深化する独禁法・消費者法ファーム 新たなサービス提供も
独占禁止法/競争法・消費者法・情報法に特に強みを持つブティックファーム、池田・染谷法律事務所は2025年10月に設立8年目を迎えた。同年2月には広告AIチェックツール「Ad-IS(アドイズ)」の提供を開始し、5月には名古屋オフィスを開設するなど、サービスの深化と拡大が進んでいる。
同事務所には、公正取引委員会(以下「公取委」)や消費者庁をはじめ各省庁での勤務経験を持ち、高度な専門性を有する20名超の弁護士が所属。設立当初は、大規模な調査案件は人員の制約から受任が難しいこともあったが、現在は10名以上のチームで対応する大規模な調査案件も複数件受任しており、独禁法・消費者法以外に営業秘密や個人情報が複雑に絡む事案にも対応可能になったと、代表パートナーの一人、池田毅弁護士は語る。
「独禁法、消費者法、情報法が複雑に絡み合う大規模事件において、私たちが目指してきた最大限の法的サービスを実現できるようになったという実感があります」(池田弁護士)。

池田 毅 弁護士
東海地区にも公取委経験者を配置 名・阪へ最新情報を迅速に発信
2025年5月30日に開設された名古屋オフィスには、公取委で約5年間の経験を積み、多数の企業への立入検査や入札談合・カルテル等の事件審査、データ利活用ビジネスなどに関する政策立案の双方に携わった林紳一郎弁護士が代表に就任。製造業が集積する東海地区では下請法の執行件数が同規模都市と比較して多い傾向にあり、公取委中部事務所への企業からの相談件数も増加するなど、下請法関連の相談ニーズが高い状況にあるといえるが、一方で当該分野における高い専門性を持つ弁護士が少ない状況にある。そのような地域性も相まって、同事務所名古屋オフィスへの期待は高まっている。
「立入検査への対応も当オフィスの重要な役割です。調査が1年以上の長期間に及ぶケースもある中、初動対応から弁護士と継続的に直接コミュニケーションをとれる体制は、ご相談いただく企業の方々に大きな安心感を提供できると考えています」(林弁護士)。
名古屋オフィスには案件に応じて各拠点の弁護士が行き来し、Web会議の際にもスムーズに意見交換ができるように環境整備にも力を入れており、拠点に関係なく弁護士が迅速に対応できる体制を敷いている。
「ご依頼・ご相談に応じ3拠点の弁護士が連携し、最適なチームを組めるようにしています。地域の特色に合わせた対応ができるということも重要です」(林弁護士)。
下請法をはじめ、法改正が頻繁に行われる競争法分野において、このシームレス対応はクライアントに大きなメリットをもたらしているという。
「名古屋オフィス単独では情報の把握に遅れが生じる可能性がありますが、東京オフィスとのスムーズな情報共有により、霞が関の最新情報をリアルタイムで収集し、クライアントに迅速に提供しています」(林弁護士)。

