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はじめに

ライセンス契約には、ライセンスの対象となる知的財産権により、①特許ライセンス、②商標ライセンス、③著作権ライセンス、④ノウハウライセンス等がある。
本連載第3回となる本稿では、特許ライセンス契約を題材に、対価条項と、これに関連する報告・監査条項を取り上げる。

対価条項

対価条項とは

特許ライセンス契約では、ライセンス許諾に対する対価に関する条項が規定される。これを本稿では対価条項と呼ぶ。
特許ライセンス契約は、金銭の授受を伴わないクロスライセンスなどの場合もあり、この場合はいわばライセンスが対価であるのに対し、「ライセンス料」や「ロイヤルティ」などと呼ばれる金銭の支払いを行う場合は、その金額や計算方法を定めることとなる。対価はライセンス契約において重要な契約条件の一つであり、その支払いはライセンシーの主要な義務である。
特許以外のライセンス契約においても対価条項は定められる。特許以外のライセンスの場合はクロスライセンスとなることがまれであるため、対価条項を定めることが特許ライセンス以上に一般的ということもできる。

対価の種類

特許ライセンスにおける対価の種類として、大きく分けて、対価を定額で定める方式と、ライセンシーの実績に応じて継続的な支払いを定める方式(ランニング・ロイヤルティ)とがある。

(1) 定額

定額の一括支払いをライセンスの対価とする方式は、ランプサム・ペイメントなどと呼ばれる。
また、契約締結後の初期段階に定額の対価を支払う場合を、イニシャル・ペイメントなどという。イニシャル・ペイメントが設定される場合、その後の対価支払いが続いて予定されていることが多い。
この他、一定の条件をマイルストーンとして設定し、それを達成したときに定額を支払うマイルストーン・ペイメントがある。マイルストーン・ペイメントは、製薬業界で医薬品開発のためのライセンスなどに利用されている。主に製品開発段階で治験・許認可の進捗等に応じて設定されるものであり、販売実績とは関係がなく、多くの契約では、上市後の販売実績に基づくランニング・ロイヤルティと区別される。

(2) ランニング・ロイヤルティ

ランニング・ロイヤルティは、ライセンス対象製品の製造、販売等の実績に応じて、継続的に対価を支払う方式である。
その算定には、ライセンス対象製品の販売額等に一定のライセンス料率を乗じて算定する方法が実務上よく採用される。
その他、ライセンス対象製品1個当たり(あるいは単位数量当たり)のロイヤルティ額を定め、それに販売された個数を乗じて算定する方法もある。
ただ、この場合も、1個当たりのロイヤルティ額の設定にあたっては想定される販売単価に何らかの料率を乗じて考えることが多いと思われるので、その意味で当事者間で納得できる料率を考える点は変わらない。契約締結後、ライセンス対象製品の販売単価が下がった場合にも販売個数を維持していればロイヤルティ額が下がらないことはライセンサーにとってはメリットとなる一方、販売単価が上がった場合もロイヤルティ額は変わらない。このため、販売単価が大きく変化した場合のロイヤルティ額変更のための条項を検討することも一案となる。また、販売額や費用等の開示が必要とならない点もこの方法のメリットといえる。

(3) ミニマム・ロイヤルティ

ランニング・ロイヤルティを採用しつつ、販売等の実績にかかわらず一定の金額のロイヤルティの支払いを義務づける場合もある。これをミニマム・ロイヤルティやミニマム・ギャランティーなどという。
ミニマム・ロイヤルティは、販売等の実績が伸びなかった場合でもライセンサーが一定のロイヤルティ収入を確保するための条件である。
特許ライセンス契約においても、独占的ライセンスの場合にはミニマム・ロイヤルティが利用されることが多い。独占的ライセンスの場合、ライセンシーが特定の一社に限定されるため、そのライセンシーの実績が伸びない場合ライセンサーはロイヤルティ収入を得られない。よって、ライセンサーとしてはミニマム・ロイヤルティを設定して最低限のロイヤルティ収入を確保する必要がある。
また、商品化許諾における商標や著作権のライセンスでは、非独占的ライセンスの場合を含めミニマム・ロイヤルティは広く採用されている。
商品化許諾におけるミニマム・ロイヤルティにおいては、契約締結直後に一定額のミニマム・ロイヤルティを支払った後、計算されたランニング・ロイヤルティの累積額がミニマム・ロイヤルティの額を上回った時からランニング・ロイヤルティの支払いを始める方式が一般的である。すなわち、ランニング・ロイヤルティの累積額がミニマム・ロイヤルティの額に達するまでは、ミニマム・ロイヤルティ以外の支払いは発生しない。この方式をとる場合は同時に、ミニマム・ロイヤルティの額にまでランニング・ロイヤルティの累積額が到達しなかった場合も、ミニマム・ロイヤルティの返金はされないことが契約にて合意される。

