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はじめに

中国は、1978年12月の中国共産党第11期3回全国中央委員会全体会議において経済改革開放政策に舵を切って以来、日本をはじめとする外国からの投資を積極的に誘致する方針を維持してきました。他方で、中国は、国内産業の保護や政治的な諸要素を考慮した結果、外資が参入できる分野に関して、各種制限を設定してきました。
1979年から相次いで公布された中国における外商投資管理に関する法令群、いわゆる「外資三法」である中外合弁経営企業法、中外合作経営企業法および外資企業法は、2020年1月1日に施行された外商投資法注1により失効し、中国の外資参入規制はより緩和傾向に向かう新たな段階へと進みました。
外商投資法において、中国は、後述するネガティブリスト注2において制限される分野を除き、外国投資者およびその投資先の企業(以下、投資先の企業を「外商投資企業」といいます)について、投資参入時において、自国の投資者およびその投資に対して与えられる待遇を下回らない待遇を与えることを指す、いわゆる内国民待遇を与えることを宣言しました注3
このようなことから、外商投資法施行当時には、大幅な外資規制の緩和等への大きな期待が寄せられたものの、中国においては、実務上依然として外商投資法施行前の(法律・事実上の)外資規制がいまだに残っています。特に、近年の傾向としては、外商投資企業の参入関連の法令規制について、外商投資法以降は、同法を積極的に推し進め具体化していく方向での、重要な法令等の公布や改正等は特段みられず、外商投資法が期待されるほどの効果を発揮できるまでに、まだまだ時間を要する印象を受けます。
また、近年は米国をはじめとする諸外国によってなされる、安全保障上の懸念を踏まえた外資による投資・買収への規制注4がクローズアップされていますが、中国においては、2011年から外資による国内企業買収に対する安全審査という買収規制注5が導入されており、2015年7月施行の国家安全法注6においては、国家主導での経済と安全保障の一体化を図る姿勢をとることが明確に宣言されています。さらに、2021年1月施行の外商投資安全審査弁法注7により、上記安全審査が必要となる対象を「外国投資者による国内企業の買収」から「外国投資者によるすべての投資行為」にまで広げた新しい外商投資安全審査制度が運用されています。
本稿では、諸外国における外資による投資・買収規制について解説する本連載の第8回として、中国における外資規制の主な内容について解説します。

外資規制の原則上の一本化

中国の外資規制は、外商投資法が施行された2020年前後までは、「三本の柱」に分かれて行われていました。
すなわち、

(1) (のちに)外商投資参入特別管理措施(ネガティブリスト)に再編成される「外商投資産業指導目録」(以下、「指導目録」といいます)

(2) 指導目録以外の個別法令

(3) 公開されていない当局の内部規定と特別運用

の、三本の柱で主に規制されていました。
上記(1)の指導目録は、1995年に公布・施行され、長らく外商投資企業の投資に際してまず参照すべき重要な指針として機能していました。
指導目録においては、外国投資者による投資に対する規制の程度に応じて事業分野が3つに分類されたうえで、箇条書きでリストアップされており、これらの項目は、数年に一度と頻繁に更新されていました。

