【内部不正・危機管理】不祥事・トラブル時の対応と体制構築 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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Withコロナで噴出する不祥事 変化した初動対応の落とし穴

早川・村木 経営法律事務所は、企業活動全般をサポートする中でも、不祥事・危機管理対応に定評がある。代表パートナー・早川明伸弁護士は、「第一報をお寄せいただければ、24時間体制で対応します」と語る。
“Withコロナ時代”に入り、オフィスに人が戻ってくるのとともに、企業不祥事が増加傾向にあるのはなぜなのか。「リモート勤務によるコミュニケーション不足の積み重ねが底流にあります」と早川弁護士。社内外を問わず、リモートで見過ごされていた問題が、リアルな日常が戻ることで顕在化しているのだという。
中でも目立つのは不正会計の発覚だ。「不正の内容は変わらずとも、コロナの影響とデジタルデータへの移行もあり、発覚が遅れがちです。内部監査や監査法人による監査の際の“実査”が減っていることも影響していると思われます」(早川弁護士)。
不祥事発覚の際、リモートワーク下での初動対応も、今までになかった“落とし穴“が存在するという。

「全員リモートワークの企業で、顧客情報の漏洩が疑われたケースがありました。オフィスに社員が集まる従来の勤務体系ならば、情報はリアルタイムで共有されるわけですが、一人ひとりに情報をテキスト化してメールで共有するとタイムラグが生まれ、さらに伝わる最中で誤解が生じれば、初動ミスにもつながります。不祥事発覚後は、すみやかに情報を集約して事実関係を把握し、“誰に対してどんなアプローチをすべきか”の方針を決定して会見やリリースなどの対応、そして善後策といった全体の戦略を短時間で練る必要がありますが、オンラインでは最初でつまずくことがあるので注意が必要です」(早川弁護士)。

労務問題が専門領域の村木高志弁護士は、職場でのトラブルとして、特にハラスメントの問題が増えていると指摘する。「コロナ明けで、リモートから出社に切り換えられてからの訴えが顕著です」(村木弁護士)。多くの企業の内部通報窓口を担当する西野肇弁護士も、「パワハラ、セクハラとも、通報がかなり増えています。現実として、通報窓口のヒアリングはzoomで行うことが多くなりました。対面であれば、その人の挙動や話し方、雰囲気など発言内容以外の情報をつかみやすいのですが、リモートではその把握がなかなか難しいことを念頭に置いてヒアリングを行います。会社がどんな問題意識を持っているか、逆に、会社が行きすぎだと思われるような機微も、対面であればつかめることが多いので、リモートと併用しながら事実認定しています」と語る。

西野 肇 弁護士

多様な働き方が進む中、期待されるトップの率先垂範

今後のビジネスの形は、対面とリモートを組み合わせた流れとなるのは間違いないだろう。リモート体制であってもコンプライアンス・ガバナンスを効かせ、不祥事を防ぐカギはどこにあるのか。
「結局は、トップにかかっています」と早川弁護士。最近大きな不祥事を起こした後、コンプライアンス担当者だけでなく社長が率先して各地の現場を回り、法令遵守の大切さを訴えて回っている製造業企業を例に挙げ、「“会社として不正、不誠実を許さない”というメッセージを丁寧に発信し、行動し続けることが効くのです。通報窓口を開くことで、“会社の歪み”に関する情報を把握するという構えが大切です」(早川弁護士)と語り、“経営陣は本気だ”と社員に伝えることの重要性を強調する。

早川 明伸 弁護士

社外取締役もここぞと活用 企業全体で異変を感知する体制を

だが、経営トップが積極的でない場合もあるだろう。そのような場合、法務担当者の打つ手は何か。

「上場企業ならば、社外取締役や社外監査役から経営陣にアプローチしてもらうのも一つの手です。社外役員を活用して企業風土を変えることこそ、社外取締役制度の趣旨にかなうのではないでしょうか」(早川弁護士)。

「実効性に焦点を当てるなら、“ハードとソフト”の組み合わせです。ハード的には“きちんとしたルールを作る”。就業規則や倫理規定、ガイドラインなどの整備です。ソフトとは“気づき”のアンテナを高くすること。これは職場のメンタルヘルスでも重要ですが、“おかしい、何かあるんじゃないか”という感度を高めることですね」(村木弁護士)。

このような体制作りは、企業文化によい影響をもたらすと村木弁護士は力を込める。「自分たちの問題だと意識することができます。昨今バイトテロが社会問題になっていますが、企業が深刻なレピュテーションリスクに見舞われるだけでなく、本人が解雇されたり、会社から損害賠償請求されることもあります。自分にとっても不利益なのだという理解が進むでしょう」(村木弁護士)。

村木 高志 弁護士

“社内不祥事の対処は丁寧に”。これは対外的トラブルでも同じだと早川弁護士は指摘する。「もちろん諸要因の分析は必要ですが、私たちは法的分析だけではなく、相手方の感情を含めた対応が危機管理の根本だと考えています」(早川弁護士)。

読者からの質問(リモート勤務は“権利”か)

Q 「リモート勤務は権利であり、出社する必要はない」と主張する従業員がいます。対処はどのようにすればいいでしょうか。
A コロナ禍が一段落したいま、経営側としては、“出社してほしい”と考えている企業も多いと思います。リモート勤務が“権利”かどうかは就業規則によります。出社が前提で作られている場合は、原理原則を伝えることが大切ですが、今後を考えると、リモート勤務の規定を盛り込んだ改定も視野に入れるのも有益でしょう(村木弁護士)。

→『LAWYERS GUIDE 企業がえらぶ、法務重要課題』を 「まとめて読む」
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早川 明伸

弁護士
Akenobu Hayakawa

大阪大学法学部卒業。05年弁護士登録(第二東京弁護士会)、中島経営法律事務所入所。10年同事務所パートナー。15年早川経営法律事務所設立。中小企業基盤整備機構BusiNestアクセラレータコースメンター、HENNGE株式会社社外監査役、株式会社モンスター・ラボ社外監査役、Chatwork株式会社社外取締役を務める。

村木 高志

弁護士
Takashi Muraki

早稲田大学法学部卒業。05年弁護士登録(東京弁護士会)、ロア・ユナイテッド法律事務所入所。13年同事務所パートナー。21年早川経営法律事務所パートナーとして参画し、早川・村木経営法律事務所を設立。共著に『新型コロナ対応人事・労務の実務Q&A』(民事法研究会、2020年)『[新版]新・労働法実務相談〔第3版〕』(労務行政、2020年)など多数。

西野 肇

弁護士
Hajime Nishino

神戸大学大学院法学研究科実務法律専攻修了。18年弁護士登録(東京弁護士会)。シャープ株式会社、株式会社リクルートスタッフィングを経て、20年~早川・村木経営法律事務所。22年SMBC日興証券株式会社が設置した「調査委員会」にて調査報告書の補助者に就任。23年パートナー就任。