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農業をめぐるM&A・投資の動向

農地は令和2年時点で日本の国土の約12%を占めている(図表1)が、図表2のとおり、農地面積は減少の一途を辿っている。背景としては、農家の後継者不足、営農者不足、これに伴う農地の荒廃、長年にわたる農地の宅地・工場等への転用などが挙げられる。

図表1 国土面積の内訳

出典:農林水産省「農地をめぐる事情について」2頁

図表2 我が国の農地面積の推移

出典:農林水産省「農地をめぐる事情について」2頁

しかしながら、図表3図表4のとおり、企業による農業への参入は年々増加している。

図表3 農地所有適格法人数の推移

出典:農林水産省「農地をめぐる事情について」11頁

図表4 一般法人(リース方式)数の推移

出典:農林水産省「農地をめぐる事情について」11頁

個々の企業の農業参入の動機は定かではないものの、ドローン、ロボット、センシング技術、データ活用等によって、担い手不足といった既存農業の課題解決を目指す企業が増えていると考えられる。

本稿では、農業参入を目指す企業、特に、農業を営んでいる法人(これを仮に以下では「農業法人」と呼ぶ)をM&Aを通じて買収し、又は、農業法人への投資によって農業参入を目指す企業が知るべき規制および法務DDにおける留意点を述べたい。

M&A・投資による農業参入のスキームおよび関連規制

農業の商流

M&A・投資による農業参入を検討する前提として、農業法人を中心にして、これを取り巻く商流をみると、概ね図表5のようになる。

図表5 農業の商流

企業が農業に参入する方法は、基本的に、

① この商流のいずれかの当事者になる

② 農業法人を買収する

③ 農業法人に出資する

④ 農業法人から事業を取得する

という選択肢のいずれかとなる。以下では、②③④を念頭に置く。

M&A・投資による参入スキームに影響を与える主要な規制注1

企業が農業法人に対するM&A・投資によって農業に参入するスキームを検討するにあたり、大きな影響を与える規制は次の二つである。

第1に、農地自体の所有権・賃借権等の取得、または、これらを伴う事業譲渡(広義のAsset Deal)には、原則として、農業委員会の許可を要するという規制である(農地法3条1項本文)注2
換言すれば、農業法人の株式の取得、合併、会社分割(経済的には事業譲渡と同じ)は、農地自体の所有権取得・賃借等ではないので、農業委員会の許可を要しない注3。農業委員会の許可がスケジュール等でネックになるのであれば、株式の取得、合併、会社分割(広義のShare Deal)が選択肢となる。

第2に、農地を所有する法人(農地所有適格法人)には、農業関係者が総議決権の過半数を所有しなければならない(議決権要件)、役員の過半数が農業常時従事者でなければならない(役員要件)等の制約がある(農地所有適格法人の要件につき農地法2条3項。4.で後述する)。
そこで、農地所有適格法人の株式取得を行ったり、役員を入れ替えたりすると当該農地を所有する法人が農地を所有できなくなる場合には、農地を賃借等する法人(リース法人)の買収が選択肢になる。リース法人については、議決権要件・役員要件はないが、5.で後述するとおり解除条件等の制約がある(農地法3条3項)。

M&A等の対象となる農業法人

ここまでは「農業法人」がいかなる法人であるのかを特定せずに説明してきたが、M&A・投資の対象となる法人は、実務的には、会社法上の法人のうち株式会社・合同会社、および、農業協同組合法上の農事組合法人である。
株式会社と農事組合法人の主な違いは図表6のとおりである。

図表6 株式会社と農事組合法人の主な違い

株式会社 農事組合法人
根拠法 会社法 農業協同組合法(本表に限り「法」)
事業範囲 制限なし 農業(関連する農産物の加工などを含む)に限定※1
議決権 一株一議決権 一人一議決権(法72条の14)
構成員 制限なし 農民等、一定の事業円滑化寄与法人(法72条の13、施行令40条、農業経営基盤強化促進法19条1項)
従業員 制限なし 組合員(同一世帯を含む)外の常時従事者は、常時従事者総数の3分の2以内(法72条の12)
役員資格 自然人 理事は農民に限る(法72条の17第4項)
配当 分配可能額の範囲 年8%以下等の制限(法72条の31第2項)
税制優遇 法人事業税「課税」 一定要件※2で法人事業税「非課税」