・ 奨励される「奨励項目」

・ 制限される「制限項目」

・ 全面的に禁止される「禁止項目」

2013年以降、中国においては、他の地域に先行して対外開放を推進・拡大させる自由貿易試験区(上海自由貿易試験区等)が全国に続々と設立されましたが、これら自由貿易試験区内においては、指導目録の代わりに、より規制が緩和された投資管理方法として、自由貿易試験区外商投資参入特別管理措施(ネガティブリスト)が作成され、当該リストによる投資管理が開始され始めました。ネガティブリスト形式による投資管理は、指導目録と異なり、「制限項目」と「禁止項目」のみを記載し、いずれの項目にも記載がない事業分野については、原則として外資独資企業による経営が制限なしに可能とするものです。
さらに、2017年版の指導目録においては、初めて、一部の分野において全国を対象としたネガティブリスト形式による投資管理も導入され、2018年版の全国を対象としたネガティブリストの施行により、全国的に指導目録の運用は廃止され、ネガティブリスト形式による投資管理が全国において全面的に開始されることになりました。
上記(1)の指導目録およびネガティブリストは外商投資の主務機関である商務部(日本の経済産業省に近い)が公布する一般的なものであるのに対して、上記(2)の個別法令は、各業界の主務機関が所管する業界における管理規定、いわゆる「業法」であり、これらの中には外資参入に関する規定なども多く存在していました。
さらに、上記(1)の指導目録もしくはネガティブリストにおいて制限されていない、または制限が解除されたもの、上記(2)のように別途制定される個別法令における規制が存在しない、または、規制が廃止されたものについても、上記(3)のとおり中央ないし各地方の行政機構の内部規定や実務上の運用により実質的に、制限が維持されるケースも多く見られました。
このように、中国の外資規制は、三本の柱に分かれて規制されていたため、結果として、上記(1)の指導目録またはネガティブリストと、(2)の個別法令や(3)である現場の運用の間で、相互に矛盾が生じることもありました。
しかし、2020年に施行された外商投資法によって、上記(1)で触れたネガティブリストに一本化されることが明らかにされ注8、これらの外資規制の間の矛盾が解消されることが期待されました。

図表1 「三本柱による規制」から「ネガティブリスト一本化」へ

残存する外資規制分野

外商投資法施行後、個別法令上の外資規制の多くは相次いで撤廃され、またはネガティブリストと整合性を取るよう改定されました。たとえば、人材仲介業務注9と旅行者業務注10はその典型例です。
現在において、ネガティブリスト上、参入が全面的に禁止されている業分野、参入において制限が残存している業分野は、主として以下のとおりです。

参入が禁止されている分野

図表2 参入が禁止されている分野

 中国の希少かつ特有貴重優良品種の研究開発、養殖、栽培および関連する繁殖材料の生産

 農作物、種畜・種禽、水産種苗の遺伝子組み換え品種の選抜育種およびその遺伝子組み換え種子(苗)の生産

 中国の管轄海域および内陸水域における水産物漁獲

 希土類、放射性鉱物、タングステンの探査、採掘および選鉱

 漢方薬煎じ薬の蒸す、炒める、炙る、焼く等の炮製技術の応用および漢方製剤の秘伝処方製品の生産

 葉たばこ、巻きたばこ、再乾燥葉たばこおよびその他のたばこ製品の卸売、小売

 郵政会社、郵便物の国内速達業務

 インターネットニュース情報サービス、ネットワーク出版サービス、ネットワーク視聴番組サービス、インターネット文化経営(音楽を除く)、インターネット情報公衆送信サービス(中国がWTO加盟時に開放を承諾したものを除く)

 中国法律事務(中国の法律環境の影響に関する情報の提供を除く)

 社会調査

 人体幹細胞、遺伝子診断、治療技術の開発および応用

 人文社会科学研究機関

 大地測量、海洋測量製図、測量製図用航空撮影、地上移動測量、行政区域境界測量製図、地形図、世界行政区地図、全国行政区地図、省級およびそれ以下の行政区地図、全国教材地図、地方教材地図、リアル3D地図およびナビゲーション電子地図の作成、地域別の地質マッピング、鉱山地質、地球物理、地球化学、水文地質、環境地質、地質災害、地質リモートセンシング等の調査

 義務教育機関、宗教教育機関

 報道機関(通信社を含むがこれに限らない)

 書籍、新聞、定期刊行物、音声・映像製品および電子出版物の編集、出版、制作業務

 各級のラジオ放送局(ステーション)、テレビ局(ステーション)、ラジオ・テレビのチャンネル(周波数)、ラジオ・テレビ放送ネットワーク(送信局、中継局、ラジオ・テレビ衛星、衛星アップリンクステーション、衛星受信中継ステーション、マイクロ波ステーション、観測局および有線ラジオ・テレビの放送ネットワーク等)への投資を禁止し、ラジオ・テレビのオンデマン配信業務および衛星テレビ放送地上受信設備の設置サービス