(4) 併用

実務においては(1)から(3)の組み合わせもしばしば利用される。たとえば、イニシャル・ペイメントとして定額を支払った後、ランニング・ロイヤルティで継続的に支払いをする条件である。

以上の説明を踏まえ、対価条項のイメージは以下のようなものである。

第●条 対価
ライセンシーはライセンサーに対し、本契約に基づく本件特許の実施許諾の対価として、以下の各号に定める金額を支払うものとする。

(1)イニシャル・ペイメント
ライセンシーはライセンサーに対し、金●円を、本契約締結の日から●日以内に支払う。

(2)ランニング・ロイヤルティ
ライセンシーはライセンサーに対し、半期ごとに、本契約に基づく本件特許の実施許諾の対価として、対象製品の売上金額の●%に相当する額を支払う。

(3)ミニマム・ロイヤルティ
前号により当該期間において算定される金額が●円に満たない場合も、ライセンシーはライセンサーに対し、本契約に基づく本件特許の実施許諾の対価として●円を支払う。

以下、対価の種類の中で契約上の論点が多いランニング・ロイヤルティについて説明する。

ランニング・ロイヤルティにおける規定内容

(1) 計算基礎

ライセンス製品の売上額や販売金額を計算基礎とする。
上記の条項イメージ(2.)のように単に「売上金額の●%」などと記載する場合のほか、以下の条項イメージのように「販売価格の一定料率×数量」のような記載をすることもある。このような規定は、商品化許諾における商標や著作権のライセンスでみられることが多い。

第●条 対価
ライセンシーはライセンサーに対し、以下のとおり算出される商品化許諾の対価を支払うものとする。
許諾製品の税抜希望小売価格の● % × 許諾製品の販売数

このような規定ぶりをする場合、数量を製造数とするか、販売数とするかは検討すべきポイントである。サンプル製造や在庫、返品を考慮すると、製造数と販売数とは完全に一致するものではなく、製造数とした場合にはライセンシーにリスクが生じやすい。このため、ライセンシーの立場からは販売数、ライセンサーの立場からは製造数を望むことが多い。

(2) 売上額から控除するもの

ライセンス契約においては、売上額から一定の金額を控除した金額を計算基礎とし、その旨を契約書に明記することがある。控除される金額の例は以下のものである。

・ 税金、関税

・ 輸送費、梱包費、保険料、保管料などの販売関連費用

ただし、このような控除を定めると、控除計算が実務的な手間になること、計算間違いが生じた場合にトラブルになりうることといったデメリットもある。こうしたデメリットを避けるため、このような控除を定めず、単純に売上額を計算基礎とすることも少なくない。

(3) 料率

料率をどのように設定するかはライセンス契約実務上の大きな関心事である。これを決める基準としては、自社や業界・技術分野の一般的水準や前例をベースに、当該契約の内容・背景・当事者の関係を踏まえて決めることが基本であろう。他社事例や相場が気になるところであるが、この点については近年に経済産業省が公表した「令和6年度 知的財産のライセンスに関する調査報告」が参考となる。

(4) ランニング・ロイヤルティの発生期間

ランニング・ロイヤルティの支払義務が発生する期間は、対象となる知的財産をライセンシーが実施等する期間に合わせるのが通常である。また、支払義務が発生する期間は権利の有効期間満了または権利消滅までとなるのが合理的である。権利消滅後にもロイヤルティの支払義務を課す行為は、不公正な取引方法として独占禁止法上問題となる場合があるので注意が必要である注1)

(5) ロイヤルティの不返還

ライセンス契約では、既払いのロイヤルティは理由の如何を問わず返還しないとの条項を定めることが一般的である。こうした規定は特許ライセンスのみならず、他のライセンス類型でもみられる。
その目的は、一般に特許権は無効審判により無効と判断されて初めから存在しなかったものとみなされること(特許法125条)や訂正審判等により特許請求の範囲の訂正がされ権利範囲が変化することが(特許法128条等)ありうるところ、ライセンス契約後に特許が無効とされた場合や訂正された場合にロイヤルティの返還について紛争の発生を防止することにある。また、特許が無効とされまたは訂正されるまでの間、ライセンシーはライセンスを受けていない者による実施等がなく競争者を排除することができる事実上の利益を享受していたことから、このような不返還の規定も合理的と解されている。

報告・監査条項

ライセンシーの売上等の実績に連動したロイヤルティとする場合、ライセンシーによる当該実績の報告義務や、計算書類の保管義務やライセンサーの閲覧権限、ライセンサーの監査権限の規定等が定められる。これらの規定は、ライセンシーが支払うロイヤルティが正しい額であることを担保するための手段となる。