林 紳一郎 弁護士
取適法に過剰反応は不要 中小企業政策の大局に注目を
2026年1月、下請法は「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(以下「取適法」)となり、発注者側への規制が強化される。各企業で対応準備が進む中、池田弁護士は「一部の企業は過剰に反応している面があります」と指摘する。
「取適法の要求水準は高いように見えますが、自社の企業規模や業種に応じてリスクを見極め、優先順位をつけることで十分に対応は可能です。むしろ、背後にある“公取委や政府が何に注目しているのか”といった“大局”を注視すべきでしょう。従来、下請法違反に基づく勧告事案は代金の減額に関するものが中心でしたが、近年は返品、買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請といった新しい類型事案も増加しています。取適法への改正は、労務費や原材料費、エネルギーコストの上昇という社会情勢がある中で、中小企業政策の一環として、受注者に負担を押しつける不公正な取引慣行を日本から撲滅するという公取委や中小企業庁、ひいては政府の姿勢の表れと言えます」(池田弁護士)。
これまで多くの企業、特にメーカーでは、委託(下請)事業対応は購買部門などが所管し、法務部門は問題発生時のみ関与するのが一般的だった。
「価格転嫁対応や下請中小企業振興法に基づく振興基準対応、インボイス制度対応、公取委や中小企業庁の書面調査対応など、もはや一部門のみでの対応は不可能な状況です」(池田弁護士)。
不適切な回答が立入検査につながるなど、事態がより複雑化するリスクもある。
「コスト上昇分の価格反映には経営判断を要するため、委託事業者・受託事業者間取引の適正化は、事業部門のみならず法務部門、経理部門、そして経営層といった全社的な取り組みが必要なビジネスイシューと言えます」(池田弁護士)。
規程と乖離させない営業秘密運用 “持ち込まれリスク”にも留意
公取委、消費者庁、経済産業省という三つの法執行官庁での勤務経験を有し、複雑に絡み合うビジネス上の法的課題について実践的なアドバイスを提供する土生川千陽弁護士は、企業における不正競争防止法対応、特に営業秘密管理について、「“流出(持ち出し)”と“流入(持ち込み)”の双方の視点での対応が必要」と指摘し、特に前者については、社内ルール(営業秘密管理規程)と運用実態の乖離に警鐘を鳴らす。
「運用実態が伴わない情報は、“営業秘密”としての法的保護の対象になりません。ルールの策定にあたって、法務部門は、営業部門など現場の業務フローを深く理解し、目的を共有し、双方が納得できるルールを設計し、運用することが重要です」(土生川弁護士)。
後者については、他社の営業秘密が意図せずして自社内で共有された場合、会社自身が営業秘密侵害の当事者となり、突如として民事上・刑事上の責任を問われるおそれがある。この点、中途採用におけるプロセスの一工夫が企業の防波堤となるという。
「中途採用者が前職の営業秘密を持ち込んでいないかを確認するプロセスの導入が重要です。入社時の誓約書の提出はもちろん、従業員研修においても他社の知的財産を尊重するコンプライアンス意識を醸成する必要があります」(土生川弁護士)。

土生川 千陽 弁護士
当局の視点で見通す危機対応 情報漏洩事案は初動が肝要
情報法は個人情報保護法3年ごとの見直し規定に基づく改正議論も続く注目分野だ。総務省への出向で情報の保護などに関する法解釈や政策などを担当し、行政当局の視点を活かしたアドバイスを提供する今村敏弁護士は、「企業が直面する危機をチャンスに変えるために事実を正確に理解する必要がある」と語る。
また、法改正の議論と並行して、情報法分野で常に重要なのは、安全管理措置と漏洩時の対応である。最近の事案では、個人情報の漏洩と営業秘密の持ち出しが同時に問題となった。「これは単なる従業員教育の不足だけでなく、法令遵守よりも優先されてきた業界全体の“慣習”が問題の根源にある」と今村弁護士は指摘する。
こうした危機が発生した際、企業はどう対応すべきか。今村弁護士は“正確な事実確認”と“優先順位の設定”とが成否を分けると指摘する。
「緊急時において、事実関係を正確に把握できなければ、適切な対応は不可能です。特に重要なのは、社内で問題が発覚してから、責任者への情報のエスカレーションにあり、それを踏まえて速やかな意思決定が行われるかどうか。初動が遅れると、対応が後手に回り、被害が拡大してしまいます。こういった緊急時の対応については、当局での経験を活かし、当局の関心や最終的な落としどころについて見通しを立てたアドバイスを行っています」(今村弁護士)。
同事務所では、単に法的な可否を回答するだけでなく、クライアントの課題解決まで伴走する“ソリューション・オリエンテッド”でのサポートを重視する。
「企業が実現したい目的を起点に、リスクを取る選択肢と安全策を講じる選択肢など、複数の具体的な方策を提示し、優先順位を検討し、経営判断をサポートします」(今村弁護士)。

