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根本原因の究明が再発防止の要諦

不正・不祥事の再発防止のために重要な点の一つは、不正・不祥事やヒヤリハットが発生した際に、その根本原因を徹底的に究明することだ。ひふみ総合法律事務所の堤大輔弁護士は「過去の事例でも明らかなように、根本原因を解明せずに改善策を講じても、再発を完全に防ぐことは困難です」と指摘する。
たとえば、2015年に発覚した東洋ゴム工業株式会社(現・TOYO TIRE株式会社)の免震ゴム問題では、外部調査チームの調査報告書において、過去の類似不正事例に対して一応の再発防止策は講じていたものの、当該事例の調査が不十分であることや再発防止策が奏功しなかったこと等が発生原因の一つとして指摘されている(「免震積層ゴムの認定不適合」に関する社外調査チーム「調査報告書(公表版)」(2015年6月19日))。
発生原因の究明には、“不正のトライアングル”(不正の動機・機会・正当化が揃っているか)や“3線ディフェンス”(事業部門・管理部門・内部監査部門がそれぞれ機能していたか)といった分析フレームワークの活用が一般的だ。加えて、堤弁護士は、実践的手法として“なぜなぜ分析”も推奨する。「“なぜ”という問いを繰り返し、根本原因を突き詰めます。これは“不正のトライアングル”等で得た着眼点をより深く掘り下げていくために有用なツールです」(堤弁護士)。
多くの企業が陥りがちな失敗は、問題を特定の部門や個人に限定してしまうことだ。堤弁護士は「たとえば不正が生じた調達部門についてだけ再発防止策を講じても、他部門に同様の不正リスクが残存するおそれがあります。根本原因を踏まえた、広がりのある分析が不可欠です」と警鐘を鳴らす。
矢田悠弁護士は「根本原因を適切に分析することが類似不正の予防に有用である一方、より根本的な原因に遡るほど、会社の風土や役員の意識など、現場担当者では手に負えない課題になっていくことも事実です。根本原因の分析には、社外役員や監査役が率先して関与する必要があります」と、経営層を巻き込む重要性を強調する。
初動対応も重要だ。「不正・不祥事対応の経験が少ない企業は、どうしても保守的、消極的な対応になりますが、最初から必要十分な体制で臨むことが、スケジュール遅延や追加コストの防止につながります」(堤弁護士)。

堤 大輔 弁護士

内部通報制度で火種の早期発見 調査には社外役員の活用も視野に

不正・不祥事事案発覚の端緒として、内部通報は統計的にも上位を占める。各調査報告書でも内部通報制度の重要性が繰り返し指摘されており、適切な窓口の制度設計が再発防止のカギとなりうる。「内部通報で不正を早期に発見し、大事になる前に社内で対処する制度の有用性が認識されています。不必要な外部通報やマスコミ報道を防ぐためにも、この制度を活用する企業が増えています」(堤弁護士)。
堤弁護士は「従業員や取引先から寄せられる情報には温度感が高く、クリティカルな指摘も少なくありません。また、通報事案の蓄積により留意すべき問題のバリエーションが増えるため、モニタリング機能の向上にも有用です」とその効果を評価する。
いわゆる“ワンマン企業”に不正リスクがあることは広く認識されているが、コンプライアンス意識が高い大企業でも油断は禁物だ。「内部統制が整備された大企業でも、“不正の火種”は必ず存在します。火種が小さいうちに適切に対処できるかが重要です」(堤弁護士)。
外部窓口の設置も策の一つだ。会社に直接通報することへの心理的負担が軽減され、通報が促されることが期待できる。「外部窓口には、通報者の話を整理し、“通報者が何を言いたいのか”を明確にして、会社が対応しやすい形にする役割もあります。“不正事案かどうかがわからない”“通報してよいのかがわからない”という方の話にこそ耳を傾けるべきです」(堤弁護士)。
調査体制の選択も重要だ。内部調査から外部調査への切り替えについて、堤弁護士は「経営陣の関与が疑われる場合や社会的影響が大きい場合、調査の中立性・独立性に疑義がある場合などは、社内の構成員のみでの調査には事案の矮小化のリスクがあるため、第三者である専門家の関与する調査が有力な選択肢となります」と指摘する。「“社内調査か第三者委員会か”の二択ではなく、外部弁護士を含む社内調査など、“内部”と“外部”の関与の割合にもグラデーションがあります」(堤弁護士)。
矢田弁護士は、より本質的な観点から、社外役員の活用を提案する。「会社法が予定する本来的な建て付けとしては、会社の事情を理解し、かつ独立した立場の社外役員が調査の陣頭指揮をとることが望ましいはずです。実際、近年公表されている調査委員会事例の20~30%程度で社外役員が委員として参加しています。ただし日本では、いまだに社外役員による調査への信頼が十分ではない場合があり、そのような際の受け皿として第三者委員会が機能している面があります。その意味で、現在の実務には過渡的な面があるともいえます」(矢田弁護士)。
なお、不正・不祥事の防止や、いざ事案が発生した場合に適切な対応を行うためには、その分野に長けた役員や従業員の人材が求められるが、リソースは限られているようにも思われる。どうしたらよいのだろうか。その点、矢田弁護士は次のように指摘する。
「この分野では、経験に勝る宝はなく、大きな不正・不祥事対応を経験した方ほどリスク感度が高い傾向があります。不正・不祥事があった会社や、まして、それが原因で倒産してしまった会社からの転職者というと何となくイメージが悪く思われがちですが、そうした企業の管理部門で“敗戦処理”を担当した方ほど、“二度と同じことは起こすまい”との意識で、忌憚なく会社の問題点を指摘してくれることが期待できます」(矢田弁護士)。

矢田 悠 弁護士

読者からの質問(社内調査では対応しきれなくなった場合、途中からでも外部に相談すべきか)

Q 社内調査では対応しきれなくなった場合、途中からでも外部に相談すべきでしょうか。
A “社内調査を進めてみたけれど困っている”というご相談は非常に多いです。実際には、“もう少し早い段階で相談いただければ、より効率的で適切な対応ができたのではないか…”と思うケースもあります。特に事実認定については専門的な技術が必要な分野であり、経験のない担当者の方には負担も大きいので、やはり調査の途中からであっても積極的に外部の専門家にアドバイスを求めることが必要なのではないでしょうか。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2025』を 「まとめて読む」
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矢田 悠

弁護士
Yu Yada

04年東京大学法学部卒業。06年東京大学法科大学院修了。07年弁護士登録(第二東京弁護士会)、森・濱田松本法律事務所入所。12年証券取引等監視委員会出向。14年金融庁監督局証券課・総務企画局企画課信用制度参事官室出向。18年ひふみ総合法律事務所設立、パートナー就任。公認不正検査士(CFE)。

堤 大輔

弁護士
Daisuke Tsutsumi

12年中央大学法学部卒業。14年中央大学法科大学院修了。15年東京地方検察庁検察官任官。17年和歌山地方検察庁。19年横浜地方検察庁。20年東京地方検察庁。21年弁護士登録(第二東京弁護士会)、沢藤総合法律事務所入所。24年ひふみ総合法律事務所入所。