 ラジオ・テレビ番組の制作経営(誘致業務を含む)会社

 映画製作会社、配給会社、興行会社および映画誘致業務

 文化財オークションのオークション会社、古物商店および国有文化財博物館

 文芸実演団体

参入について制限のある分野

図表3 参入について制限のある分野

制限分野

制限内容

麦新品種の選抜育種および種子の生産

中国側の持分比率が、34%を下回らない

トウモロコシ新品種の選抜育種および種子の生産

中国側の持分支配である

出版物の印刷

中国側の持分支配である

原子力発電所の建設、経営

中国側の持分支配である

国内の水上輸送会社

中国側の持分支配である

公共航空輸送会社

中国側の持分支配である等

民間用飛行場の建設、経営

中国側の相対的持分支配であり、外国側は、飛行場の航空管制塔の建設、運営に参加してはならない

電信会社

中国がWTO加盟時に開放を承諾した電信業務に限定し、付加価値電信業務の外資持分比率が50%を超えず(電子商取引、国内マルチ通信、保存転送類、コールセンターを除く)、基礎電信業務は、中国側の持分支配でなければならない

市場調査

合弁に限定。このうちラジオ聴取・テレビの視聴の調査は、中国側の持分支配でなければならない

就学前、普通高校および高等教育機関

中外合作による学校運営に限定し、中国側の主導でなければならない

医療機関

合弁に限定

参入について制限がある分野の一つの例としては、医療機関が挙げられます。医療機関については、外商投資企業が参入するためには、中国企業との合弁会社である必要があります。また、参入について制限がある分野の中には、合弁会社であることだけではなく、更に中国企業の持分比率についての制約がある分野もあります。たとえば、「原子力発電所の建設や運営事業」「出版物の印刷事業」「公共航空輸送会社」などでは、中国企業側が持分支配(マジョリティ)している会社であることが要求されています。

近年では、過去に参入制限があった乗用燃油車生産について、2022年1月1日より解禁され、特に注目を集めています。
また、制限分野に該当していたものの、2020年より全面的に解禁された金融業(証券会社、先物取引会社、生命保険会社)も一時期、強い関心を集めました。しかしながら、金融業界に存在する独自の特殊な規制や既存の中国合弁相手との合弁契約等が実質的な参入障壁となり、2024年5月現在においても、外商独資企業による金融会社の数は多くはありません。

当局の内部規定と運用による一部外資規制の継続

上で述べましたように、外商投資法施行前においては、指導目録またはネガティブリストには記載がなく、また個別法令上も規制がない、しかしながら行政機関の内部規定や口頭指導等によって実務上特殊な運用が存在する事例が多くみられました。
外商投資法施行後、外資規制がネガティブリストに一本化されるよう定められた結果、外資参入に関する内部規定や特殊な運用は、外商投資法施行前に比べれば大幅に減少し、ネガティブリストと明らかに矛盾する内部規定や運用も少なくなってきました。
もっとも、法令の定め方の曖昧さにより生まれる、行政機関における内部規定や特殊な運用上の細かい裁量権や判断権が事実上の外資規制となってしまっているケースは依然として残っており、その典型的な例は電信業で多くみられます注11。そもそも電信業務か、電信業務の場合、外資規制が適用される種類の業務か否かの該否判断については、該否判断のもととなる工業と情報化部により公布されている電信目録の記載が抽象的であり、典型的な業務以外の場合にはその該当性の判断が難しいため、現場の行政機関の裁量に委ねるほかなく、また、当該裁量は、各地の行政機関の異なる判断基準や運用方針に大きく委ねられている現状があります。
なお、クラウド計算サービスや、CDNといった業務は、従前は電信目録に明確な記載がなかったため多くの外商投資企業によるサービスが展開されていたところ、2015年の同目録の改正により、突然、外商投資企業による取得難度が極めて高いと考えられている第一種増値電信業務に明確に分類されました。そのため、これらのサービスを展開してきた外商投資企業は、同事業を中国内資企業に事業譲渡等をする方法で、実質的に同事業分野からの撤退を余儀なくされたことも記憶に新しいところです。

