【ESG】サステナビリティ法務とEU情勢への対応 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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法分野を横断する議論にチーム体制で対応

いまや企業活動、特に上場企業においてはESG・サステナビリティに関連する取組みを行うことは当然となった。国内でも新たな法規制やガイドラインが整備され、法務部にも法令遵守にとどまらない役割や議論への参加が求められている。
「クライアント企業においても法務部門がESG・サステナビリティ関連の取組みの旗振り役となっている場合は多く、我々としても法務部門の積極的な関与をサポートすることが多いですね」と語るのは、危機管理・コンプライアンス分野での経験をもとに企業に本分野についてのアドバイスを行ってきた、弁護士法人大江橋法律事務所の石田明子弁護士だ。
同事務所は2021年からESG・サステナビリティの専門チームを設立し、異なる専門性を持つ弁護士が所属することで、案件に応じて各々の専門性を持ち寄ることができる体制を整えている。「ESG・サステナビリティ分野では、通商規制など複数分野の論点が交錯することが多いです。当事務所ではチームの力を活かし、各拠点のあらゆる産業分野に対してビジネスと人権を含むESG・サステナビリティ関連のアドバイスを提供できるようにしています。また、旧来から環境関連の法的問題を取り扱ってきた経験を活かし、デューデリジェンスにおける環境項目や再生可能エネルギー、カーボンクレジット取引など、環境に焦点を絞った案件についての経験も豊富です」(石田弁護士)。

石田 明子 弁護士

サステナビリティ法務はリスクに即した優先順位づけが肝

ESG・サステナビリティ関連の取組みは従来の規制・法令対応やコンプライアンスの枠組みだけでは捉えきれない部分もあるものの、やはり現行法の解釈や法的論点、リスクの有無を整理することが議論の出発点であると石田弁護士は語る。「法務部門には、この議論の内容を社内共有するとともに、“問題が顕在化・激化した場合にどのような事態になるのか”という視点からの検討が求められます。さらに、NGOを含むステークホルダーとの実りあるエンゲージメントに向けた法務部門への期待も大きくなっています」(石田弁護士)。
ESG・サステナビリティ領域において多様な役割を求められる法務部に対し、同事務所は各企業の需要に応じてオーダーメイドの支援を実施している。「基礎から手取り足取り取組みのサポートをする場合もありますし、担当の方が作成した取組みプランの抜け漏れのみを確認する場合もあります。対応人員が少ない場合は、リスクの濃度に応じた優先順位に沿ってご対応いただきます。同業他社の標準的な取組みをベースにこちらから提案をしたり、経営陣や社内への伝え方のアイデアを求められたりすることも多いですね」(石田弁護士)。

制度改正や議論の変化を専門家の目でキャッチアップ

特に企業が課題として感じやすい点が最新論点や情報のキャッチアップだ。範囲が多岐にわたるうえ、変化のスピードは速く、議論の先端が欧州であることから情報が外国語であることも多い。「企業の業種・業態に応じて定期的に国内外の法律やガイドラインのアップデート情報をお送りしているケースがあります。また、スポットでご相談をいただいた企業にも、関連がありそうな情報があればお困りごとがないかこちらからお声がけしています」(石田弁護士)。
同事務所でエネルギー・環境・インフラストラクチャー関連の案件に携わる土岐俊太弁護士は、オランダのユトレヒト大学で法とサステナビリティに関する修士課程に留学し、かつ、現地事務所で実務経験を積みながら欧州の最新情報を収集してきた。「EUでは既にESG・サステナビリティプラクティスが大きな経済活動として確立しています。法律事務所・企業だけでなくNGO専属で働く弁護士もおり、現地ではそれぞれの視点を学ぶことができました。日本にも近年、欧州の環境保護団体の支店が設立され始めましたが、その動きが活発になった際にこの視点は活きるでしょう。現地では、法令違反がない場合でも株主提案が通らない場合に提訴を行う動きが生まれており、日本でも機運が高まる可能性は否定できません」(土岐弁護士)。
欧州で法整備が進んでいるグリーンウォッシュ規制は、日本でも法的リスクが高まっている。「日本は法整備が遅れているものの、環境関連の表示に対する消費者庁の措置命令や、環境団体が発電会社の広告に対して行った日本広告審査機構に対する申立ての前例があり、動向を注視すべきです」(土岐弁護士)。
ビジネスと人権分野では5月24日にEU理事会において、コーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス指令案(Corporate Sustainability Due Diligence Directive;CSDDD)が最終承認された。「2027年から企業規模に応じて段階的な適用となる予定ですが、一定の要件を満たす企業には人権および環境のデューデリジェンスが義務化されます。適用対象ではない日本企業であっても、取引先が適用対象となる場合には間接的に影響を受ける可能性があります」(土岐弁護士)。

土岐 俊太 弁護士

読者からの質問(CSRDへの対応)

Q EUにおけるコーポレートサステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive;CSRD)の対象となる日本企業は少なくないと思いますが、どう対処すべきでしょうか。
A 2023年1月に発効したCSRDは制度の枠組みを定めるもので、具体的な報告基準は欧州サステナビリティ報告基準(European Sustainability Reporting Standards;ESRS)に拠ります。ESRSでは、既に「全セクター共通の横断的基準」のほか、ESGの要素ごとに開示項目を定めた「トピック別基準」が定められていますので、これを参照すべきでしょう。
これらの基準に加えて、2024年6月末までに「EU域外企業基準」が委任規則案として採択される予定でしたが、後ろ倒しされることとなりました。このため、適用対象となる日本企業は、2023年7月31日に採択された現行の基準(全セクター共通の横断的基準+トピック別基準)に基づく開示を行えばよいことになっています。CSRDでは、開示情報の第三者による保証が義務化されるため、サステナビリティに関するデータの管理方法を必要に応じて見直すことが望ましいです。また、CSRDでは、環境や社会が企業に与える財務的影響だけではなく企業が環境と社会に与える影響についても考慮して開示する必要があるため、ステークホルダーとの対話が一層重要になってくると思われます。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題2024』を 「まとめて読む」
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所在地・連絡先
〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島2-3-18 中之島フェスティバルタワー27階
【TEL】06-6208-1500(代表) 【FAX】06-6226-3055

ウェブサイトhttps://www.ohebashi.com/jp/

石田 明子

弁護士
Akiko Ishida

12年同志社大学法学部卒業。13年京都大学法科大学院中退。14年弁護士登録。15年大江橋法律事務所入所。21年デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)。22年ニューヨーク州司法試験合格。22年3~8月Jenner&Block(LA Office)、22年9月~23年1月Zuber Lawler(LA Office)勤務。大阪弁護士会所属。

土岐 俊太

弁護士
Shunta Doki

12年京都大学法学部卒業。14年京都大学法科大学院修了。15年弁護士登録。16年森・濱田松本法律事務所入所。18年大江橋法律事務所入所。22年ジョージタウン大学ローセンター卒業(LL.M.)。22~23年Morgan, Lewis & Bockius LLP(New York)勤務。23~24年ユトレヒト大学留学。24年Heussen(Amsterdam)で実務研修。24年ニューヨーク州弁護士登録。大阪弁護士会所属。