※1 脱法事業者には現に解散命令も出されている(「農林水産大臣が解散命令を行った農事組合法人(平成18年4月1日以降)」)。
※2 地方税法72条の4第3項。

以上のとおり、農事組合法人は、役員・組合員等の資格要件等の関係で制約が大きく、株式会社の方が企業によるM&A・投資の対象としてはなじみやすい。

農地所有適格法人の要件を踏まえた実務対応

農地所有適格法人に関する規律は、より正確にいえば、農地所有適格法人以外の法人が農地の権利を取得しようとする場合には、原則として、農業委員会は許可しないというものである(農地法3条2項2号、1号)。
農地所有適格法人の要件は農地法2条3項が定めており、スキーム選択との関係で重要な議決権要件と役員要件について述べると、まず、議決権要件とは、具体的には、法人の行う農業に常時従事する個人、農地の権利を提供した個人、農地中間管理機構(農地バンク。後述する)を通じて法人に農地を貸し付けている個人、基幹的な農作業を委託している個人、地方公共団体、農地中間管理機構、農業協同組合、農業協同組合連合会が総議決権の過半数を有していなければならないということである(同法2条3項2号)。これは、買収・投資の主体である企業が株主総会レベルで対象会社の資本多数決を握れないということを意味するが、農業に常時従事する個人を企業が直接雇用することによって資本多数決を事実上獲得する例もある。
なお、認定農業者として一定の実績があること等の要件を満たす農地所有適格法人が、関連事業者等注4との出資による連携を通じて農業経営の発展に取り組む場合、農林水産大臣の計画認定によって議決権要件が緩和される農業経営発展計画制度もある(農業経営基盤強化促進法14条の2第1項。農林水産省「農業経営発展計画制度について」)。
役員要件は、具体的には、①役員の過半が、法人の行う農業に常時従事する構成員(原則年間150日以上)であり(農地法2条3項2号ホ、施行規則9条1号)、②役員または重要な使用人の1人以上が、法人の行う農業に必要な農作業に従事(原則年間60日以上)しなければならないということである(農地法2条3項4号、施行規則7条・8条)。
これは、買収・投資の主体である企業が対象会社の取締役会レベルで頭数の多数決を握れないということを意味するが、農業常時従事者を雇用して役員として対象会社に派遣することによって取締役会の支配権を事実上獲得する例もある。
このほか、買収・投資の主体である企業が、少数株主のまま、あるいは、役員の過半数を派遣しないまま、株主間契約において、株主総会レベルでまたは取締役会レベルでの事前承諾事項(拒否権)を合意して、事実上、対象会社の支配権を確保する例もある。

リース法人の要件・農地バンク

M&A・投資の対象である農業法人が農地を所有せず、賃借等する場合の原則的な規律は、一定の要件を充足すれば、全部効率利用要件・地域調和要件など一般要件(農地法3条2項)を充足することを前提に、農地所有適格法人でなくとも、農業委員会は借地権等の設定を許可するというものである(同法3条3項)。

その一定の要件とは、

① 貸借契約に解除条件(農地を適切に利用しない場合の解除権)が付されていること(農地法3条3項1号)

② 地域における適切な役割分担注5のもとに農業を行うこと(同2号)

③ 業務執行役員または重要な使用人が1人以上農業に常時従事すること

である(同3号)。

かかる原則の例外として、農地中間管理機構(農地バンク)の定める農用地利用集積等促進計画によって、借地権の設定等を受ける場合には農業委員会の許可を要しない(農地中間管理事業の推進に関する法律(農地バンク法)18条1項、農地法3条1項7号)。農地バンク制度は農地の集約化を目指すものであり、企業による利用も期待されている(農林水産省「農地中間管理機構」)。

農業委員会の重要性

広義のAsset Dealによって農業に参入する場合に農業委員会の許可を要することは2.で述べたとおりだが、広義のShare Dealによって農業委員会の審査を回避して農業に参入したとしても、その後の事業の拡大にあたり、対象会社たる農業法人が農地を所有または賃借等する場合には、結局のところ、農業委員会の許可を要する(農地法3条1項)。
農業委員会とは、農業委員会等に関する法律に根拠を持つ組織である。農業委員会は、原則として市町村ごとに置かれるため(同法3条1項)、2023年10月1日現在、全国1741市区町村のうち1693市区町村に1696委員会が存在する注6
また、農業委員の資格要件には、認定農業者等が農業委員の過半数を占めることというものがある(同法8条5項)。認定農業者とは農業経営改善計画の認定を受けた者(農業経営基盤強化促進法13条1項)をいう。
要するに、農業委員会というのは、地元の農家等からなる極めてローカルな組織であり、農業に参入する企業としては農地が存在するそれぞれの地元と良好な関係を構築することが実務的には極めて重要である。