参入制限のある業種についての参入時に必要な手続き

外商投資法施行後、ネガティブリストにおいて参入が制限される業種は、内資企業・外資企業(外商投資企業)を問わず、原則として(設立登記以外に、特殊な)許認可が必要な業種と設定されるようになりました。すなわち、参入制限のある業種については主として会社設立時注12ではなく、会社設立後、事業開始前というタイミングにおいて、内資企業等同様に関連許認可を取得する必要があります。
会社登記機関である市場監督管理局は、会社設立登記時に、ネガティブリストにおいて規定された出資比率等の条件の充足を確認したうえで、会社の設立を登記します。もっとも、会社の設立登記が完了した後も、会社が関連業務に関する許認可を取得するまでは、実際に関連業務に従事することはできません。
なお、これらの許認可の取得の場面においては、外商投資企業であることを理由に、内資企業とは異なる資料の提出が求められたり、異なる条件が設定されたり、または実質的には異なる審査基準が適用されるたりするケースもみられます。
実務上、日系企業が関心を持つ業界の中で、外商投資企業による許認可の取得難易度が明らかに高いとされているのが、電信、市場調査、教育事業および印刷事業です。

図表4 参入制限分野における参入時に必要な手続き

制限分野

制限内容

麦新品種の選抜育種および種子の生産

【事後許可】種子生産経営許可証

トウモロコシ新品種の選抜育種および種子の生産

【事後許可】種子生産経営許可証

出版物の印刷

【事後許可】印刷経営許可証

原子力発電所の建設、経営

【事後許可】原子力施設運営許可証等

国内の水上輸送会社

【事後許可】国内水上輸送経営許可証

公共航空輸送会社

【事後許可】公共航空輸送経営許可証

民間用飛行場の建設、経営

【事後許可】民間用飛行場使用許可証等

電信会社

【事後許可】電信業務経営許可証

市場調査

【事後許可】外国関連調査許可証

就学前、普通高校および高等教育機関

【事前許可】営利性民弁学校弁学許可証等

医療機関

【事後許可】医療機関執務許可証

国家安全審査および安全保障による事実上の外資参入規制

外商投資安全審査制度の立法経緯

近年、世界的に国家安全保障の観点から実施される外資参入規制が話題となっています。たとえば、最近では、TikTokに関するアメリカの国家安全審査が大きな注目を集めました。中国においても、国家安全保障は近年ますます重視されてきており、2011年2月、国務院は「外国投資者による国内企業の買収における安全審査制度の構築に関する通知」を発表し、中国における初めての「外商投資安全審査制度」が導入されました。その後も、関連政府当局は外資参入にかかる国家安全審査に関する一連の関連規定を公布しており、その変遷は主として図表5のとおりです。

図表5 外資参入にかかる国家安全審査に関する一連の関連規定の変遷

公布日

法令名

変遷

2011年2月3日

外国投資者による国内企業の買収における安全審査制度の構築に関する通知※1

初めて外商投資安全審査制度が導入された。審査対象は、外国投資者による国内企業の買収に限定。

2011年8月25日

商務部による外国投資者による国内企業の買収における安全審査制度を実施する規定※2

外商投資安全審査制度の実施細則が規定された。

2015年4月8日

自由貿易試験区外商投資国家安全審査試行弁法※3

ネガティブリスト管理方式に適合する形での外商投資国家安全審査措置を試験的に導入することが目的とされた。

2015年7月1日

国家安全法

外商投資安全審査制度を含む各種国家安全に影響を与えうる事項に関連する国家安全審査制度の構築が宣言された。

2019年3月15日

外商投資法

外商投資安全審査制度の構築が宣言された※4

2020年12月19日

外商投資安全審査弁法(現行規定)

