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企業の事業活動の拡大とともに法務業務は増加し、法務部門の人材不足は深刻化している。2025年9月24日、リコージャパン株式会社はa23s株式会社と共同でセミナーを開催し、自社の法務改革から生まれた「RICOH Contract Workflow Service(RICOH CWS)」と、提携を結ぶ国内初のALSPサービス「クラウドリーガル」を紹介した。

法務業務の「拡大」と法務人材の「不足」

「現在、法務の人材不足が深刻化しているとよく聞かれます」とセミナーの冒頭で語ったのは、リコージャパンの山中雄一朗氏だ。国内全体が人手不足に陥る中、専門性の高い法務人材の確保は特に困難を極めている。
「法務経験者は今、売り手市場です。さらに人手が少ないのが社内弁護士(インハウスローヤー)で、採用が困難になっています」(山中氏)。
山中氏はこの状況について、企業側は「選ばれる法務部」になる必要があると指摘する。専門人材が重視するのは、キャリア形成の機会と働きやすい環境だ。
「自身の経験やノウハウを活かしながら高度な案件に取り組み、専門性を発揮できる機会を与える企業が選ばれています」(山中氏)。
しかし、いくら良い環境を用意しても、自社の社員がより良いキャリアを求めて転職していくことを完全に防ぐことは難しい。どうしても人材が流動的になりがちだ。そこで山中氏が重視するのが「個人の能力に依存しない法務」だ。
「これまでは、個人の経験・蓄積に基づいて業務を行っていたため、仕事のスピードや品質にばらつきが出ていました。今後はテクノロジーを活用して、経験や知識、ノウハウを共有・活用して誰でも同じような判断をしていくことが必要です」(山中氏)。

リコージャパンの法務改革から生まれた法務システム

リコージャパンの法務改革は1998年に始まった。「これより前は、契約のチェック業務や法務相談は、基本的に電話やFAXを使って行っていました」と山中氏は振り返る。
法務部の相談すべき担当者が明確でなければ電話で問い合わせることもできず、これが属人化の温床になっていた。また、分からないので問い合わせすらしないというリスク管理上の問題もあった。そこでまずは、法務相談システムを内製で導入し、その後段階的に契約管理、簡易審査機能の導入などの機能を拡充していった。
「リコーグループの場合は、契約書はすべて法務がチェックするというルールだったため、毎年法務部門の業務量が増加していました」(山中氏)。
この課題に対して導入されたのが簡易審査機能だ。法務組織内での案件割当や、相談回答の情報の記録と共有を行うもので、自動回答に近い機能もある。これを使用することで、一部の問い合わせに対しては法務部門が回答しなくても済む。現在、リコーグループでは回答業務のうち4割程度を自動回答で処理しているという。
「年間約3,000の案件が待ち時間ゼロで回答を得ることができています。これにより、すぐに次のプロセスに業務を進められるようになりました」(山中氏)。
この社内での経験を外部に提供するために作られたのがRICOH CWSだ。法務相談、承認申請、電子契約連携、契約管理の四つの機能で構成されている。特に法務相談機能には、組織的対応を実現するさまざまな工夫が盛り込まれた。たとえば、類似事案検索機能では、契約書のファイルを元に類似の過去案件を自動的に検索できる。
「回答が蓄積されれば、類似の契約書締結時の検討経緯や回答などの情報を簡単に参照できます」(山中氏)。
また、回答承認機能と関連相談機能を使えば、新人や配属されて間もない担当者が、先輩やメンターからアドバイスを受けながら回答することも可能だ。
「新人へのアドバイスとマネジメントが同時に可能ですので、回答業務の中で人材育成のフローも組むことができるのがポイントです」(山中氏)。

山中 雄一朗 氏

国内初のALSP「クラウドリーガル」

続いて登壇したa23sの大倉由莉氏は、自社の展開するALSPである「クラウドリーガル」について、「ALSPとはAlternative Legal Service Providerの略で、直訳すると“代替的な法務サービスの提供者”を意味します」と説明した。
クラウドリーガルの最大の特徴は、生成AIと法務の専門家を組み合わせたハイブリッド体制だ。
「生成AIを活用しつつ弁護士が最終判断を行い、弁護士のアドバイスとして提供します」(大倉氏)。
生成AIが得意とする分野には、大量文書の解析や要約、法律文書のドラフト、法務に関する質問の要約、改正情報の自動収集・整理などがある。一方で、懸念されるのはAIが生成した草案の法的妥当性やリスクの評価だ。これらを弁護士が評価する体制になっているという。デモンストレーションでは、ユーザーが簡単な質問に答えるだけでNDAを作成。また、弁護士レビューを行う際には、AIエージェントがユーザーに質問することで追加情報を収集したうえで、精度の高い確認が行われる様子が示された。
「このプロセスにより、弁護士の稼働時間を本質的な法的論点の検討法務に集中させることができ、高品質かつ低価格の法務サービスを提供しています」(大倉氏)。
クラウドリーガルの利用者数は累計5,000社を超え、取扱契約書数も1万件を超えた。通常の法律事務所の弁護士費用と比較して約25%以上低い価格を実現しており、低額からでも始められる多様なプランが特徴だという。
導入事例として、日常の定型契約書の法務審査を月40件アウトソースして業務を安定化させた企業、限られた予算で法務体制を構築したスタートアップ、上場準備やM&Aで活用した企業などが紹介された。

大倉 由莉 氏

法務DXの未来像

リコージャパンとa23sは資本提携を結び、法務DX分野で協業体制を整備している。
「RICOH CWSは契約に関するナレッジと履歴を一元管理し、法務部門の業務を効率化するサービスです。社外から法務業務をサポートするクラウドリーガルと組み合わせることで企業法務を効率化するだけでなく、社内の法務ナレッジを強化しながら法務人材不足を補うことができます」(大倉氏)。
山中氏は最後に「二つのシステムは、属人化しがちな法務業務を組織で対応していくことができるツールです。これを活用すれば、法務業務体制の軸を人から組織へ、そしてアウトソーシングへと変革していくことができます」と締めくくった。

山中 雄一朗

リコージャパン株式会社 デジタルサービス企画本部 MDS事業センター DLCS営業部 ダイレクトプロモ-ショングル-プ グループ リーダー

97年リコー関連会社入社。03年よりドキュメント管理、コンサルタントを担当。09年より株式会社リコーの契約管理改善プロジェクト支援。16年よりRICOH CWSの企画担当、販売リーダー担当。

大倉 由莉

a23s株式会社 Chief of Staff

早稲田大学大学院法務研究科修了(法務博士/奨励賞受賞)。カリフォルニア大学ヘイスティングスロースクール修了(LL.M./ビジネス法専攻)。クラウドリーガルでは、チーフ・オブ・スタッフとして、パラリーガル業務、マーケティング業務等に従事。

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