農業法人を対象とする法務デューデリジェンスについて

以下では、農業法人を対象とする法務デューデリジェンス(以下「法務DD」という)において留意すべき点の一部を整理して記載する。

資産に関する事項

(1) 農地について

農業法人において、農地はその事業の根幹たる資産である。この点を踏まえ、農地の権利関係については、一般的な法務DDに比べ慎重に検討することも少なくない。

農業法人が万が一にも無権限で使用している農地が存在しないかを確認する場合には、たとえば、

・ 農業法人が事業を行っている地域をGoogle Mapで特定する

・ 当該地域に対応する地籍図を入手してGoogle Mapと重ね合わせる

・ 当該地域内の土地の地番を地籍図から拾う

・ 当該地番を基礎に不動産登記簿謄本を取得して当該土地の権利関係を確認する

といった調査を行うこともある。

(a) 農地の所有権
対象会社が農地の所有権を有する場合、当該所有権の取得が農地法3条1項の定める農業委員会の許可を得て適法に行われたものであるかを確認する必要がある。
もし過去の取得が無許可であった場合、当該所有権移転は無効とされ(同条6項)、違法状態が継続しているリスクが存在する。この無効リスクは、M&A実行後に農地を継続して利用する法的根拠を失わせるため、重大な瑕疵といえる。

(b) 農地の賃借権・使用借権
農地の賃借権や使用貸借に基づく権利を有するとされる場合も、所有権の場合と同様、当該権利の取得について農業委員会の許可(農地法3条1項)を得ているかの確認が必要である(なお、賃借権や使用貸借に基づく権利については、設定契約において一定の解除条件が付されている等の所定の条件を充足することにより、農地所有適格法人ではない農業法人であっても取得が可能である(同条3項))。
また、賃借権等についての契約書の有無、契約の具体的内容(賃借期間、更新の可否等)、賃貸人の属性等についても確認が必要である。
なお、農地中間管理機構からの賃借権は、農地中間管理事業の推進に関する法律に基づく特定の手続を経ることで、農地法3条の許可が不要となる特例(同条1項7号)が適用されるところ、賃貸人に農地中間管理機構が含まれている場合には、かような手続の履践状況を確認することも考えられる。
また、そもそも使用貸借は、借主の立場からすれば、賃料支払いが不要という利点はあるものの、第三者への対抗力等の点において賃貸借に劣る部分のあることは否めない。
買主としては、農業法人のM&Aにあたり、農地の用益権の法的根拠を使用貸借から賃貸借に変更する必要はないか(変更の必要がある場合には、当該変更をM&Aのクロージング前に売主側に実施させるか否か)を検討するのが望ましい。

(c) 農地に関するその他の事項
農地に関しては、その隣接地の境界確定に関する紛争、隣地との間に水利権や地役権等の紛争、あるいは農作業に伴う騒音・臭気等に関する近隣紛争の有無といった、将来の訴訟リスクにつながる紛争の有無および状況を確認することが考えられる。これらの紛争は、地域コミュニティとの関係性や、将来的な農作業の制限につながる問題となりうるためである。

(2) 建物について

農地上には、納屋や倉庫といったものを含めさまざまな建物が存在することが考えられる。
法務DDにおいて、農地上の建物の権利関係を確認するうえでの基礎資料は不動産登記簿謄本であるが、当該建物につきそもそも登記自体が存在しない場合もある。この点、不動産登記規則111条は、「建物は、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない」と定めており(外気分断性、定着性および用途性の要件)、同条の定める要件を満たす建物は不動産登記の対象となるため注7、登記が存在しない建物について上記の要件を具備しているかを検討する場合もある。
なお、建物の表題登記の申請は所有者の義務であり(不動産登記法47条1項)、当該義務の懈怠には過料の制裁が科されうる(同法164条)。

