国内企業のエネルギー案件助言で積み上げてきた信頼
弁護士法人大江橋法律事務所は、1981年に大阪に事務所を開設して以来、関西を中心に大手エネルギー関連企業をクライアントとしてエネルギー分野の案件に関与してきた。
同分野においては、出資、M&A、ファイナンスなど国内外の取引に対応しているほか、紛争案件を扱う経験豊富な弁護士が企業間取引から法的紛争に至るまでサポートし、エネルギー関連ビジネスを支えている。
特に近年注目が高まっているのが再生可能エネルギーだ。2050年にカーボンニュートラルを目指すことが政府により宣言され、多くの国内プレーヤーにより再生可能エネルギーの活用に向けたさまざまな取り組みが進められている。その潮流から、より一層サポートを厚くすべく、同事務所ではインフラ/エネルギー/環境プロジェクトチーム内に、再生可能エネルギーに焦点を当てたグループを新たに設置した。
「チームには異なる専門分野で知見を重ねてきた弁護士が所属しており、協業や勉強会を通してエネルギー/再生可能エネルギー分野において何ができるかを検討しています」と語るのは、ファイナンスを専門とし、金融機関や投資家、電力会社によるエネルギー関連のプロジェクトへの出資やプロジェクトファイナンス等を手がけてきた村上智裕弁護士。日系企業による北米のシェールガス、シェールオイル権益取得のためのファイナンスや豪州LNG事業のプロジェクトファイナンスから、国内の太陽光、風力発電事業への出資やプロジェクトファイナンス等まで幅広い実績を持つ。
「エネルギー関連の法務については、多くの日本企業が今後海外へ投資を行うプロジェクトを検討しているところでしょう。そんなときに、渉外案件の経験と各自の専門性を活かして日本企業の力になっていきたいと考えています。海外事務所と比較し、日本の法律事務所はコスト面、日本語でのコミュニケーションなどクライアントにメリットも多くあります」(村上弁護士)。
エネルギー分野への深い理解をリーガルアドバイスに活かす
「日本ではFIT(固定価格買取)制度開始以降にエネルギー分野に関与する国内法律事務所が増えてきましたが、私はそれ以前から縁あってガスやオイル事業に関するプロジェクトに携わる機会に恵まれました。国内に巨大なオイルやガスのプロジェクトは乏しく、基本的にはクロスボーダーの案件で、クライアントと共に取引を作り上げてきました」と村上弁護士は語る。
近年増加している再生可能エネルギーについては、従来の化石燃料分野と比較すると小規模なものが多い。
「化石燃料分野のプロジェクトは、プラントを建設するのみにとどまらず、油田やガス田の権益取得に始まり、発掘・開発・生産する上流、輸送する中流、加工・供給する下流をすべてカバーする巨大事業です。それに比べると再生可能エネルギーは小規模ですが、脱炭素の世界的潮流から今後数が増えていくと予想されます。リスクの観点から見ると、例えば洋上風力はランニングコストと比べて初期投資コストの割合が極めて大きいものの、売電収入が限られるため、予備費が少ない再生可能エネルギー事業においてはコストコントロールが重要になるでしょう」(村上弁護士)。
リスクの算定については、再生可能エネルギー分野はまだ黎明期であり、予測が難しい部分が多いという。
「洋上風力発電事業のリスクについては、いまだ把握し切れない国内事業者が大半だと思います。今はリスクがどの程度かを調査・精査しているところでしょう。5年、10年経って実績が蓄積されて、初めて現在の太陽光発電事業のようにリスクの所在を皆で共有し、言語化できるのではないでしょうか」(村上弁護士)。
単に法律だけでなく、エネルギービジネスそれ自体の理解を深めてリーガルアドバイスの質の向上に努めていくことも肝要だという。
「例えば、洋上風力であれば、海中に風車を建てるため、周辺環境に対する影響への目配りは必要でしょう。タービン、基礎、ケーブル等のさまざまな産業分野から構成されているため、完工前はタスク間のインターフェイス管理が重要となるでしょう。日本で実績の乏しい技術で建設する場合は、運転開始後1、2年ほどは初期不良対応等が必要になります。金融分野では、事業期間中のスポンサー変更は一定期間制限されていますが、一般的には運転開始後1、2年経つと事業が安定するためエクイティの譲渡が認められはじめます」(村上弁護士)。
紛争が起きやすいエネルギー分野で国際的な知見を活かした解決を
ICC、SIAC、JCAA等の主要な国際仲裁機関におけるさまざまな仲裁案件でクライアントを代理してきた細川慈子弁護士は、関係者が多く巨額の資金が動き、プロジェクトが長期間に渡るがゆえに、紛争が多く発生しやすいエネルギー分野の紛争解決に側面から関与している。
「当事務所は伝統的に渉外案件を多数扱ってきた歴史があり、国際仲裁にも数多く携わっています。国際仲裁は、ニューヨーク条約により世界的な仲裁判断の執行の枠組みが担保されており、国際紛争の解決には欠かせない手段となっています。これまで建設・エンジニアリング・機械、技術ライセンス、国際取引、保険、製薬、ソフトウェアなどさまざまな産業・法分野の国際仲裁の案件を担当してきましたが、近年関与したものには、新型コロナウイルスによる渡航制限の影響で生じた紛争、ロシアのウクライナ侵攻により生じた紛争などがあり、変化の激しい国際情勢の下で国際仲裁による解決の重要性を改めて感じています」(細川弁護士)。
エネルギー分野は、想定されるものだけでも設備建設に関する建築紛争や行政・近隣住民との紛争、プロジェクトに関するジョイントベンチャー内の紛争、設備の事故発生時の責任負担に関する紛争など、さまざまな種類で多様な当事者が絡む紛争が想定できるという。