外商投資安全審査の適用範囲が買収取引からすべての投資行為へと拡大した。

2023年2月17日

国内企業国外証券発行及び上場管理試行弁法※5

外商投資安全審査の対象となる外商投資行為に中国企業の国外上場が含まれることが明記された。

※1 2011年2月3日公布、2011年3月5日施行。中国語での表記は《关于建立外国投资者并购境内企业安全审查制度的通知》。
※2 2011年8月25日公布、2011年9月1日施行。中国語での表記は《实施外国投资者并购境内企业安全审查制度的规定》。
※3 2015年4月8日公布、2015年5月8日施行。中国語での表記は《自由贸易试验区外商投资国家安全审查试行办法》。
※4 外商投資法35条において「国は、外商投資安全審査制度を確立し、国家安全に影響をもたらし、または影響をもたらしうる外商投資に対して安全審査を行う」ことが明記されました。
※5 2023年2月17日公布、2023年3月31日施行。中国語での表記は《境内企业境外发行证券和上市管理试行办法》。

外商投資安全審査制度の適用範囲

(1) 審査対象行為

外商投資安全審査弁法(以下、安全審査弁法といいます)によれば、外商投資とは、外国投資家が直接的にまたは間接的に中国において行う投資活動をいい、具体的には、

① 外国投資家が単独または他の投資家と共同で国内において新規プロジェクトに投資を行い、もしくは企業を設立する行為

② 外国投資家が合併買収により国内企業の持分または資産を取得する行為

③ 外国投資家がその他の方法により国内において投資を行う行為

を指します注13

(2) 適用対象となる業務分野

外商投資企業は、下記図表6のそれぞれの分野に関して外商投資行為を行う際には、投資を実施する前に、主務機関である外商投資安全審査業務機関に対し、外商投資安全審査を申請するよう義務付けられています注14

図表6 外商投資安全審査の適用対象となる業務分野

支配権の取得の有無を問わない分野

支配権を取得することを前提とする分野

投資
分野

 軍事産業

 軍事周辺産業等の国防安全に関わる分野

 軍事施設および軍事産業施設の周辺地域への投資

国家の安全に関わる下記分野

 重要な農産物

 重要なエネルギーおよび資源

 重大な装備の製造

 重要なインフラ

 重要な輸送サービス

 重要な文化製品およびサービス

 重要な情報技術とインターネット製品およびサービス

 重要な金融サービス

 基幹技術

 その他の重要な分野

一部の関連業界における業法には、外商投資安全審査を実施する旨の規定があるものもありますが、安全審査が必要となる基準である「重要」「重大」「基幹」に関する詳細な規定は存在しないため、実務上、その該当性にかかる判断基準が不明確である問題があります。

図表7 外商投資安全審査を実施する旨規定がある業法

関連業界

対象業務

法令名

法令施行日

1

銀行

銀行カード決済機関の買収

銀行カード決済機関準入管理規定

2015年6月1日

2

自動車生産

自動車企業の新設、再生、買収

自動車産業投資管理規定

2019年1月10日

3

資産評価

資産評価機関に対する投資または資産評価業務の展開

資産評価業界財政監督管理弁法

2019年1月2日

4

証券

証券会社関連業務

外商投資証券会社管理弁法

2020年3月20日

5

印刷

国家秘密の媒体を印刷する機関に対する国家安全に影響を与え得る投資

国家秘密媒体印刷資質管理弁法

2021年3月1日

6

保険

保険会社に対する国家安全に影響を与え得る投資

外資保険会社管理条例実施細則

2021年3月10日

7

電子認証

電子政務電子認証サービスに対する国家安全に影響を与え得る投資

商用パスワード管理条例

2023年7月1日

8

糧食生産

糧食生産経営に対する国家安全に影響を与え得る投資

糧食安全保障法

2024年6月1日

安全審査弁法によれば、業務機関事務局注15は、外商投資安全審査の適用対象である外商投資について、安全審査申請を行うよう投資者に要求する権限を有しており、非常に高い裁量権を与えられています。

さらに、関連政府機関、企業、社会団体、社会公衆等は、特定の外商投資行為が国家の安全に影響を与え、または影響を与える可能性があると認める場合、業務機関事務局に対して外商投資安全審査を行う提案を提出することができるとされています。すなわち、たとえ投資者自身が外商投資安全審査を要しないと判断し、安全審査の申請をせずに投資行為を実行した場合においても、政府当局の判断またはその他第三者の提案により、外商投資安全審査を適用される可能性があるため、外商投資安全審査は、外資参入に対する事実上の制限となっているといえます。
実務的には、企業設立や工場建設等において行政当局に設立の申請や許認可を取得する必要があるところ、これらの過程において提出した情報が行政機関の間で情報共有された結果、政府当局より自主的に外商投資安全審査を申請するようにとの指導がなされる場面もみられます。