(3) 動産について

農業法人においては、農地のみならず、事業の成果物としての農作物、農業用の設備や機械といった資産の存在が考えられる。法務DDにおいては、こうした資産を対象とした担保権注8の有無を確認する必要がある。
農作物については、いわゆる譲渡担保権が設定されている可能性もあるところ、2025年6月6日に公布された譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律は、施行日前に締結された譲渡担保契約および所有権留保契約に対しても原則適用されるとされていることを踏まえ(附則2条本文。なお、緩衝措置等として特別の定め注9がある場合にはそれによる)、同法施行後は同法の内容にも留意する必要がある。

知的財産権(種苗法)に関する事項

農業分野における知的財産権に関する重要な法令としては、種苗法が挙げられる。
すなわち、種苗法のもとでは、品種登録(同法3条1項)を受けることにより育成者権が発生し(同法19条1項)、原則として25年間(一定の場合は30年間)存続する(同条2項)。
育成者権とは、登録品種および当該登録品種と特性により明確に区別されない品種を業として利用する権利であり(同法20条。なお、育成者権が及ばない範囲は同法21条に規定されている)、ここでいう「利用」とは、登録品種の種苗の生産・調整・譲渡申出・譲渡・輸出入等の行為を意味する(同法2条5項)。「利用」の対象は基本的に登録品種の種苗であるが、例外的にその種苗の収穫物や当該品種の加工品に及ぶ場合もある(同項2号、3号)。
また、令和3年4月施行の種苗法改正に伴い導入された制度として、利用制限(輸出先国制限および生産地域制限)の届出に関する制度が存する。具体的には、品種登録の出願とあわせて届出を行うことにより、譲渡された種苗について、①意図しない国への種苗の持出し(輸出)または②意図しない地域での栽培を行う場合に育成者権者の許諾を必要とすることができる制度である注10(同法21条の2第1項)。
このような利用制限がされた登録品種の種苗を譲渡する場合等においては、品種登録がされている旨の表示(同法55条)に加え、利用制限がある旨の表示をすることが義務付けられる(同法21条の2第5項または第6項)。
以上を踏まえ、法務DDにおいては、種苗法との関係で次のような事項を確認することが考えられる。すなわち、

① 農業法人が自ら育成した品種について品種登録を受けているか、育成者権の存続期間はどの程度か、必要な登録料(種苗法45条1項)の支払いはなされているか、品種登録の届出にあたり利用制限を行っているか等

② 農業法人が、自ら育成者権を有していない登録品種の種苗の譲渡等を行っている場合に、当該種苗の育成者権を有する者から必要な利用権の設定を受けているか等

③ 農業法人が登録品種の種苗の譲渡等を行っている場合には、種苗法上必要な表示を行っているか等

といった事項である。

負債に関する事項

農業法人の経営においては、農林水産省や地方自治体からの補助金・助成金収入が重要な位置を占めていることが多いため、その適法な受給状況の検証は、M&A後の財政状態に影響を与える偶発債務リスクの特定との関係で重要といえる。
以上を踏まえ、法務DDでは、過去に受給した補助金・助成金の受給要件の充足状況、補助金等で購入した資産の使用、処分等に関する制限注11の有無および内容を確認することが考えられる。
また、補助金等の受給要件として、たとえば一定規模の面積地における作物の栽培が定められているような場合において、当該補助金等の継続的な給付を事業計画の前提としているようなときには、この「一定規模の面積地」の確保に支障が生じるような事象(たとえば、将来における耕作対象地の返還合意の存在)の有無を確認することも考えられる。

コンプライアンス・許認可に関する事項

通常の事業と同様、農業においても、必要な許認可等の存在を含むコンプライアンスに関する事項の確認は、法務DDにおける重要な作業の一つである。
もっとも、許認可等についていえば、法務DDの対象となる農業法人からの正確な説明なしに、当該農業法人が営む事業に必要な許認可等を網羅的に確認することは困難であるが、当該農業法人の規模によっては、当該農業法人自身も、自身の事業に必要な許認可等に関する十分な理解を欠いているという場合も見受けられる。このような場合においては、当該農業法人に必要となる許認可等の割出しは決して容易とはいえない。

(1) 農薬関連

農業の実施には農薬の使用を伴う場合が少なくない。農薬取締法は、農作物の生育に不可欠な農薬の使用について、国民の健康保護と生活環境保全の観点から厳格な規制を設けている。
以下、法務DDとの関係で必要な農薬取締法に関する事項を幾つか記載する(図表7)。