「既にメガソーラー建設に関連した紛争に関与しましたが、今後もエネルギー分野の紛争案件が増加することを見込んでいます。紛争分野ごとに非常に深い専門性を求められるため、所内の各専門家とチームを組み、多岐にわたる分野や業界の知見を深めています」(細川弁護士)。
また、エネルギー関連の分野で国際的に注目されている紛争解決の手法として、投資仲裁があるという。
「投資仲裁は、国家間の投資協定等の条約を根拠に、企業等の投資家と投資先の国の間の投資に関する紛争を解決するものです。既に海外では、外国政府による再生可能エネルギー分野の法制度の見直しをめぐり投資家から多数の投資仲裁が申し立てられています。日本で投資仲裁の経験をもつ企業はまだ一握りですが、出向先のドイツでは多く活用されており、私も出向中に実際に投資仲裁の案件を通じて知見を深めてきました。日本企業にとっても、海外でのエネルギー関連の投資について投資仲裁という手段があることを広めていきたいと考えています」(細川弁護士)。
専門分野に限らない広い知見で再生可能エネルギー分野の論点の把握を
コーポレートやM&Aを専門とする澤祥雅弁護士は、大手インフラ企業の太陽光、風力、バイオマスなど再生可能エネルギーに関する複数の案件に対応してきた。また、直近では、国内クライアントに加えて、出向先であったオーストラリアの法律事務所と協働で、海外クライアントを代理して、複数の洋上風力案件にも関与しているという。
「数年前からは地域住民約1,000人が事業者に対してメガソーラーの建設差止めを求める訴訟に、事業者側代理人として関与しています。メガソーラーについてはM&A案件などを通じて技術や規制についてはある程度理解をしていると考えていましたが、差止訴訟に関与したことで、規制内容を実態に即してより深く理解することができ、また、再生可能エネルギーの普及のために地域住民の理解を得ることが極めて大切であることを実感しました」(澤弁護士)。
周辺住民の反対活動によってプロジェクトが中止に至るケースも多々あるという。澤弁護士は、これはメガソーラーに限らず、今後日本で開発が進む洋上風力でも同じ問題が生じるのではないかと考え、特に海外の事業者向けに、洋上風力事業と日本の漁業権に関する記事を英語で発信した。
「中には中止されるべきプロジェクトもあると思いますが、他方で、過度な警戒や不安から過剰な反対運動が行われているのではないかと思われるケースも多数あります。日本で洋上風力発電事業を行うにあたり、漁業関係者は極めて重要なステークホルダーです。海上の風車建設による影響はもちろん事前に調査しますが、実際稼働してみないと分からないこともあります。すると、やはり“生活が脅かされるのでは”“漁業に悪影響があるのでは”と考える漁業関係者は多い。一方で、洋上風力の普及が進んでいるオランダやドイツなどの欧州の国では魚を食べる習慣が日本ほど根付いておらず、漁業関係者の権利も限られています。日本進出予定の事業者にとっては、日本の現状を理解してもらうことが非常に重要だと思い、記事を発信しました」(澤弁護士)。
記事は海外媒体で取り上げられ、数多くの技術者や関係者から問い合わせが入るようになったという。
「日本特有の文化や法規制について説明するほか、海外が先行している再生可能エネルギーの技術や発生した問題を共有してもらうことで、双方が知見を得られる、よい関係が築けていると思います」(澤弁護士)。
洋上風力発電の世界的な普及を推進している非営利団体WFO(World Forum Offshore Wind)の日本代表からも連絡があり、意見交換を重ねた結果、同事務所はWFOに加入することになった。
「WFOにはさまざまな委員会があり、最新の知見を発表したり、セミナーを行ったりしています。欧州の法律事務所も加入しており、当事務所も積極的に議論に参加するとともに得た情報を活かして特に日本における洋上風力事業の発展に貢献していきたいと考えています」(澤弁護士)。
村上 智裕
弁護士
Tomohiro Murakami
92年中央大学法学部卒業。98年弁護士登録(第一東京弁護士会)、国内法律事務所入所。03年Boston University School of Law修了(LL.M.)。04年Blake Dawson(現Ashurst Australia)(Sydney office)勤務。05年ニューヨーク州弁護士登録、London School of Economics and Political Science(MSc)修了、西村あさひ法律事務所入所。16年大江橋法律事務所入所。
細川 慈子
弁護士
Aiko Hosokawa
08年東京大学法学部卒業。10年東京大学法科大学院修了。11年弁護士登録(第一東京弁護士会)。12年大江橋法律事務所入所。17年University of California, Berkeley, School of Law修了(LL.M.)、International Academy for Arbitration Law, Paris(Certificate)。17~18年Gleiss Lutz(Stuttgart Office)勤務。
澤 祥雅
弁護士
Yoshimasa Sawa
09年大阪大学法学部卒業。11年京都大学法科大学院修了、弁護士登録(大阪弁護士会)。13年大江橋法律事務所入所。19年Duke University Law school修了(LL.M.)。19~20年Ashurst Australia(Melbourne office)勤務。21年ニューヨーク州弁護士登録。
著 者:重冨貴光・酒匂景範・古庄俊哉[著]
出版社:中央経済社
価 格:3,630円(税込)
著 者:古川昌平・上原拓也・小林直弥[著]
出版社:商事法務
価 格:2,970円(税込)
著 者:長澤哲也[著]
出版社:商事法務
価 格:4,840円(税込)