外商投資安全審査の流れ

外商投資安全審査の流れは図表8のとおりです。

図表8 外商投資安全審査の流れ

※1 特別な事情があれば延長可能。

(1) 要否判断

業務機関事務局は、必要書類が揃った審査資料を受領した日から15営業日以内に、申請された外商投資行為について外商投資安全審査を行う必要があるか否かの決定を行います。業務機関事務局が決定を行う前に、当事者は投資を実施してはなりません注16

(2) 一般審査

外商投資行為の外商投資安全審査は、一般審査と特別審査に分けられます。
業務機関事務局は、申請された外商投資行為についての外商投資安全審査を行う旨の決定を行った場合、決定の日から30営業日以内に一般審査を行います。審査期間中、当事者は投資を実施してはなりません。
一般審査の結果、申請された外商投資が国家の安全に影響を与えないと認められる場合、業務機関事務局は安全審査合格の決定を行い、その結果を書面により当事者に通知します注17

(3) 特別審査

一般審査の結果、国家の安全に影響を与え、または影響を与える可能性があると認められる場合、業務機関事務局は、特別審査を開始する旨の決定を行い、その結果を書面により当事者に通知します。
特別審査は開始日から60営業日以内に完了するとされていますが、特別な状況において、審査期限を延長することも認められています注18。当該「特別な状況」については、明確な規定が存在しないため、特別審査が行われる場合に期限は理論上存在しないとも評価ができます。また、審査期間中、当事者は投資を実施してはなりません。

(4) 決定

業務機関事務局は、申請された外商投資について特別審査を開始する旨の決定を行った場合、審査後に以下の規定に従って決定を行い、書面により当事者に通知します注19

(1) 申請された外商投資が国家の安全に影響を与えない場合、安全審査合格の決定を行う。

(2) 申請された外商投資が国家の安全に影響を与える場合、投資禁止の決定を行う。

なお、国家の安全に対する影響を取り除くことができ、かつ当事者が書面で追加条件の受入れを承諾する場合、条件付きで安全審査合格の決定を行うことも可能とされています。かかる場合、決定書において追加条件が明記されます注20

安全審査申請義務不履行の責任

申請対象の外商投資行為について、当事者が外商投資安全審査弁法の規定に従い申請を行わずに投資を実施した場合、業務機関事務局は期限を指定して申請を行うよう命じることができ、申請を行うことが拒否された場合、業務機関事務局は期限を設定して外商投資行為により取得した持分または資産を処分し、かつその他の必要な措置を講じて、外商投資行為実施前の状態に原状回復させ、国家の安全に対する影響を取り除くように命じることができます注21
このため、外商投資安全審査の対象となりうる業界において、投資を実施するような場合においては、事前に当局に打診し申請の要否についての意見を求める方が望ましいとされます。

その他安全保障の規定による外資参入に対する実質的障害

近年、中国では上記図表5に挙げた国家安全法の他にも、国家安全の保護を目的に起草された一連の法令が公布・施行されています。
これらの中でも、特に外国企業にとっては、中国からの個人情報や重要データの持出しを制限するデータ関連法令(データ安全法、ネット安全法、個人情報保護法)による会社の事業活動の制約や、個人のスパイ行為を取り締まる反スパイ法が中国での事業展開(自社の派遣する駐在員の身柄保護等も含む)に及ぼす影響が大きな懸念事項となっています。
ここ1年では、これらの法令等を理由に、中国市場での事業継続や新規参入により慎重になっている会社も出てきており、これらの法令は本来外資参入の規制として起草されたものではないものの、事実上の外資による参入障壁となっています。

