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はじめに

米国倒産実務上、債務者は、通常、チャプター11手続の申立てとともに、“First Day Motions”と呼ばれる申立てを裁判所に行う。First Day Motionsとは、債務者の事業継続や財産保全のために、チャプター11手続の申立てと同日(またはその直後)に債務者が行う定型的な一連の申立てのことである。大別すると、債務者の再建手続の円滑化のための手続的な申立てと、当事者の権利関係に影響を及ぼす実質的な申立てがあり、特に後者は債権者の権利を制限するなど、利害関係者に大きな影響をもたらす。
貴社が取引を行っている米国企業が、チャプター11手続の申立てを行った場合、このFirst Day Motionsの内容を把握することで、今後の手続の流れの見通しを立てることができ、債権者である貴社が執るべき次のアクションの検討にも大いに役立つ。

First Day Motionsの概要

Cash collateral motion

債務者が有する現預金や、債務者の資産から生じる収益に担保権が設定されている場合、かかる現預金・収益をcash collateral(キャッシュ・コラテラル)と呼ぶ(363条(a))。チャプター11手続下の債務者は、事業の継続のために少しでも多くの手元現金を確保する必要があるが、チャプター11手続において、債務者は担保権者の同意または裁判所の許可がなければcash collateralを使用できない(363条(c)(2))。そこで、cash collateralの使用を望む債務者は、裁判所に対してcash collateralの使用許可の申立てを行う。なお、cash collateralの使用許可を得るには、通常、担保権者に対して適切な保護(Adequate Protection)を与える必要がある(363条(e))。

DIP financing motion

チャプター11手続に入った債務者は、通常、手元資金に乏しいことから、資金需要を満たすために、申立て後の新規借入れ(DIPファイナンス)を受けるニーズがある。そこで債務者は、裁判所に対して、DIPファイナンスの許可の申立てを行い、許可を受けることがある(364条(b)等)。
DIPファイナンスには図表1のとおりバリエーションがあり(段階的に強力な効力を有する)、特に2や3は、日本にはない制度であり、米国においてDIPファイナンスを促進する法制上の支えになっている。

図表1 DIPファイナンスの類型

種類 説明

1 

通常のDIPファイナンス

・効果:貸付債権は通常の共益債権(364条(b)、503(b)(1))

2

スーパー・プライオリティ(Super Priority)

・効果:貸付債権の弁済順位をほかの共益債権よりも優先化(364条(c)(1))。ほかにも担保権の設定(既存担保権には劣後)が可能

・趣旨:上記1の規律では無担保で金銭を借りられない場合(すなわち、貸主が、債務者は共益債権の全額弁済ができない可能性があると判断する場合)であっても、貸主からの借入の道を拓くため

3

プライミング・リーエン(Priming Lien)

・効果:既存担保権者への適切な保護の付与を条件に、貸付債権に対して既存の担保権にも優先する担保権を付与(364条(d))

・趣旨:上記2のスーパー・プライオリティによっても金銭の借入ができない場合、更に強力な保護を与えることで、貸主からの借入の道を拓くため

このDIP financing motionと上記1のCash collateral motionは、ともに申立後の資金調達の機能を有することから、実務上併せて “Postpetition financing motions”と呼ぶことがある。これらのPostpetition financing motionsは、共益債権化や優先化、代替担保の提供等、債権や担保権相互の優先順位スキームに大きな影響をもたらすことがあるため、特に注視する必要がある。

Critical vendor motion

米国倒産実務上、「クリティカルベンダーの法理」と呼ばれる法理があり、これは米国倒産法上の直接的な規定はないものの、チャプター11下の債務者は、その申立てにより裁判所の許可を得て、事業の継続に不可欠な取引相手(クリティカルベンダー)が有する無担保の一般債権に対して弁済を行えるとする法理である。この法理を認めるかは裁判所によるが、この法理を採用する地区の場合、債務者はチャプター11の申立てと同日にCritical vendor motionを行うのが一般的である(同法理の詳細については、本連載第2回「場面別 米国倒産法(チャプター11)の実務ポイント[第2回]取引債権者が取り得る方策」を参照)。