図表7 農薬関連のコンプライアンス・許認可に関する事項

農薬の適格性 試験研究の目的で使用する場合等を除き、事業との関係で使用することのできる農薬は、①農林水産大臣の登録を受け、容器または包装に農薬取締法16条に定める表示のある農薬か、②農作物等に害を及ぼすおそれがないことが明らかなものとして指定される農薬(特定農薬。同法3条1項ただし書)に限られる(同法24条1項ただし書)。
使用基準の遵守 農薬取締法25条は、農薬の種類ごとに、使用の時期および方法その他の事項について使用者が遵守すべき基準農林水産大臣および環境大臣が定めるものとされており、具体的な内容は「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」で定められている。当該基準違反は刑事罰の対象となりうるとともに(同法47条3号)、当該基準違反の内容(たとえば、所定の使用量を超えた農薬の使用)によっては、農産物に残留基準値を超える農薬が残る原因ともなりうる。
(2) 水・土壌関連

農業経営における水の利用と排出についても、複数の法令が関わる。土壌に関する法令とあわせ、法務DDとの関係で必要な事項を記載する(図表8)。

図表8 水・土壌関連のコンプライアンス・許認可に関する事項

水質汚濁防止法 農業法人が特定施設(水質汚濁防止法2条2項、同法施行令1条・別表第一)を設置している場合、届出義務が生じる(同法5条1項)。また、特定施設を設置する工場等から公共用水域に排出される水(排出水。同法2条6項)の汚染状態は、排水基準(排水基準を定める省令で定められる)に適合するものでなければならない(同法12条1項)。
河川法 河川から農業用水を取水するには河川管理者の許可が必要である(河川法23条)。
地下水規制 地下水採取に関しては条例に基づく規制が存する場合がある。地下水採取規制に関する条例は環境省のウェブサイトで確認できる(もっとも、本稿執筆時(令和7年12月時点)における当該ウェブサイト上の情報は令和5年3月末時点のものである)。
農用地の土壌の汚染防止等に関する法律 農用地の土壌の汚染防止等に関する法律では、都道府県知事が、農用地土壌および当該農用地に生育する農作物等に含まれる特定有害物質(カドミウム、銅および砒素)の量が一定の要件に該当する地域を農用地土壌汚染対策地域として指定したうえで(同法3条)、農用地土壌汚染対策計画を策定し(同法5条1項)、必要な場合には一定の措置をとるものとされている(同法7条)。なお、農用地土壌汚染対策地域の指定状況等は環境省のウェブサイトで確認可能である。
(3) 販売関連

図表9 販売関連のコンプライアンス・許認可に関する事項

表示に関する法令 農業法人が食品を販売している場合には、食品表示に関する法令遵守の状況が問題となるが、そもそも食品表示に関する法令は多岐にわたる(たとえば、食品表示法、食品衛生法、日本農林規格等に関する法律(JAS法)、米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律(米トレーサビリティ法)などが挙げられる)。法務DDにおいて当該法令の遵守状況をどこまで確認するかは個別案件ごとに判断する必要がある。
計量法 特定商品(野菜等)を販売する場合においては、量目公差(表示量と実際の内容量との誤差)を超えないように計量する義務が存在する(計量法12条1項、13条1項)。
種苗法(苗の販売) 指定種苗の販売を業とする者(種苗業者。種苗法2条6項)については届出が必要である(同法58条1項)。ただし、もっぱら種苗業者以外の者に販売する場合、届出は不要である(同条ただし書、種苗法施行規則22条2項)。
肥料の品質の確保等に関する法律(肥料の販売) 肥料の生産業者、販売業者および輸入業者は、販売の事業場ごとに届出を行う必要がある(肥料の品質の確保等に関する法律23条1項)。
(4) JGAP

JGAP(Japan Good Agricultural Practices)は、安全かつ効率的に持続可能な農場運営を行うための基準を満たした農場や団体に与えられる認証である。JGAPの認証を受けているかは一般財団法人日本GAP協会のウェブサイトで確認可能である。
認証を取得するにあたっては、一般財団法人日本GAP協会が定める適合基準に対する適合状況を確認するものとされている。当該適合基準には法令に関するものも含まれていることを踏まえ、法務DDにあたり、農業法人がJGAP認証を受けているか否か等を確認することが考えられる。