おわりに

近年、国際情勢の変化や、世界各国の国家安全保障体制の強化等により、海外投資には不安定要素が増しているとの声があります。
中国に対する投資においても、上記のとおり、中国の国家安全を重視する政策が、いわゆるチャイナリスクとして、実質的に中国への参入障壁になっているのではないかとの懸念も上がっています。
これらの不安を払拭するべく、中国の国務院は2024年2月28日に「高レベルの対外開放を着実に推進し、より強く外資を誘致および利用するための行動方案」注22を公布し、ネガティブリストの範囲縮小等の外資規制緩和措置を実施して、外商投資を支援することを宣言し、引き続き外資誘致を重要視する姿勢を見せました。2024年3月11日に閉幕した中国の第14期全国人民代表大会においても、外資誘致への積極的な対応方針が打ち出されており、今後も中国が日本企業にとり、投資機会として引き続き有力な市場であり続けることが期待されます。
日本企業においても、リーガル・カウンセルの協力を得ながら、外資規制のみならず、実質的な参入障壁となるその他の法規制にも十分に考慮しながら、慎重に中国への投資に対応していく時代が来たように思われます。

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※ アンダーソン・毛利・友常法律事務所は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所等によって構成されています。

[注]
  1. 2019年3月15日公布、2020年1月1日施行。中国語での表記は《中华人民共和国外商投资法》。[]
  2. 「ネガティブリスト」とは、国が指定する特定分野において、外国投資に対し実施する参入特別管理措置を指します。[]
  3. 外商投資法4条1項、2項。[]
  4. 中国においては、これらの諸外国の安全保障規制に対する対抗措置・追従防止措置として、①2020年9月に中国企業・個人との差別的な取引をする企業との取引を制限する「信頼できないエンティティ・リスト」≪不可靠实体清单规定≫、②2021年1月に外国法と措置の不当な域外適用を禁止する「外国法律と措置の不当な域外適用阻止弁法」≪阻断外国法律与措施不当域外适用办法≫、③2021年6月に上記①および②の上位法として、外国からの制裁に対する中国の対抗措置を定めた「反外国制裁法」≪中华人民共和国反外国制裁法≫と、近年、立て続けに施行、発表されています。現時点までに、これらの法令に基づく政府によるアクション等の実際の発動例は数えるほどではあり、また、これらは外資規制ではないものの、日系企業にとり、上記諸外国による安全保障規制と合わせて、中国企業との取引に際しての一つの懸念材料となっています。[]
  5. 安全審査による外資による国内企業買収に対する買収規制は、2011年2月3日公布、2011年3月3日施行の「外国投資者による国内企業買収に対する安全審査制度の確立に関する通知」(中国語:关于建立外国投资者并购境内企业安全审查制度的通知)、2011年3月4日公布、2011年3月5日施行、2011年8月31日失効の「外国投資者による国内企業買収に対する安全審査制度の実施における関連事項に関する暫行規定」(中国語:商务部实施外国投资者并购境内企业安全审查制度有关事项的暂行规定)および2011年8月25日公布、2011年9月1日施行の「外国投資者による国内企業買収に対する安全審査制度の実施に関する規定」(中国語:商务部实施外国投资者并购境内企业安全审查制度的规定)という一連の法令等によって確立されました。[]
  6. 2015年7月1日公布、同日施行。中国語での表記は《中华人民共和国国家安全法》。[]
  7. 2020年12月19日公布、2021年1月18日施行。中国語での表記は《外商投资安全审查办法》。[]
  8. 外商投資法28条3項。[]
  9. 人材仲介業は、指導目録が1995年に制定される当時においても、制限・禁止項目とはされていませんでしたが、2003年に制定された「中外合弁人材仲介機関管理暫行規定」では、外商独資企業による経営が禁止されていました(中外合弁人材仲介機関管理暫行規定6条)。外商投資法の影響を受け、当該規定は2019年12月31日に改定され、外資独資企業による経営が可能となりました。[]
  10. 1996年10月に公布された「旅行社管理条例」によれば、旅行者業務について、中外合弁企業による経営のみが許可されており、当該業務は2002年の指導目録改定に際して制限項目から削除されたものの、「旅行社管理条例」が指導目録の改定に追いついていない状況でした。2009年に公布された「旅行社条例」(「旅行社管理条例」の改定条例名)は2020年11月29日付の改正において、外資独資企業に関する制限が削除されました。[]
  11. 中国において、電信業務とは、電磁的手段により、顧客のために画像・音声・データなどの情報を伝える有料サービスの総称で(電信条例2条)、具体的には、固定電話、携帯電話、ネットワークの接続などの通信サービスを提供する業者と、これら通信サービスを利用して配信サービスやSNS等のサービスを提供する業者が存在します。前者は「基礎電信業務」、後者は「増値電信業務」と呼ばれています。電信業務はその性質により、国家安全の観点から、従前は外資による出資が制限されていましたが、2001年の中国によるWTO加盟時、中国当局は、徐々に解禁することに合意しました。当該合意と同時期に、外商投資企業による電信業への参入に関する「外商投資電信企業管理規定」が公布され、外資参入の可能性が期待されたものの、電信業務の主務機関である工業と情報化部の内部規定と運用により、外商投資企業による電信業への参入は長期にわたって実質上不可となっていました。2010年以降、Alipayなどのオンライン支払手段の普及により、EC事業が一気に活発し、その需要も増えた影響もあり、2015年外資独資によるEC業務の経営が指導目録によって解禁されました。さらに、2019年においては、ZOOM等のWEB会議サービス、電子メール、コールセンター業務が解禁され、外資独資による経営が可能となりました。もっとも、各種内部規定や特殊な運用により、これらを経営する外資企業の数は多くありません。[]
  12. ただし、就学前、普通高校および高等教育機関事業については、学校を設立する前に弁学許可証の取得が求められます(民弁教育促進法18条、民弁学校弁学許可証の起用における関連問題に関する通知2条、民弁高等学校弁学管理若干規定8条)。[]
  13. 安全審査弁法2条。[]
  14. 安全審査弁法4条。[]
  15. 国家発展改革委員会および商務部が主導し、各産業の主務機関が参加する外商投資安全審査体制の事務局。中国語での表記は「外商投资安全审查工作机制办公室」。[]
  16. 安全審査弁法7条。[]
  17. 安全審査弁法8条。外商投資安全審査の結果は公開されないため、実際の審査事例の正確な件数等は公表されていません。公開情報からは、最近の例として、外国の国営石油会社が、外商投資安全審査に合格したうえで、中国の石油化工業会社の10%の持分を買収した例があるようです。[]
  18. 安全審査弁法9条2項。[]
  19. 安全審査弁法9条1項1号、同2号。[]
  20. 安全審査弁法9条1項2号。[]
  21. 安全審査弁法16条。[]
  22. 2024年2月28日公布、同日施行。中国語での表記は《扎实推进高水平对外开放更大力度吸引和利用外资行动方案》。[]

