EUグリーンウォッシュ規制の最前線 - Business & Law(ビジネスアンドロー)

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はじめに

EUの欧州委員会が、脱炭素と経済成長の両立を目指す「欧州グリーンディール」を発表してから5年あまり。米国のトランプ政権発足後、EUが環境分野に関する規制を一部緩和する方向で検討していることが日本国内でも話題になったが注1、自身が先導してきたグリーンウォッシュ(環境に良いと見せかけるような訴求)に関する法規制を加盟各国内で国内法化させ、施行させる予定に変わりはなさそうだ。
EUのコンシューマー向けビジネスを検討・展開する各企業は、予定どおり、具体的な対応を迫られる段階に入ったといえる。

EUにおけるグリーンウォッシュ規制のポイント

グリーンウォッシュ規制の成り立ち

EUは2023年3月、グリーン・クレーム指令(Green Claims Directive)案 を公表した。同案は、先にEUが実施した調査結果の、環境に良いというアピール(environmental claims。以下、「環境訴求」という)の半数以上が消費者の誤解を招くものだとするインパクトのある数字を掲げ、話題を呼んだ。
グリーン・クレーム指令案は、包括的な消費者の権利保護を目指す、「不公正取引方法指令(2005/29/EC。以下、「2005年指令」という)」などを補完し、環境訴求を行うために充足すべき要件を規定するものと位置づけられている(グリーン・クレーム指令案法案説明文書1)。つまりEUのグリーンウォッシュ規制の全体像を理解するためには、2005年指令に常に立ち戻る必要がある。2005年指令は、環境訴求を規制対象とすることを明文化する形で、2024年2月にグリーン・クレーム指令成立に先立って改正された(EU指令2024/825。以下、「2024年改正指令」という)。

図表1 主なEUグリーンウォッシュ規制をめぐる動き

2019年12月

欧州委員会「欧州グリーンディール」を発表

2023年3月

欧州委員会「グリーン・クレーム指令案」を公表

2024年2月

「2024年改正指令」成立

2025年前半

「グリーン・クレーム指令」成立(予定)

2026年3月まで

「2024年改正指令」国内法化

2026年後半以降

「グリーン・クレーム指令」国内法化(予定)

今後2026年3月27日までに、EU加盟国では2024年改正指令にのっとった国内法が成立し、同年9月27日以降に各国で施行される(2024年改正指令4条1項)。またグリーン・クレーム指令案は、現在欧州議会と欧州理事会で審議されており、2025年前半には成立し、続いて2026年後半以降に国内法化される予定である。

グリーンウォッシュ規制の位置づけ

2005年指令は、「不公正な取引方法は禁止される」と規定している(5条1項)。2005年指令における「取引方法」とは、「消費者に対する商品のプロモーション、販売または供給に直接関係する行為」を広く指し、企業の広告やマーケティングなども含まれる(2条(d))。そしてある「取引方法」が消費者の取引上の意思決定を、そうでなければ購入などを行わなかったであろう程度に著しく歪める場合、当該「取引方法」は「不公正」として禁止される(5条2項(b)、2条(e))。そうした類型の一つが、取引に際して消費者を誤認させるような(誤認惹起的)手法(6条、7条)である。
2024年改正指令では、以下のような定義規定が新設されることで(1条(1)(b)(o))、環境訴求が、同指令の対象となる「取引方法」であることが明示された。

「環境訴求」とは、EUもしくは各国法で義務づけられていない、商業的コミュニケーションの文脈における文書、図画、グラフィックもしくはシンボリックな表現を含む、ラベル、ブランド名、企業名もしくは商品名などのあらゆる形態のメッセージまたは表現であり、商品、商品カテゴリー、ブランドもしくは事業者が、環境に良い影響を与えるか、影響がないか、他の商品、商品カテゴリー、ブランドもしくは事業者よりも環境に対する悪影響が少ないか、もしくは時間の経過とともにその悪影響が改善されたことを明示または暗示するもの

また、2005年指令では「商品の主な特徴」について消費者を誤認させる場合が誤認惹起的手法に含まれているが(6条1項(b))、2024年改正指令では、その「商品の主な特徴」の一例として、「環境または社会的特性」「耐久性、修理可能性またはリサイクル可能性などの循環性の側面」が追記された(1条(2)(a))。
さらに、2024年改正指令では、「環境にやさしい」や「エコ」など抽象的で、環境訴求を行う企業やその商品・サービスが全体として環境に良いかのようなイメージを与える訴求が、実証できなければいかなる場合にも禁じられる事例として明記された(附属書(2)4a)。実際は商品や企業活動の一部のみにしか該当しないにもかかわらず、商品や企業活動全体に関わるかのような環境訴求を行うことも、同様に禁止されている(同上4b)。
このように2024年改正指令により、グリーンウォッシュは明確に、不公正な取引方法の中でも特に禁じられるべきものと位置づけられることになった。同改正指令がEU加盟各国で国内法化された際には、消費者を誤認させるような環境訴求は、加盟各国の当局によって規制されることになる。
さらに、今般成立しようとしているグリーン・クレーム指令では、環境訴求が誤認惹起的「不公正な取引方法」とならないための必要条件が定められている。本記事ではその詳述は控えるが、大きく分けると、環境訴求には①実証性、②適切な伝達、③認定が求められることになる。逆に①から③までの要件は、EU市場で消費者をミスリードしない環境訴求としてクリアすべき、最低ラインといえる。