労務に関する事項

農林水産省大臣官房新事業・食品産業部作成の「食品企業向け人権尊重の取組のための手引き
(令和5年12月)では、食品の原材料の生産業を含む食品産業に関して、「安全衛生が不十分な労働環境、ハラスメント、非正規雇用労働者や外国人労働者に対する社内規定・制度等での差別、国内調達先での外国人技能実習生の人権侵害等が懸念されてい」ると記載されている。
このような記載からも伺えるとおり、農業については労務上の問題が懸念されるところであり、農業法人を対象とする法務DDにおいては、労務に関する事項を重点的に検討すべき場合が少なくない。

(1) 労働基準法の適用除外特例とその限界

労働基準法では、労働者保護の観点から、労働時間、休憩および休日に関する規定が設けられているが、「土地の耕作若しくは開墾・・・に従事する者」に対しては、これらの規定を適用しないものとされている(労働基準法41条および別表第一第六号)。農業が天候や収穫時期といった自然条件に大きく左右される(そのため時間管理が困難な)ものであること、閑散期における休息が可能であることといった、農業の業務の特殊性を踏まえたものと解される。
適用除外の詳細は図表10のとおりであり、農業法人の法務DDにおいては、こうした適用除外の存在を踏まえた検討を行う必要がある。

図表10 労働基準法の適用除外特例

項目 通常の労働者 農業の労働者 備考
労働時間(1日8時間、週40時間) 適用あり 適用除外
休憩時間(6時間以上で45分以上など) 適用あり 適用除外
休日(週1日以上) 適用あり 適用除外
割増賃金(時間外・休日・深夜) 適用あり(時間外1.25倍など) 時間外・休日は除外、深夜労働のみ適用 深夜労働については割増賃金の支払義務
年少者の特例(18歳未満の深夜労働禁止) 適用あり 適用除外(労働基準法61条4項)
妊産婦の特例(時間外・休日労働の制限) 適用あり 時間外・休日労働は可能 深夜労働は禁止

法務DDにおける留意点として、農業法人における労働者が当然に上記の適用除外の対象となるものではなく、労働者の業務を踏まえた個別判断が必要との点が挙げられる。適用除外の対象となる者は耕作等の作業に従事する者であり、それゆえ、たとえば農業法人の事務所職員や経理担当者は適用除外の対象とはならない。
また、上記の適用除外の対象者であったとしても、労働時間、休憩および休日に関する規定以外の規定、たとえば、①深夜労働の割増賃金に関する規定(労働基準法37条)や②年次有給休暇に関する規定(同法39条)は適用される。
加えて、上記の適用除外は、労働者に対する安全配慮義務の包括的な免除を意味するものではなく(高知地判令和2年2月28日労判1225号25頁)、それゆえ当該適用除外の対象となる労働者との関係でも安全配慮義務違反は当然問題となる。

(2) 外国人労働者(特に技能実習生)について

農業分野では、技能実習制度と特定技能外国人制度という二つの制度のもと、外国人労働者がその業務に従事している。これらの制度の目的等を整理すると図表11のとおりとなる。

図表11 技能実習制度と特定技能外国人制度

項目 技能実習制度 特定技能外国人制度
目的 技術移転・開発途上国への国際貢献 人手不足の解消・即戦力の労働力確保
制度の性格 技術習得のための実習 労働者としての在留資格
在留期間 原則最長3年(最大5年まで延長可能) 1号特定技能で最長通算5年、2号は無期限の場合あり
業務範囲 技能習得に関連する限定された作業 農業全般の幅広い業務に従事可能
労働条件 労働者権利より技能習得が優先 日本人と同等の労働条件・賃金保証

技能実習生については、適用除外の対象となる農業従事者であっても、労働時間、休憩および休日に関し労働基準法への準拠が求められている(農林水産省構造改善局地域振興課「農業分野における技能実習移行に伴う留意事項について」(平成12年3月))。したがって、技能実習生については、従事する業務の内容にかかわらず、通常の労働者と同様の観点から労働基準法の遵守状況を確認する必要がある。
また、技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)においては、意思に反する技能実習の強制の禁止(同法46条)、技能実習に係る契約における違約金等の定めや貯蓄に関する契約の禁止(同法47条)、パスポート保管の禁止(同法48条1項)、外出等の不当制限の禁止(同条2項)といった禁止行為が定められている。
こうした禁止行為を含め、技能実習生に対する人権侵害行為が存在しないかは慎重に確認するのが望ましい。