若林 耕

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士・北京オフィス首席代表

1999年一橋大学法学部卒業。2002年弁護士登録、2006年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。日本弁護士として15年以上、東京、上海、北京オフィスから中国・台湾やアジア関係の法務全般を取り扱っている。最近は、中国への一般的な投資等に加えて、中国に関するデータ規制・個人情報保護規制、ヘルスケア・次世代産業(AI、ビッグデータ、自動運転等)に関するご相談を受けている。

尾関 麻帆

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 スペシャルカウンセル弁護士・北京オフィス代表

2007年慶応義塾大学法学部、慶應義塾大学法科大学院法務研究科卒業。2008年弁護士登録、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2017年4月~2019年7月同事務所上海オフィス代表。2020年1月~同事務所北京オフィス代表として執務。日系企業による中国進出案件、中国子会社にかかる一般的な法務相談、中国会社が絡むM&A案件、中国に関するデータ規制・個人情報保護規制に関する案件を取り扱っている。

銭 一帆

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 アソシエイト・上海オフィス顧問

2012年中国弁護士資格取得、2018年華東政法大学経済法学研究科卒業、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2019年中国税理士資格取得、2020年中国公認会計士資格取得。日・中間のクロスボーダー投資案件、中国会社法に関する案件、中国に関するデータ規制・個人情報保護規制に関する案件、中国法にかかる一般的な法務相談、法律・税務・会計交差分野における相談を取り扱っている。