特に注意すべき曖昧訴求

2.で述べたとおり、EUのグリーンウォッシュ規制は、条文上、曖昧で実証できない抽象的な内容の環境訴求(以下、「曖昧訴求」という)を、いかなる場合にも禁じられる「不公正な取引方法」として特記している。では実際に、曖昧訴求に対し、各国の裁判所や当局はどのような判断を行っていくのか。EU市場向けの広告を検討するに際し、この先曖昧訴求がどの程度の法的リスクとなり得るのかを予測しておくことは、意義深いことのように思われる。
そこで、近年EU加盟国において、グリーンウォッシュ規制の現実化に向けた過渡期の2005年指令下でどのような動きがあったかを簡単にご紹介する。

イメージ広告による曖昧訴求

EUのグリーンウォッシュ規制は、商品・サービスに直接関係のない、企業を含めた事業者自身の事業活動に関する訴求(イメージ広告)もまた、規制対象に含んでいる。もう一度本稿の2.で引用した、2024年改正指令の環境訴求の定義を確認してみよう(強調は引用者)。

「環境訴求」とは、EUもしくは各国法で義務づけられていない、商業的コミュニケーションの文脈における文書、図画、グラフィックもしくはシンボリックな表現を含む、ラベル、ブランド名、企業名もしくは商品名などのあらゆる形態のメッセージまたは表現であり、商品、商品カテゴリー、ブランドもしくは事業者が、環境に良い影響を与えるか、影響がないか、他の商品、商品カテゴリー、ブランドもしくは事業者よりも環境に対する悪影響が少ないか、もしくは時間の経過とともにその悪影響が改善されたことを明示または暗示するもの

このようにEUでは、グリーンウォッシュのイメージ広告について、条文から直接的に規制することが可能であり、2024年改正指令が各国で施行された場合、実証不可な曖昧な環境訴求をいかなる場合にも禁止する規定は、当然イメージ広告にも及ぶと考えられる。ただ環境に関する曖昧なイメージ広告への風当たりは、現在の2005年指令下でも既に強まっている。
たとえば2022年、EU加盟国のオランダでは、大手航空会社(以下、「航空会社」という)が、「ともにより持続可能な未来をつくりましょう(Join us in creating a more sustainable future)」と記載された下の画像のイメージ広告(以下、「航空会社の広告」という)などについて、グリーンウォッシュであり違法であるとして、広告の差止などを求める訴訟(以下、「2022年訴訟」という)を提起された。

図表2 2022年訴訟の原告が2022年にオランダの空港で撮影したという広告

※ 原告Fossielvrij(Fossil-free)による訴状の英語訳(p.116)より引用。

航空会社は次のように主張して争ったようである注2

「当社は航空飛行がより持続可能なものとなるよう努めており、実際、従来機と比較しCO2排出を数十パーセント削減する機体を導入中である。CO2削減に向け、スタートアップと協業するなどイノベーションにも取り組んでおり、潜在的顧客も含めた顧客や従業員、政府、時には競業他社との協力が求められる。そこでブランドキャンペーンなどを通じ、同社の取り組みと目標を訴求していた。」

しかし裁判所は、このような航空会社の言い分を認めず、漠然とした一般的な主張に基づくものなどであるとして、航空会社の広告を違法と判断した。どのような環境上の利益がもたらされ、航空会社による飛行のどの点が環境に貢献するのかが十分に具体的ではなく、顧客が航空会社とともに持続可能な未来を目指すかのように断定的に表示されているものの、それが真実なのかも、航空会社が持続可能な未来にどう貢献するかも不透明であることなどがその理由である。空と水、山を背景として子どもがブランコに座っている図表2の画像も、誤認を強化するものだと判断された。
判決時点で既に航空会社の広告は取りやめられていたため、裁判では差止請求こそ認められていない。しかし、航空会社のイメージ広告が上述のように曖昧訴求であるという理由で違法と判断され、航空業界における世界初のグリーンウォッシュの判例となったことは、今後のEU圏におけるマーケティングのあり方に大きなインパクトを与えそうである。