→この連載を「まとめて読む」

[注]
  1. 本稿は、農地を農地のままに活用することを前提としているが、農地を農地以外のものにするために(転用)、賃借権等を設定するには、都道府県知事等の許可(5条許可)が必要で、当該許可には条件を付すことができる(農地法5条3項、4条7項)。この一時転用許可を活用したのが、農業と太陽光発電の両立を目指すものとして利用が進んでいる営農型太陽光発電である。農林水産省「営農型太陽光発電について」[]
  2. この規制に違反する取引は無効である(農地法3条6項)。[]
  3. 高木賢=内藤恵久編著『逐条解説農地法』(大成出版、改訂版、2017)65頁。届出は要する(農地法3条の3)。[]
  4. 農畜産物を安定的に購入する食品加工業者およびスーパーマーケット、農作業の受委託契約を締結した者、農地所有適格法人に対して労働力を提供する派遣契約を締結した法人、農業生産資材の販売会社、農産物運送業者やライセンス契約する種苗会社等を指す(農林水産省「農業経営基盤強化促進法の基本要綱」別紙3)。[]
  5. 集落での話合いへの参加、農道や水路の維持活動への参画など。農林水産省「法人が農業に参入する場合の要件」1頁。[]
  6. 農林水産省「農業委員会の概要」1頁。[]
  7. 不動産登記事務取扱手続準則(平17・2・25法務省民二456号民事局長通達)77条では、建物認定の基準が具体例とともに挙げられている。[]
  8. なお、農業用動産および農業生産物に対しては、特定の債権(たとえば、農業協同組合が特定の貸付を行った場合の債権)を保全するため、農業動産信用法に基づく先取特権が存在する場合がある。[]
  9. たとえば、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律のもとでは、占有改定による動産譲渡担保権は、占有改定以外の方法で対抗要件を備えた他の約定担保権に劣後するとされ(同法36条1項)、その一方で、同法の施行後2年以内に動産譲渡登記をすることで対抗要件を備えたものとみなされるとされている(附則5条1項)。[]
  10. 農林水産省食料産業局知的財産課種苗室「利用制限届出の手引き(令和3年4月1日版)」[]
  11. なお、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律においては、補助事業者等(補助金等の交付の対象となる事務または事業を行う者。なお、ここでいう「補助金等」とは、国が国以外の者に対して交付する補助金等を指す)は、補助事業等により取得し、または効用の増加した一定財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、または担保に供してはならないものとされている(同法22条)。[]

細野 真史

弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士

01年大阪大学法学部卒業。11年University of Southern California Law School 卒業(LL.M.)。11年~12年Weil, Gotshal & Manges LLP (New York) 勤務。主な取扱分野は、株主総会対応(アクティビスト対応含む。)、M&A、不正調査対応、会社法・金商法・労働法の訴訟案件及び相談案件(医療機関を当事者とするものを含む。)。著書として『事業譲渡の実務〔第2版〕』(共著)(商事法務、2025)『新型コロナウイルスと企業法務 ─ with corona / after corona の法律問題』(共著)(商事法務、2021)『特殊状況下における取締役会・株主総会の実務―アクティビスト登場、M&A、取締役間の紛争発生、不祥事発覚時の対応』(共著)(商事法務、2020)等がある。

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浦田 悠一

弁護士法人大江橋法律事務所 パートナー弁護士・ニューヨーク州弁護士

04年東京大学法学部卒業。06年一橋大学法科大学院修了。13年Columbia Law School卒業。13~14年Weil, Gotshal & Manges LLP(New York)勤務。24年~司法試験考査委員(商法)。主な取扱分野は、クロスボーダー案件を含むM&A(公開買付けその他の上場株式取引、グループ内再編、事業会社によるベンチャー投資等)。著書として『事業譲渡の実務〔第2版〕』(共著)(商事法務、2025)『新型コロナウイルスと企業法務 ─ with corona / after corona の法律問題』(共著)(商事法務、2021)『特殊状況下における取締役会・株主総会の実務―アクティビスト登場、M&A、取締役間の紛争発生、不祥事発覚時の対応』(共著)(商事法務、2020)等がある。

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