© Business & Law LLC.

ログイン

法務部門は戦略実現の“パートナー”へ

社会や事業環境が急激に変化する中、法務部門に求められる役割は大きく変化している。従来の契約書作成や事後の法的チェックといった受動的業務から脱却し、経営戦略の立案段階、事業スキームの構想段階から積極的な関与が求められているのだ。「従来の“最終的な適法性検証担当”から、“事業立ち上げ段階から関与し、事業戦略を実現するパートナー”へと役割を見直さなければ、先端事業に必要なスピードに対応できません。後追いの対応では時間・労力・費用が余計にかかりますし、事業機会を逸することにもつながりかねません。弁護士への法務部門のニーズも変化しているように思います」と、弁護士法人第一法律事務所の山口航弁護士は指摘する。
福本洋一弁護士は、「旧来手法の限界は、弁護士との相談場面にも表れています」と続ける。「旧来は、企業の法務部門側で事業部門が進める事業内容に沿った契約書を作成して“これで問題がないか”と相談に来られるケースが多かったのですが、特に私がよく取り扱っているAI・データビジネス分野では、事業部門の方もデータビジネスを従来型のビジネスの延長で考えており、その本質を理解されていないため、ご相談の結果、事業部門の目標を効率的に実現する観点から、スキームの設計段階からやり直した方がよいという結論になるケースが少なくありません」(福本弁護士)。

福本 洋一 弁護士

法務部門が“チェック機能”だという固定概念を超えて“法律のわかるコンサルタント”として機動的に活躍するには、従来の業務プロセスや組織のあり方、企業風土そのものの変革が不可欠となる。

出向先で得た事業部門との関係性構築のカギ

山口弁護士が2年間出向したオムロン株式会社(以下「オムロン」)では、常に変革を意識した取り組みが行われているという。大手製造業である同社では、ビジネスカンパニーごとに法務部員を配置し、事業部門が法務部員と日常的に連携し、法務部員が新規プロジェクトの初期段階から関与できる体制を整えている。「法務部員が事業の初期段階から関与するには、事業部門との関係構築が重要だと実感しました。同社法務部では、事業部門と信頼関係を構築し、“パートナー”と認識されるよう、法律用語の濫用を避け、リスクの指摘だけでなく、解決策や代替案を提示するように求められました」(山口弁護士)。
また、同社法務部は事業部門への提案のために外部弁護士を柔軟に活用しているという。同社からデータビジネスに関する相談を受ける福本弁護士は「同社からのご依頼では、常に事業部門と法務部門の社内協議の段階から関与を求められます。私が外部からの視点として指摘する法的課題と同種サービスでの自主規制との対比等の観点を踏まえて法務部門と事業部門で協議してもらい、一緒に最適なスキームを作り上げていきます。私自身も専門的な知見を最大限事業に活かしてもらえるので楽しいですね。事後的な利用規約等の適法性検証のご依頼だけであれば、専門性の高い弁護士に依頼する価値は大幅に低下すると思います」と語る。

適法性を超えた“ガバナンス推進”へ

近年、「AI事業者ガイドライン」やEUのAI Act(Artificial Intelligence Act)において、過去データ依存による差別的バイアスの再現や公平性への影響が重大な課題として指摘されている。AIを活用する企業においては、単なる“適法性”だけではなく、“倫理的・社会的受容性”の検証プロセスを組織設計していくことが喫緊の課題となっている。
こうした課題に対応するため、多くの企業で法務機能を担う組織構成にも変化が見られる。“ガバナンス推進本部”等の名称で、適法性の検証にとどまらず、倫理的・社会的受容性の観点からプロダクトやサービスを検証する部門を持つ企業が増えているのだ。「私は、オムロンの法務部に出向していましたが、リスクマネジメント部門をはじめ、必要に応じてIT部門や情報管理部門ともプロジェクトチームを組んで仕事をしていました。“法務”の枠を超えた範囲の業務にも対応していたので、垣根を越えて他部門と協議し、連携することは当たり前のことだと感じていました」(山口弁護士)。

山口 航 弁護士

「先端分野のビジネスでは、法規制が追いつかないものの、顧客を含めたステークホルダーに違和感を抱かせると支持されません。旧来の法務部門の役割ではこれらに対処できないため、先進的な事業に取り組む企業ほど、倫理的・社会的な視点を含めたリスクマネジメントやガバナンス推進をミッションとした部門を設置していると思います。最近は、法務部としては別の弁護士と顧問契約があるものの、ガバナンス推進の部署として法的・倫理的・社会的視点からの総合的なサポートという形で顧問契約を依頼される例もあります」(福本弁護士)。

企業のトランスフォーメーションに応えられる法律事務所に

法律事務所側もこうした企業側の姿勢の変化に対応する必要があると両弁護士は語る。
「法的助言はもちろん、ビジネス判断や倫理的・社会的判断に関しても、依頼者の社内リソースを超える知見を提供することが我々の価値だと考えています」(山口弁護士)。
「法規制への対応のみならず、各種業界の自主規制の動向等を踏まえた、サービスの信頼性を向上させる取組手法のご提案等を求められることが多く、クライアントからのご相談対応を通じた学びや新たなビジネスに対する法的視点からの研究等を通して、私自身も常に変革し続けなければならないと感じています」(福本弁護士)。

読者からの質問(ガバナンス推進時、経営陣の理解や協力を得る方法)

Q 法務部門がガバナンス推進に取り組む際、経営陣の理解や協力を得るにはどうすればよいでしょうか。
A 抽象的に「ガバナンス推進が重要」と主張しても、経営陣をやる気にさせることは難しいと思います。DX化やAI・データ活用等、経営陣が取り組みたい経営課題に紐づけた役員研修や勉強会等において、社会的非難を浴びて炎上し、事業終了に追い込まれた実例等を示し、「これらのリスクを回避するためのガバナンスが求められている」と各論で説明することが、経営陣に最も説得力があると思います。実は、そのような“隠された意図”のある役員研修のご依頼も多くなっています。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2025』を 「まとめて読む」
他の事務所を読む

 DATA 

所在地・連絡先
■大阪事務所
〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島2-2-7 中之島セントラルタワー24階
【TEL】06-6227-1951(代表) 【FAX】06-6227-1950
■東京事務所
〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-7-1 有楽町電気ビル南館6階
【TEL】03-5252-7022(代表) 【FAX】03-5252-7021

【E-mail】lawyers@daiichi-law.jp(代表)

ウェブサイトhttps://daiichi-law.jp/

福本 洋一

弁護士
Yoichi Fukumoto

99年同志社大学法学部卒業。02年同志社大学大学院法学研究科修了。03年弁護士登録(大阪弁護士会)、第一法律事務所入所。14年同事務所パートナー就任。システム監査技術者、公認システム監査人。
E-mail:fukumoto@daiichi-law.jp

山口 航

弁護士
Wataru Yamaguchi

15年同志社大学法学部卒業。17年京都大学法科大学院修了。18年弁護士登録(大阪弁護士会)、第一法律事務所入所。22~23年プライム上場企業(オムロン株式会社)出向。中小企業診断士。
E-mail:yamaguchi@daiichi-law.jp