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事業特性や契約類型に応じた契約書レビューのポイント

契約戦略に豊富な知見を持つあさひ法律事務所の佐藤仁俊弁護士は、「契約書レビューでは、最新の法改正や裁判例への対応が求められるほか、事業の内容や取引状況、さらには売買、請負、業務委託といった契約類型によって、留意点が大きく異なります」と述べ、こう続ける。「たとえば、製造業者にとって下請法関連の条項は特に配慮が必要です。短納期案件で、通常と同単価での発注は“買いたたき”に該当するおそれがあるなど、下請法の基本的な内容は理解していても、細かな運用面で見落としがちです。開発委託や製造委託契約も、発注者側か受注者側かで大きく異なります。発注者側としては、成果物の内容を“高品質な物を作って”と定性的な表現にすることで、期待した性能に達する成果物が得られなかった場合の責任を主張しやすくなり、逆に受注者側としては、“この数値データを満たしたものを作る”と定量的な表現にすることで、スペックさえ満たせば債務を履行したと主張しやすくなります」(佐藤弁護士)。

佐藤 仁俊 弁護士

契約実務の機微に通じた橋本悠弁護士は、契約終了後も影響を及ぼす“存続条項”について注意を促す。「たとえば秘密保持義務や損害賠償条項など、契約終了後も効力を持続させなければ、当該条項を設けた趣旨が全うできないものがあります。また、基本契約終了後の個別契約の効力について述べる条項の有無なども、確認が必要です。“何を、いつまで、なぜ存続させるのか”、契約目的や将来の紛争リスクに照らして慎重な検討が不可欠です。特に秘密保持義務や競業避止義務の存続期間が無制限の場合、合理性を欠くとして、公序良俗違反で無効となるリスクもあるため、少なくともこれらの条項のみ存続期間を定めるなどの対応が求められます」(橋本弁護士)。

紛争予防と紛争時のリスク回避を目指した戦略的な条項作成

「契約書を作成・レビューする際には、“紛争時の立証活動”という観点が欠かせません。訴訟上の請求は要件事実を満たす必要があり、立証責任の所在も重大な関心事ですが、依頼者側に有利になるよう立証責任を転換する契約修正案を提示したところ、意外にもすんなりと通った経験があります。裁判になった場合を具体的に想定していれば受け入れ難い修正でしたので、企業として訴訟に詳しい弁護士に相談することの重要性を改めて感じた事例です」(佐藤弁護士)。
橋本弁護士は、見落とされがちな専属的合意管轄条項について次のように説明する。「相手方の提示する契約書では、遠隔地の裁判所を管轄とするケースも見受けられます。ウェブ会議を利用した“ウェブ期日”も増えてきてはいますが、訴訟にかかるコストも考慮し、まずは自社の本店所在地を管轄とする裁判所を提案するなど、戦略的な視点を持つことが肝要です」。

橋本 悠 弁護士

契約書レビューの質を左右する外部弁護士との連携術

契約書レビューにおける“攻め”と“守り”のバランスについて、商社、不動産、スポーツ関連の法務等に幅広く携わっている柿原研人弁護士は、「リスクの内容や程度を分析することは、弁護士に当然求められる役割ですので、安易にゴーサインを出すことはありません。ただし、単にリスクを指摘するだけでなく、前提事実を踏まえた代替案を提示するなどして、共に解決策を探ることを心がけています」と述べる。

柿原 研人 弁護士

橋本弁護士も、個別案件の背景を重視する姿勢を示す。「相手方との関係性が継続的なものか一時的なものか、事業の特性、双方の企業規模などを総合的にヒアリングしたうえで、許容できる具体的なラインを示すよう努めています」。
大手メーカーの法務課長を兼務する佐藤弁護士は、企業側の情報共有が的確な助言の前提になることに言及する。「契約の目的、背景事情や事業部の意図等を共有することにより質の高いレビューが可能になります。まずは社内で案件の目的や譲れない点、許容できる範囲などを整理するとよいでしょう。たとえ短時間でも依頼時に打ち合わせの時間を設けて認識をすり合わせることも有効です」。

AIによる契約書レビューとの付き合い方

最近は、AIによる契約書レビュー・システムを活用し、業務効率化を図る企業も増えている。橋本弁護士は、「抜け漏れのチェックや類型的な処理には有効」だとその利点を認めたうえで、「より深い分析や戦略的なアドバイスが求められる、AIでは難しい領域は弁護士に、という棲み分けがあります」と指摘する。柿原弁護士も、「契約関連で寄せられるご相談の多くは、トラブル発生時の対処やピンポイントでの条項修正依頼など、具体的な背景事情が絡む個別性の高い案件です。こうした案件については、依然として弁護士が対応することに重要な意義があると考えています」と同意し、AIによる効率化と、個別具体的な事案への深い洞察とのバランスこそが、今後の契約実務において求められる姿勢であることを示唆した。

読者からの質問(取引基本契約書においてリスクテイカーにならない方法)

Q 当社はメーカーから物品を仕入れ、企業や小売業者に販売する商社です。販売先と取引基本契約書を締結する際に、できるだけ当社がリスクテイカーにならない方法を教えてください。
A 製品の流通や販売を行うだけで、製造、加工、輸入に関与しない商社は、原則として「製造業者等」に該当しません。もっとも、商社が「販売元」や「発売元」等として商号や商標を表示する場合には、「実質的製造業者」(製造物責任(PL)法2条3項3号)に該当するとして責任追及を受けるリスクがありますので注意が必要です。同号該当性は取引形態や商社の関与の程度によって総合的に判断されます。たとえば、商社自身が商品企画をし、製造上の指示を行い、使用上の注意を作成し、当該製品を一手に販売する場合や、これにより販売先が当該商社を信用して製品を購入するような場合には、信頼責任の観点から、実質的製造業者に該当すると判断される可能性が高まります。仕入先との関係では、製造物の欠陥に起因する損害が発生した場合を含め、一切の賠償責任を仕入先が負うこと、商社が第三者に対して損害賠償義務を履行した場合には仕入先に対する求償権が発生すること、仕入れ先が自らの費用でリコールや紛争解決に対応すること等を定めることが理想です(保証の免責条項、責任の限定条項)。仕入先の保険加入については、見込まれる業務過誤の内容や金額感によってケースバイケースの判断となるでしょう。販売先との関係では、契約不適合責任の減免やその期間を短縮すること、損害賠償額の上限を設定すること等により、商社の負う責任を限定することが考えられます。なお、当然ながら、自社が販売先に対して負う責任を、仕入先に負わせることができなくなる事態(仕入れ先との間の契約不適合責任の期間が徒過する事態等)が起こらないよう注意する必要があります(柿原弁護士)。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2025』を 「まとめて読む」
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所在地・連絡先
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主な所属弁護士会:第二東京弁護士会

佐藤 仁俊

弁護士
Kimitoshi Sato

13年弁護士登録。18年4月~21年6月大手グローバル半導体検査装置メーカーに出向。企業法務全般を担当し、法務DX、法務関連業務の効率化を推進。現在、同社法務課長を兼務。

橋本 悠

弁護士
Yuu Hashimoto

14年弁護士登録。労務分野を中心に、企業法務全般、訴訟案件等を幅広く取り扱う。第二東京弁護士会「法教育の普及・推進に関する委員会」に所属し、小中学・高校での法教育授業を数多く実施。

柿原 研人

弁護士
Kento Kakihara

16年弁護士登録。企業法務全般(労務、契約、総会指導、M&A等)、不動産、スポーツ法および知的財産法等を幅広く取り扱う。