公益通報者保護法改正対応は万全に
2020年に改正された公益通報者保護法が2022年6月に施行される見込みである。内部通報制度をより実効的に機能させるべきとの問題意識が法改正につながっていると、のぞみ総合法律事務所の結城大輔弁護士は指摘する。「改正法は、公益通報者の保護をより手厚く、そして公益通報対応業務従事者の指定や通報窓口などの体制整備を常時使用する労働者数300人超の組織に義務付けています。内部規程の改正や通報ラインの増設などの対策は待ったなしです」。同改正法とその“指針”は公益通報者の範囲を一定の退職者などにも拡大、匿名通報の受付を必要とし、通報者探索の禁止、法定守秘義務の創設にも踏み込んでいる。「内部通報案件の調査における情報管理が非常に重要となりました。通報を端緒とする案件の調査では特別な考慮が必須です」(結城弁護士)。
都度最適な専門チームで、部門間の関係や、組織図に表れない情報共有の流れをつかむ
各種の不正・不祥事調査案件では、実践的な対応の知見が必要とされる。のぞみ総合法律事務所には金融庁、公正取引委員会、検察庁などの当局での勤務経験を持つ弁護士が多数在籍しており、事案に応じて適切かつ最短距離で、事案の解明に当たる体制を整えている。
「カルテル・談合案件の内部通報を受けての調査では、公取委に報告しリニエンシー(課徴金減免)申請に持ち込むなど、当局の動きも予測しつつの時間との闘いです」。こう語るのは、公取委における検察官役である審査官を務めた経験のある、大東泰雄弁護士だ。とはいえ拙速はケガのもと。「内部通報者の知る事実が、実は氷山の一角に過ぎないことはよくあります。慎重に裏付けながら全体像を把握することが必須といえます」。
同事務所では、事案に応じてチームを編成し、早期に全容を解明する態勢をとる。会計不正など、場合によっては公認会計士など他の専門職と強固なチームが編成される。
「“人証(証言)”とともに“物証”をいかに押さえるかが重要です」と結城弁護士は強調する。調査の現場ではメールをはじめ電子データを中心に検証すべき証拠の量は増大するばかりだ。近年さらに発達を続けるフォレンジック技術も活用し、これらをいかに短時間でさばき、分析をやりきるかが対応の成否を分ける。
事案にはどのようにアプローチするのか。「予断を持たないよう留意しつつまず仮説を立て、それを証明するためにどのくらいの範囲まで、どれだけの深度で調査を行うかを決めていきます」と大東弁護士。次に当事者・関係者のヒアリングを行う。「ヒアリングはとても重要です。証人尋問で培ったノウハウも大切ですが、特に時間が極めて限られる会計不正調査のような場合、尋問とは異なりほとんど準備時間なく瞬発力で事案に切り込んでいく弁護士のスキルも必要とされます」(結城弁護士)。
そのとき、キーとなるものは何か。「“会社”をいかに理解するか、すなわちクライアントの組織を理解することですね」と大東弁護士は指摘する。「社内で誰が、どのくらいの力を握っているのか、特に会計不正では、現場と経理などバックオフィスとの力関係はどうか。組織図には載っていない情報が、ヒアリングの成否を分けることがあります」。佐藤文行弁護士も「実際の情報の流れを確認することも重要です。担当者から課長を飛び越して部長に直接情報が流れている場合も多く、組織図からは見えない情報共有のスタイルを確認することで、正確な事実関係の把握が可能となります」と指摘する。
組織の再生まで見据えた調査 そしてケアを
調査結果と再発防止策がまとまった後どう対応すべきか。これも企業の浮沈を分ける重要な局面だ。会計不正や消費者被害の拡大など社外に被害が及ぶ場合には迅速な公表をすべきだが、案件によって対応は変わってくる、と大東弁護士は指摘する。カルテル・談合を公取委に報告しリニエンシー申請となれば守秘義務が生じるので公表は控えることになる。
どれだけの情報を公表すべきかも、特に海外が関連する事案では専門的見地からの判断が必要となる。小林敬正弁護士は、「米国での捜査や訴訟も想定される事案では、弁護士とクライアントの通信についての秘匿特権を意識した調査・公表が必要となります」と注意点を指摘した。
一方で、不正調査は、不祥事に対する危機対応という位置付けを超えて、企業のあり方を見つめ直す好機でもあると佐藤弁護士は言う。「私たちは調査の際、組織のよい点や活かすべき点も把握することに努めます。それが、再発防止策を通りいっぺんのものではない実効的なものにするキーだと思うのです」。吉田元樹弁護士がこう続ける。「その企業がうたっているガバナンスや内部統制のあり方と現実の姿との違いを分析し、なぜそのような違いが生じてしまっているのかを外部の目で検証するのが我々の役割だと思います」。「若手アソシエイトも、メールや資料を徹底的に分析する際に、その企業の特色は何かを意識しています」(白水裕基弁護士)。
「内部通報やその制度について、企業はまだネガティブに捉えがちです。しかし、本来それは、企業の自浄作用を強める仕組みの整備なのです」と福塚侑也弁護士は指摘する。「人が定期的に健康診断を受けるのと同じで、コンプライアンスを実現するには不祥事の予防のみならず早期発見も大切です。内部通報の軽視は、結局、企業の病を重篤にすることにつながります」と大東弁護士。「責任追及、処分や法的責任にとどまらない分析、文化も含めて、“会社は続いていくもの”という発想が必要です。よりよい会社の未来を作っていく機会と捉えていただき、それを我々もサポートしたいと考えています」。結城弁護士はこう締めくくった。
結城 大輔
パートナー弁護士
96年東京大学法学部卒業。98年弁護士登録(第二東京弁護士会)。00~02年日本銀行出向。08~09年韓国法律事務所出向。10年南カリフォルニア大学LL.M.修了。10~13年米国法律事務所出向。12年米国ニューヨーク州弁護士登録。15年公認不正検査士登録、16年~日本公認不正検査士協会理事。
大東 泰雄
パートナー弁護士
00年慶應義塾大学法学部卒業。02年弁護士登録(第二東京弁護士会)。09~12年公正取引委員会事務総局審査局審査専門官(主査)。12年一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻修士課程修了。19年~慶應義塾大学大学院法務研究科非常勤講師。
佐藤 文行
パートナー弁護士
01年早稲田大学法学部卒業。07年早稲田大学大学院法務研究科卒業。08年弁護士登録(第二東京弁護士会)。10~13年日弁連公設事務所所長。
著 者:白石忠志・多田敏明[編著](共著者の一人として大東泰雄が執筆)
出版社:第一法規
価 格:5,940円(税込)
著 者:第二東京弁護士会災害対策委員会[編集](共著者の一人として佐藤文行が執筆)
出版社:新日本法規
価 格:4,620円(税込)
著 者:吉田桂公・川西拓人・行木隆・松本一成[著]
出版社:日本規格協会
価 格:2,200円(税込)