2005年指令から2024年改正指令へ

冒頭で述べたとおり、EUのグリーンウォッシュ規制は、2023年3月のグリーン・クレーム指令案が耳目を集めたことから、欧州グリーンディールを受けてはじめて始動したもののように思われるかもしれない。しかしEUはグリーンウォッシュ規制を、従来の「不公正な取引方法」に関する規制の延長上に位置づけている。特に、2024年改正指令で明記された曖昧な環境訴求の禁止は、グリーン・クレーム指令案の前文で以下のとおり明確に2005年指令と結びつけられている。

既に2005年指令が誤認惹起的な環境主張に適用されており、加盟各国の裁判所や行政当局は、当該主張の中止や禁止を行うことができる。【中略】環境に関する主張は、商品または事業者のどの面に関する言及なのかについて明瞭かつ明確でなければならず、商品または事業者の環境上の性能に関し、消費者が十分な情報に基づいた選択を行うために必要となる重要な情報を、省略したり隠蔽したりしてはならない。

このようにEUの立場は、曖昧な環境訴求は2024年改正指令で新たに禁じられるに至ったわけではなく、2005年指令上当然に違法となるというものである。
2005年指令に基づく現行のEUの表示規制では、まず表示内容が虚偽・誇大であれば、6条1項の「誤認惹起的行為」として禁止され、さらに、消費者が必要とする重要な情報(material information)を省略すること(不作為)が、7条の「誤認惹起的不作為」として明文で禁止される(7条1項)。したがって、たとえば「環境にやさしい」との訴求に反するような事実が、消費者にとって重要(material)であるにもかかわらず伝えない場合、現行法の2005年指令でも「不公正な取引方法」であり違法となり得る。
では環境に関する抽象的な表現について、どこまで重要な情報として開示する必要があるのだろうか。EU加盟国当局の温度感を知るための手掛かりとなりうる事例が、フランスで提起された。環境団体が2024年7月、フランス当局に対し、大手衣料品ブランドX社が展開する「地球の一員であること(Be Planet)」のキャンペーンがグリーンウォッシュに当たり、フランス消費法典の禁止する「不公正な取引方法」(121-1条以下)などに該当し違法であるとして、調査開始を要請したというものである。なおフランス消費法典の「不公正な取引方法」は、2005年指令をフランスで国内法化した規定となる。

図表3 問題とされているX社のウェブページの一部

※ 同社ウェブサイトより引用。

環境団体の主張注3は、X社は自社の活動や商品などが環境の棄損を防ぎ、環境を「復元」し「健全な地球」に寄与すると称しているが、それらは曖昧で抽象的な主張であり、重要な情報を省略しているというものである。そして表示すべきだった重要な情報として、「X社の巨大なサプライチェーンから放出されるスコープ3排出量は、「地球の一員であること」のキャンペーン開始以来、2倍を上回っている。X社の二酸化炭素排出量は、2026年までに2021年の売上高を倍増させる目標を掲げていることから、増加を続けることが予想される」ことなどを挙げている。
こうした主張に対し、フランス当局が現行法下でも調査を開始し、違法の判断を行うのか。「不公正な取引方法」とされることなく「地球の一員であること」と称するためには、スコープ3排出量まで開示しなければならないのか。既にX社の本拠地であるカナダでは、同様の告発を受けて調査が開始されたと報じられている注4。2024年改正指令国内法化で実証なき曖昧訴求の全面禁止が予定される中で、EUの大国であるフランスの判断が注目されるところである。

おわりに

以上、EUのグリーンウォッシュ規制を概説してきた。法的な枠組みがほぼ固まる中、EU各国が今後どのような運用を行うか。グリーンウォッシュ規制が上述のとおり、包括的な消費者の権利保護を目指す2005年指令および2024年改正指令の中に位置づけられることから、EU向けのコンシューマービジネスに対し、環境分野を超えた影響力を与えかねないように思われる。

[注]
  1. 2025年2月27日付日本経済新聞に「EU、環境・人権対策の企業負担軽く 規制重視の路線転換」と題する記事が掲載された。[]
  2. Fossielvrij NL v KLM, C/13/719848 / HA ZA 22-524。非公式の判決英訳を参照した。[]
  3. “REPORTING TO THE DIRECTORATE-GENERAL FOR COMPETITION, CONSUMER AFFAIRS AND FRAUD CONTROL”GREENWASHING PRACTICES, LULULEMON ATHLETICA INC. AND LULULEMON ATHELTICA FR SARL(24 July 2024)[]
  4. カナダ放送協会(CBC)による2024年5月6日付報道「Competition Bureau investigating Lululemon over greenwashing allegations」参照。[]

福島 紘子

池田・染谷法律事務所 弁護士

00年東京大学教養学部卒業。02年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。02~03年共同通信社。05~07年外務省経済協力局(当時)・在モロッコ日本国大使館。08~09年共同PR海外事業支援室。09~12年外務省総合外交政策局。16年東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了。20年弁護士登録、池田・染谷法律事務所入所。第一東京弁護士会所属。BLP-Network会員。

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