず、たとえば、契約において製品の安全性の保証を考えるとき、どこまでリスクテイクできるかを品質保証部門や製品安全センターといった専門部門とコミュニケーションを密にすることで正確に把握し、事業部門担当者が理解できるよう、“自分の言葉”で折衝するよう努める―そうしたコミュニケーション力を求めています。また、キャリア採用の場合、スタートアップや他業種ご出身など、私たちと異なる分野で経験をお持ちの方も歓迎いたします」(前田氏)。

(左から)藤本法務グループリーダー、前田部長、安田第3チームリーダー、森谷第1チームリーダー、木岡第2チームリーダー、川勝商事法務チームリーダー

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前田 光俊

三井化学株式会社 理事 総務・法務部長 ニューヨーク州弁護士
Mitsutoshi Maeda

88年東北大学法学部卒業、三井石油化学工業株式会社入社。岩国大竹工場事務部総務課文書係を経て93年本社総務部(文書グループ)。96年同法務グループ。98年米国チュレーン大学ロースクール修了。99年カリフォルニア大学(デービス校)ロースクール修了(LL.M.)。99年三井化学株式会社総務部(法務グループ)。01年ニューヨーク州弁護士登録。本社経営企画部、Mitsui Chemicals Europe GmbH企画管理部長を経て15年三井化学株式会社総務・法務部法務グループリーダー。16年同副部長(兼法務グループリーダー)。20年より現職。