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クライアント各社に応じてカスタマイズした二階建てのコンプライアンス・危機管理体制

公正取引委員会(以下「公取委」)が、24年度の独占禁止法(以下「独禁法」)違反行為に対して発出した排除措置命令は21件と、過去10年で最多となり、カルテル、優越的地位の濫用、再販価格の拘束、下請法違反など、公取委による立入検査等をはじめとする法執行は引き続き活発な状況にある。
競争法関連案件で豊富な実績を有する、きっかわ法律事務所の那須秀一弁護士は、「公取委の行政調査への対応としては、まず、事前の備えと初動対応が極めて重要となる」と語る。

那須 秀一 弁護士

「事前の備えとしては、違反かどうか正確に見極めるために法律知識を正しく理解するとともに、有事の際に全体を俯瞰して適切な対応ができるよう、専門家の関与を含めた危機管理体制をあらかじめ検討しておくことが肝要です」(貞嘉徳弁護士)。

貞 嘉徳 弁護士

「日ごろからの研修、危機対応マニュアルの整備など、一般的な内容をカバーしていることを前提に、自社の特性に応じて二階建てとなるカスタマイズしたコンプライアンス・危機管理体制を整備しておくことが求められます。一般的な接触禁止ルールを定めても各社の実態に合致していなければ有効な体制になりません。各営業部などの潜在的なリスクをヒアリングによって抽出し、それらを自社が所属する業界における過去の違反事例に照らして、リスク度合いを分析するなどして体制を構築していきます」(那須弁護士)。

独禁法違反行為に関連して派生する問題を含めたシナリオ作成

次に、初動対応においては、行政だけでなく、社内、社外(取引先、株主、金融機関その他)のステークホルダー全体を俯瞰した事案の見極めが求められるという。
「行政対応では、争う余地のある事案かどうかの検討が必要です。対象がメインビジネスである場合、従前のビジネスのやり方を変える必要が生じて会社の存続にまで影響が及ぶこともあります。争う場合と争わない場合、双方のシナリオを想定し、最適解を追求していきます」(那須弁護士)。
「初動対応におけるもう一つのポイントは、時間との勝負だという点です。後手後手に回ってしまうと、シナリオどおりに進めることが難しくなり、余計なリスクまで背負い込んでしまう危険があります」(野尻奈緒弁護士)。

野尻 奈緒 弁護士

「行政対応の観点だけでなく、それにより取引先、株主、金融機関、従業員など関係者ごとにどのような影響が生じるかを事前に考えて対応することが大切です。昨今は、独禁法違反に関連して損害賠償請求やその他の行政機関への対応など、派生問題への対処も一般的になっています」(貞弁護士)。
そういった独禁法以外の論点にも対応できるよう、同事務所の競争法プラクティスチームは、会社法、労働法、訴訟などさまざまな案件実績を有するメンバーにより、より広い視点で議論できる多様性を重んじて組成されている。
「各業界情報や公取委の動向を日々収集・分析しています。一人では判断に迷うこともありますが、チーム内で検討・共有できるのはありがたいですね。これはチームの力量向上に役立っています。公取委がどこに着目しているかという観点なども、チームで動いているからこそ、さまざまな場面の経験値を蓄積・展開できています」(和田直道弁護士)。

和田 直道 弁護士

当局と企業双方の視点で紡ぐコミュニケーション

公取委による調査では、課徴金減免申請、調査協力減算制度や確約手続の利用など、当局との適切なコミュニケーションが求められる場面があり、その際、重要な役割を果たすのが独禁法案件に精通した弁護士である。報告や改善措置によってデメリットを軽減するのか、あるいは、訴訟を提起して行政処分の内容を争うのかといった、事案に応じた判断が求められるからだ。「公取委審査官の思考や重視するポイントを見極めてコミュニケーションをとることで、会社にとってその時点での最善策を選択できます」(那須弁護士)。
このように公取委との卓抜したコミュニケーションが可能となる背景には、那須弁護士の公正取引委員会事務総局審査局審査専門官としての経験と当局との信頼関係がある。一方、民間企業への出向経験のある野尻弁護士は、“依頼者側の視点からコミュニケーションをとることができる”という強みを持つ。すなわち、当局側の経験と民間側の経験を併せ持つことで、事案の進め方をイメージし、より良い競争環境実現に資するよう最終結論へ舵をとることができる。
また、海外子会社が海外当局による調査を受ける場合、信頼できる現地弁護士による対応が必要となるが、同事務所は、法律事務所の世界的ネットワークであるTerraLex(テラレックス)を通じて各国の法律事務所との連携も可能である。「欧米主要国を含め125か国をカバーしており、レアな国も含めて国際的に定評のある現地法律事務所の弁護士にいち早くアクセスできる体制を整えています」(貞弁護士)。

読者からの質問(近年の独禁法違反事例や有事に備えた対応)

Q 近年の独禁法違反事例や有事に備えた対応について教えてください。
A 最近の違反事例では、保険や電力などの規制業界をターゲットにする案件も増えてきています。さらには、カップ麺の再販売価格の拘束、自動車販売の抱き合わせなど、消費者目線での案件も増加傾向にあります。こうした有事に備えるためには、“慣習として以前からやっていることだから大丈夫”という意識を捨てて、常に法的な視点から当該行為の妥当性について検討を加えることが大切です。
場合によっては、ビジネスにブレーキをかけることもありますが、法務部としては勇気をもって対応しなければなりません。そのためには、ありきたりなコンプライアンスマニュアルや研修で満足するのではなく、自社の属する業界やビジネスの特性に則したコンプライアンス体制を構築していくことが求められます。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2025』を 「まとめて読む」
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那須 秀一

弁護士
Hidekazu Nasu

04年京都大学法学部卒業。05年弁護士登録、長島・大野・常松法律事務所入所。07年きっかわ法律事務所入所。11~13年公正取引委員会事務総局審査局審査専門官(主査)。20~22年大阪大学法科大学院非常勤講師(「経済法2」「経済法演習」担当)。大阪弁護士会所属。

貞 嘉徳

弁護士
Yoshinori Sada

03年同志社大学商学部卒業。06年弁護士登録。12年ライデン大学にて欧州・国際ビジネス法を専攻修了(LL.M.)。12〜13年Hengeler Muellerブリュッセルオフィス。16~17年Echelon Wealth Partnersバンクーバーオフィス。大阪弁護士会所属。

野尻 奈緒

弁護士
Nao Nojiri

06年大阪大学法学部卒業。08年京都大学法科大学院卒業。09年弁護士登録、きっかわ法律事務所入所。15~17年民間企業出向。17年きっかわ法律事務所東京事務所。東京弁護士会所属。

和田 直道

弁護士
Naomichi Wada

15年大阪大学法学部卒業。17年京都大学法科大学院卒業。18年弁護士登録。23年きっかわ法律事務所入所。大阪弁護士会所属。