今村 敏 弁護士
AIで広告チェックを自動化 煩雑な表示規制対応に寄与
代表パートナー・染谷隆明弁護士が主導して開発した広告AIチェックツール「Ad-IS(アドイズ)」は、AIによる自動チェックで大量の広告表示を効率的に処理し、担当者による品質のばらつきを排除する革新的なサービスだ。Ad-IS開発の背景には、消費者庁の執行の活発化と、マンパワー等の観点での企業側の表示規制対応の困難さがあったという。
「令和5年度は調査件数に占める措置命令等の割合が22.5%、調査対象の5件に1件は何らかの処分を受けているという計算です」(染谷弁護士)。
中には16億円もの課徴金を課された事例もあるなど、企業が受ける処分の影響は甚大だ。課徴金は損金算入できないため財務への影響が大きく、特別損失として開示する場合もある。また、不当表示は消費者への虚偽表示と受け止められることから、BtoCビジネスの信頼を根底から崩すものだと染谷弁護士は語る。
一方で、広告・表示規制の対応については、表示数の膨大さ、商品変更に伴う表示更新の煩雑さ、多部署間のコミュニケーションコストなど、困難な面も存在する。
「ホームページ自体には問題がなくても、周辺的な表示に問題があれば当局から指摘されてしまいます。この状況を打破するために開発したのがAd-ISなのです」(染谷弁護士)。
Ad-ISは、表示の管理の課題に対して“管理機能”で対応する設計で、根拠資料の一元管理と決裁過程の記録により、事後的な確認も容易だ。これは景品表示法が義務づける“管理上の措置”としてのガバナンス体制の構築を強力に支援するものと言える。

「現在、景品表示法や特定商取引法には対応していますが、今後、AI開発をさらに進め、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)や医療法、公正競争規約へ対応を拡大する予定です。Ad-ISを通じて、広告出稿企業のガバナンス体制構築における標準フォーマットを提供することが、我々の目指すビジョンです」(染谷弁護士)。

染谷 隆明 弁護士
池田 毅
弁護士
Tsuyoshi Ikeda
02年京都大学法学部卒業。03年弁護士登録。05~07年公正取引委員会事務総局審査局勤務。08年カリフォルニア大学バークレー校ロースクール修了(LL.M.)。09年ニューヨーク州弁護士登録、カリフォルニア州弁護士登録、森・濱田松本法律事務所入所。18年池田・染谷法律事務所設立。「企業が選ぶ弁護士ランキング」(日本経済新聞社)独占禁止法・競争法分野(25年)で第1位、消費者対応分野(24年)で第3位に選出。第一東京弁護士会所属。
染谷 隆明
弁護士
Takaaki Someya
09年専修大学大学院法務研究科修了。10年弁護士登録。12年株式会社カカクコム入社。14年消費者庁課徴金制度検討室・表示対策課勤務。18年池田・染谷法律事務所設立。23年独立行政法人国民生活センター商品テスト・分析委員会専門委員。「今年活躍した弁護士ランキング」(日本経済新聞社)消費者対応分野(24年)で第1位選出。「弁護士と法務部が選ぶベストビジネス弁護士100 2025」(弁護士ドットコム)危機管理・コンプライアンス部門(25年)で第6位に選出。東京弁護士会所属。
土生川 千陽
弁護士
Chiharu Habukawa
04年中央大学法学部卒業。06年京都大学法科大学院修了。09年弁護士登録、都内法律事務所入所。14年消費者庁表示対策課勤務。18年経済産業省経済産業政策局知的財産政策室勤務。19年公正取引委員会審査局勤務。21年池田・染谷法律事務所入所。東京弁護士会所属。
今村 敏
弁護士
Satoshi Imamura
10年京都大学工学部卒業。13年大阪大学大学院高等司法研究科修了。16年弁護士登録、16~17年大阪大学知的財産センター特任研究員、特任助教。17~20年総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政第二課勤務。21年池田・染谷法律事務所入所。25年電気通信個人情報保護推進センター諮問委員会委員。第一東京弁護士会所属。
林 紳一郎
弁護士
Shin-ichiro Hayashi
14年明治大学法学部卒業。16年中央大学法科大学院修了。17~21年公正取引委員会事務総局(調整課、審査局、経済調査室)勤務。22年弁護士登録、池田・染谷法律事務所入所。25年より名古屋オフィス代表。愛知県弁護士会所属。
著 者:白石忠志[監]、池田毅・籔内俊輔・秋葉健志・松田世理奈・実務競争法研究会[編著]
出版社:第一法規
価 格:5,720円(税込)
著 者:池田毅・倉重公太朗[編著]、今村敏・宇賀神崇・江夏大樹・全未来・田中麻久也・松本恒雄[著]
出版社:有斐閣
価 格:5,500円(税込)