363 Sale motion

債務者がその事業を再建計画によらずにスポンサーに譲渡(363条セール)して事業の再建を図る場合、債務者は裁判所に363条セールに係る許可の申立てを行う。363条セールは、債務者の再建方針の根本に関わるため、これが行われる場合は注意深くその内容を確認する必要がある。なお、363条セールの詳細については、次回の連載第4回で取り上げる「スポンサー支援(363条セール)」をご参照いただきたい。

Wage and benefit motion

債務者の従業員の給与等について、米国倒産法上、再建計画によることなく申立前債権である給与等を支払うことを許容する直接的な規定はない。もっとも、かかる給与等の支払いに、通常何か月も要する再建計画の成立まで待つ必要があるとすると、給与を日々の生活の糧とする従業員の生活を脅かし、また離職等を招いて債務者の事業の再建を困難にするおそれがある。この点、米国倒産法上、申立日・営業停止前180日間の給与債権(2025年4月時点で上限17,150米ドル)は、扶養料・養育費、共益債権などに次いで第4順位の優先債権とされている(507条(a)(4))。そこで、米国倒産実務上、裁判所は、債務者からの申立てに基づき、かかる優先債権化の上限額を上限として、従業員に再建計画によらずにかかる給与等を支払うことを許可することがある(105条参照)。

その他の典型的なFirst Day Motions等

上記のほか、①Cash management motion(預金口座名義の変更等を不要とする申立て)、②Utilities motion(公共サービスの供給者に対する保証金の預託やその金額の決定に係る申立て、366条(b)参照)、③Insurance Premiums motion(申立前債権である保険料の支払いの申立て、105条参照)、④Joint administration motion(異なる事件の手続的併合に係る申立て、規則1015(b))などが、典型的なFirst Day Motionsである。
また、米国倒産実務上、First Day Motionsとともに、First day declarationやFirst day affidavitと呼ばれる、First Day Motionsのサマリーや事実関係についての債務者の申述書が裁判所に提出されることがあり、再建方針に関する債務者の認識や展望を知るうえで重要な資料である。

実務上のポイント(迅速な対応の必要性)

米国倒産手続では、申立ての初日に重要な申立てが相次いでなされ、またそれらが貴社にとって不利であっても一定期間を経過すると異議の申立て等もできなくなる。そのため、スピーディーに情報を収集して対応することが必要になってくる。
米国では、日本以上に倒産手続の電子化が進んでおり、First Day Motionsを含む各種裁判記録をウェブを通じて閲覧・収集することが可能である。特に日本企業は、米国企業や管財人等から見ると外国企業であり、情報の共有に漏れやタイムラグがあることは否めないため、貴社側から積極的に情報にアプローチすることが望ましい。また、こうして収集した情報を活用することで、債務者の再建方針を知り、取引継続や債権回収方針の判断の精度が上がり、また必要に応じて異議を述べて貴社の権利を守ることが可能になる。現実には、米国裁判記録のウェブ閲覧や、膨大な裁判記録(英文)の中から必要な情報を峻別して読み解き適切に対処することは専門の弁護士でなければ難しい場合もあるため、必要に応じてご相談いただけると幸いである。

※ 本稿は法的助言を目的とするものではなく具体的案件については別途弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。
本稿記載の見解は執筆担当者の執筆当時の個人的見解であり、当事務所の見解ではありません。

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辻田 俊幸

弁護士法人大江橋法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士

14年大阪大学法学部卒業。16年京都大学法科大学院修了。24年Duke University School of Law 卒業(LL.M.)、24年~25年Morgan, Lewis & Bockius LLP(New York)勤務。主な取扱分野は、コーポレート・M&A、事業再生・倒産など。

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