報告義務

対価がランニング・ロイヤルティの場合、その実際の金額はライセンシーの実績によって定まることになる。しかし、ライセンシーの実績は公開情報でもなくライセンサーが知りうる情報ではないため、ライセンサーとしてはその実績を確認することができるようにしておく必要がある。このため、ロイヤルティ算定の前提となる実績の情報についてライセンシーの報告義務を定める。
条項の内容としては、報告期間やタイミング(毎月末締め、半期ごと締め、1年ごと締めなど)、報告内容(販売数量、製造数量、単価など)、報告の方法等を定める。

計算書類の保管・閲覧・監査

(1) 保管

帳簿や計算書類の閲覧・監査をするための前提として、それらの書類が保管されている必要がある。そこで、ランニング・ロイヤルティの計算基礎となる実績を記録した帳簿や計算書類の保管についても、契約書に定めておくべきといえる。
条項の内容としては、帳簿や計算書類に記載されるべき内容や保管期間を定める。

(2) 閲覧・監査

ライセンシーの帳簿や計算書類をライセンサーが閲覧し監査する権利を定める条項である。閲覧のみならず謄写までライセンサーの権利として定める場合もある。
閲覧・監査の要件としては、ライセンサーの要求があった場合とか、ライセンサーが必要と認めた場合といった定め方をすることが多いであろう。
ただし、ライセンシーの事業に無用に悪影響を及ぼすことを避けるために、事前に通知をすることや、ライセンシーの営業時間内に限ることなどを定めることもある。ライセンサーのみならず、ライセンサーの指定した者(たとえば会計事務所)に監査を行わせることも可能とする場合もある。
監査については、監査対象となる期間の設定も検討する必要がある。たとえば、前記1.の実績報告から●年を監査期間と定めることや、監査期間を計算書類の保管期間と合わせることが考えられる。また、ライセンシーの立場からは、一度監査対象となった期間は監査対象から外し、書類の保管義務も消滅するという規定を置くことが望ましいといえる。すでに一度監査を受けているにもかかわらず、同一期間について何度も監査を受けることは負担であるからである。

(3) 立入監査

ロイヤルティの監査には、文書の閲覧謄写による監査のみならず、ライセンシーの事業所等への立入りを伴う監査もある。
立入監査はライセンシーの営業にとって負担ともなるので、その要件については両当事者間でバランスの取れた条件を模索することになる。たとえば、ライセンシーへの事前通知やライセンシーの承諾を要件とするか、回数や頻度を制限するかといった点が実務上問題となる。ライセンシーの営業時間内のみとする条件が付されることも多い。この他、公認会計士等ライセンサー以外の者の関与・立会いを許すか否かも検討されるであろう。
立入監査で得た情報について特に守秘義務を課すべきかについても検討が必要である。たとえばライセンス契約中の守秘義務条項において、守秘義務の対象となる秘密情報の定義として秘密である旨の表示を要件としている場合、立入時にライセンサーがライセンシーの事業所等で見聞きする情報に逐一秘密である旨の表示をすることは現実的でない。そのため、立入時に見聞きした情報は公知の情報等を除き秘密情報として取り扱う旨を特に定めることが有用であろう。

(4) 監査終了後の対応

監査終了後の対応として、既にライセンシーから報告や支払いがされていた金額と監査で判明した金額とに相違があった場合の処理が問題となる。この点については、違約金を設定することがしばしばみられる。違約金を虚偽報告の抑止力とすることが目的である。
違約金の設定の一例としては差額の●倍の違約金といったものがあるが、これに限られるものではない。ただし、違約金支払いが発生するのは金額の相違が5%以上の場合とするなど、相違が軽微な場合を除外することが妥当であろう。
監査に要する費用については、ライセンサーの負担とすることが通常であるが、違算があった場合にはライセンシーの負担とする規定がよくみられる(この規定も、相違が軽微な場合を除外することや、違算の額をライセンシーの費用負担額の上限とすることはある)。これも報告の正確性を担保するための手段の一つとなる。

おわりに

以上のとおり、本稿では、特許ライセンス契約を題材に、対価、報告、監査・帳簿閲覧について取り上げた。
次回第4回では、改良発明、不争義務、非係争義務等について紹介する予定である。

→この連載を「まとめて読む」

  1. 公正取引委員会「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」第4の5(3)権利消滅後の制限。[]

神田 雄

弁護士法人イノベンティア 弁護士・弁理士

03年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。06年弁護士登録、ユアサハラ法律特許事務所入所。特許庁において法制専門官として特許法改正の立案業務に従事、南カリフォルニア大学ロースクール(LL.M.)を経て、20年弁護士法人イノベンティア東京事務所入所。22年よりパートナー。

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